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ふぃっしゅ in the water

2018-12-26

助産師の世界と妄想 32 <「正常」へのこだわりがあちこちからハシゴをはずす>

臨床で働いている多くの助産師看護師が経験した症例報告から必要なケアを探り当てるというシステムがない助産師の世界は、いつの間にか力を持った団体が現場のニーズとは程遠い研修や制度を作っていくことが、乳腺炎の診療報酬の件でもわかりました。


そしてある日突然、私たちの臨床の苦労や経験が政治や運動に利用される。
利用されるだけならまだしも、一部の人たちのハシゴを外すことを平気でするのだと。
本当に助産師の世界には「奥の間」があって、助産師方向性に関して決めている人たちがいるのですね。この「奥の間」を感じた2012年には、まだアドバンス助産師という言葉さえなかったのですけれど。


さて、「時間外対応加算」で書いたように、夜間・休日を問わず分娩施設に電話が入る中で多いのが産褥乳腺炎と思われる症状です。
全国の産科施設で、今までどれだけの助産師看護師が対応に試行錯誤しながら経験を重ねてきたことでしょう。
時には重症化し切開排膿まで必要な状況になったり、乳腺炎での対応にも「こんなことがあるのか」という経験の中から、「いつ、どのタイミングで、どのような説明をすれば乳腺炎を予防できる」というあたりまで個人体験談が相当蓄積されているはずです。
だからこそ、今までなんとか各施設の看護スタッフが電話で対応したり、来院してもらって排乳したりアドバイスをしてきたのだと思います。


残念ながら、その経験(症例報告)を集めて、法則性を見出す能力が助産師の世界には育っていなかったのですね。
いまだに、乳腺炎のケアについてまとめることさえできていない。
私が助産師になって30年もたつというのに。


出版物の中で、比較的よくまとまっていると思われたのがこちらの記事で引用した、「母乳哺育と乳房トラブル対処法 乳房ケアのエビデンス」(立岡弓子氏著、日総研、2013年)でした。
タイトルも母乳育児ではなく母乳哺育という表現にしたことも、看護一般化するための科学的な表現だと思いました。
ただ、これもまだ総論がようやくまとまったという感じで、各論まではまだ遠い内容で、今後の続編を期待していました。


その後、2015年には日本助産師会出版から、「母乳育児支援業務基準 乳腺炎2015」が出版されています。
乳腺炎の対応に加え、乳房ケアの考え方や母乳育児支援の基本的な考え方を明示」「エビデンスに基づく乳腺炎の対応に焦点をあて」とありますが、私は購入していません。
なぜなら、開業での母乳相談事業にはたくさんの方法論が林立した状況が相変わらずある状況で、「エビデンスに基づく」内容をどうやって導き出したのかという疑問があるからです。


<どれだけのはしごを外すのだろう>


さて、2018年診療報酬改定に伴って、「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」が作られました。
施設基準を再掲すると、以下のようになります。

(1)当該保険医療機関内に、乳腺炎の重症化および再発予防の指導並びに乳房に係る疾患の診療の経験を有する医師が配属されていること。


(2)当該保険医療機関内に、乳腺炎の重症化及び再発予防ならびに母乳育児に係るケア及び指導に従事した経験を5年以上有し助産に関する専門の知識や技術を有することについて医療関係団体等から認証された専任の助産師が、1名以上配置されていること。




「当該保険医療機関内」「医師がいる」という条件から、医師のいない保険医療機関でない助産所母乳相談は、最初から対象ではないということになります。
いろいろな方法が林立しているとはいえ助産所が多くの乳房トラブルの対応や育児相談の受け皿になっていたことは事実です。
その事実を切り捨てていくつもりなのでしょうか。



(2)の「医療関係団体等から認証された専任の助産師」とはアドバンス助産師を指すらしいですが、認証の目安となるレベル3には、「乳腺炎の重症化ならびに母乳育児に係るケア及び指導に従事した経験を5年以上」といった内容はなかったはずです。
あくまでも「正常に経過した妊婦を対象にした院内助産助産外来」を目指していた民間資格なのに、なぜ、いまとってつけたように「異常」を取り込もうとするのでしょうか。


