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ふぃっしゅ in the water

2016-01-28

行間を読む 53  <「水泳の技術のほとんどは、自分の目で確認できない空間の動きで作られている」>

前回の記事に書いたように、背泳ぎでいかに抵抗を少なくするか考えている毎日なのですが、先日こんなニュースがありました。

クロール、速いのはS字?I字? 長年の論争に「答え」


 競泳自由形のクロールで中長距離をより速く泳ぐには、プールの中で腕をS字状に動かして水をかく方が、まっすぐI字状に水をかくより有利だとわかった、と筑波大や東京工業大などのチームが発表した。短距離なら逆にI字が有利になるという。流体力学的な解析でメカニズムの違いを解明。最適な泳法を身につけるトレーニングに応用ができるという。


 競泳界ではより速く泳ぐ腕の使い方について長年論争が続いてきた。筑波大の高木英樹教授(バイオメカニクス)らは、コンピューターシミュレーションロボットアームの水中実験などで、腕の周りにできる水の流れを詳細に調べた。


 I字の場合、水をかいたのと逆方向に体を押し進める力がそのまま直線上に動いていた。一方、指先が曲線を描くS字では、水をかく向きが変わる瞬間に手首の周りに渦ができる影響で、体を前に進める力がさらに加わっていた。このため、S字の方が効率よく推進力が得られるという。


 ただ、人間の筋力ではS字の方が回転速度をあげにくい。50メートル程度の短距離なら、効率を犠牲にしてI字で回転速度を上げた方がタイムがよくなるという。高木教授は「両者の特性を考慮して、距離の長短などに応じて選ぶのがよいのではないか」と話す。


2016年1月13日、朝日新聞



競泳技法についてはど素人なのですが、読んだ感じとしては「研究の目的と結果がきちんとタイトルにされなかった可能性」の印象を受けました。


このニュースを読んで、「そうか、自分は短距離が得意だからI字に変えてみよう」と思っても、簡単には結果はでないだろうなと。


<いつのまにかS字プルをしていた>


こちらの記事で、「10年以上前に雑誌のTAZANで泳ぎ方を独学していた時に、トップスイマーの泳ぎの写真を見て『S字プル』を見よう見まねで真似してみたのですが、ちっとも進まなくて疲れただけでした」と書きました。


そんな私がいつの間にかクロールでも背泳ぎでも水中で、ヒラヒラと手を動かしています。
そして「S字」という形だけでなく、微妙に人差し指と中指中指と薬指の間に隙間をつくって、水の抵抗を受けないようにしていることに、ある日突然、自分の意識が向くようになりました。


大事なのは、水をかく向きが変わる瞬間に手首の周りに渦ができる影響を、「研究で検証した」ということなのではないかと。


医療に関するニュースでも、基礎研究でそれまでの仮説の一端が証明されたということが、往々にして「効果がある」と伝えられやすい印象があるので、このニュースも競泳の関係者にとっては「長年の論争に『答え』」がでたわけでもないのではないかと思えました。


<「手部の水流が明らかにされた」が大事のようです>


野口智博氏ならどのように解説されるのかなと気になり、久しぶりにブログを見にいったら「SとかIとか、字の問題じゃなくて・・・。」(2016年1月21日)とありました。


「4泳法の教科書」にはまだ触れていなかったとして、以下のように書かれています。

それは、横方向から速い選手の泳ぎを水中で見た時に、キャッチ終了後から、手首がほんの少しだけ背屈しているように見える選手が見られます。


ど素人レベルですが、だんだん抵抗のない泳ぎの感覚がわかるようになって、私も手首が少し背屈することを意識していましたので、トップスイマーと一緒にするのはおこがましいのですが、なんだかまたちょっと本質をつかんでいたようでうれしいです。


今回の偉大な先生方の発見で、手部の水流が明らかにされたとしたら、手首の角度や手の形でそれらがどう変化するか?ということを推測することができます。
そうなると、ストローク中の手首の角度のコントロール」という、ストローク中の動きを観察する視点がもう一つ増やせるので、速い選手の泳ぎのメカニズムが、また一つ解明されるかもしれません。



今回のニュースも、観察の視点がひとつ客観化されたことが偉大なのであって、「この方法なら速くなる」ということではないのでしょうね。


<何ごとも技術を得るには・・・>


さて、昨日の記事で紹介した「トップスイマー・テクニック2」という本ですが、サブタイトルに「水中写真から学ぶ『世界トップスイマー』の最新テクニック」とあります。


野口智博氏の豊富な解説と美しい写真ですが、読めば読むほど禅問答のようで、きっと「速く泳ぐ技術的な答え」を期待した人にはなかなかその答えが見つからない本かもしれないという印象がありました。


その「執筆を終えて」にこんなことが書かれています。

運動学では、人の動きというのは時間(タイミング)と空間(位置)の要素で作られていると言われます。例えばクロールの腕の動きで、「キャッチに入るタイミング」と言ったとします。それは、キャッチに入る位置と、手が入水されてから「キャッチ」という形が完成するまでの「時間」の要素で作られる動きです。ですから、それを指導する際に「リカバリーから手先が入水して、まっすぐ前にストレッチしてから上腕を回内して肘を上に向けながら手のひらを下げて・・・」と説明することはできます。しかし、泳者側がそれを聞いて、その通りにしようとすると、頭がこんがらがり動けなくなりますよね(笑)。




そして今日のタイトルに上げた一文につながっていきます。

(前略)よくよく考えると、水泳の技術のほとんどは、自分の目で確認できない空間の動きで作られていることに気づきます。



それは「抵抗」との闘いとも言えるかもしれません。

まさしく世阿弥の「未見の見」の世界。泳いでいる人の動きと水の感覚とそのマッチングが、芸術のような絵となって、こうやって示されるわけですね。だからこそ、何年経っても、何百何千人の泳ぎを見てきても常に新鮮に感じるのかもしれません。




記録や順位だけではないトップスイマーの泳ぎに魅きつけられ、そして自分自身も抵抗のない泳ぎを求め続けているのは、このあたりなのだと思います。





「行間を読む」の過去記事はこちら
野口智博氏についての記事のまとめはこちら

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