幸福のアリバイ〜Picture〜 感想

映画「幸福のアリバイ〜Picture〜」を観ました。
11月20日横浜ブルク13にて。

写真を題材にしたオムニバス。
笑いの泣きのバランスがとても良かったのですが、5本目だけはいわゆる共感性羞恥が苦手な人にはキツイかもしれません。


1.葬式

とある人物のお通夜にて。
遺族が揉めている中、参列者である2人の男性の会話から、あれよあれよと話が転がっていきます。
隠す部分とネタばらしする部分とのメリハリが巧みというか、わかってみるとあの会話はそういうことだったのか、という納得感が心地よい感じ。
ダメよダメダメの瞬発力の強さを改めて思い知ると同時に、あのネタを「知らない」人が居るということに、あの場の重さだったり、話題の流行り廃りの周期の短さを感じたりと、含蓄の深い場面でした。


2.見合い

同棲している男女のうち女性のほうに父親から手紙が届いて、開けてみたらお見合い写真でした、というところからスタート。
同棲して3年くらいになるらしく、親しき中の礼儀もすっかり失われているところに降って湧いたような玉の輿話に揺れる女心。
男女間の気持ちのすれ違いが次第に浮き彫りになっていきます。

一方で、写真家を目指しているもののアシスタントのアシスタントみたいな立場でぐずついていて自信を失いかけている女性に対して、男性は「お前には才能がある」とか「俺はお前を信じてる」とか励ましの言葉を掛けます。
口からでまかせの空虚な言葉であるかのようにも思えますが、気持ちが弱っている人に対して適切な場面であれば案外効果がある言葉でもあるかもしれません。
そういう言葉を掛けてくれる人が近くに居てくれたらいいのになあ、と思わないこともないですが、どんなに良い言葉であろうとも普段の生活姿がアレだと好感度アップにも限界があるのかもしれません。

木南晴夏さん、おもしろい役者さんです。


3.成人式

成人式を迎える息子とその両親のお話。
荒れる成人式」の話題をテレビのニュースで見かけることがありますが、息子さんはまさにあんな感じの格好で出掛けようとしている、そんな朝。
不意に、父親と息子の会話が始まります。

父親役は中井貴一さん。
『グッドモーニングショー』でもわりとゆるい感じの父親役でしたが、こちらは更にゆるさに磨きがかかっています。

息子さんの気持ちがわかっているのかホントにわかってないのか、内面には想像が及びませんが、表面上はすっとぼけたようなことを言いながらも、息子さんを諫めるでも咎めるでもなく、ただ父親なりに対話しようと試みているらしい不器用さも感じます。
同時に、息子さんも父親の問いに反発しながらもまっすぐ答えようとしていて、あんな見た目でも立派に育ったんだなあと、他人様の子でありながらも謎の感慨に浸れます。

昔の写真と重ねる発想もお見事。
(ただ、曲解すると息子さんが成長してないようにも見えてしまうかも)


4.出産

男手ひとつで育ててきた愛娘が婚前妊娠して間もなく出産という時期、娘さんが入院している病院へと車で向かう娘婿(予定)と義父(予定)のお話。

義父役は柳葉敏郎さん。
あの眉間にシワを寄せたイメージそのまんまな堅物で気難しいお父さん。
愛する一人娘を奪った娘婿に対する嫌悪感を露骨に見せつけます。

一方、娘婿さんのほうはシルバーアクセサリーをゴテゴテつけてたり骸骨系の小物を車内に飾ってる感じの人ではありますが、お義父さんに対しては「すみませんすみません」と口に出てしまうような低姿勢。
それがまたお義父さんを苛立たせているようでもあります。

ぼく自身には今のところ縁がありませんが、もしも結婚したいと思える相手ができたとして、相手のご両親にご挨拶することになったらと考えるだけで緊張して手に汗がにじむくらいの小心者なので、このシチュエーションはなかなか圧迫感がありました。

基本的にはお義父さんの娘自慢や愚痴を聞かされるわけですが、お義父さんなりの不器用な愛情が、温かいです。

一方で、娘婿さんの反論もけっこうクリティカルなところに刺さったらしく、なんとなく夕日の河辺で殴り合ったみたいな感覚だったのかもしれません。


5.結婚式

とある結婚披露宴。
「2.見合い」にも出てきた男性が新郎の友人役として参加していて、同じく女性のほうも撮影係のお仕事で来ていて、偶然ばったり遭遇します。
そこから、新郎新婦の友人たちを巻き込んだすったもんだ。
ダンスや演奏もあって賑やかです。
出演者が多いのでもしかしたら他の短編の登場人物も出てるのかなと思いましたが、ぼくには見つけられませんでした。



ある意味では山崎樹範さんの一人芝居のような状態で、周囲の反応がまったく目に入っていなくて単に調子に乗っただけのイタイ人でしかなく、いわゆる「共感性羞恥」というのはこういうものなのではないかしら、と思いました。

とにかく見ているのがつらくて。
痛々しいとか居たたまれないとかかわいそうとか、言葉に迷いますが、やはり「恥ずかしい」が適切なような気がします。

身の程をわきまえずに騒ぎ立てて、見ず知らずの人に絡んで。

ダメ押しに、卒業アルバムの写真がフラッシュバックするわけですが、それらの写真もまあひどいこと。
あれが対等な力関係で笑い飛ばして済むような間柄だったらまだよかったのでしょうけれども、あれはおそらくヒエラルキーの高低差の産物のような気がします。

とはいえ、あんな境遇を経てもなお卑屈になることなく強かに生き抜いていて、一時的とはいえ女性と同棲できていたのはすごいと思います。

今風の言葉で言うところの「陰キャ」みたいになっていても不思議ではなさそうなものですけれども、根が明るい人というのは何が違うのかしら。


そんなわけで、少し長めのシチュエーションコント集みたいな作品だと思います。

全体的に楽しく笑えてホロリと泣けて、上質な作品だと思います。

ただ、残念ながら5本目だけはちょっとぼくには合いませんでした。