最初から「正常と異常の境界線」にこだわらずに医師とともに対応してきた助産師でも、アドバンス助産師でなければ、この診療報酬の蚊帳の外になる。


たぶん、「アドバンス助産師」がいない施設でも、これまで通りの産後の無料電話サービスと2000円程度の自負という支払い方法で対応すれば、お母さんたちへの経済的負担は差がないと思われるので、診療報酬を利用しない施設もあるのではないかと推測しています。



それでも、どれだけの助産師看護師がこの診療報酬ではしごを外されるのでしょうか。
これまで試行錯誤しながら乳腺炎に対応してきた助産師看護師よりも、にわかに研修を受けただけでもアドバンス助産師存在感アピールされている今回の件です。
本当に、「助産師の世界はこれだから」といいたくなる話でした。





助産師の世界と妄想」まとめはこちら

2018-12-24

もし、あの頃、こうしていれば  3 <10年やってわからなかったコツが20年やってわかる>

10年やってわからなかった怖さを20年やって知るのがお産です。
30年たって、ますます「こんなことが起こるのか」という怖さを実感しています。


ですから、私よりはもっと稀で深刻な状況に日々対応されている周産期センターの方々が、「お産にはマンパワーが必要だから、小規模な施設で扱わずに分娩施設の集約化を」という気持ちになるのは想像できます。
連日、産科診療所からの搬送を受け入れると、「診療所で分娩を扱うなんて怖い」と思うだろうな、と。


ただ、矛盾するようですが、「10年やってわからなかったコツを20年やってわかるのもお産」だと思うこのごろです。
有り体に言えば、手を出しすぎず、複雑なお産にしなくなるというあたりでしょうか。
妊娠中からだいたいの経過が予測できて、待ってみるタイミングや積極的に介入していくタイミングがつかめてくるので、おそらく産婦さんにとっても見通しがつかめて負担の少ない関わり方ができてきた感じです。
これは助産師だけでなく、産科医の先生を見てもそうだろうなと思います。
熟練した先生だと、医療介入するタイミングや判断が適切なので、複雑になりそうなお産でもお母さんや赤ちゃんに負担の少ない方法で分娩にしていけるようです。


年間何人かは周産期センターへ搬送してお願いしているのですが、だから小規模な分娩施設が危険なのではなく、その背景には何百人という産婦さんが安全に産科診療所で出産されているのですね。
そして、小規模施設だからこその目の行き届いたケアも可能になります。


ですから、今、過重労働や集約化で疲弊しきっている世代の方々もあと10年もすれば、どんな規模の分娩施設が自分にあっているのかが変化する可能性があるかもしれません。
その時に、産科診療所選択がまだまだあるといいのですけれど。


<なぜ助産師に産科診療所の人気があるのか>


助産師全体の就職先希望の統計があるわけでもないし、どんな思いで就職先を選択しているかも人それぞれ思いがあることでしょうから、あくまでも印象の話です。


私は助産師になってから勤務した総合病院や診療所は、年間分娩件数が300件から400件前後ぐらいのところでした。
月にすると30数件前後です。
1980年代から90年代ぐらいでは大学病院での分娩数も1000件まではいかなかったと記憶しているので、平均的な分娩施設の件数だったのだろうと思います。
これくらいの人数だとだいたいお母さんと赤ちゃんのことも把握できますが、それでも入院中にほとんど関わることがなかった方になると記憶に残らなくて、向こうは覚えてくださっていても「あ〜ごめんなさい」ということになります。


最近は年間分娩件数2000件とか3000件という施設が増えてきて、そういう経験のない私には想像がつかない世界です。
そういう施設から移ってきたスタッフの話を聞くと、帝王切開が一日数件あったり、本当に大変そうです。
そして何より、こちらの記事に書いたように、分娩介助の機会が少ないことに悩んでいたようです。

