新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

この「図鑑」に関して

この「図鑑」は「魚の中にある魚の形をした骨」、いわゆる「鯛のタイ」(他に「鯛中鯛」「鯛の鯛」などとも)の写真を集めたものです。

2014年4月現在で、紹介済みの「魚のサカナ」が 380種(未同定魚種や、開設当初に紹介した同定が少々怪しいものも含む)を超えました。

初めの内は魚種によって形が全く違うのを見て喜んでいただけでしたが、数が沢山集まってくると、形の類似点の中に魚類の系統関係などが垣間見えたりと、非常に奥の深い「遊び」であることに気がつきました。もっと専門的かつ体系的に調査したらそれなりに面白い研究になりそうな気もしますが、ここに紹介したのは、あくまで「根っからの魚っ食いのささやかなお楽しみ」で集めたもの。今のところほとんどのものは「自分自身が食べた魚」から取り出した「魚のサカナ」です。

350エントリーを機に『50音順の索引(各エントリーへのリンク付き)』を作りました。是非ご利用下さい。もちろん上か右下のボックスからも魚名を含めた記事の内容が検索できます。また右側の『カテゴリー』欄で「目名」(魚種数が膨大なスズキ目に関しては「亜目名」、更にカサゴ亜目、スズキ亜目、ベラ亜目およびカジカ亜目に関しては「科名」もカテゴリー分けしてあります)から探すこともできます。この方法は、同じ「目(若しくは亜目/科)」に分類される魚達の「魚のサカナ」を一度に比較でき、硬骨魚類の「進化」の一端を感じられることもあって個人的には一番のおススメです。過去の記事(特に開設当時にまとめてエントリーしたもの)も、しばしば改稿したり写真を追加したりしています。宜しければ時々チェックしてみて下さい。

ちなみに筆者は魚類学の専門家ではありませんので、魚種の同定を含め、間違った情報が多々含まれていると思います(特に頻繁に変更される「分類群名」はフォローし切れていません)。何かお気づきの点がございましたら、どんな些細なことでも構いませんので、コメント欄、もしくはプロフィール欄に書いてあるメールアドレスからお気軽にご連絡頂けると有り難いです。宜しくお願いします。

尚、食味等に関するコメントはあくまで私見ですのであしからず。

トラックバックやコメントは大歓迎です。またこの図鑑(https://fishinfish2010.hatenablog.com/)自体へのリンクも原則的にフリーですので、ご自由にどうぞ。但し写真や文章の著作権は管理者であるfishinfish2010に帰属します。無断複製および流用はご遠慮下さい。特に営利目的の商業利用は固くお断りします。

多くの写真にサイズマーカーとして写り込んでいる爪楊枝の先端の『玉』部分の長さが約2.5mmです。それでは「魚のサカナ」の形のバリエーションを存分にお楽しみ下さい。

更新履歴

新規登録

06/11/14 -「383: カワラガレイ」
05/01/14 -「382: アンコウ」
04/27/14 -「381: シマセトダイ」
04/26/14 -「380: カナド」
04/25/14 -「379: タカハヤ」
03/10/14 -「378: ヒメスミクイウオ」
03/07/14 -「377: ヒメ」
02/28/14 -「376: オオメハタ」
02/22/14 -「375: アカカサゴ
01/28/14 -「374: マスノスケ
改稿・写真追加など

04/30/14 -「126: キアンコウ
02/28/14 -「210: ワキヤハタ
03/08/13 -「093: ヤナギムシガレイ
03/08/13 -「042: ウサギアイナメ
02/26/13 -「026: キンメダイ
02/22/13 -「214: フウセンキンメ
02/06/13 -「051: ブリ
02/06/13 -「103: ヒラマサ
11/12/12 -「039: オニオコゼ
11/05/12 -「056: マハタ

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○「魚のサカナ」(と関連する語句)に関してもっと詳しく知りたい方はこちらへ。

○ 魚種の同定に用いた資料と記事内の記号などに関する情報はこちらへ。

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383: カワラガレイ

カレイ目カワラガレイ科カワラガレイ属
学名:Poecilopsetta plinthus (Jordan and Starks)
英名:Brick sole [原], Tile-colored righteye flounder

