GISHIKI-愛してもらいます、否、愛します。

正直最初はあきらめてたんだ。
その日は職場のシフトが限界ギリギリ。
チケットは持っていたけど、誰かに譲ろうと思ってた。
でも、そこに行けたのは、職場のスタッフの皆が行ってこいと気持ち良く送り出してくれたからだ。
都合を合わせて出社してくれたスタッフもいる。

仕事は何よりも優先させるべきこと。プロとしてお金をもらってすることだから。
応援してるプロ野球チームの選手が「今日彼女と温泉行くんで試合(クライマックスシリーズ第2戦)出れません」って言ったら腹立つと思うのよ。

・・・でも、でもさ、やっぱりどうしてもって事はあるよね。
他の日に2倍頑張るから!いや、一週間毎日1.2倍ずつ頑張るから!
ママお願い!お願いデーモン!って事がね。
それがその日だったのです。俺にとっては。
感謝しながら、その日、普段では考えられない時間に職場を出る。

Perfume「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11」@東京ドーム

所謂「非ヲタ」の友人達と待ち合わせ、水道橋から東京ドームへ向かう。
予想通りの人だかり。ここで食事しようと思わなくて正解だ。
さっき立川駅のホームで、ウィダーと鳥五目おにぎりを食べておいて良かった。

戦国時代の猛者達は、干飯(ほしいい)という蒸した米を乾燥させたものを常備し戦の合間に食した。
アイドル戦国時代の猛者(←不肖私め)は戦(仕事)と戦(アイドル現場)の間にコンビニを駆使して食事をするのだ。
つまり、コンビニは現代の干飯なのだ。(←意味不明の帰結)

ぼやぼやしてはいられない、様々な甲冑に身を固めた兵を蹴散らしながら城の本丸へと足を進める。
(ファンクラブTシャツや自作コスプレ等を着たファン達にぶつからない様に東京ドームシティをドーム入場ゲートへ向かう)

本丸とは別の場所に兵力を集中させられている!惑わされてはいけない!それはおとりだ!おとりの戦場だ!
(グッズ売り場に行列が!今から並んだら開演間に合いそうにないから回避!ふんだふんだ!通販で買うもん!)

おお。これが新戦法。武田の騎馬隊を蹴散らす織田の3段撃ちか!
(入場口大変混雑しておりま〜す。3列に並んで、お詰めになって前へお進みくださ〜い。←バイト)

城内に潜入したは良いが・・・。敵将の居場所までが遠い!城の作りに惑わされるな!
(なんだよ、さっきの案内係・・・こっちの方が早いっつたじゃねーかよ。なんで1塁側の席なのに3塁側のゲート案内すんだよ。)

ここが敵陣の中枢・・・ごくり。
いや、まだだ。
いいですかー。敵将の首を取るまでが戦です。そこっ!無駄話やめろ!
(取りあえず座席は見つけられた。さぁ、ドリンク、トイレ、下に着込んだpinksunさん作のドームTシャツを開放しよう。)

と、一塁側2階中段の指定席に辿り着いたのは開演20分程前だったろうか。
携帯電話はつながりが悪く、ここにどれだけの人が集中しているかを物語っている。
いや、目を挙げればアリーナ、1階、2階と大変な数の人達が目に飛び込んでくる。
今までのPerfumeのどのライブよりも沢山のオーディエンスがここにはいるのだ。

ステージはグラウンド部分の中央にセンターステージ。
そこから放射状に3本の花道が出ており、その先は小さなステージ状になっている。
バックスクリーン前にもステージがあり、ライブタイトルを表現したオブジェ。
モニター画面は守備位置で言うとセンター頭上とバックスクリーン、そして、外野席ライト&レフトにも各1台設置されている。
ああ、母さんあれが野球中継でよく見た「フコク生命」ですね。

思っていたよりもでかくない。
確かに面積は広いけど、代々木あたりの感覚に近いな。
これならこの席でも十分に観られる。

・・・と、そう思えたのは、開演まででした。ええ。

暗転。客席もほぼ総立ち。
花道の先の小さなステージから3人がせり上がり、中央のセンターステージへむかってカウントダウンをしながらゆっくりと歩いていく。
3人はウエディングドレスの様な衣装をまとい、薄いベールを頭上に掲げて歩いていく。
結婚式のバージンロードの様な演出と言えば良いのだろうか。
3人共とても綺麗。

8 ←3人共このくらいの大きさだけど ※実寸大(ご使用のPCによって若干の誤差がございます)

あとで聞いたら(正確には公式サイトでセットリストみたら)この演出「GISHIKI」という名前が付いていたのだそう。
そんな書き方されて中山美穂しか思い浮かばない俺は何なのか・・・。

そして、3人はセンターステージのテント状の仕切りに吸い込まれ、一瞬の静寂。

仕切りが開く!
「シークレットシークレット」!!

本当の君を知りたいのキラキラで目がくらむけど


あれ?

あ?