大学病院から産科診療所で働くようになったスタッフの多くが、大学病院で数年以上働いていても分娩介助数が数十件しかなく、「ここで働くようになって、たった1年で大学病院の数年分の分娩介助経験ができた」と言われて驚きました。

90年代ごろなら、総合病院で2〜3年もすれば100件、200件という介助数は当たり前だったのですけれど。


さらに、自分がまだ十分に経験できていないのに後輩を指導しなければいけないことも大変そうでした。

どんどんと新卒が入ってくるし、NICUや病棟などに一旦配属されれば、分娩介助からは遠ざかってしまいます。



そんな状況に追い打ちをかけたのがアドバンス助産師制度だったことでしょう。
私たち世代には難なくこなせた「100例の分娩介助数」ですが、今ではいつ到達できるかわからない状況が分娩施設の集約化の裏で起きているのに、「100例」を条件にした民間資格ができてしまいました。


<もし、助産師の世界が産科診療所の存在を認めていたら>


大学病院周産期センターで数年間勤務してようやく分娩経験数数十例という助産師は、分娩介助以外は中堅から達人レベルの経験になっているので、判断力も技術もあります。
そういう基礎がしっかりした方たちは、慎重に分娩経験を積んでいくので即戦力にもなります。
また、やはりお産や新生児の怖さをたくさん経験しているので、自然なお産とかフリースタイルとか院内助産とか、あるいは母乳だけでといったこだわりも強くなく、目の前の母子の状況をよく見て対応してくださる方が多いという印象です。
「分娩経験数100例」でアドバンス助産師と名乗らせる必要は全くないと思います。


むしろ、最初の数年の基礎をきちんと作った助産師が、分娩技術だけでなく、一人一人の個別性に合わせた妊娠・出産・育児支援、そしてさらに保健センターや地域との繋がりへと経験を積む場所として産科診療所の規模が適しているのではないかと思います。


そして本人が出産、育児の時期に入れば、少し仕事のペースを落として産科診療所で働きながら周産期医療から離れずにいられます。



分娩や新生児の異常を知り、慎重に分娩介助経験から学べる人は、きっと10年20年とたつうちに、手を出しすぎず、物事にこだわりすぎず、複雑なお産にしないような技術を習得していけることでしょう。
あるいは授乳支援についても新生児の異常を知った上で、なんでも「育児母乳から始まる」かのような関わりだけでなくその母子の経過の見通しがたてられ、退院後の生活まで配慮したアドバイスもできるようになり、結果、お母さんと赤ちゃんを追い詰めることが少なくなることでしょう。
それこそが、助産師キャリアパスではないかと思います。


こういう合理的な流れをあえて無視してきた助産師の世界は、本当に独特のこだわりが強いから辻褄が合わなくなってきたのだと思うのです。



「もし、あの頃、こうしていれば」まとめはこちら

2018-12-20

正しさより正確性を 15 <「電話等再診」や「時間外対応加算」>

妊娠・出産・育児中の方にとって妊婦加算のような支払いが増える話に驚かれるかもしれませんが、他にも加算されたという経験がある方もいらっしゃるのではないかと思います。
それが「電話等再診」あるいは「時間外対応加算」です。
妊娠中や産後に体調が悪くなってどうしたら良いか電話をかけて相談した場合に、次回の受診時にその分の支払いが求めらます。


この加算の経緯についてもこの10年ほどのことではないかぐらいの曖昧な記憶と知識しかないので、今回は私自身の頭の整理のために書いてみようと思いました。
これもまた、案外とその経緯が一目でわかるような年表も説明も見つけることができず、検索して出てきた情報を切り貼りした程度の内容です。


<「地域医療貢献加算」から「時間外対応加算」へ>


青森県保険医協会の「地域医療貢献加算 (保団連2010の点数改定のポイント一部抜粋のため(7)から記載」という資料が公開されていて、それによると2010年(平成22年)に「診療所の再診料に地域医療貢献加算(3点)が新設された」とありました。
たしかに当時、「これから電話での相談を受けた場合は料金を請求できる」という話がありました。
「こんな症状があるがどうしたら良いか」と電話がかかっってくると、医師の指示を確認したり、受診の必要がない場合でも自宅での対応方法を看護スタッフがアドバイスするのですが、以前はどこからもそれに対しての報酬はなく、医療機関側の責任感と善意で支えられて持ち出しになっている部分がようやく認められたという感じでした。