愛知県西尾市にある一色漁港産の全長約12cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真左は、上が有眼側、下が無眼側と考えられる標本。写真右は、無眼側の標本を拡大して撮影したもの。今回「魚のサカナ」を摘出するために、何時ものように冷凍保存しておいたカワラガレイ(丸のまま)を熱塩水中で10分程度煮たが、その間に筋肉組織はおろか、骨と骨を繋ぐ軟骨組織まで崩壊し、脊椎骨を含めた体中の骨という骨が文字通りバラバラになってしまった。これらの骨の山の中から計4個の肩甲骨と烏口骨を「救出」したものが上の標本である(同時に耳石も救出)。ちなみに有眼側/無眼側それぞれにおける肩甲骨/烏口骨の組み合わせは、i) 肩甲骨と擬鎖骨が結合していたと考えられる位置、ii) 骨の厚み、iii) 接合部の形状、iv) 烏口骨の『背鰭』部分が湾曲する方向などから総合的に判断したが、この「再構成」が間違っている可能性もあるので念のため。

これまで紹介してきたカレイ目の「魚のサカナ」は、全体的には似たような雰囲気を持ちながら、実際に各部分ごとに他の種のものと比較すると近縁種間でも形状に比較的大きな差異が観察されることが多かったが、今回の「瓦鰈のカワラガレイ」もやはり「独特」であると言える形状。肩甲骨部分はアブラガレイのものと比較的似ているが、無眼側の烏口骨の上部突起(『背鰭』に相当)辺りが『庇』状に比較的大きくせり出していること、烏口骨下部が丸く湾入していること、烏口骨の『嘴』部(『尾』に相当)が曲線的に下方に伸びていることなどはカレイ目の他の種のものでは観察されなかった特徴である。

有眼側(左)および無眼側(右)の標本を反対側から観察したもの。カワラガレイの「魚のサカナ」は全体的に薄いもので、特に肩甲骨の後縁と烏口骨の前縁(両者の接合部)は、『背』側で折れ曲がり薄い骨の2層構造を作っていた。



『日本産魚類検索』のカレイ目の「科の検索」からスタート(『第2版』ではp.100〜『第3版』ではp. 134〜)。1)腹鰭は棘がなく6軟条(写真下左)、2)左右の鰓膜は癒合している、3)前鰓蓋骨に遊離縁がある、4)胸鰭は顕著(写真下段左右の赤丸)、5)眼は体の右側にある(写真中段左)、6)無眼側に胸鰭がある(写真下段右)、7)無眼側の側線は痕跡的で見えにくい(写真下段右)という形質からカワガレイ科であると判断できるが、実は日本近海に生息するカワラガレイ科の魚はカワガレイのみ(つまり1科1属1種)である。カワラガレイの項に記載された 8)尾鰭に2個の大きな黒斑がある(ように見える/写真下右)、9)有眼側の側線は胸鰭上方で上に大きく湾曲する(写真下段左の赤線に注目)などの形質も確認。無眼側の頭部や腹部には多数の皮弁(と言えるか分からないが)がある(写真中段右)。カワラガレイの仲間は、かつてはカレイ科に分類されていたが、上の形質7)からカレイ科から分離され、現在ではカワガレイ科とするのが一般的であると筆者は理解している。ただしWikipediaカレイ」などでは、「カレイ科カワラガレイ亜科」表記になっている。

2012年12月に「三河一色さかな村」の高橋水産(高橋カンパニー)で入手。前エントリーで紹介したアンコウを購入した際に、その内の1匹が口にくわえていたものだが、実際に「エサ」として摂食したものなのか、あるいは網の中でたまたまそのような状態になってしまったのかは不明。この個体の鮮度はまずまずに見えたが、1匹だけということでそのまま冷凍保存。「魚のサカナ」調製時に「塩煮」を試食しようと思っていたのだが、上述したように塩水中で煮ただけで身も骨もバラバラになってしまったので、残念ながら現時点では味に関するコメントはできない。ただしネット上の情報によれば、一部地域では干物にして食べられている模様。

382: アンコウ

アンコウ目アンコウ亜目アンコウ科キアンコウ属
学名:Lophiomus setigerus (Vahl)
英名:Blackmouth goosefish [原], Blackmouth angler, Broad-headed angler

