〜彼方からの閃光〜#21

 渡邉は戦闘小康状態と判断して<伊吹>の幹部士官を艦長次室に集合させた。テーブルの海図を取り囲んだ生き残った面々、その誰もが20時間以上の戦闘航海の疲労をさすがに隠せずにいたが、それでも共に団結していると言う一体感から彼らの目だけは生き生きと光っているのだった。伊吹もそこに連れてこられ、片隅に立っている。
「悲報があるのでそれから。まず、柳田参謀長が殉職された。2035最後部作業甲板で他の戦死者と共に水葬を行う。」
 渡邉は簡単にそう言った。柳田についてそれ以上を説明することはなかった。次ぎに彼は戦況の整理説明を航海長に求めた。
「本戦隊は現在伊平野島北西22km沖合を毎時十八ノットで航行しています。駆逐艦<新月>からの報告によれば敵水上部隊との交戦後、遊離した追跡艦隊は高速で追いすがってきており1時間ほどで追いついて敵重巡の8吋砲ならその最大射程範囲に捕らえられると予想されます。」
 だれもが彼等は交戦して来るだろうかと想像をめぐらせた。
「敵艦隊は恐らく直ぐには攻撃してこないと思う。」
 場の雰囲気を察して渡邉はなんとなくそれは無いような気がすることをほのめかした。那須少佐が食いついた。
「なぜそう思われるのかな?」
渡邉はその理由として彼らは電探を装備した高速戦艦とむやみ戦闘することを好まないだろうと言った。そう、彼らは<伊吹>の命綱である電探が失われていることを知らないはずだ。
「今彼らは我々を水上部隊でやんわり圧迫して居るだけだと思う。交戦するなら戦艦が本命なはずだ。」
「痛いのは今その戦艦部隊が不明であることです。恐らく追跡部隊の後方であると素直に読んでいます。」
 脇田の意見にうなずいて渡邉は更に説明を求めた。
「第二艦隊はもう沖縄本島に100kmと離れていないところにきているはずだ。航海長、どうだろう。」
 話をそう振られると脇田が海図台に身を乗り出した。既に様々なラインが書かれている海図の上でしゅしゅっと鉛筆を走らせて新しいラインを記入した。
「粟国島北沖50kmくらいに居ると想定されます。われわれは今この位置です。双方は艦隊中心で約50km離れていると考えられます。」
那須少佐がずり下がってくる目の上の包帯を上に引っ張り上げながら疑問を投げた。
「今後、敵はどう出てくるだろう。」
そして疑問の内容を続けた。
「いま一つわからないが、慶良間島及び本島の飛行場は連合軍の手に落ちて既に数日過ぎている。当然、ここには大型航空機をはじめ多くの航空機があるはずだが、これがどうなっているのか。味方の三十二軍がなにか仕掛けて飛行場をつぶしたのか、あるいは補給の問題でもあるのか。」
「機動部隊の艦載機は?もう手を出してこないのか?」
角谷が畳みかけて質問した。
「敵機動部隊は低気圧の影響を受けない沖縄本島東の海上から航空機を飛ばしてきたと思われる。
 沖縄攻撃に参加の全規模は台湾陸軍偵察機による観測で大型空母8隻 中型8隻 貨物船改造空母11隻と言う大規模なものだ。このうち貨物船改造空母は艦隊補給及び上陸部隊輸送関係だと考えられるから 実質は大型8隻の中型8隻分が艦載機の数だろう。昨日までの神風特攻隊による損害は自分が分かる範囲で言えば大型1ないし2.中型四ないし五隻が損害を受けていると聞いている。上陸部隊援護も必要だろうから我々を攻撃するために出撃していた奴らは、七割の数くらいかと思う。あくまで推論だが、概ね千機前後がその能力かと思う。実際、我々が今日一日で相手した航空機は記録できているだけでも千機弱だ。ということは、攻撃してきた一群はほぼ無力化していると考えて良いだろう。事実、既に直接的な航空攻撃は第二艦隊も我々の戦隊も受けていないのが証拠だ。ただ、我々を攻撃するのに残りの新たな空母群を繰り出してきている可能性は高い。それはほぼ間違いなく慶良間島の南に居ると思う。」