電話での対応だけでも、カルテを探し相談した内容を記録するまで、数分から長いと20〜30分ぐらい一人のスタッフの手が取られます。
また、直接状況を見ることができない電話での判断は、電話を切った後もあの対応で大丈夫だったかと心配で胃が痛くなりそうなこともあります。


その資料では「(9)地域医療貢献加算を算定するに当たっては以下の要件を満たす必要がある」としていくつか挙げられています。

ア. 緊急時の対応体制や連絡先等について、院内掲示、連絡先を記載した文書の交付、診察券への記載等の方法により患者に周知する。また、複数の診療所が連携して当番医を定めて対応に当たる場合には、当番医の担当日時や連絡先等を患者に周知する。
イ. 標榜時間外であっても、緊急病変時等において、患者から問い合わせがあった場合には、必要な指導を行う。
ウ. 患者に周知している電話連絡先が当該診療所の場合には、転送可能な体制を取るなど原則として常に電話に応じる。
エ. 当該診療所の職員が問い合わせを受けても良いが、その場合、速やかに医師に連絡を行い対応する。
オ. やむを得ない理由で、電話等による問い合わせができなかった場合には、留守電話等により対応した上で、速やかに患者に連絡を取る。
カ. 電話等による相談の結果、緊急の対応が必要な場合は、外来受診、往診、他の医療機関との連携又は緊急搬送等の対応を行う。

そして「(10)電話再診の場合であっても、地域医療貢献加算が算定できる」とあります。


2012年(平成24年)には、「地域医療貢献加算」から「時間外対応加算」へと名称が変更されたようです。


ただ、2010年に忽然とこのシステムができたわけではなくて、いくつかの資料を読んでいると、1997年(平成9年)に「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(厚生労働省健康政策局長通知1075号)あたりで、「直接の対面診療による場合と同等でないにしてもこれに代替しうる程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない」という根拠が示されているので、90年代からすでに話し合われていたようです。


<「時間外対応加算」だけでは対応しきれていない状況もある>


正直なところ、日頃はこの時間外対応加算についてはほとんど意識しないで働いています。
妊娠から産後までためらって電話をしないと一気に状況が悪くなることがあるので、「いつでも電話してください」と話していますし、妊産婦さん本人のことだけでなく、育児や授乳のトラブルについても相談窓口があるという安心感だけでも産後のサポートになると思っています。
たぶん不満の矢面に立たされるのが医療事務の方々で、「先日の電話での相談分です」と説明しては嫌な顔をされているのだろうと申し訳なく思います。


ただ、その時間外加算だけではまだこちらの持ち出し分が全て解決しているわけではありません。


例えば、産後1ヶ月健診を過ぎてもう受診することがない方からの相談もその一つです。
子どもが吐いた」「熱を出した」「ベッドから落ちた」「泣き止まない」など、緊急性があるかどうか電話で判断しながらアドバイスしますが、だいたいはその1回で対応が終わりますし、誰にその費用を請求するわけでもありません。
乳腺炎の対応も早い段階であれば、飲ませ方や受診のタイミングなどを電話で説明するだけで解決することも多いです。熟練したスタッフであれば、という条件が必要ですが。


あるいは電話での対応で大丈夫だっただろうかと気になるので、しばらく時間がたってからこちらから電話をすることもあります。



電話で適切に対応して良くなればお母さんにも赤ちゃんにも負担がないので、無報酬や持ち出しのことよりは安堵感の方が大きいものです。


直接の支払いがなくても、いろいろな医療資源によって守られている部分はたくさんあるのではないかと思います。



「正しさより正確性を」まとめはこちら

2018-12-19

正しさより正確性を 14 <周産期の福祉の歴史のようなもの>

妊婦加算の話題で真っ先に思い出したのが、現在、当たり前のように使われている妊婦健診の無料補助券が14回分になって、ほぼ全妊婦健診が基本無料になったのが2009年だったことでした。