愛知県一色産の体長約20.5cmの雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。肩帯部から摘出後、エタノールにしばらく浸漬したものを半乾燥の状態で撮影。

写真上の左側の標本を反対側から撮影したもの。エタノール処理前(左)と処理後(右)。「鮟鱇のアンコウ」は、これまでに紹介したアンコウ目の「魚のサカナ」と同じように、全体的に厚みのある軟骨質で、烏口骨の上方突起(『背鰭』)部はあまり高くないなど、ミドリフサアンコウのものよりも、やはり同じキアンコウ属のキアンコウのものの方により似ていると思われる。ただし肩甲骨上部の膨出部分は、(特に非乾燥状態で)アンコウのものの方がより大きく見える。また比較的骨の幅が薄い肩甲骨下部(および烏口骨の『嘴』部の付け根辺り)ではより早く乾燥が進行しており、そのために肩甲骨孔がより大きく見える。

エタノール処理前の同じ標本を上側から観察。この方向から見ると「鮟鱇のアンコウ」は、途中で2度湾曲しているのが分かる。



ネット上の情報はもとより、魚関係もしくは料理関係の書籍などでもしばしば混同されているが、一般に鮮魚店や市場で「あんこう」もしくは「本あんこう/ほんあんこう」として売られているのは、ほとんどが標準和名キアンコウであり、稀に「くつあんこう」などとして売られているのが本稿で紹介している標準和名アンコウである。流通量は当然キアンコウの方が圧倒的に多く、アンコウは基本的に底曵き漁の水揚げ港周辺で細々と流通する程度というのが実情とのこと。魚体サイズはキアンコウの方がより大型になるとされる。ただ実際問題、市場や鮮魚店などではキアンコウ/アンコウとも肝の大きさを見せるために腹側を上に向けて並べられているため、背側に集中している「表徴形質(要するに魚種の見分けに必要な『鍵』)」を店頭などで確認するにはそれなりの覚悟(?)が必要となる。

写真撮影時は『日本産魚類検索 第2版』のアンコウ科の検索キー(『第3版』も同一)を辿り、1)鰓孔(写真中段右の赤線)は胸鰭基部(同緑線)より背面上方に達しない(=胸鰭の前側が切れ上がらない)、2)上膊棘(じょうはくきょく)【注】は多尖頭(写真下段左の赤丸の位置、写真下段右は体表面から見た様子、写真下左は標本にしたもの/赤四角部分)、3)口腔内に白色斑がある(写真中段左)などの形質からアンコウであると判断。また、X線による骨構造の撮影が可能な環境下もしくは解剖後であれば、脊椎骨数が20以下(写真下右)であることで、脊椎骨数が26~27と多いキアンコウと区別できる。

2012年12月に「三河一色さかな村」の高橋水産(高橋カンパニー)で購入したもの。当日はほぼ同サイズのアンコウばかりが12匹盛られて700円。今回は魚のサイズがあまり大きくなかったので「身欠き」状態にして唐揚げに。一般にアンコウ/キアンコウをきちんと区別した場合には、キアンコウの方が美味いとされているが、確かにアンコウの食味はキアンコウと比べて少々水っぽく、旨味もキアンコウより少ないように思われた。ただしこれらはあくまで「比較」の問題で、アンコウ自体を単独で味わうならば十分美味い。

【注】上膊棘(Humeral spines):擬鎖骨の"vertical limb"(和訳すれば垂直肢もしくは垂直脚/擬鎖骨の湾曲部から先の短い部分(実際には後方となる)で、「魚のサカナ」が結合した状態で言うと、『頭』即ち肩甲骨側の枝のこと)の後端から後方に伸びる大きくて複雑な棘。ちなみに、ミシマオコゼ類でも「上膊棘」と同じ位置に棘構造が観察できるが、こちらは一般に『擬鎖骨棘』と呼ばれている(どちらも英語では Humeral spines となるので、いわゆる「相同構造」なのだろうと推察しているのだが、、、)。

