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ふぃっしゅ in the water

2018-12-27

助産師の世界と妄想 33 <「助産政策」と「エビデンス」>

助産師乳腺炎のケアに対する総論も各論もまだ未成熟な段階で、乳腺炎への対応に診療報酬が支払われることは寝耳に水でした。


むしろ、妊婦健診補助券のように、産後1年間ほど使える補助券があったら良いのにと思っていました。
そうすれば、「体重が増えない」「黄疸が長引いている」「お母さんの赤ちゃんの世話についての不安が大きい」と言った方たちが来院してフォローを受けるときに使えるし、授乳相談や乳腺炎のごく初期の対応にも使えます。


現在は、体重が増えないとか黄疸が長引いているなど生後1ヶ月までのフォローは、各施設で無料あるいは極少額の支払いで対応しているところが多いのではないかと思います。
お母さんたちへの出費を抑え、相談に来やすくしてもらうために、分娩施設側の持ち出しでサービスのように対応しているのではないでしょうか。
「思います」としか言いようがないほど、こうした産後のフォローについても全体像が把握されていないのが現実でしょう。


妊婦健診補助券が14回分になった時に、次はせめて1か月ごろまで、できれば産後1年ぐらいまで使える補助券をと期待したのでした。


<「助産政策」>


さて、この診療報酬に組み込まれた経緯について、「助産雑誌」11月号で特集がありました。
「「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」新設の意義  診療報酬点数化の経緯と概要、日本助産学会の取り組み」から紹介します。

日本助産学会助産政策委員会では、会員向け勉強会として「助産政策ゼミ」を立ち上げて運営するかたわら、医療政策や診療報酬に関する専門家招聘した委員会勉強会を重ねてきました。そして、2018年診療報酬改定での点数化を目指して準備を進め、一般社団法人看護学会社会保険連合(以下、看保連)への要望につなげました。

すごいなあ、いつの間にか「助産政策」なんて言葉もできていたのですね。


日本助産学会のニュースレター2018年5月号に掲載されたメッセージがありました。
長いのですが全文、書き写しておきます。(強調部分は引用者による)

 平成30年診療報酬改定に向けては、1)助産外来・院内助産所体制評価や、2)退院後の切迫早産妊婦の訪問等、そして3)乳腺炎重症化予防に関する技術評価に関して診療報酬化に向けて準備をし、一般社団法人看護学会社会保険連合(以下、看保連)に要望案を提出しました。

本来、「正常な経過」を対象とした助産外来と院内助産は自費医療の範疇なのに、なぜ診療報酬の中で評価されるのだろう、「切迫早産」もそれまで頑ななほど「正常」にこだわっていた助産師の世界ではほとんど話題にされることもなかったのに、いきなり「訪問看護」で扱われるのはなぜなのだろう。
最初から、いろいろと考えさせられるメッセージです。


 看保連に提出された要望案は、看保連事務局によって選別されますが、1)〜3)の全てが厚生労働省保険局(*原文のまま、おそらく保健局の誤字)医療課に提出されました。その中で看保連より厚生労働省中央社会保険医療協議会医療技術評価分科会へ提出された、乳腺炎重症化予防に関する技術評価が審議され、その結果、乳腺炎の重症化を予防する包括的なケアおよび指導に関する評価として、診療報酬に「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」という名称で新規収載されました。


 今回、本件の診療報酬収載が実現したのは、乳腺炎重症化予防ケア・手順について標準的な手順があり、それを実施できる助産師が日本中にいることが根拠を持って示されたことになります

「標準的な手順」については欄外で「日本助産師会:母乳育児支援業務基準 乳腺炎2015」が挙げられていました。
また、日本助産学会による「乳腺炎重症か予防ケア・指導経過記録用紙」「乳腺炎重症化予防ケア・指導経過記録用紙の使い方」(いずれも2018年7月版)が掲載されていました。