「陸上航空機は?」
「昼間に彼らが本来の敵である沖縄守備兵との戦いを放っておいて、我々の攻撃に加わることはあまり考えられないのではないかと。まして今日のような悪天候で沖縄本島は飛行場使用がままならなかったのでは。または敵機動部隊も応援を敢えて頼まなかったと言うことも考えられる。敵も味方も速やかに情報を共有しそれを意思統一して急激な作戦行動を取れるかどうかと思い返してみて欲しい。増しては自信満々な作戦行動でだ。」
 面々は各々うなずいた。渡邉は十分な自信を持って話を続けた。
「聞くところによれば今は夜間攻撃を艦載機は電探と無電で躊躇無く行うらしい。しかし攻撃を仕掛けてこないのはなぜか?」
 渡邉は海図台から身を引いて天井の照明を見た。そして再び顔を傾げて海図台に視線を戻し言葉をつないだ。
「我々の無電はすでに傍受されていて久しい。奴らは既に今夜半に本土からの特攻機が来ることを察知しているに違いない。我々はまだ運が付いているのだ。心理的には勝っているのかも知れない。緒戦の航空機全滅の報は敵司令部に強烈な心理的敗北感を与えたに違いない。それが証拠に彼らは最後の航空攻撃から我々を同じ手で脅かそうとはしないではないか。先ほど海上攻撃力で首尾良く二隻の戦艦をつぶしたことを満足に思っているのだ。今彼らは我々を水上部隊でやんわり圧迫してきた。これは狩りの猟犬なのだ。しかし、雷撃が効かなかったことを彼らは又恐怖し忘れていないだろう。何度も同じ手を繰り返して、戦力の逐次投入の愚を犯すとは思えない。」
 話をしながら渡邉はだんだん自信がついてきた。そうだ。我々はまさに追われる兎。
「恐らく宣野湾沖合には機雷原が広がっている。そして背後から重巡部隊が我々を襲うだろう。機動部隊に呼号して沖縄本島と言わず周辺の島から航空機も出てくる。最後は戦艦部隊だ。」
 脳裏に機雷原に捕まった<伊吹>とそれを矢継ぎ早に襲う航空機、そして留めに現れる水上部隊の砲撃とその水柱の中に爆沈してゆく姿を思い浮かべた。
「連合軍は時間的にも物量的にも余裕なのだ。謎の多い人知外な不可思議な戦艦とは言えど合理的に追いつめることで何も焦らずとも飛んで火にいる夏の虫はなぶり殺し出来る。そういうことを思って居るんじゃないかな。」
一同は沈黙した。そして一斉にテーブルの片隅にいる一人の少女に視線を投げた。押し黙ったまま、伊吹は集まる視線を敢えて無視するかのように眉を顰めてテーブルの上の海図を見つめている。
「第二艦隊は、<大和>はどうなのか?」
檜村機関長が不満げに言い放った。
「同じ末路でしょう。あるいは我々より早く夜間攻撃を受けるかも知れません。なんといってもあちらには対空火力が不足しているし、ここにいる藤原准尉のような奇跡の力もありません。航空攻撃には所詮戦艦は無力です。ここまでは我々が上手く囮となって敵機を引きつけることに成功しました。どんなに正確な情報でも遠く離れて顔が見えないところでは現場判断が勝ります。緒戦で敵航空部隊は現実にあり得ない全滅をしたために正常な判断を出来ずその後も我々を何とかしようとあの手この手と攻撃を行ったために奇跡的に第二艦隊に被害が及ばなかったと考えます。」
「副長、第二艦隊から電信です。」
 伝令が電報を持って現れた。
「おお、来たか!読んでくれ。」