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【参考】アンコウとキアンコウの見分け方

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本稿のアンコウ(愛知県産/全長20.5cm)と、2012年2月に入手したキアンコウ(新潟産/全長35cm)の写真を使って両種の見分けに必要なポイントをまとめてみた。ちなみにこの写真のキアンコウの胃袋の中には『最後の晩餐』となった魚が大量に入った状態(腹側の全体像を参照)であり、体型が少々変わってしまっているのでご注意。

アンコウとキアンコウの体色を比べると、名前の通りキアンコウの方が少々黄色(もしくは赤色)がかっている(写真最上段左右)。またアンコウでは体がもっとも膨らんだ位置から少し後方に胸鰭があるのに対して、キアンコウでは体がもっとも膨らんだ位置に近いところにある(写真最上段左右/要するにキアンコウの胸鰭の方がより前側にある)。ただし、筆者自身の経験からしても、上記した2つの相違点は両種(もしくはその写真)を並べて比較してみないと判別は困難というのが実際のところ。

両種を見分けるために最も簡便な方法は、口の中を見る事で、アンコウの口中には黒褐色の背景に大きめの白斑が散在しているが、キアンコウの口中にはこのような白斑が存在しない(写真3段目左右)。ただし、写真からも分かるように、アンコウ/キアンコウとも口に鋭い歯がズラッと並んでいるので、口中を確認する時には怪我をしない様に十分気をつけて頂きたい。また、擬鎖骨の先端部から突き出る『上膊棘』の形状が、アンコウでは「多尖頭」(鹿の角のように枝分かれする/写真4〜6段目左)のに対して、キアンコウは「単尖頭」(枝分かれせず『槍』状/写真4〜6段目右。ちなみに写真5段目右の緑丸は、擬鎖骨に結合した状態の「黄鮟鱇のキアンコウ」)である。

更に胸鰭や背鰭の周縁に注目すると、アンコウの方がキアンコウよりも各鰭条間がより深く切れ込んでいる(よりギザギザしている)ような印象がある。まだ観察した個体数が少ないので断定はできないが、もしかしたら店頭で両者を見分ける時の参考程度にはなるかも知れない。


アンコウ(愛知県産)
キアンコウ(新潟県産)
全体像(背側)
全体像(腹側)
口内
上膊棘(生鮮時)
上膊棘(標本)
擬鎖骨(標本)
胸鰭
背鰭

381: シマセトダイ

スズキ目スズキ亜目イサキ科ヒゲダイ属
学名:Hapalogenys kishinouyei Smith and Pope
英名:Fourstripe grunt [原], Lined javelinfish, Striped velvetchin

愛知県西尾市にある一色漁港産の全長約25cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。「縞瀬戸鯛のシマセトダイ」の形状は、これまでに紹介したイサキ科の「魚のサカナ」の中では、セトダイのものに最も似ていると思われるが、肩甲骨前縁の形状、肩甲骨孔の形状、烏口骨の上方突起(『背鰭』)部の形状と立ち上がりの角度、烏口骨下側の湾入部の形状などに違いが見出せる。

ネット上の色々な情報を見る限り、シマセトダイは比較的珍しい部類の魚であるよう(例:鳥羽水族館NEWS ”珍しいシマセトダイを標本保存”)で、筆者自身が確認した範囲(頻繁に訪問できる訳ではないので、、、)では「三河一色さかな村」でも頻度良く見かけるような魚ではないと思われるが、2012年の年末だけは何故かあちこちの店で売られていたような印象がある。



写真撮影時には『日本産魚類検索 第2版』のイサキ科の検索キーを辿り、1)臀鰭軟条数は9(写真下段左)、2)下顎腹面に痕跡的な髭がある(写真上段右)、3)背鰭起部に1前向棘がある(写真中段左の赤四角)、4)背鰭・臀鰭の軟条部と尾鰭の後縁は黒くない(写真中段右および下段左右/今回の個体の尾鰭後縁は多少黒いが、セトダイほど明瞭な黒色ではない)、5)体側に顕著な横帯がない(写真下右)、6)体側に数本の暗色縦帯がある(写真下右)などの形質からシマセトダイであると判断した。ちなみに同書『第3版』では、上記の第1検索が削除されたが、それ以外の検索キーは『第2版』と同一である。

