新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

39: オニオコゼ

スズキ目カサゴ亜目オニオコゼオニオコゼ
学名:Inimicus japonicus (Cuvier)
英名:Devil stinger [原]

地方/流通名オコゼ、アカオコゼ、ツチオコゼ、オコシ、オコジョ、ヤマノカミ【注】など。全長約22cmの活け〆個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。エタノール処理中に少々黄変してしまった。写真右は、写真左の右側の標本の拡大図。「鬼鰧/鬼虎魚のオニオコゼ」は、肩甲骨と烏口骨本体の上に大きなめの4つの射出骨が乗るという特徴以外は、他のカサゴ目の「魚のサカナ」とあまり似ていない独特の形状。全体的には「横長」な印象を受けるもので、肩甲骨の前縁下部はあまり突出しない。肩甲骨孔は円形。肩甲骨と烏口骨の間隙は軟骨質で、上の標本では烏口骨本体下部前方が少々膨出している。烏口骨上方の『背鰭』に相当する部分は、比較的高さのある三角形(最先端に突起あり)で、その下部には小孔が開く(写真下の赤丸)。『嘴(尾)』部の先端に掛けては『針』のように細くなる。第1/第2および第2/第3射出骨の間には円形の孔が開いているが、第3および第4射出骨の間の孔は『おむすび』形。

日本近海に生息するオニオコゼ科の魚は4属9種のみで、その内オニオコゼ属の魚は、本稿のオニオコゼ・ヒメオニオコゼ・セトオニオコゼの3種のみ。この3種の内、ヒメオニオコゼ琉球列島以南に生息する魚であり、東京多摩地区に「活け」で入荷する可能性はほとんどないと思われるもの。また「日本産魚類検索の第2版」の付記 p.1528によれば、2000年の時点で報告されたセトオニオコゼは2個体のみ(その内1個体は1979年に報告された広島沖のもの)という「超レア魚」であるとのこと。同項には「オニオコゼとの詳しい比較検討が必要」ともわざわざ明記されているので、今後の研究によっては「セトオニオコゼオニオコゼは同一種」とされる可能性があるのだろうと推察。



以上のことから、今回の個体は「消去法」によってもほぼ間違いなくオニオコゼであると判断できるわけだが、念のためオニオコゼ科の検索キーを辿り、1)胸鰭の下端に2本の遊離軟条がある(写真下段左の赤四角)、2)背鰭第4棘より後ろの鰭膜は棘の半分かそれより上まである(写真中段右)、3)吻は短く、吻長(写真中段左の赤線)は眼後長(同緑線)とほぼ等しい、4)胸鰭の下から第3と第4軟条間の鰓膜は深く切れ込まない(写真下段右)、5)体は背鰭基部付近で、著しくは盛り上がらない(写真上段左)などの形質を確認した。ちなみに、ヒメオニオコゼとは形質2と3(ヒメオニオコゼでは、背鰭第4棘より後の鰓膜が基底近くまで切れ込み、吻が長く吻長は眼後長より長い)で、またセトオニオコゼとは一応形質4と5(セトオニオコゼでは、胸鰭の下から第3と第4軟条間の鰓膜が深く切れ込み、背鰭起部付近で体が著しく盛り上がる)で見分け可能とされている。

今更書くまでもないと思うが、背鰭棘には毒腺があり、刺されると非常に痛むという話なのでご注意。

オニオコゼの下顎にはかなり大きめの皮弁がある(写真右)。

2011年7月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入した活け〆個体(当日はキロ2,000円/0.23kg。産地の確認は失念)。本稿では当日購入した2匹の内、小さめの個体を紹介した。この時は刺身と唐揚げに。まずは3枚に下ろし、薄造りにして「てっさ風」にポン酢で。身の弾力はフグほどではないが、キメの細かい身には多すぎず少なすぎずの絶妙な旨味あり。口の中で租借していると幸せな気分になるほど。肝は軽く湯通し(表面の色が変わる程度で、内部はまだ生のままの状態)し、また胃袋は開いて良く洗ってからしっかり湯通しして、どちらも食べやすいサイズに切り分けて刺身に添えたが、前者は濃厚な旨味と脂からくる甘みが絶品(カワハギの肝よりもしっかりした感じ)。後者はコリコリした食感でこちらは珍味。アラともう1匹はブツ切りにして唐揚げに。身の方はホロホロの食感になり、旨味も立つために非常に美味い。アラは2度揚げし、頭や骨のバリバリ感、皮のクニュクニュ感を堪能。こちらも美味い。


【注】ちなみに「ヤマノカミ」という地方名が、「山の神(山神)」信仰に由来するのは有名な話。何でも「山の神」は、非常に恐ろしい女神であったが、悲しいかな大変な醜女だったという。そこでオニオコゼのあまりのご面相を「山の神」になぞらえて「ヤマノカミ」と呼ぶようになった、あるいは「山の神」を慰めるために、より醜い顔の代表としてお供えしていたオニオコゼを「ヤマノカミ」と呼ぶようになったなど、いくつかの説がある。

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本エントリーの初稿で紹介していた射出骨付きの標本(アルコール処理前)。烏口骨本体後端下部の形状が上で紹介した標本と少々異なる。明石「魚の棚」魚利商店で購入した活け個体(写真上右)のもので、危険な背鰭棘を除去した上で販売されていた。

(11/12/12 全面改稿)