では、それまではどうだったかというと、案外、こういうここ20〜30年の制度の変遷はまだ年表になっていなくて、あれこれと資料を引っ張り出しながら自分で整理していくしかないのですね。


検索したら、厚生労働省の「妊婦健康診査の現状について」(2009年、平成21年)という資料が公開されていました。
無料券が14回分とされた根拠が書かれています。

※受診することが望ましい健診回数(平成8年11月20日付児発第934号局長通知)
 1. 妊娠初期より妊娠23週(第6月末)まで:4週間に1回
 2. 妊娠24週(第7月)より妊娠35周(第9月末)まで:2週間に
                          1回 
 3. 妊娠36週(第10月)以降分娩まで:1週間に1回
(これに沿って受診した場合、受診回数は14回程度と考えられる)



私が助産師になった1980年代終わり頃の都内では、妊婦健診の補助は、前期・中期・後期の3回のみだったと記憶しています。
また、検索してみても正確な年がわからないのですが、経腹エコーが一般化された1990年代半ばごろに、35歳以上の高齢妊婦の方にはエコーの無料券の補助が始まりました。


そのあたりの変化については地域差があるのですが、上記厚労省の資料では「健診費用の公費負担の経緯」で以下のように書かれています。

1. 昭和44年〜 都道府県が委託した医療機関において、低所得世帯の妊婦を対象に、公費(国1/3、県2/3)による健康診査(妊娠前期及び後期各1回)を開始。
2. 昭和49年〜 すべての妊婦について、妊娠前期及び後期各1回都道府県が委託した医療機関に置いて健康診査を実施。(国庫負担率1/3、県2/3)
3. 平成9年度〜 実施主体が都道府県から市町村へ。
4. 平成10年度〜 妊婦健康診査費用(2回)を一般財源化(地方交付税措置)。
5. 平成19年度〜 地方交付税措置による公費負担回数の充実(2回→5回)。


公費負担の現状
公費負担回数の全国平均5.5回(平成20年4月)[平成19年8月時点 2.8回]
妊婦健診の受診勧奨に向けた組織の推進や経済的負担を軽減するための更なる公費負担の充実が図られるよう、自治体に促しているところ。




そうでした。10年前はまだ数回分の補助しかなくて、それでも3回の時期に比べれば充実してきたと感じたものでした。
健診回数は今とほとんど同じですから、健診の半分は自費で3000円前後を支払っていたのではないかと記憶しています。


それが14回の補助券になってちょうど10年になるのですね。
当時は夢のような制度になったと、安堵したものでした。
「お金がなくて健診を受けなかった」という人をなくせるのですから。
こうして、少しずつでも確実に周産期の福祉制度が充実してきた歴史を、そろそろ年表にして母子手帳にでもつけてみるとよいのではないかと思いました。


自分が何を社会から受益しているのか、当たり前の感覚に陥ってしまいやすいものですね。


「正しさより正確性を」まとめはこちら

2018-12-18

正しさより正確性を 13 <妊婦加算と妊娠中の受診について>

2018年12月14日付で「妊婦加算を凍結、厚労省が表明」というニュースがありました。
その前から、ネット上で批判が高まったことがこの一因なのかもしれません。

根本匠厚生労働相は14日の閣議後の記者会見で、妊婦が病院で診察を受けると自己負担が上乗せされる妊婦加算について「いったん、凍結する」と表明した。胎児への影響を考慮して医師に丁寧な診察を促す狙いだったが、妊婦の自己負担が増えるため与党から抜本的な見直しを求められていた。2018年4月の導入から1年を立たず凍結を決めることになった。
根本厚労相は「妊婦の診察に積極的な医療機関を増やし、安心して医療を受けられる体制の構築につながることを期待していた」と妊婦加算の狙いを説明。その上で「実現する手段として加算の仕組みが適当だったか、改めて考えることが必要だ」と話した。
凍結開始の時期や期間については明言を避けたが、来週にも開く中央社会保険医療審議会中医協厚労相諮問機関)で了承されれば、早急に凍結するとみられる。
妊婦診療のあり方は今後、有識者を交えて検討する場を設ける。20年度の診療報酬改定に向け、中医協議論する方針だ。結論が出るまでは凍結は継続される見通し。