また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、7)体は卵円形で側扁する、8)体高は高い、9)鼻孔が大きく、吻端より眼の前縁近くに開く(写真上段左)、10)眼は大きい(写真上段左)、11)下顎下面に4対の小さな孔がある(写真下左)、12)両顎歯は絨毛状歯帯をなし、その外列歯は大きい、13)上顎前方の歯は強くて犬歯状(写真下左)、14)背鰭第4棘は第3棘より長い、15)臀鰭第2棘は強大(写真下段左)などの形質も確認した。

2012年12月に「三河一色さかな村」の深谷水産で購入したもの(同サイズのシマセトダイ2匹、全長約25cmのオオクチイシナギ2匹、全長約20cmのカゴカキダイに小魚が色々盛られて全部で1,500円)。この時のシマセトダイ2匹(およびオオクチイシナギとカゴカキダイ)は刺身にして知り合いの自宅で開かれた忘年会に持参。歯ごたえも適当で、身質もかなり良い。味の方も文句なく、脂の乗りも旨味も多い。体高の高いイサキ科の魚は基本的に美味いという認識が合ったが、期待に違わぬ大変な美味。忘年会参加者の評判もかなり良く、あっという間に皿の上からなくなってしまったと記憶している。

【注】『新訂原色魚類大圖鑑』に地方名「とももり」の記載があるが、どの地方の呼び名であるかは不明。またセトダイ/ヒゲダイ/ヒゲソリダイの項にも同じ名前が記載されていることから推察して、体高の高いイサキ科の魚が区別されずにこの名前で呼ばれている可能性が高い。

380: カナド

スズキ目カサゴ亜目ホウボウ科カナガシラ属
学名:Lepidotrigla guentheri Hilgendorf
英名:Redbanded searobin [原]

愛知県一色漁港産の全長約22cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」の標本。エタノール浸漬中に少々黄変してしまった。写真右は、写真左の右側の標本をより近くから撮影したもの。「金戸のカナド」の形状は、これまでに紹介してきたホウボウ科の「魚のサカナ」に典型的と言えるものであるが、烏口骨下縁の擬鎖骨と結合しているラインが比較的長くなっているために、同じカナガシラ属のカナガシラオニカナガシラのものよりも、属が異なるホウボウ(ホウボウ属)のものの方により似ているのが興味深い。

カナドの「魚のサカナ」の第1射出骨(写真上左)と烏口骨(写真上右)には小孔が開いているが、第2、第3、第4射出骨にはこのような小孔は確認できない(少なくとも目視レベルで)。第2〜第4射出骨にも小孔が存在する同じカナガシラ属のカナガシラやオニカナガシラの「魚のサカナ」とは異なる部分と言えるが、この特徴(小孔は第1射出骨と烏口骨のみ)は、面白い事にホウボウの「魚のサカナ」でも見られるもの。ホウボウ科内の系統関係がどの程度詳しく解析されているのかは分からないが、もし分子系統解析のデータなどが存在しているのならば、カナドとホウボウがどのくらい近い(あるいは遠い)位置にあるのか是非確かめたいものである。



日本産のカナガシラ属の魚は11種類が知られているが、各魚種の表徴形質(要するに見分けるためのポイント)が少々分かりにくいため、筆者のような素人レベルでこれらの魚種を見分けるのはなかなか難しいというのが実際のところ。その中にあって、カナドは背鰭第2棘が著しく長くなる(写真下段左)ため、外見からも比較的見分けやすい種である(ただしこの棘は網に引っ掛かるなどして折れている場合もあるので注意)。また尾鰭に2本(および尾柄部に1本)ある明瞭な赤色帯(写真下右)は店頭でトレイなどに盛られた状態でも判別しやすく、その上で第1背鰭後方に赤色円斑がない(写真下段左)こともカナドを見分ける時の参考となる。カナドの胸鰭内面の模様を『日本産魚類検索』からそのまま引用すると「下方に、虫食い状青色斑を含む1大黒斑があり、中央部は黄緑色、縁辺は淡い赤褐色」(写真下左)。ちなみに胸鰭内面の模様がカナドのものと比較的良く似たオニカナガシラでは、その縁辺が淡灰色〜青色となることで区別できる。

