2012-09-09
■[漫画]KISS9月25日号
講談社の漫画雑誌「KISS」を買ってきた。ついに、日下直子「大正ガールズエクスプレス」のサナトリウム編が終結。
- 作者: 日下直子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/09/13
- メディア: コミック
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以前にも、この漫画のギリギリっぷりを紹介した*1けれど、今回もギリギリの着地だった。
*以下、ネタバレあり
サナトリウムで暮らす少女ミヤコが登場。生意気なミヤコは、千世とよし子と親しくなり、心を開き始める。しかし、ミヤコには死期が迫っていた。女性の権利を獲得し社会を変えたいと思っていた千世は、目の前の少女一人を救えない自分に思い悩む。千世とよし子はミヤコのために、ミヤコを主人公とした絵物語(少女マンガ)を製作する。フィクションの中のミヤコは、ミヤコが夢見た、活発な少女だった。ミヤコは母親にその絵物語を読んでもらい、安らかに眠る。
あらすじだけ読めば、どう考えても陳腐になりそうな展開で、手に汗を握って毎号楽しみにしていた。千世は「私はどうすればいいんだ?」と思い悩むのだけれど、作者の日下さんも描きながら「どうすれば千世はミヤコを救えるんだろうか?」と思い悩んでいたんじゃないだろうか。「どうすれば、死んでいくミヤコの心を動かせるのか」という葛藤が、ダイレクトに飛んできた。それだけに、今号のミヤコを救うことになる絵物語が重要だった。その結果だけれど、今号のよし子の描いたミヤコは生き生きとしてかわいくて、成功だったと思う。丁寧な線で、よし子がどれだけミヤコに思いをこめて描いたのか、絵柄で伝わってきた。ああ、無事着地してよかった、と心から思った。
しかし、サナトリウム編で、よし子と千世が少女マンガを発明したようなエピソードが挟まれてるけど、これは大丈夫なんだろうか?これから先、どう展開していくのか、まだまだ心配。楽しみにしてます。
「KISS」は、小山田容子「ちっちゃな頃からおばちゃんで」も楽しみ。
- 作者: 小山田容子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/07/13
- メディア: コミック
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人気作の「ワーキングピュア」のスピンオフ作品。ひきこもりの青年や、母親に依存されぎみの娘、認知症の父親の介護に悩む青年など、繊細な問題を、あまり重くならず、日常の中で地味に起きるエピソードにまとめている。
- 作者: 小山田容子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/10/12
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あとは「銀のスプーン」「バラ色の聖戦」「ガキのためいき」。
- 作者: 小沢真理
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/02/10
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- 作者: こやまゆかり
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/02/12
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- 作者: 沖田×華
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/13
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「ガキのためいき」はASの沖田さんが自伝的に子どもの頃のエピソードを漫画にしている。切ない話や苦しい話も多いんだけど、独特な絵柄でギャグにされていて、笑ってしまったりする。
つまらなくなってしまったのが、米沢りか「カツ婚!」。「三十婚」のスピンオフで、恋愛のハウツーを描いたエッセイ漫画みたいな作品。「三十婚」では、それぞれのキャラクターが、個人的な背景がある中で、恋愛テクニックを使って男性と付き合おうとして、上手くいったり、いかなかったりしてドラマを盛り上げていた。でも、そのテクニックだけ抜き出したため、よく女性誌に出ている恋愛相談コーナーみたいになっている。今号は「男を正論で追い詰めてはいけない」というテクニックの話。男をたてると良いそうです。
しかし、実際にはそんなの相手によるに決まってる。議論をして、女性に理があると思ったら、気持ちよく納得する男性もいる。そうでない男性もいる。自分がどういう人と付き合って、どういう付き合い方をしたいかによって、判断すればよいことだろう。私の場合は、「この人は男性だからこうすれば、こういう反応をするはず。だから、こういうふうに振舞おう」としか思えない相手とは、わざわざ恋愛したくない。その人を目の前にすると、自分の考えを率直に伝えたいと思う相手と付き合いたい。
- 作者: 米沢りか
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/08/10
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- 作者: 米沢りか
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2012-04-16
■[漫画]日下直子「大正ガールズ エクスプレス」
- 作者: 日下直子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/07/13