その内容を見ても、日頃、乳腺炎に対応してきた経験からくる観察ポイントや対応とも違う、なんだかにわか作りの理論のように見えてしまうのは、やはり「症例研究」の積み重ねの段階がないからではないかという印象です。
いや、一生懸命作ってくださった方には申し訳ないのですけれどね。
全国の助産師の対応方法や考え方をもっと広く集めてくださると良いのに。


 多くの助産看護のケアは、その効果が科学的エビデンスとして示されておらず、実際に診療報酬として点数化されるのは、看保連から厚生労働省に要望したもののうち多く見積もって3割程度です。近年は特に超高齢化の中で、認知症や在宅ケアには診療報酬が点数化されやすく、母子に関するケアは報酬評価されにくいという現状があります。そのような状況の中での今回の「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」の収載は、誠に稀有な事例であるといえます。
 診療報酬に収載されたことは、国民皆保険制度の元、誰もが標準的な医療を受けることができることを意味します。すなわち、誰もが支払い可能な料金で、適切なケアが受けられるということです。これは日本の母子のために大変意義深いことであると考えております。



出産は病気ではないからと医療から自ら離れようとし、医師のいないところでの自律した開業を目指してきたのが助産師の一部の人たちなのに、「母子に関するケアは報酬評価されにくい現状」というのは辻褄があっていないですね。


また診療報酬というのは、医師が効果を認めた内容が科学的な手法で選ばれた治療方法が基準になっていると理解していました。
それまで主流派の大半の医師が認めていない治療法を、乳腺炎やら育児に積極的に取り入れていたのに、何を持って「適切なケア」というのだろう。
まずは足元から見直して、整理していかなければいけないのではないでしょうか。


大丈夫でしょうか、「助産政策」の方向は。




助産師の世界と妄想」まとめはこちら

2018-12-26

助産師の世界と妄想 32 <「正常」へのこだわりがあちこちからハシゴをはずす>

臨床で働いている多くの助産師看護師が経験した症例報告から必要なケアを探り当てるというシステムがない助産師の世界は、いつの間にか力を持った団体が現場のニーズとは程遠い研修や制度を作っていくことが、乳腺炎の診療報酬の件でもわかりました。


そしてある日突然、私たちの臨床の苦労や経験が政治や運動に利用される。
利用されるだけならまだしも、一部の人たちのハシゴを外すことを平気でするのだと。
本当に助産師の世界には「奥の間」があって、助産師方向性に関して決めている人たちがいるのですね。この「奥の間」を感じた2012年には、まだアドバンス助産師という言葉さえなかったのですけれど。


さて、「時間外対応加算」で書いたように、夜間・休日を問わず分娩施設に電話が入る中で多いのが産褥乳腺炎と思われる症状です。
全国の産科施設で、今までどれだけの助産師看護師が対応に試行錯誤しながら経験を重ねてきたことでしょう。
時には重症化し切開排膿まで必要な状況になったり、乳腺炎での対応にも「こんなことがあるのか」という経験の中から、「いつ、どのタイミングで、どのような説明をすれば乳腺炎を予防できる」というあたりまで個人的体験談が相当蓄積されているはずです。
だからこそ、今までなんとか各施設の看護スタッフが電話で対応したり、来院してもらって排乳したりアドバイスをしてきたのだと思います。


残念ながら、その経験(症例報告)を集めて、法則性を見出す能力が助産師の世界には育っていなかったのですね。
いまだに、乳腺炎のケアについてまとめることさえできていない。
私が助産師になって30年もたつというのに。


出版物の中で、比較的よくまとまっていると思われたのがこちらの記事で引用した、「母乳哺育と乳房トラブル対処法 乳房ケアのエビデンス」(立岡弓子氏著、日総研、2013年)でした。
タイトルも母乳育児ではなく母乳哺育という表現にしたことも、看護一般化するための科学的な表現だと思いました。
ただ、これもまだ総論がようやくまとまったという感じで、各論まではまだ遠い内容で、今後の続編を期待していました。