写真撮影時は『日本産魚類検索 第2版』の同定の鍵(『第3版』も同一)を辿り、1)第2背鰭は8棘15軟条で、基底には小棘のある骨質板がある、2)頬部に顕著な隆起線はない(写真中段左)、3)吻棘は顕著で、基底部は前に突出する(写真中段右)、4)吻背面は少々くぼむ(写真中段左)、5)側線有孔鱗数は60(明らかに70以上はない)、6)胸鰭は普通で、その後端は第2背鰭中央下に達しない、7)吻棘は多くの小棘からなる(写真中段右)、8)胸鰭遊離軟条先端(写真下段右の青線)は、腹鰭先端(同赤線)から眼径の1/2以内に達する(ように見える)、9)背鰭第2棘は第1棘より著しく長い(写真下段左)などの形質からカナドであると判断。

2012年12月に三河一色さかな村にある「カネ長鮮魚店」で購入したもの(ほぼ同サイズのカナドが12匹盛られて450円)。今回は見るからに新鮮な個体であったので刺身と唐揚げに。刺身にすると、もっちりとした歯ごたえ。ホウボウほどではないが甘み旨味がある。また唐揚げにすると、身質も良く旨味もある。どちらの料理法でも美味。

379: タカハヤ

コイ目コイ科ウグイ亜科ヒメハヤ属
学名:Phoxinus oxycephalus jouyi (Jordan and Snyder)【注】
英名:Upstream fatminnow [原], Southern fat minnow(FishBase英名表記なし)

標準和名アブラハヤと区別されずに「あぶらはや」と呼ばれることが多いと思われる(その他の地方名としては、あぶらめ、うき、くそむつ、どろばえ、もつご等)。今回紹介するのは、長野県下伊那郡を流れる阿知川で釣獲された全長約15cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。中烏口骨付き。写真左の標本は、烏口骨の『嘴』部(「魚のサカナ」の『尾』に相当)の先端が少々欠損している。

写真上の右側の標本を両側から観察したもの。「高鮠のタカハヤ」の形状は、全体的に横方向にスラッと長く、烏口骨の『嘴』部の先端が鋭角的になっていることから、これまで紹介してきたコイ目の「魚のサカナ」の中では、オイカワウグイホンモロコなどのものと比較的似た印象を与えるもの。ただしタカハヤの「魚のサカナ」の中烏口骨は、他のものとは大きく異なる形状で、丁度リボンが棚引いているかのように大きく波打っている(写真左)。烏口骨の上方突起部(『背鰭』に相当)はあまり高くなく、比較的大きめの孔が1〜2個開いている。



写真撮影時は『日本産魚類検索 第2版』のコイ科の検索キー(『第3版』も同一)を辿り、1)背鰭の最長鰭条に鋸歯縁がない(写真下段左)、2)臀鰭起部は背鰭基底後端より後にある(前にはない/写真下右)、3)眼の上縁は吻端よりも上(写真中段左)、4)口に髭はない(写真中段左)、5)腹縁は丸い(ように見える)、6)生時、眼の上縁は銀白色(と思われる/写真中段右)、7)臀鰭の分枝軟条数は6(写真下段右)、8)口は吻端にある(写真中段左)、9)胸鰭は垂直位、10)背鰭と尾鰭に顕著な斑紋がない(写真下段左および写真下左)、11)口は著しく小さくなく上向きではない(写真中段左)、12)側線は完全で尾柄部まで達する(写真下左)、13)鱗は小さく(写真下左右)、側線鱗数は72(ほど)、14)臀鰭起部は背鰭基底後端とほぼ同位置(写真下右)、15)上顎の先端は吻端より後ろ(写真中段左)、16)喉部は角張らずになめらか(写真中段左)、17)尾柄高(1.2cm)は高く、頭長(2.4cm)の50%、18)側線上方の横列鱗数は16、19)体側の縦帯は不明瞭(写真下右)、20)側線より下の体側の暗色斑点は明瞭(写真下右)、21)尾鰭基底中央に暗色斑がない(小さな暗色斑があるようには見えるが/写真下左)、22)尾鰭後縁の切り込みは浅い(写真下左)などの形質からタカハヤであると判断。写真では眼球が白く映っているが、これは冷凍されていた個体を半解凍状態で撮影しているため。