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- 作者: 日下直子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/11/11
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- 作者: 日下直子
- 出版社/メーカー: 講談社
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『KISS』の日下直子「大正ガールズ エクスプレス」が、ギリギリで面白い。何がギリギリって、作者の迷走がギリギリ。
舞台は大正時代の裕福な女学生が通う全寮制の学校。美杉千世は、進歩派の美少女で、ジャーナリストを目指しており、壁新聞を作って同級生をアジったりしているが、今一つ成果はない。そこに飛び込んできた、よし子は借金の肩に売られた女の子で、女衒から逃げて、千世にかくまわれる。階級の差を越えて、二人が社会を変えるために……とはならない。猪突猛進の千世と、天然ボケのよし子のドタバタギャグ漫画である。
千世は、よし子とコンビを組んで、風刺漫画で賞金を目指すが、あえなく失敗。もう少し、学園内に目を向ける運びとなり、演劇部で学園祭に劇をすることになる。張り切る千世だが、周囲の同級生たちは過酷な稽古に疲れ果てて、ギブアップしてしまう。そこで千世は、自分が女性であるにもかかわらず、女性であるがゆえにバカにしていたことに気づく。そこで、自分が先頭を切って「女性の社会進出」「男並みの仕事」を彼女たちに押し付けるのではなく、裏方に回って、一人ひとりが持つ力を発揮させるために励ますようになる。こんな風に読めば、フェミっぽいというか、リブっぽい漫画のような気がしてくる。
けれど、そうした理念を訴えるような漫画ではない。あるときは、金持ちの坊ちゃまや元女衒(男性たち)に承認されることで救われるような展開を予感させるシーンもある。けれど、日下さんは、ギリギリでそれをギャグにしてしまう。千世さんは、元女衒の承認の振る舞いを無視するし、坊ちゃまはよし子を承認する振る舞いができなくらいボケをかます。日下さんは、計算や信念ではなく、「こうしたほうがいい」と思うに任せて、右に左にぐらぐらゆれながら、物語を前に進めているんだろう。私は、この作品がどっちに転ぶか、気になってしょうがない。
でも本当によかったな〜と思っている。日下さんは、前作の「ヤマありタニおり」はやっぱり苦しかった。
- 作者: 日下直子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/12/11
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- 作者: 日下直子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/05/13
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- 作者: 日下直子
- 出版社/メーカー: 講談社
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なんといっても、折り紙の漫画だから、地味なのである。無理がある。盛り上がらない。でも、丁寧な絵ですごくまじめな人が描いてるのが伝わってきて、「面白いような、面白くないような」と思いながら、ちょっとだけ応援していた。なので、今回の「大正ガールズ エクスプレス」が、わりかし当たっているのが嬉しい。巻頭カラーになってたりすると、安心する。前回も、主人公たちよりも、その妹たちのほうが面白かったので、今回、女子同士の話だったのもよかったのかなーと思う。『KISS』の読者には、女子同士のゆるめの友だち関係がウケるんじゃないかな、と。
私が一番好きなのは、馬場原さん。馬場原さんは、いつも脳内で少女小説を妄想していていて、キスシーンを想像しては、萌えて絶叫している。そして、大量の同人誌を刷って在庫を余らしてしまう。とてもシンパシーを感じる。自分の妄想ほど、萌えるファンタジーはない。自在に調整できるので、完璧。そして、他人の客観的な評価には堪えない。でも、そのファンタジーを共有して、エドワード(小説の登場人物)を妄想通り描いてくれるよし子がいるなんて、最高じゃない?
今号から、馬場原さんと、千世、よし子はサナトリウムに朗読にいくことになるのだけれど、この話がどう転がるのか楽しみにしている。
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2011-08-28
■[漫画]こやまゆかり「バラ色の聖戦」ドラマ化
『Kiss』で連載中のこやまゆかり「バラ色の聖戦」がドラマ化がするんだそうです。
- 作者: こやまゆかり
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/02/12
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テレビ朝日「バラ色の聖戦」
子育て中で夫に浮気をされた30代の主婦が、一念発起でモデルになることを目指すストーリーです。こやまさんは「×一物語」や「2/1の林檎」で、ごく普通の恋愛に悩む主人公の女性が、恐ろしい陰謀を画策するライバル女性に人生を狂わされ、大事なもの(とくに恋人を奪われるものの、そこから自分の人生を考え直して闘い成長するというストーリーを描いてきました。今回も似た展開で、主人公を蹴落とそうとするライバルが登場して、成功を邪魔してきます。昼のドラマでよくある雰囲気で、何一つ目新しかったり、新鮮な点はないですが、とにかくマンガが上手で先が気になってしょうがなくなります。