「”第八護衛戦隊司令宛 本日4月16日24時本艦隊は宣野湾突入す 貴戦隊はHJを護衛しつつ嘉手納及び首里に於ける敵上陸部隊航空機及び空母艦載機から防空援護を行うべし 天佑を祈る 第二艦隊司令伊藤整一”以上」
しばらく沈黙があった後、まず今井が口を開いた。
「個人的疑問ですが、無線封鎖を破って本隊が通信をしてきたことは沖縄本島守備軍にも伝わっていることになりますのに、なぜ今更識別暗号を使うのでしょう。」
”HJ”は<氷川丸>の識別暗号だった。
 渡邉はじっと今井の顔を見ていたが、視線を海図に落としなおしてつぶやくように返した。
「通信長代、その件だが。」
「あ、いえ、すみません、あくまで個人的疑問ですので聞き流してください。」
「いやいや、そうではなくて、そろそろある程度諸君にもこれからの計画を伝える必要があるかと思って居るんだ。」
渡邉は再び顔を上げて海図台に居並ぶ幹部の顔を一人一人見すえた。
「実は<氷川丸>は連合軍との休戦調停をする特使を乗せているんだ。我等の目的は彼を無事連合軍首脳部へ送り込むことなのだ。」
 森下ならどの時点どのように明かしたであろうか、言葉を続けようとする渡邉は内心全てを明かしたい気持ちを抑えつけるのに苦労した。
「第二艦隊はとにかく座礁覚悟で那覇港を目指すだろう。十八吋砲の砲火を脅かしに我々は<氷川丸>を宣野湾に突入させる。ただこの事情は沖縄守備軍には伝わっていない。もちろん大本営自体も知らない。」
「なぜですか?」
「<氷川丸>に特使が乗っていて休戦調停をするために激戦の沖縄に向かったことは、この現場では伊藤長官と森下艦長だけに明かされた極秘事項なのだ。これは米内光政海軍大臣による直接命令電令作によるということまでを明かすが、これ以上は聞かないで欲しい。絶対他言は無用。各位心得て頂きたい。」
 最後を聞いて座は凍りついたように沈黙に覆われた。一体何が起こっているのか?休戦とは?特使とは?
 そのような陸軍海軍ともに出し抜くこの計画は、今の帝國の政権をひっくり返すほどの内容であり、心情的には敵味方ともに今までの大きな犠牲とそしてこれからの大きな犠牲を天秤に掛けるような話であった。今ここで休戦を計ろうとすればどう考えても帝國に分があるとは思えない。負けを認めるのかあるいは上手く五分五分に持ち込むのか。開戦に以来、帝國政府は国家全体で徹底抗戦を呼びかけた。そして敗戦濃厚となった今も本土決戦で絶滅するまで戦争続行を行う方向へ傾いている。仮にここで休戦調停をすること自体、にわかに信じがたいことであった。それはあり得る内容ではないし、国民が帝國社会があっさり認めて受け入れられる内容ではないのだ。
 しかし、渡邉の目は真実を訴えていた。その顔を見て各員は様々なこの戦争大局への思いを胸に巡らした。
 この戦争は泥沼化してこのかた、全国民は、相次ぐ敗退を良く認識できずに戦況の酷いことを知らずいつか勝てると思いこんでいる。食べるものを我慢し笑うことを忘れ、着るものも遊ぶことも祝うことももなにもかも切りつめお国のためにと我慢をする生活をしている。しかしその大多数が良く理解していない。敵は強大な財力と工業力・技術力でゆうに帝國陸海軍を圧倒し、海戦当時の勝利はもはや過去のことだった。今戦いの趨勢は帝國の敗北へと傾いている。それでも「往くぞ一億火の玉だ!」と竹槍突き立てて勝利を信じている民衆。にもかかわらず迎撃機も及ばない、高射砲も届かない、遥か成層圏から大型戦略爆撃機の絨毯爆撃に逃げまどい、焼夷弾に焼かれて惨たらしく死ぬ民衆。 第二艦隊の出撃も始まりでは「海軍の最後を飾って一億総決戦の先駆けになる」というスローガンのもと計画されたもので単なる水上特攻だった。硫黄島に続いて沖縄は陥落寸前である。そんなところへ制空権も奪われた水上艦隊に何が出来るというのか。もはや狂気と言わずしてなんと言うべき愚行というのも易い。しかし、それでも敗北は帝國の誇りの上で認められるものではないのだった。