その後、2015年には日本助産師会出版から、「母乳育児支援業務基準 乳腺炎2015」が出版されています。
乳腺炎の対応に加え、乳房ケアの考え方や母乳育児支援の基本的な考え方を明示」「エビデンスに基づく乳腺炎の対応に焦点をあて」とありますが、私は購入していません。
なぜなら、開業での母乳相談事業にはたくさんの方法論が林立した状況が相変わらずある状況で、「エビデンスに基づく」内容をどうやって導き出したのかという疑問があるからです。


<どれだけのはしごを外すのだろう>


さて、2018年診療報酬改定に伴って、「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」が作られました。
施設基準を再掲すると、以下のようになります。

(1)当該保険医療機関内に、乳腺炎の重症化および再発予防の指導並びに乳房に係る疾患の診療の経験を有する医師が配属されていること。


(2)当該保険医療機関内に、乳腺炎の重症化及び再発予防ならびに母乳育児に係るケア及び指導に従事した経験を5年以上有し助産に関する専門の知識や技術を有することについて医療関係団体等から認証された専任の助産師が、1名以上配置されていること。




「当該保険医療機関内」「医師がいる」という条件から、医師のいない保険医療機関でない助産所母乳相談は、最初から対象ではないということになります。
いろいろな方法が林立しているとはいえ助産所が多くの乳房トラブルの対応や育児相談の受け皿になっていたことは事実です。
その事実を切り捨てていくつもりなのでしょうか。



(2)の「医療関係団体等から認証された専任の助産師」とはアドバンス助産師を指すらしいですが、認証の目安となるレベル3には、「乳腺炎の重症化ならびに母乳育児に係るケア及び指導に従事した経験を5年以上」といった内容はなかったはずです。
あくまでも「正常に経過した妊婦を対象にした院内助産助産外来」を目指していた民間資格なのに、なぜ、いまとってつけたように「異常」を取り込もうとするのでしょうか。


最初から「正常と異常の境界線」にこだわらずに医師とともに対応してきた助産師でも、アドバンス助産師でなければ、この診療報酬の蚊帳の外になる。


たぶん、「アドバンス助産師」がいない施設でも、これまで通りの産後の無料電話サービスと2000円程度の自負という支払い方法で対応すれば、お母さんたちへの経済的負担は差がないと思われるので、診療報酬を利用しない施設もあるのではないかと推測しています。



それでも、どれだけの助産師看護師がこの診療報酬ではしごを外されるのでしょうか。
これまで試行錯誤しながら乳腺炎に対応してきた助産師看護師よりも、にわかに研修を受けただけでもアドバンス助産師存在感アピールされている今回の件です。
本当に、「助産師の世界はこれだから」といいたくなる話でした。





助産師の世界と妄想」まとめはこちら

2018-10-23

「助産師の歴史」まとめ

ひとつのタイトルでいくつか記事がたまったままになっているものがあります。
なぜそのタイトルを思いついたのだろう、そのまままとめて良いのだろうかと逡巡することもあります。


助産師の歴史」もすでに5つほど、記事があります。
ただ、学問的な歴史の話では全くないので、このタイトルのままでいいのかなとまとめを作らないままでいました。
そのあたりの気持ちは、2018年3月18日の記事にもこう書きました。

歴史といっても学問的に検証された話ではなく、私が助産師として働いてきた30年はどういう時代だったのかを思い出しながら、記録しておいたほうが良さそうな動きを書いています。



でも最近、私が仕事を通して感じていることも歴史の一部になるのだと、確信をもてるようになりました。


例えば、「日本で助産婦が出産の責任を負っていた頃」で紹介した伏見裕子氏の論文に書かれていた「縫合と鉗子など、本来助産婦に許されていない処置を行うのはNさんにとって大きなストレスであり」といった一文もそうですが、半世紀前の助産婦がどのように働きどのような思いを持っていたかを、後世の人たちが拾い起こすことは本当に大変なことです。
「事実はどうだったのか」という関心を持ってくださる研究者の存在がなければ、この一言でさえ歴史の中に埋もれてしまいます。
現代の助産師でさえ、知り得ない事実を知ることがいかに難しいことでしょうか。


