水のあれこれ 29 <水中の抵抗と柔軟性、そして継続>

最近は「今年1年の抱負」について考えることもなく淡々と日々が過ぎているのですが、泳ぐことだけには目標のようなものがあります。


私の得意な泳ぎは背泳ぎですが、10年前はほとんど背泳ぎは泳げませんでした。
20年以上前に自己流で泳ぎ始めて、10年ぐらいでクロールではだいたい1時間半で3000〜3500mを泳ぐようになったのですが、背泳ぎは25mも泳ぐと、腰が痛くなるはコースロープや壁に激突するはのレベルでした。


競泳日本選手権や世界水泳を観るようになってから美しい背泳ぎに魅せられて、私も泳げるようになりたいと、プールが空いている時間帯に少しずつ距離を伸ばすようにしました。


最初の年は、「背泳ぎで500m泳げるようにしよう」だったと思います。
もちろん、連続ではなく、トータルで500m泳げれば最高!ぐらいでした。


500mの目標は案外早く達成できて、次には1000m、次には1500mと目標を上げていき、今ではコースが空いていれば、連続でいくらでも泳げるようになりました。


黙々と泳ぎ続けているうちに、ふと「これだ!」という感覚で、自然と抵抗の少ない泳ぎが理解できる段階に到達する感触があります。
あるいは、解説者の方と同じ見方ができていたりすると、本質に近づけたような喜びがありますね。


<左右の音が同じになる>


昨年あたりから、私の背泳ぎの次の課題は「左右の音が同じになるように」ということでした。


なんだかわかりにくい課題ですよね。


私は背泳ぎの時に右腕から入水するのですが、右腕の入水時にはほとんど水音が聞こえないのですが、続けて左腕を入水させる時には耳元で「バシャ」とどうも耳障りな音がすることが気になっていました。


もちろん人間の体も左右対称ではないし、動きのくせのようなものもあるので、まったく同じ動きにする必要はないのですが、どうもこういう水音が聞こえるということは左側の手が水に入る時に抵抗が強いのではないか、という気がしていました。


そこで、左手が入水する時に音がしないようにすることを意識しているうちに、だいぶその感覚がつかめてきたのです。


左肩を首から頭あたりまでに密着させれば、音が出にくくなると。
その感覚を続けていくうちに、左腕がもっと遠くへと伸びて大きく水を捉えられるようになって、また少し速く、しかも疲れないで速度を出せるようになりました。


そして昨年11月に出版された「トップスイマー・テクニック2」の中のラースロー・シェー選手の水中写真と解説に、我が意を得たりとうれしくなったのでした。


ラースロー・シェー選手は、ずっと松田丈志選手とも競い合って来たバタフライのベテラン選手です。

写真は、両腕を入水して、第一キックが入る瞬間、まさにグライドに入る局面です。両腕の幅が極めて狭いのが目に入ります。肘と肘がくっつくのではないか、というくらい。そして、肩と腕で両耳がきちんと隠れ、首回りに無駄な流れができていません。正面から見ると小さな円を描くような感じで、大きな身体を極限まで細くしているのがわかります。胸の脇あたりにできている泡は、体幹を沈めるスピードの速さを示します。グライド中にこのような前傾姿勢がさっととれる選手は、この瞬間、身体に慣性が働き、何もせずして前へ滑るように身体が進んでくれます

そうそう、本当に肩から腕が密着すれば「首回りに無駄な流れができない」ので水の音も少なくなりますし、すっと前に進む感じになるのです。
計算はできないのですが、まさに知識が練習によって身になった、そんな達成感です。


あ、もちろん、このレベルのことは競泳の専門家の方達には何年も前からわかっているのではないかと思います。
でも、やはりそれを体得するには時間が必要で、継続は力なりだなあと思います。


それにしても写真をお見せできないのが本当に残念なほど、美しい写真集です。


見ているだけでももっと抵抗のない泳ぎに挑戦してみたいと、空中を飛んでいるような、さかなになったような気持ちになります。





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