 そんな中のこの水上特攻、もちろん計画時点では第八護衛戦隊の参加は無かった。彼らは単独突入し航空特攻隊と共に沖縄で死の戦闘航海をするはずだったのだ。しかし、突然未完成の大型対空巡洋艦が竣工日繰り上げて完成を急がされて、なにかに突き進められように本作戦に追加されたのだった。その理由がなんとなくその場の者は感じることが出来た。
 渡邉は誰にも気づかれないように息を整えて話を続けた。
「本艦は特に大きな攻撃がない前提で2200沖縄本島残波岬沖15kmに占位、ここから敵上陸部隊に向けて艦砲射撃で威嚇。これはあくまで威嚇だ。そして一時間後2300を目安に<氷川丸>突入を防空及び水上攻撃から護衛。突入成功の暁には 何事もなく内地に帰る。万が一、どこかで失敗したら我々も艦砲射撃で宣野湾に突入し撃てるだけの弾を撃つ、それでジエンドだ。各員皇国の興廃この一戦にアリだ、心して戦に備えてくれ。以上。解散!」
渡邉はニヤリと最後に含み笑いで凄みぎょろりと強い眼差しで全員の目を射抜いた。全員がばっと敬礼し、その目に応えた。そうさ、やれるだけやってやる。だれもがそう胸に誓った。
幕僚が部屋を出て行く中、渡邉は今井と伊吹を呼び止めた。
「今井大尉。どうだろうか。藤原准尉とともに再び弾道管制所に入ってくれないだろうか?」
二人は顔を見合わせた。伊吹は瞬時に目線を床に落とした。
「副長。精神感応増幅装置は故障しています。」
「では直せばよいだろう。」
「それは。時間が。」
「どのくらいひつようなんだ?」
「いえ、ああ。」
今井は口ごもってしまい、もごもごとなにごとか言い訳をつくろうとあえいだ。
「森下艦長が何をどうされたのか俺は知らん。那須少佐がおかしな事を言っていたが、良く理解できていない。高柳発令所長はなぜ予備注排水指揮所で角谷内務長にこき使われて居るんだ?」
「つまりその。」
「俺が聞きたいのは弾道管制室は使えるのか使えないのかだ?どうなんだ。」
「修理すれば。」
「では直ちに修理しろ。これは命令。」
渡邉は胸を張ってドアの外に向かって指さした。
「副長、申し訳ありません。私のせいです。私が人殺しをもう嫌だと言ったから、今井大尉も艦長も私をかばって弾道管制所を閉めてしまったのです。」
「説明を簡潔に求めたい。」
「分かりました。私が事情を説明いたします。」
もはやこれまでと今井が割って入った。そして、樺太からの経緯、伊吹の精神状態、常人には理解しがたい厳しい戦闘、更にそれを乗り越えるための伊吹への暗示と特B剤、それを強制的に利用しようして更迭された元上司の高柳、その後森下の理解の元弾道管制所を封印したことなどを要約して説明した。
「なるほど。」
渡邉は一通りの説明を聞き終えると腕組みをして顔をしかめて目をつむり思案した。
「事情は大体把握した。しかしだ。先ほど参加してもらったこれからの作戦行動で君らはよりよい方法はどうだと思うのか?」
目を見開いて二人を見据えた渡邉の真剣な表情を見て、まず伊吹が観念したように言った。
「私はもう大丈夫です。あのような大切な計画がお国の民の為により良い方法なのだと言うこと。」
「ほほう、君は自分の意志決定を人のせいにするのか?」
今井はぎょとした。副長は何を言いたいのか?そんなことを言ったら伊吹は副長の思うように動かないかも知れない。しかし伊吹が即答した。
