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2009年01月09日

憲法について知ったかぶりをしている識者を見破る3つのポイント

| 14:11 | 憲法について知ったかぶりをしている識者を見破る3つのポイントを含むブックマーク 憲法について知ったかぶりをしている識者を見破る3つのポイントのブックマークコメント


1.憲法は国家が国民に対して権利を与えたり義務を課したりするためのものである。

2.憲法法律と同じ種類のものである。(憲法法律の偉いものである。)

3.私人間の問題に憲法を持ち出す。



いわゆる識者がテレビやブログ以上の3つのどれかひとつでも当てはまるような発言をしたりエントリーを書いたりすれば・・・ダウト!


その人は憲法を「実はよくわかっていないのに知ったかぶりをしている」と言い切っていいでしょう。

憲法のことがわかっている人は、少なくとも上に書いた3つにあてはまるような言動は絶対にしません。なぜなら、「憲法の理解」という点において、すべて致命的ともいえる間違いだからです。


それぞれについてなぜ誤りと言えるのか、簡単に説明してみますね。


1.憲法は国家が国民に対して権利を与えたり義務を課したりするためのものである。


これがなぜ間違いなのかは、先日のエントリーに書きました。

憲法は国民が国家に対してその国家権力を制限するために守らせるものであって、決して国家が国民に対して何かを守らせるためのものではありません。国家が国民に対して何かを守らせるというのは、法律がすることです。


2.憲法法律と同じ種類のものである。(憲法法律の偉いものである。)


これも先日のエントリーに書きました。

1.と内容が重なる点はありますが、よくある間違いなので特に取り上げました。

法律の名宛人は国民ですが、憲法の名宛人は国家であるという点で両者は全く異なるものです。


3.私人間の問題に憲法を持ち出す。


これもよくある間違いです。

この間違いがよく見られたのは、プリンスホテル日教組の会場の使用契約を直前で解約した事件のときです。


あの事件のとき、こんなことを言っている識者がいました。



プリンスホテル日教組表現の自由を侵害している」



即ダウトッッッッ!!!!!


人権というのは、国民が国家に対して守らせるものですから、人権が問題になる場面は国家が国民の人権を侵害しているとき「だけ」です。すなわち、公権力と私人との関係でのみ」憲法人権が問題になります。

プリンスホテルは私人。日教組も私人。

私人間で憲法人権が問題になることはあり得ません。*1

*2(ただし例外的に奴隷的拘束からの自由(憲法18条)・勤労の権利(憲法27条)・労働基本権(憲法28条)は私人間にも適用されます。)

だから、私人間の問題なのに憲法を持ち出すということは、それだけで憲法がわかっていないと言えるのです。


さて、プリンスホテルの事件は1年ほど前に起こったものです。

上記の憲法の基本を踏まえた上で、当時マスコミや識者がどんな反応をしていたか、少し振り返ってみましょう。

のうちのゆんたく部屋というブログで当時の社説の要約をまとめてくださっているので、そのうち朝日・毎日・読売社説をご紹介いたします。


・ホテルの姿勢は、なんとも許しがたい。批判されるべきは、大音量をまきちらし、我がもの顔で走り回る街宣車の無法ぶりだ。その影響があるからといって会場を貸さないのは本末転倒だ。右翼団体の思うつぼにはまることにもなる。(中略)法律に基づき裁判所が出した命令を無視するのでは、企業としても失格である。(中略)なぜ、これほどかたくなな態度を取るのか。ホテル側は右翼団体などからの圧力を否定するが、何かあったのではないかとつい勘ぐりたくもなる。(中略)こうしたことが続くと、憲法で保障された言論や集会の自由が危うくなる。(朝日社説)

・自由に集会し、自由に意見を交わす場が騒ぎと警備に囲まれ、会場確保のために裁判所の判断を仰がなければならないというのは、本来あってはならないことだ。しかし、集会や言論の自由という最低限の基本的権利はそれで守られる。それを越え、どうであれ会場(機会)は与えないという事態は到底看過できぬ権利侵害といわざるをえない。