すいませーん。
ちょっとどいて頂けますかー?
あのちょっ、真っすぐ真ん前に立つのやめて頂けますかー?
ちょっと横にずれて頂けるだけで大丈夫なんですけどー?
あの、もう1曲目終わっちゃうんですけどー?・・・。

3人がセンターステージに立つまでは全く気にならなかったが、
私の席からセンターステージの間には、完全に完璧でパーフェクトな位置関係で照明用のトラス(照明釣る"やぐら"です)の支柱が立っていたのだ。
これはもう本当に見事にな角度で、シベリア鉄道も真っ青なくらいに迷うことなくばっちり真っすぐ私とセンターステージの間にあり、
3人がそこで踊れば踊るほど、全く見えないのである。
これぞパーフェクトスターパーフェクトトラス。←言いたいだけ。
ただそこにあるだけなら何でもない物でも、3人の手前に立つならそれは邪魔者!障害物!消えてなくなれっ!!ペッ!ペッ!
人間とはなんと勝手な生き物なのでしょうか。私の事ですけど。

そして音響。
ここは日光東照宮の鳴き竜か、ごるぁぁあ!と。
とにかくえらいリバーブかかりまくりスティーネ剛田なのです。涙。
腹に響いてくる低音もなく、届いてくるのはラインアレイスピーカーが精一杯届けてくるヴォーカルのみ。
そして、訪れ、春の訪れではなく音ズレ。
耳に届く曲と3人のダンスが半端なくズレるのである。

光と音はそのスピードに大きな違いがある。
光は1秒間に地球を7周半回るが、音は340mしか進めない。(15℃の環境下において)
Perfumeの魅力の一つは、やはり楽曲とダンスの見事なシンクロ。
それを自然の摂理とは言え、切り離されてしまっては魅力半減である。
筋金入りのヲタ気どりですが、魅力の少ないものに熱狂出来るほど盲目じゃない。
ヲタって言っても宗教に入信しているわけではないの。

ただ、この時ばかりは、神様、あ〜ちゃん様、かしゆか様、のっち様!
今から3時間だけドームの中は「音速=光速」って仕組みにして下さい!!
って祈りました。一心不乱に。
人間とは何て勝手な生き物なのでしょうか。私の事ですけど。

そんなわけで、ライブのスタートは余り乗り切れなかった自分。
そんな時に限ってやり残した仕事の事とか頭に浮かんできてしまって負のスパイラル。
闇は心の隙間に躊躇なくすべりこんでくる。←大げさ。


そんなどん底にいる自分を救ってくれたのは、他でもない途中のMCパートだった。
客席を「にんじん」「たまねぎ」「じゃがいも」の3パートに分けコール&レスポンスを行うコーナー。

その導入部でひとしきり説明を終えたあ〜ちゃんが、唐突に歌いだす。のっち、かしゆかが続く。

にんじん たまねぎ じゃがいも〜 嫌いな野菜でも〜♪
カレーに入れちゃえば食べられる 皆が大好きさ〜♪

!!!

これは!!!

リトル☆レンズの「スパイスィ→カレー」じゃねぇかぁぁあっ!!!!

↑という反応をしたのは東京ドーム50000人の観衆のうち132人(当社調査による)だそうです。

リトル☆レンズといえば東京最強地下アイドルと言われながら、ヒットに恵まれず2008年に解散したアイドルユニット。
地下アイドル時代のPerfumeとの共演経験も多く、メンバー同士の交友もあったよう。

Perfumeにとっては下積み時代の戦友のような存在ともいえる。
厳しい芸能界の荒波のなかに消えていった戦友の代表曲をドームのど真ん中、俺からは見えない(←しつこい)ど真ん中で歌ってのける3人。

そして、さらにあ〜ちゃん、「にんじん」チームも「たまねぎ」チームも「じゃがいも」チーム全員、「お肉」と言ったら反応しろや!と説明。

あ〜ちゃん「おっにくー!」
客全員「うぉーぃ!」

!!!

これは!!!

石川梨華じゃねーかぁおおおぉい!!!

↑という反応をしたのは東京ドーム50000人の観衆のうち2078人(当社調査による)だそうです。

石川梨華と言えば、言わずと知れたモーニング娘。の元メンバーだが、(財)日本食肉消費総合センターのCMに出ていた事を皆様覚えていらっしゃいますか?
CMを知らずとも、スーパーマーケットの食肉売り場でこの歌を耳にされた方も多いのではないのでしょうか?
あ〜ちゃんの「おっにくー!」は完全に梨華ちゃんのそれ。

と、ここまで来て私は気付いた。

3人は、自分達にとって最大の舞台であるこの東京ドームにおいて、
芸能界という枠組みの中でとりわけ急スピードで消費されていく「アイドル」という存在を、
そして過去に消費され、もしくは消費さえされる事なく消えていったアイドル達の、鎮魂歌を歌おうとしている、と。