今はブログという当時の生活を垣間見るような記録を残す手段があるので、「その当時の動きに対してこんな考えを持っていたこと」を残すことができます。


それにしても最初の4つの記事は2012年、6年ほど前に書いた記事ですが、すでにもう、いったいいつの時代だろうと感じるほど古めいた内容に思えます。
あの頃はまだ、「正常なお産は助産師の手で」「開業助産所や自宅分娩を」という雰囲気が根強かったのでした。


それが現実社会のニーズからどれだけ程遠いものなのか、見誤る人も多かったのでしょう。
そして院内助産とかアドバンス助産師とか次々と新たな言葉を作り出しては現場の助産師を翻弄し、10年もすれば、また風向きが変わっている。それが現代の助産師の歴史なのだろうと思います。



助産師の歴史」のまとめ。

1. 記録に残しておきます
2. 幻の助産師法案
3. 女性学年報
4. 2011年に出された要望書
5. 会陰裂傷縫合術についての「既成事実作り」


合わせて「助産師だけでお産を扱うということ」のまとめです。

1. 日本で助産婦が出産の責任を負っていた頃
2. 出産と医療、昭和初期まで
3. 産婆から助産婦へ、終戦後の離島での出産の医療化
4. 開業助産婦と嘱託医
5. 母子健康センター助産部門
6. 「役割は終わった」


また、「助産とは」のまとめがこちらにあります。

2018-04-20

アドバンス助産師とは 14 <「出願商標『アドバンス助産師』」についての裁判>

私の周囲ではとんと耳にすることのなくなったアドバンス助産師ですが、最近はどうなっているのだろうと久しぶりに検索したところ、「知的財産権判例ニュース」の「出願商標『アドバンス助産師』について公序良俗を害するおそれがあるとはいえないとされた事例」という記事が公開されていました。


なんというか、虚を衝かれたというか、シュールなニュースだなあと思いました。
プリントアウトだけして、あとでゆっくり考えようと思った次第です。


「事件の概要」として以下のように書かれていました。そう「事件」なのですね。

原告が商標登録出願をしたところ、特許庁は、商標法4条1項第7号に当たるとして、登録を拒絶しました。

原告というのは、「一般財団法人日本助産評価機構」です。


「どのような助産師を育てたいのか」に書きましたが、「助産師」という名称が使われている団体や組織はいくつかあるのですが、ごくごく普通に臨床で働く助産師に本当に必要な問題をとりあげてくれている団体はなさそうな印象です。
それなのに、いつの間にか助産師に関係する大事なことが決まってしまう不思議な世界です。


さて、その日本助産評価機構の出願に対して、特許庁が拒否した理由が書かれています。

3. 特許庁の拒否査定


前期出願について、特許庁の審査官は、平成27年11月6日、「本願商標は、あたかも助産師の一種あるいは助産師と同等の国家資格であるかのように、需要者、取引者に誤信を生じさせるおそれがあることから、これを商標として登録、試用することは、取引秩序を乱すおそれがあり、社会公共の利益に反するものと認められる。したがって、この本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する」旨、認定・判断し、拒絶査定を下しました。



これは至極まっとうな判断だと思います。


<「需要者、取引者に誤信を生じさせる」>


「アドバンス助産師」の内容を見ると、ようやく一人前レベルを認証しただけですし、しかも初年度に登録された5000人余りの助産師は自己の分娩記録や経歴も自己申告でしたから、数年ぐらいの臨床経験があればそこそこ認められる制度でした。


正確な統計はわからないのですが、周囲のここ10年ほどの間に助産師になった人たちは、分娩施設の減少と集約化のあおりで卒後にまず大きな病院へ就職することになり、「分娩介助件数100例」のもつ意味に書いたように、何年たっても100例という分娩介助経験を積めずにいることが増えた印象です。