 それが日教組の集会であれ、逆に反日教組の集会であれ、保障されるべきは同じである。今回の「全体会取りやめ」は今後、日教組にとどまらず、集会や言論、表現の会場使用をめぐる問題に「前例」として重くのしかかるおそれがある。そうしないための問題認識や気構えが必要だ。(毎日社説

司法の判断に従わなくとも構わないという理屈がまかり通れば、社会が成り立たない。(中略)だが、ホテルが右翼団体による妨害を恐れ、筋の通らない理屈で解約を正当化してまで集会を中止させれば、右翼団体の思うつぼである。(中略) 異なる立場の意見でも、発言する自由を最大限認めるのが、民主主義社会である。憲法で保障された「集会の自由」「表現の自由」が脅かされてはならない。(中略)一流ホテルには、それにふさわしい社会的責任が求められる。(読売社説


どうでしょう?ニヤニヤしながら読めたのではないでしょうか?(笑)*3

新聞の論説委員憲法リテラシーもこの程度ということです。


参考までに、この事件の時に東京高裁がプリンスホテルに対して会場使用の仮処分決定を出したときの判決文の全文を載せてみました。これを読んで頂くとわかりますが、表現の自由」などという言葉は全く出てきません。

仮処分を出したのは、「契約を解除する理由がないから」です。


弁護士の落合先生の当時のエントリー日教組教研全体集会・会場使用拒絶問題 - 企業法務戦士の雑感を見ればわかりますが、プリンスホテルが非難されるべきなのは契約を結んでおきながら直前になってドタキャンしたという点であって、決して表現の自由や集会の自由を守らなかったという点ではありません。


憲法というものがどういうものかわかっていれば、プリンスホテルの事件で憲法が出てくるということは絶対にないということがお分かり頂けたでしょうか?



ちなみにこの事件の時、東大の長谷部教授(憲法)がある新聞にコメントを求められて、「今回の場合、表現の自由は問題にならないが・・・」と憲法の話は3秒で終わらせて、あとは個人的な意見を述べられていたのがとても印象的でした。ていうか、爆笑しました(笑)

きっと「新聞記者なのに何でこんな事件で憲法の話を聞いてくるんだ・・・」と思っておられたに違いありません。


憲法の究極の目的について


憲法について最後にひとつだけ知っておいて頂きたいことがあります。


皆さんは日本国憲法の究極の目的」というものが何かご存じでしょうか?


それは、「個人の尊厳(尊重)」です。

それ以外に日本国憲法の目的はありません。


三権分立

憲法9条

表現の自由

職業選択の自由

生存権

納税・教育・勤労の義務。

国会裁判所行政という統治機構。


以上のものだけでなく、憲法に書かれているすべての事柄は、「個人の尊厳」という目的を達成するための手段にすぎません。

小学校や中学校で「国民主権基本的人権の尊重・平和主義」という「日本国憲法の三大原理」を習ったと思いますが、これらもすべて「個人の尊厳」という目的のための手段にすぎないのです。

法学部に入って憲法を勉強するとわかりますが、講義で「三大原理」なんて言葉は全く出てきません。

少しだけ調べてみたことがあるのですが、なぜこの3つが「三大原理」とされているのかは、実はよくわからないのですね。それどころか、憲法の原理は5つだ、いや4つだ、なんていってる学者もいてたりします。


社会における個人はすべて尊重されなければならないから、そのような個人がみんな公平に生きていける社会にしよう、というのが立憲主義という考え方です。

そして、個人の尊厳というものは他の個人の尊厳とぶつかり合うことがあるけれど、そんなときには他の個人を犠牲にしてまで特定の個人を優先してはいけない、だから人権というのは他の人権を侵害しない限りで認められるんだよ、というのが公共の福祉という考え方です。


