新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

267: キリンアナハゼ

スズキ目カジカ亜目カジカ上科カジカ科アナハゼ属
学名:Pseudoblennius sp.2
英名:Sunrise sculpin、Sunrise(但しアナハゼ類の総称)

石川県能登島産、の全長約18cmの個体(交接器官が確認できないので恐らく雌)から摘出した左右の「魚のサカナ」。アナハゼの仲間は標準和名に「ハゼ」と付くが、ハゼ科の魚とは遠縁で、実際にはカジカ科の魚。「麒麟穴沙魚のキリンアナハゼ」を見ると、肩甲骨および肩甲骨孔が大きめであること、4つの巨大な射出骨が肩甲骨と烏口骨の間に入り込む(ただし本稿のものでは肩甲骨/烏口骨は分断されていない)ことなど、確かにハゼ科の魚のものよりも、カジカ科のものの方により似ていることが分かる。また今までに紹介した「魚のサカナ」の中では、同じカジカ亜目ではあるがトクビレ科のトクビレのものに最も似ているが、1)肩甲骨孔がより大きく、その下縁にある糸状の軟骨組織(?)は極細、2)肩甲骨上縁と射出骨が接するラインがより直線的、3)4つの射出骨がパズルのようにきれいに組み立てられており、これらが作る上縁のラインはきれいな曲線を描く、4)烏口骨の上方突起部前縁は、第4射出骨後縁と完全に接している(トクビレのものはこの部分が内側に曲がる)、5)烏口骨の『嘴』部分の形状は普通(トクビレのものはこの中央の「筋」が内側に立ち上がる)など多くの点で異なっている。また肩甲骨上部前方の突起部/第1射出骨、第1/第2射出骨、第2/第3射出骨が接しているところに、それぞれ1つずつ小孔が開いている。



これまでに見た記憶のない体色のアナハゼ類だなと思いながら「検索」開始。1)体側下部に斜めの鱗列がない、2)頭部背面は小骨板によって被われない、3)前鰓蓋骨最上棘は著しく大きくない、4)第1背鰭は9棘(写真中段右)、5)前鰓蓋骨棘は最上のものが最も大きい、6)腹鰭は1棘2軟条、7)側線鱗は皮下に埋没する(写真下)、8)後頭部に棘が全くない、9)下顎は上顎より前に出ない、10)鰓膜は癒合し峽部を横切る皮摺を形成する(写真下段右/皮摺の端は写っていない)、11)第1背鰭の各鰭は鰭膜で連続する(写真中段右)、12)臀鰭には遊離棘がない、13)第1背鰭と第2背鰭は近接する、14)側線鱗は尾柄部まである(写真下)、15)臀鰭は17軟条、16)眼後部に皮弁があるが、後頭部にはない(写真中段左の赤丸)、17)尾鰭後縁は深く湾入しない、18)体側に暗色横帯がない、19)腋部に数枚の鱗がある(写真下段左の赤丸)、20)第1背鰭のはじめの3鰓膜が暗褐色(写真中段右)、21)第1背鰭の第1・2棘が他棘よりも高くなる(写真中段右)、22)臀鰭は透明で軟条に小暗色点が多くある(写真下)、23)胸鰭は15軟条などの形質から、「アサヒアナハゼ」もしくは「キリンアナハゼ」であることが分かる。続けて、24)下顎腹面に薄い(?)褐色域がある(写真下段右/アサヒアナハゼでは顕著な暗色斑)、25)側線上に小皮弁がない(写真下/アサヒアナハゼでは2〜3枚の小皮弁がある/ただし稀にない個体もいる)、26)側線上にいくつかの小黒斑がある(写真下/アサヒアナハゼには側線上に小褐色斑がない)などの形質から今回はキリンアナハゼと判断。ただし「WEBさかな図鑑」などで画像検索すると、アサヒアナハゼ Pseudoblennius cottoides (Richardson) として掲載されている写真の中に、本稿の魚にそっくりなものが多数いるのも事実。また「形質25」に関して、写真下段右の様子で「薄い褐色域」と言えるのかどうか(少なくとも「キリン」らしくは見えるが)、魚類学の専門家ではない筆者には判断出来ない。ということで、本稿の魚は、「検索」上はキリンアナハゼであると思われるが、アサヒアナハゼの可能性も完全には捨てきれないとしておく。

能登島の小さな船着き場で「仕分け」され、捨てられそうになっていた刺し網の獲物(息子が漁師さんにお願いしてもらってきた)。その段階で既に死んでおり、少々磯臭かったこともあって今回は食していない。ただしネット上の情報では「美味」という話も。

(10/02/11 一部改稿)