厚労省は当初、妊婦加算の抜本的な見直しに当たり、加算で生じる自己負担をなくすための予算措置を検討していた。13日に自民党公明党がそれぞれ開いた厚生労働部会で速やかに自己負担をなくすよう強く求めてられた。厚労省実施まで時間がかかる予算措置を断念。早急に対応できる凍結を決断せざるを得なくなった
妊婦加算は患者が妊婦の場合、薬の処方などで退治に配慮が必要になることから、より丁寧な診察を医師に促す目的で導入された。患者の自己負担は初診の場合は230円、再診なら110円が上乗せされる。
投薬を伴わないコンタクトレンズの処方など、妊娠に関係のない診療でも上乗せを求めることができる仕組みで、ネット上でも「妊婦税だ」との批判が出ていた。
日本経済新聞



産科に勤務していても妊婦加算の話を知らなかったので、最初ネット上で話題になった時には「なぜ公費で負担する仕組みにしないのだろう」と感じつつ、妊婦加算という対応ができつつあったことがすごいという気持ちの方が上回りました。
なんだかんだ言っても、日本の医療はこうして現場のニーズから問題解決されていくのだと私は感じました。



それにしても、「自己負担をなくすための予算措置」まで考えられていたのに、その動きが止まってしまったことは残念です。


<全妊婦のどれくらいが対象になるのか>


夜間・休日を問わず、分娩施設には体調が悪くなったがどうしたら良いかという電話が入ります。
症状を確認しながら、産科的なものではなく内科や耳鼻科あるいは他の科の受診の方が良いかどうかを産科医と相談して対応しています。


冬場になると特に、「熱が出た。喉が痛い」と言った上気道炎のような症状から「胃が痛い。吐き気がある。下痢した。お腹が痛い」といった消化器系の症状の電話が増えます。
妊婦さんの場合は「ただの風邪だから内科へ」とは言えず、 HELLP症候群や劇症型A群レンサ球菌感染など急速に重症化する疾患もありますから、近くの内科で良いかあるいは周産期センターへの受診が良いかなど、電話での判断が必要になります。
また、呼吸器や消化器症状と一緒に産科的な症状(切迫流早産)が進行することもありますから、どのような対応が良いか瞬時に判断しなければならないので、こちらも緊張する場面です。


分娩施設側でさえそうなのですから、妊娠という特殊な状況に受診の受け入れ側も大変なことでしょう。
時々、受診先の内科や耳鼻科の医師から処方してよい薬に関する問い合わせが折り返しかかってくることがあります。
あるいは妊婦さん本人から「〇〇へ電話してみたが、妊娠中なので産科に相談してと受診を断わられた」という連絡が入ることもあります。


こういう状況を改善していくための一歩だったのでしょう。


ところで、こういう状況がどれくらいの頻度で起こるのでしょうか。
当院の年間400件弱の妊婦さんのカルテに目を通していますが、妊娠中に一度もこうした他科への受診が必要がない方がほとんどです。
皮膚疾患が増悪したとか、風邪を引いた、花粉症がひどくなったなどでかかられる方がいる程度です。


ほとんどの方には求められることがない妊婦加算ですし、何回か通院したとしても数百円程度の負担ではないかと思います。
これを「妊婦税」と揶揄し、「子育て世代に厳しい」とか「人口減少を加速する」と批判するのは、現状を知らないゆえだったのでしょう。
チリも積もればの税金の方が、よほどの額になると思います。


ただ、制度を始める時に、いつ頃までに自己負担はなくなりますといった見通しをもっと周知してくださったら、よい方向に向かっていたのかもしれませんね。
まあ、現場では不満も聞かれていなかったのに、ネットになるといきなり「正しさ」の議論が加速するので、こうなりやすいのでしょうか。




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