私は『Kiss』を継続して買っているので「バラ色の聖戦」も毎号楽しみにしてるんですが、今年の講談社漫画賞にもノミネートされていて、地味だし特筆すべきことはないけど、やっぱり安定して面白く読めるマンガは評価されるのかな、と思いました。『Kiss』からは「のだめカンタービレ」や「きみはペット」、「海月姫」のような超人気作も稀には出ますが、普段はとりわけ名作というわけではないけれど、いやなことや面倒くさいことが続く日常の生活の中で、息抜きするために読者に前向きなメッセージを送るようなマンガを載せているように思っています。そういえば、「IS」も『Kiss』でした。こちらもドラマ化したのでした。
- 作者: 六花チヨ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/11/12
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連続ドラマ「IS[アイエス]〜男でも女でもない性〜』
『ジャンプ』のマンガ家たちのライバル競争をモチーフにした「BAKUMAN」を読んでると、やっぱり雑誌によって求められる作品は細かく違うのだろうなあと感じます。『Kiss』で読むマンガは、派手な盛り上がりや、スリルはないし、芸術的なインプリケーションはないけれど、いろんな意味で真面目なマンガが多いです(主人公もたいてい真面目。付属のマンガスクールの応募者へのアドバイスも真面目)
というわけで、『Kiss』の私の好きなマンガを数本。
- 作者: 池辺葵
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/07/13
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- 作者: 小沢真理
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/02/10
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- 作者: 谷川史子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/10/10
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- 作者: 小山田容子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/10/12
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- 作者: 米沢りか
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/05/12
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『コーラス』も毎月買っているのですが、こちらはけっこう面白い月とつまらない月とのばらつきが多くて微妙です。なぜか尾崎南の「絶愛」のスピンオフが突然始まり、私は多少は読んでるからかまわないけど、ここ数年で少女マンガを読み始めた同居人はまったくついてきておれず困惑しています(「絶愛」は、男性同士の恋愛を描いている作品で、BL雑誌ではなく少女マンガ誌「マーガレット」で連載されていた)。いきなり登場人物の紹介もなく、切りつけ合ったり、死の淵に面してたり、抱き合ったり、毎回が緊迫状態なので、意味わからないと思います。全然否定的には捉えてませんが。
- 作者: 尾崎南
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2002/12/12
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と思ったら、再開にむけて尾崎さんがインタビューに答えていました。
「完全復活! 尾崎南が語る"空白の5年間"、『絶愛』『BRONZE』への想い」
あと蜷川実花の「少女漫画的視点」というグラビアの連載があって、これはいつもコメントしがたい違和感を放っています。MOREで似た連載があって、単行本化されていて、この写真の転用なのかなあ、とか思いながら。
蜷川妄想劇場 ~mika's daydreaming theater~
- 作者: 蜷川実花
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/03/22
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イケメンタレントさんを、少女マンガのヒーローのようなシチュエーションで撮影するというコーナーなんですが、やっぱり二次元の格好よさは三次元の「イケメン」とは違うし、二.五次元に開き直るには被写体の方が有名だから見てるほうも思いこめず。そして偶然、ある号の見開きで、左がタレントさんが和服を乱れた感じに着てうつっている写真で、右が「絶愛」の広瀬の乱れた着物姿ということが起きました。ああやっぱり私は右だなと思いましたが、そういう確認のページという妙なコーナーになっていました。
2011-02-17
■[漫画]西炯子「娚の一生」
- 作者: 西炯子
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/03/10
