行間を読む 51 <育児書の流れから考える>

書店にはあまたの妊娠・出産・育児書がありますね。
こちらも定点観測するようにしているのですが、あまりの多さと盛りだくさんの内容に目がチカチカしてしまうので、背表紙を読んで終わりのことがほとんどです。


本やネットでたくさん情報を得ようとする方もいれば、「そういうものは見ないことにしています」といういう方もいらっしゃっいます。
中には母親学級や両親学級にも一度も参加されない方も。


助産師になったばかりの頃は、後者のような方はどうやって情報を得ているのだろう、そんなにのんびりしていて大丈夫だろうかとちょっと不安に思っていました。
でも案外そういうタイプの方のほうが、妊娠・出産・育児の漠然とした不安と現実の問題をさらりとかわしているような印象もありました。
ええ、あくまでも私の印象ですが。


あの膨大な妊娠・出産・育児に関する知識や対応方法はどこまで本当に必要なのだろうと、今も母親学級や入院中にお話しする退院後の生活の説明をするたびに悩むところです。
説明しても、多くのことが耳に入っていないこともしばしばですしね。


その点、昨日の記事で書いた乳業会社の母親学級用のテキストは必要なことがコンパクトにまとめられていましたし、もうひとつ保健センターの母親学級で使用していたものは内容もわかりやすく基本的な上に、その地域の相談窓口などの支援情報もまとめられていました。


講義のように正確な知識を教えるというスタンスではなく、悩んだ時にぱっとたどりつけるような道筋がわかるようなものが良いですね。


最近の周産期医学や小児医学の知識がアップデートされていること、かつその自治体の多彩な相談窓口や支援サービスの情報がまとめられているシンプルで全国で統一した内容の基本形のテキストができて、どこの分娩施設でも同じ物を使えるようになったらよいのにと思っています。


昨日紹介した日本産婦人科学会監修の「HUMAN Beby+お医者さんが作った妊娠・出産の本」はその一歩になるかもしれないという期待を私は持ちました。


<もっともな抗議と訂正>


その「Baby+」を勤務先で初めてみてしばらくしてから、m3.comのサイトでこんなニュースがありました。

「産む施設の選び方」指摘受け訂正へ  日産婦など、「Baby+」に訂正文申し込み依頼
2015年12月4日(金)配信


 日本産婦人科学会(日産婦)はこのほど、お産に関する一般向け小冊子「Baby+お医者さんがつくった妊娠・出産の本」の中で、日本産婦人科医会が不適切と指摘していた「産む施設の選び方」に関する記載内容を、2016年の春をめどに改訂することを求めた。既に刷り上がっている40万部については配布が滞れば甚大な損害が生じる恐れがあるとの指摘もあり、訂正文を差し込んで妊婦に配布するよう呼びかけている。(以下、略)


「産む施設の選び方」がどのように不適切な内容を含んでいたのか、日本産婦人科医会が日本産婦人科学会宛に10月29日に出した文書が公開されていました。


「Baby+」ではたしかに、リスクスコアを女性が自分で計算して出産場所を選ぶかのように読み取れてしまうところがあります。
現実にはある程度のリスクがあっても、1次施設の診療所や2次施設の総合病院で分娩に対応しないと3次施設はパンクしてしまうような地域の実情もあるでしょうから、それぞれの地域の周産期ネットワークシステムの状況に応じて産婦人科医が判断する必要があると思います。


その文書の中で、もっともだと思ったのが以下の部分です。

3. 助産所と個人診療所、個人病院が同列に扱われていることは、医師の間にはきわめて大きな違和感があります。

たしかに「Baby+」を読み返したら、「一次医療施設」として助産所が同列かのように書かれていました。


これは医師だけでなく、助産師の私だって違和感がありますね。分娩施設に産科医がいるかいないかは、天と地の差ですから。


その後、これらの抗議を踏まえて訂正がされることが決まったようです。


<もうひとつの批判記事を読んでみた>


その後、読売新聞の医療サイトで2回にわたってこの「Baby+」についての記事がありました。
「日産婦監修の妊娠本を読んでみた(上)」
「日産婦監修の妊娠本を読んでみた(下)」


(下)の内容に関しては、上記に書いたように訂正が出されるようですから、それを待てばよいかと思います。


さて、情報を簡潔にまとめるというのはとても難しいことでしょうし、いろいろな視点からの意見があるのは当然だと思います。


ただ、この(上)の記事を読む限り、書かれた方の感想でしかないのがちょっと残念に感じました。


問題点として広告類がまずあげられていましたが、私はむしろ日本産婦人科学会という「学会」が一般向けに無料で配布する冊子をつくろうとした経緯や熱意の背景をまず知りたかったです。
内容がよければ、是非、国が何らかの財源を確保して、母子手帳と同じようにこうした全国である程度内容が統一した冊子を配布して欲しいと思いました。



また「マタ旅」「サイトメガロウイルストキソプラズマ」などへの注意喚起、あるいは聴覚スクリーニング検査の説明、NIPT(出生前診断の新型検査)の内容についての批判が書かれていました。


追加できる部分は改善されたらよいと思いますが、むしろそういう時代の変化の中で啓蒙が必要になったり財源が必要になる部分こそ、マスコミの方々の周産期医療への正しい認識が求められ、そしてペンの力が活かされるのではないかと。



そろそろ、江戸時代からの個人の体験談や価値観によって自由に妊娠・出産・育児に関する知識を広げていた時代から、標準的なものをまとめる時代にしてほしいものです。
「Baby+」がその一歩になりますように。





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