地に足を着けたい

13/04/09(火)

[]「"楽しい空間" is 楽しい」 『ゆゆ式』の魅力について

ゆゆ式 (1) (まんがタイムKRコミックス)

ゆゆ式 (1) (まんがタイムKRコミックス)


 三上小又『ゆゆ式』は、まんがタイムきららで連載中の作品で、『けいおん!』のようないわゆる「萌え4コマ」に分類される。

 萌え4コマに対しては「起承転結がなってない」「会話の中身がない」といった、従来の単発ネタ4コマ観からくる紋切り型の文句がいまなお散見される。だが、ちょっと考えてみてほしい。我々は何を求めてマンガを読むのか? ひとつは「情動」だ。「楽しいと感じる心の動き」だ。そして、『ゆゆ式』は眺めていて楽しい雰囲気を描くことに長けている。


楽しい掛け合いをねらう3人

 とは言ってみたものの。『ゆゆ式』はキャラクターたちが「ネタ」に対してかなり意識的なマンガでもある。


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(三上小又『ゆゆ式』2巻 p.2)


 メインの登場人物は3名。(画像左から)

  • 野々原ゆずこ:ボケA(能動型)。割とかしこい。
  • 日向縁:ボケB(天然型)。お金持ち。
  • 櫟井唯:ツッコミ。お金にうるさい。

 ゆずこが積極的に話題を振り、唯がツッコみ、縁の発想がズレがち。

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(同 2巻 p.17)


 ネタ意識の例。高い食べ物を言う→「知るかっ!!」というやりとりをくり返す中、ゆずこが何の関係もないミイラ博の話を振って流れがストップ。

 唯:「何個か高い物言ってからそうでもないもの言うんじゃないのか?」

 ゆずこ:「いやほら もうバレてるじゃん」

 といった具合に、ベタなパターンを外そうとするねらいがあることも含めてしゃべる(そして後で「知るかっ!!」をもう一度誘うボケをくりだす)。面白い掛け合いをしようという積極性は演者に近い。


 演者という言葉を使ったのは、観客の役割を縁が担うことが多いから。

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(同 3巻 p.95)


 画面端に笑っている縁がいるだけで、場の雰囲気が楽しいことが雄弁に伝わる。


ディスコミュニケーションの妙

 3人の会話のノリは独特で(作中でも「やっぱ変わってんな」と言われている)、ただコンテクストが判れば――当の3人および関係性を理解している読者にとっては――通じるし楽しい。

 一方で時折描かれる「伝わらない」場面がとても光っている。


 ゆずこに「仮に私が急に死んだらどーよ?」と言われ、唯は車に跳ねられる様をイメージする。(それから死ぬ死なないの話が色々と出た後に)縁の「じゃあ私たち/ずっと一緒だったら不死身だね」という台詞に唯が「トラックにひかれても安心だな」と返すと2人は「へ?」。

 夜、ゆずこが「しりとりしようぜ? の、ぜ」とメールを縁に送るが入浴中で返信なし。翌日、突然思い出した縁が「ゆずちゃん! ゼブラゼブラ!」と言い出すも急すぎて何のことか通じずあしらわれる。下校時、やっと気付いたゆずこが「縁ちゃんゴメン! 忘れてた/ラ ランチョンマット!」と答えるがまた通じない。


 こういったディスコミュニケーションの面白さも見所なんだが、果たして伝えられているかどうか……。


唯ちゃん可愛い

 唯ちゃんが可愛いんですよ。いや、キャラクターの魅力も『ゆゆ式』を語る上では外せないのでね……。

 基本的にキツい表情・乱暴な言葉でツッコミ役を担いつつ、イジられキャラでもあって戸惑った表情がとても良いですね。下ネタに対する赤面もとてもおいしい。

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(同 1巻 p.104)


 たまーにツボに入ったりして見せる、彼女が大爆笑してる時の幸せムードがまた格別なんです。


 テーマに沿った話をするならば。3人の楽しい空間は、外側から見ることでその特別さが際立つ。唯は「外部の視線」と密接に関係している。

 例えば、ゆずこと縁のノリに顧問の先生が戸惑っているのを一歩引いたところで眺めながら内心であれこれ思っている描写。

 途中から準レギュラー的に登場するようになるクラスメイトがいるのだけれど、初めにその面々と主に接するのは唯で、いつものノリとは違うおとなしい一面が見られる(3人でいる時は気兼ねせずに楽しさを満喫しているのが判る)。


ストーリー4コマだからこそ活きるコマ表現

 『ゆゆ式』はいわゆる「萌え4コマ」に分類されるとしたが、広義では「ストーリー4コマ」に相当する。『サザエさん』や『コボちゃん』のように4コマ1本で成立するのではなく、4コマ1区切りの連なりで構成されている。

 このフォーマットに適したテクニカルなコマ表現をいくつかピックアップして紹介したい。



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(同 2巻 p.85)

 左右はそれぞれ別個の4コマの1・2コマ目だが、「やる気ビーム!!」の声で時間が共有されていることが判る。1ページに2本の4コマが並ぶため、レイアウトの上でも「空間の共有」と「並列」が表現されている。



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(同 3巻 p.54-55)

 右ページの相川・櫟井達の会話を見ていたキャラの存在が左ページで明かされている。見開き単位でのレイアウトで、左右のページをまたぐことにより外部からの視線であることが強調されている(視線を読者に意識させることが、次のコマの目隠しにつながっているとも解釈できる)。


 4巻 p.21 では、前振りのあったワードをあえて言わないまま終わっていく。そして次のページの1コマ目でためていた「パン人間かっ!!」という台詞が炸裂する。

 めくり効果(ページをめくって最初のコマで強い印象を与える)は基本的な手法だが、4コマという形式が次のページに直接つながっていること自体にインパクトを生じさせる。また、1コマ目に前段を受けた展開を持ってこられるのは、連続するストーリー4コマだからこそ。


アニメ放送開始

 今回珍しくそれらしい記事を書いたのは理由があって。『ゆゆ式』のアニメが始まって感想が飛び交う前に、自分の考えをある程度まとめておきたいなと。

 というわけで放送が始まる4月9日の〆切ギリギリで更新完了。各トピックについては気が向いたら掘り下げたい。

 最新5巻は4月26日発売。

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