また、たとえば経験年数数年で「アドバンス助産師」を取得したとしても、その後はさらに上の資格がつくられるのか、反対に、どれくらい経験がなければその資格が無効になるのかもよくわからない制度です。
臨床から離れても、アドバンス助産師という肩書きがあるだけで、一生「信用」のひとつにされるのでしょうか。


今はまだアドバンス助産師の知名度はほとんどないので、産科施設に来る方々からその資格の有無を問われることもありませんから、実際の対応やケアでその助産師の能力を判断してくれていると思います。
ところが、マスメディアなどを使って「アドバンス助産師がいる施設は信頼できます」というような認識が広まれば、どうなるでしょうか。
「アドバンス助産師」を名乗る一人前レベルの助産師ばかりの施設のほうが、それを持たないけれど中堅や達人級のレベルの多い施設よりも信頼を得る可能性もあります。


「上級助産師」というニュアンスの目的は何なのでしょうか。
そして国家資格と言うのは、何を意味しているのでしょうか。


<虚を衝かれる>


驚くことに、裁判所は特許庁の請求不成立を覆して、原告側の主張を認めたとあります。

本願商標は、助産師でない者を『助産師』と称するために出願されたものではないから、本願商標が登録されたからといって、保助看法42条の3第2項の規定に違反するおそれがあるということはできない。


本願商標は、『上級の助産師』の意味が生じる語を日本語表記及び英語表記で表示したものであって本願商標全体としても、『上級の助産師』の意味を生じるということができる。
ところで、『アドバンス助産師』制度は、助産関連5団体によって創設されたもので、『アドバンス助産師』を認証するための指標は、公益社団法人日本看護協会が開発したものであるから、その専門的知見が反映されているものと推認されること、(以下、略)




助産師個人認証制度に登録商標をつけるという発想自体、現代の医療職には似つかわしくないと思うのですが、このニュースレターでは裁判所の判断を妥当として以下のような説明も書かれていました。

原告の、「類似の民間資格等が出現することを防ぐ」という利益は、まさに商標法によって保護されるべきものでしょうから、特許庁は、原告に過度な主張立証の負担を課すことなく、登録を認めるべきであったように思われます。



ああ、この感覚がまさに助産師のさまざまな問題の根底にあるのではないかと、ふと感じた次第です。
虚像と妄想に満ちた世界さまざまな代替療法などの資格商売が林立する世界ですからね。


「自律した助産師」とか「院内助産」といったプロパガンダで、助産師のキャリアラダーまで登録商標にするのは、助産には「営業」という感覚が根付いているからであり、幅広い知見の集積の中から標準化を図る科学的な方法とは異なるのだと、この「事件」から感じました。




「アドバンス助産師とは」まとめはこちら

2018-03-18

助産師の歴史 5 <会陰裂傷縫合術についての「既成事実づくり」>

この「助産の歴史」も6年ぶりの記事更新です。
歴史といっても学問的に検証された話ではなく、私が助産師として働いて来た30年はどういう時代だったのかを思い出しながら、記録しておいたほうがよさそうな動きを書いています。


なんといっても「江戸時代には産婆が産科手術をしていた」「産婆は大名行列を横切ることができた」とか「GHQは産婆のことを理解していなかった」といった歴史話が跋扈している助産師の世界なので、その時々の動きを見失わないようにするのも大変ですね。


さて、こちらの記事に書いたように、「助産所開業マニュアル」に「会陰裂傷(切開)縫合術」の方法が詳細に書かれていたことに驚き、この問題を考える必要があると思って購入したのが2014年でした。
当時は、まさか本当に助産所で縫合術が行われるようになるとは思っていなかったので、しばらくこの開業マニュアルの件を忘れていました。