「私がここで働くのは、あの<氷川丸>が、特使が沖縄上陸部隊と話し合いにゆくことを無事に進めるためであって、それはひいてはお国のために、民衆のためになるからではないんですか?」
伊吹が珍しく怒りをあらわにこめかみに筋を立てている。よほど、渡邉に「お国のために」の部分をくさされたことが不満のようだ。
「准尉。君は戦って人を殺めたことに罪を感じているから、それを理由に戦闘を放棄したんだよな。」
まるであの高柳少佐と同じようなことを副長は言っている。伊吹は怒りの気持ちがふくれあがってきた。
「そして森下艦長はそれをお認めになった。しかし、君はその艦長が倒れたことに触れて、まさに撃沈寸前だったところで魚雷を追い払った。」
渡邉は海図が片づけられたテーブルの向こうに行き椅子に座って、肘をついて両手を組む格好で伊吹と今井を見据えた。
「君はあの魚雷をなぜ追い払う気持ちになったんだ?」
どきりと伊吹の心臓が大きく揺れた。
「救いたかったのか褒められたかったのか??艦を守りたかったのか?みんなを助けたかったのか? いや、代わりに俺が答えよう。君は根本が間違っている。民衆であれ敵の兵隊であれ味方の将兵であれ他人の為になにかを”する”あるいは”やめる”という考えは結局自分を全ての人間よりも自分を高みに置く考えだ。それは自分が授かった生命を自分の判断のもとで運命を切り開いていることになるのだろうか?違うだろう。君の運命は、君自身の正義と勇気で切り開くものだ。戦争とはいうまでもなく敵味方ともに各々大儀と名分がある。それはどちらが正解というものではない。しかしご覧の通り、戦争はそんなことは要求していないのだ。ただ、ヤラネバヤラレル。やられれば終わりだ。死んだら君にとって宇宙は無いと考えたこと無いかな。」
がたりと大きな音を立てて渡邉は立ち上がり伊吹へ優しく微笑みかけた。
「君はただ生きるためにその全てを捧げればよいではないか。全ての判断において君こそが中心なのだ。悲しみも涙もそれは飾りだ。戦争は終わる。負けようが勝とうが。結論は負けても勝っても深い悔恨をお互いに残す。それを嫌だと想うのは普通だし避けるために知恵と努力は必要さ。しかし、今、命のやりとりをすると言う時はそれは忘れよう。大義名分の為に命を賭すのはやめよう。沖野艦長の<満月>がなぜ身を挺して最後を遂げたのか、君は理解して欲しい。彼は死のうとそこへ向かったんではない。彼は自分の判断でその自己犠牲が自分の意志を永久に生きるものに出来ると考えていたと想う。でなければ乗組員三百名を道連れに突撃できるわけがない。そういう彼と乗組員たちは共に果てて本望であったろうと俺は思う。でなければ、浮かばれない・・・・・浮かばれないんだ・・・・」
最後のほうはかすれた声だった。渡邉はうなだれて制帽の下で目が隠れたものの、なにか光るものが見えた。
「副長。」
伊吹は態度を和らげて声を掛けた。
「すまん。ちょっと言い過ぎた。」
「いえ、目が覚めました。私は良い子を演じたかっただけなのかもしれません。大丈夫です。もう、迷いません。私は私の命を守るために、そして私の命を見守ってくれる沢山の人たちのために頑張ろうと想います。ありがとうございました、副長。」
伊吹は最敬礼をした。澄んだ瞳をまっすぐに渡邉の顔を見た。しかし、渡邉は顔を上げずにわかったわかったと言った。
「理解してくれれば俺はいいんだ。直ぐ行きたまえ!弾道管制所へ。今井大尉、准尉を、よろしくたのむ。」
「了解しました。これより弾道管制所へ戻り復旧に努めます。」
ばっと今井も敬礼し、伊吹と顔を見合わせた。副長は手をひらひらと往けと合図したが、彼らが出て行ってもしばらく顔を上げることはなかった。