マスコミが以上のことを理解できていないのは非常に残念なのですが、さらに日本が残念なのは、憲法によってその権力を制限される立場にある国会議員にも憲法を理解していない人がいるということです。

例を挙げればキリがないのですが、まあ少なくとも安倍元総理はわかってないでしょうね。国民が国家の権力を制限するためにある憲法に、国家が国民に対して愛国心を持つように、という文言を入れようとしたんですから。

Wikipediaには改憲論者である慶応小林節教授について、こんなエピソードが載っています。

改憲論を主張する政治家の集会に参加した際に「愛国心憲法に盛り込む事はいかがなものか」とする主旨の発言をしたところ、以後全く集会には呼ばれなくなったという。そのため護憲派とともに改憲派政治家もまた閉鎖的で議論をしないことに失望したという。




暗い将来しか見えない今、個人の尊厳なんてあるものか、と思っている人もいるかもしれませんが、そんなときこそ人類の血と智の結晶である憲法について少し勉強してみると、今までとは違った少し広く、高い視点を持つことができるかもしれません。

本来は以上に書いたような憲法の基本的な考え方は義務教育で教えるべきことで、中学の公民で覚えさせられる衆議院の定足数みたいな些末な知識はどうでもいいことだと思います。


義務教育で以上のようなことを教えないのは・・・まあ、国家にとっては都合が悪い事実だからでしょうね。


まあもっとも私も勉強中の身ですから、以上に書いたことが正しいかどうかはわからないんですけれども(笑)


憲法について分かりやすく書いている本をご紹介しますね。



↓上に出てきた東大の長谷部教授と、政治学の杉田教授の対談をまとめた本です。口語で書かれていますので、非常に分かりやすいです。憲法学者の長谷部教授が痛いところを突っ込まれてちょっとごまかすのを杉田教授がさらに追及するスリリングな展開も面白いです(笑)

これが憲法だ! (朝日新書)
長谷部 恭男 杉田 敦
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5 現代人必読!家庭に一冊常備薬
4 『これが「長谷部」憲法だ!』
4 憲法がわかりやすくなる本 
3 あんまり噛みあってない
4 入門書の陰の顔


司法試験受験界のカリスマ、伊藤真による憲法論。長年憲法について指導し、語り続けてきただけあって、その内容はかなりアツい。しかし残念ながらdankogaiにはそのアツさは伝わらなかったようですが。

憲法9条関連の議論を整理したい人にもオススメです。

憲法の力 (集英社新書)
伊藤 真
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4 良本です
5 護憲派の考えのエッセンスが凝縮
4 改憲論者にも役に立つ護憲
5 憲法を世界へ広めよう


憲法の基本書の鉄板。内容は高度なので本格的に憲法を勉強したい人以外はいらないが、そうでなくても家に置いておいてもいい一冊。

憲法
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芦部 信喜 高橋 和之
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5 定番中の定番
5 非常によくできています
5 とても勉強になる




追伸:そうそう、先日のエントリーで日付の方にブックマークされていたためにホットエントリーなどでタイトルが表示されていなかったのですが、はてなでバイトしているid:comajojoくんが修正してくれました。ありがとう。


アルバイト(しかも彼は総務担当)であっても、自分が働く会社の提供するサービスに不具合があれば修正するということは自分の仕事であるという意識を持っており、そして実際に行動する手段と裁量を与えているはてなという組織。

さすがですね。


明後日彼と京都で新年会をする予定なので、いろいろ話を聞かせてもらって、会社のために役立てさせてもらおうと思います。

*1:これは私人間で一方当事者が他方当事者の人権を尊重する事を義務付けられるということがありえないという意味であって、実際には私人間で表現の自由と名誉権が衝突したりする事はありえます。

*2:学説では私人間にも憲法が適用されるという立場もありますが、裁判所はこの立場は取っていませんし、ほとんどの学者も支持していません。

*3:ちなみに、引用させて頂いたのに申し訳ないのですが、引用元のブログ主さんも各マスコミと同じ轍を踏んでいます。