今となってはよく知られた話だが、Perfumeの3人は広島の芸能スクールからローカルアイドルして活動をスタートし、
上京。鳴かず飛ばずのインディーズ時代、売上の伸び悩んだメジャー初期を経て今に至る。
このドームは、結成10周年、メジャーデビュー5周年の節目のライブでもある。
芸能の沢山の無常を、そして無情を目の当たりにしながら、それでも自分達の最高のパフォーマンスを常に求めて活動をしてきた。
消えていった事務所の先輩、友人、同世代のグループ、そんな人達の上に自分達は立っている。
そして、明日は逆に自分達が淘汰される存在へ変わるかもしれない。

だが、それでもPerfumeであり続け、アイドルであり続ける覚悟を、10周年から11周年に踏み出す一歩をこのライブに託しているんだ。
消えゆくものの魂を沈め、そして自らは力強く踏み出していくのだ。
※あとから考えたら最初の「GISHIKI」は「Perfumeに身を捧げます」という儀式だったのかも知れませんね。

過去のライブや活動が走馬灯のように心を巡る。

Perfumeのライブを素晴らしいと思えたのはなぜだ?

「3人が可愛いから!」「そうだな」
「曲が良いから!」「かかせない要素だな」
「ダンスが凄いから!」「振付ふくめてな」
「ヒップダンスがセクシーだKARA!」「それは違うグループだな」

そういう要素は全て当たっているけど当たっていない。
一言で言うなら、やはりライブに関わる全ての要素が一体となって心に響くからだろう。
3人のパフォーマンス、MIKIKO先生の振付、中田ヤスタカの楽曲、照明、音響、演出スタッフの意匠。
それが有機的に混ざりあい、ライブという一つの空間を圧倒的な魅力で溢れさせるからだ。

俺はPerfumeのライブを「観る」のでも、「聴く」のでも、「踊る」のでもなく、
ただ「感じて」、素晴らしいと思った。思ってきたのだ。

そう気付いた時、「さっきのワタシに蹴り入れたい」(PAMELAH "BLIND LOVE")と自分を恥じた。

トラスがなんだ!反響がなんだ!音ズレがなんだ!
観るな!聴くな!落ち込むな!
感じろ!

心を繋げ!ステージ上に!

・・・・接続中です

・・・・ネットワークに接続しました 100Mbps

キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!


もう、そこからの自分は大丈夫。
いつも通りの私。
どこ見ていいか分かんない時は、そっと目を閉じる。
音がよく分かんない時は、3人のダンスを見つめる。
感極まった時は「あ〜〜ぢゃ〜〜〜〜ん!!!」と呼ぶ。周り振り向く。
でも、俺が叫ぶと周りも叫びだす。フォローミー!!


アンコールのMCでのっちが言った「これが『夢みたい』って光景なんだ」。
俺はのっちの夢の一部になれたよ母さん。正月には親父のホームページ作りに帰るから。

かしゆかが言う。
「もうアンコール。これからライブが始まるみたい」
もう一回やってもいいんだよ、かしゆか。俺、腕がもげても、もう一回「Perfume」のグルグルユー全力でやるよ。

あ〜ちゃんは涙にくれる。

最後の曲は「自分達にチャンスをくれた曲」と紹介して歌った「ポリリズム
あの瞬間は今思い出しても、鼻の奥がツンとして目頭に熱いものがこみ上げてくる。
そして演奏されたポリリズムは史上最高のポリリズムだった。

ライブ後、隣にいた友人が「今日のライブどうだった?」という話になった時こんな風に言っていた。
彼は、ポリリズム以前、名古屋E.L.Lで行われた、ハレンチ☆パンチ、MIとの対バンライブで一度だけ生Perfumeを体験していたのだけど、

「(その時と)3人は何にも変わってなかったよ。パッケージは豪華になってたけど。」

名古屋の500人キャパのライブハウスでも、東京ドームでも同じ姿勢で臨む3人。
石丸電気のインストアだって、代々木第一体育館だって、そこで3人がパフォーマンスをすれば、そこが、そここそがPerfumeの世界なのだと思う。

ポリリズム以前に新宿LOFTで対バンライブを観にいったこと。
1stアルバムがみつからなくて、チャリでいろんな店を回ったこと。
ポリリズム発売前に、ヲタで集まってプロモーション盤を回し聴きして、
「これが勝負曲になるのか・・・」と皆が何とも言えない複雑な表情をしていた時のこと。
GAMEツアーで1人名古屋へ遠征したこと。
代々木で奇跡的にチケットをゲットできたこと。
直角二等辺三角形ツアーで金沢×1、横浜×3参戦したこと。

ここ4年程の自分には、Perfumeによって沢山の新しい世界がもたらされた。
これからも、ずっと新しい世界を見せ続けて欲しい。新しい刺激を与えて欲しい。
そして、自分はファンとして3人のパフォーマンスに全力で応えていきたい。

・・・と、全力で応えた結果。
次の日は取引先様に「風邪つらいですね」と言われる声になり、
数日後には超絶腹下しを伴う、過労死寸前の状態までに至りましたとさ。おしまい。

追記:かしゆかあんたすげぇよ