雰囲気の似たヤチウグイとは形質15および16と生息地(ヤチウグイは北海道やサハリンで生息するのに対し、タカハヤの生息地は本州の静岡県福井県以西)で、アブラハヤ/ヤマナカハヤとは、形質17から22(アブラハヤ/ヤマナカハヤでは、尾柄高が低く頭長の48%以下、側線上方横列鱗数が20以上、体側の縦帯は明瞭、側線より下の体側の暗色斑点は不明瞭、尾鰭基底中央に暗色斑がある、尾鰭後縁の切り込みはやや深い。またアブラハヤ/ヤマナカハヤは、尾柄高が頭長のそれぞれ40%以上/38%以下であること、山中湖と本栖湖に分布しない/分布することで見分けられるとのこと)。

筆者の父親が2012年夏〜初秋(正確な日時は不明)に長野県下伊那郡の阿知川で釣り、「魚のサカナ」摘出用にと冷凍保存しておいてくれたもの。今回は標本を摘出しただけで味見はしなかったが、ネット上の意見では「不味」というのが大多数(『原色甲殻類検索図鑑』でも不味と明記)。ただし「意外に美味い」などの意見も散見されるので、将来的に新鮮な個体がまとまって手に入ったら色々な料理を試してみるつもりである(まあタカハヤが市場流通するとは思えないので自分で釣るしかなさそうだが)。

【注】FishBaseでは、学名をPhoxinus jouyi (Jordan and Snyder)として『種』扱い。

378: ヒメスミクイウオ

スズキ目スズキ亜目ホタルジャコ科スミクイウオ属
学名:Synagrops philippinensis (Günther)
英名:Sharptooth seabass, Splitfin(『原色』に英名表記なし)

愛知県蒲郡市西浦産の全長約10.5cmの個体から摘出した「魚のサカナ」の標本。「姫墨食魚のヒメスミクイウオ」は、肩甲骨と烏口骨本体の上縁が両者の接合部を中心に上方に盛り上がるなど、これまでに紹介してきたホタルジャコ科の「魚のサカナ」と形状の特徴を共有していることが一見して分かるもの。それらの中ではアカムツ(特に新潟産の個体からの標本)のものに最も良く似ているように思われるが、「姫墨食魚のヒメスミクイウオ」のものでは、1)肩甲骨孔の上方に小孔が存在する、2)烏口骨の上方突起(『背鰭』)部が槍のように尖る、3)烏口骨の『嘴』部分がより下方に向かうので、左右方向が多少寸詰まりに見えるなどの相違点を挙げることが可能。

ヒメスミクイウオの耳石は魚体や「魚のサカナ」のサイズに比して大きい(ホタルジャコ科魚種の特徴かもしれない/要確認)。



『日本産魚類検索 第2版』の検索キー(『第3版』でも変更なし)を辿り、1)臀鰭棘は2本(写真下段右/針の左側の2棘だが、第1棘は非常に短い)、2)腹鰭棘の前縁は鋸歯状(写真中段右の赤矢印)、3)第1背鰭(写真下段左の青矢印)と臀鰭(写真下段右の青矢印)の第2棘の前縁はなめらかなどの形質からヒメスミクイウオであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、4)眼は大きく、眼径は吻長、眼隔域長より長い(写真中段右)、5)口が大きい(写真下左)、6)上顎に絨毛状歯、両顎に犬歯があり(写真下左)、口蓋骨と前鋤骨にも歯がある、7)前鰓蓋骨の後下縁は突出し鋸歯状(写真下右の赤四角)、8)第2背鰭と臀鰭はほぼ相対する、9)尾鰭は2叉などの形質も確認した。

2012年12月に愛知県蒲郡市にある西浦鮮魚マーケット組合の○河・河井商店で入手。前エントリーの「ヒメ」の山に1匹だけ紛れ込んでいたものだが、ヒメだけを袋に入れてくれた店員さんが「これは要らないよね?」と捨てそうになり、「いやいやいやいや要ります!」と慌てて静止して手に入れることが出来たもの。今回は「魚のサカナ」を摘出しただけで終わってしまったため、味の確認は出来ていない(次の機会には是非とも)。