楽観視しすぎでしたね、助産師の世界の政治力を。



<10年ほどの「会陰裂傷縫合術」に対する動き>


1980年代終わり頃に助産師学生として助産院実習に行きました。「自然なお産」「正常なお産は助産師の手で」という雰囲気が盛り上がって来た頃でしたので、私もこんなところで働きたいと思いました。


でも、助産所に対してはなんとなくいろいろな不安はあって、もし裂傷ができたらどうするのだろう、誰が縫合するのだろうと疑問に対して、実習先の助産所では「助産師には医療行為が許されていないからこれで留める」とクレンメを見せてくれました。


卒業してからは産科医と共に分娩介助していても怖いことが起きるので、「こんな時助産所ならどうするのだろう」といつも心の奥で疑問に思っているうちに、琴子ちゃんのお母さんの「助産院は安全?」というブログに出会ったのが2007年でした。


「会陰裂傷1度ならクレンメで、2度以上で縫合が必要なら医師に依頼する」
それが助産師に許された医療行為の限度だと学生時代に教わったことが、実際には水面下で既成事実作りが行われていることに気付くようになったのも、「助産院は安全?」でさまざまな情報を知ることができたおかげでした。


そしてその水面下の既成事実づくりが、書籍になったのが2010年でした。
助産院は安全?」で私のコメント「会陰縫合術についての意見」を取り上げてくださっています。


どうやら風向きが変化してきたのは、2007年の「医療現場の規制緩和策の原案」あたりのようでした。
それまでも「3分の1の助産所では、保健師助産師看護師法の臨時応急の手当てを遥かに逸脱している縫合が行われている」、つまり違法と見なされていた縫合が行われていた事実には驚きですが、2007年あたりを境に、助産師学生や助産師向けの「縫合の研修」が実施されるようになってききます。


こちらの記事に紹介したように「助産師教育ニュースレター」のなかで、「助産学生は既成事実として理論・演習を行い習得していかなければいけない」(No.65、2009年8月)と、法律や通達の変更のないまま、学生に会陰裂傷縫合術が組み込まれて行きました。


病院や産科診療所で働く助産師には必要性もない話が、助産師の業務として取り込まれていくことに怖さを感じたのですが、「助産院は安全?」の以下の記事とコメント欄で当時の雰囲気が伝わるのではないかと思います。

「会陰縫合術についての意見」から考えるー1」
「会陰縫合術についての意見」から考えるー2【リプロダクテイブヘルス】
切開もだそうで
1994年当時の話からー会陰切開、助産医について
”いいお産”とは何か?ー4「実践報告」が真実ならば...
腑に落ちないことだらけ
「助産師の会陰縫合術」について、厚労省に聞きました
縫合の問題関連
可否は明確にされていたのでは?
助産師に会陰縫合は必要なのか?
助産師の会陰切開、縫合について
「助産院で縫合」の体験談が...
緊急時なら許されているらしい、助産師による縫合



2011年には要望書を出し、2013年になると「助産師の業務拡大」として「医師との緊密な連携が取られる状況下では裂傷2度までで母子が安定していれば『助産師が会陰裂傷を縫合できるものと思われた』」という報告書まで出したようです。


そして冒頭の2013年に出版された「助産所開業マニュアル」(日本助産師会出版)では、「開業助産師として身につけておかなければならない救急処置」(p.91)として、「会陰切開術」「会陰裂傷(切開)縫合術」と書かれています。


その「会陰裂傷縫合術」では、助産師単独で局所麻酔剤も使用できるように書かれていてさらにびっくりです。

縫合時の麻酔
 嘱託医師と協議の上、必要であれば準備しておく。会陰裂傷の局所麻酔でショックが起きることは少ないが、異常時には速やかに対応できるような準備も必要である。

いやはや、助産師の世界の正常と異常ってなんだろう?


そして、正式な手続きもなく幻の「助産師法案」がジワジワと現実に広がっているこの怖さはなんだろう。
「幻の『助産師法案』」って、昭和初期の話なんですけれど。




助産師の歴史」まとめはこちら