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昨年3月に単行本三巻が刊行されて、完結した人気少女マンガ作品。30代半ばのつぐみは、発電所の技術者としてキャリアを積んでいる。一方で、今まで付き合う男は彼女持ちや妻帯者ばかりで、恋愛がうまくいかない。現実逃避で、九州の休暇をとり祖母の家で暮らしていた。そして祖母が急逝し、50代の大学教授海江田に出会う。彼はかつてつぐみの祖母に思いを寄せていたのだ。つぐみは納得いかないまま、海江田と同居することになり、だんだん二人の距離は近づいていき……二人は当然恋に落ちるわけで、お互いに背負う過去を分かち合いながら結ばれるまでを描いている。
西さんの作品に対するコメントがweb上で読める。面白かった。
西炯子「娚の一生」(コミックナタリー)
特に、設定を構想中、海江田の恋愛相手を決めるときに「父娘関係」にならないように、つぐみの年齢を30代半ばにしたというエピソードは面白いと思った。このマンガにはもう一人の海江田に思いを寄せる若い女性が登場するのだが、西さんは海江田に「彼女はファザコンで、甘えられる相手なら誰でもいいんだ」というように距離をおいた台詞を言わせている。つぐみの、海江田への感情を「父親転移」(父に向けたかった愛情を代わりに恋人に向ける)として描きたかったわけではない、ということだろう。
しかしながら、私はやはりつぐみと海江田の関係に父娘的なところをみてしまう。人生の経験を積み、つぐみの年齢より不安定で幼い精神面に振り回されることもなく、揺らがぬ愛情を注ぐ存在としての海江田は、見守り役でもあり、父親的にもみえる。同時に、西さんは海江田を「男」としての部分を強調する。海江田は性的であり、他の男とつぐみを取り合い、情熱的に口説く。また、つぐみも海江田に一方的に依存するのではなく、彼の抱えてきたつらさを共に背負おうとするし、取り乱すさまも受け入れようとしているようにみえる。特に、二人がイレギュラーなかたちで子どもの世話をするエピソードで、つぐみが海江田に対して「苦しみをケアしてくれる存在」ではなく「苦しみを分け合う存在」としてみている部分が、象徴的だった。恋愛の絆ではなく、共に生活していくパートナーとして、惹かれあう部分をうまく描いていると思う。
西さんはBLも描いているのだが、インタビューではこういう風に語っている。
BLって、私の場合は「本当に私が恋愛をどう思っているか」というのを描いている気がしますね。男女の恋愛を描くときは、地位や経済、年齢、子孫を残すことなどの社会的なファクターが多いと思うんです。そういう問題がたくさんあるから、物語は複雑に重層的になっていく。ところがBLの場合は社会的なことが何もない。家庭を築かないといけないわけでもないし、子孫を残さないといけないわけでもないし。そう考えると、一切余計なファクターが付いてこない純粋な恋愛が描けるわけですね。だからBLを描くと、自分が恋愛をどう捉えてるかっていうのがおのずと表れてくる。
──男女で純粋な恋愛そのものを描くことは難しいんでしょうか。
最初はやっぱりすごく難しかったです。BLを描くのをやめなきゃと思ったのは、男女の恋愛について描けなくなってしまうと思ったからです。BLは余計なことがないから楽しいんですけど、それに慣れてしまうと女性誌で描いていけなくなる、という危機感を持ったんですね。避けてちゃいけないと思いました。今はある程度、自分も個人的に体験を積んだ後なので、そういう社会的なファクターが絡まってくる面白さもわかってきて、男女の恋愛を描くのも楽しめるようになりましたよ。
もちろん、男性同士の恋愛であっても社会的な要素は出てくるのだが、BLの商業誌で求められるのは別の側面――つまり恋愛ファンタジーである――だということとして私はこの部分を読んだ。西さんの「BLは純粋な恋愛を描く」という認識は面白いと思った。
というのは、私は「フケ専」として、このマンガを読むのをとっても楽しみにしていたのだ。そして、ついに読もうとうきうきして開くと、全然萌えなかった。なぜなら、このマンガは萌えではなく「家庭を築かないといけないわけでもないし、子孫を残さないといけない」という規範の中で起きる恋愛だったからである。つぐみが抱えるトラウマは、「結婚」に関するものであり、海江田はそうしたつぐみの不安に寄り添いながらも、求婚を続ける。二人にとって、過去に拘泥せずに結婚することが、新しい人生の一歩なのである。私にとっては、そうした規範に従って人生を進めることも、十分恋愛ファンタジーに思えるのだが、西さんにとってはより現実味がある世界ということだろう。
私は小津安二郎の映画のようなマンガだと思った。「秋刀魚の味」のような世界である。あれは、濃厚な「父娘関係」ではあるのだが、近親姦ではなくあくまでも親子の愛情として描かれる。だが、規範の中で安定していくモノガミー関係を「成熟」とみなすような価値観が似ている。私も特にアナーキーな関係を求めているわけではないのだが、どうしてもこうした価値観を「別世界のこと」としてみてしまう。念押ししておくが、こうした関係性がよくないといっているわけではない。だがそこまで「結婚」が希望や重石になる心情をよく理解できないということである。私にとって「結婚」はできの悪い社会制度の一つなのである。その利用方法や、利用に伴う不具合については思うことはたくさんあるのだが……
海江田はつぐみに、「ひとりでなんでもできるというのが傲慢だ」といい、つぐみも「誰かと生きていくこと」に希望を見出す。それが社会の網の目の中で理解されていくのはもっともだと思うが、別に結婚だけが誰かとつながる方法ではないだろう。海江田は、つぐみを救済するのだが、それは彼女の孤独に彼だけが気づき、彼だけが癒そうとするからである。しかし、自分の孤独を埋めてくれるのが、自分を愛する男だけだという発想が――理解はできるしそのアイデアに私も欲情しなくもないが――なんだか息苦しい。
私は、一人のパートナーと「愛」と「セックス」と「同居」の三つ揃えにして付き合うのはやっぱり難しいと思っている。「誰を愛するのか」「誰とセックスするのか」「誰と同居するのか」という問いの答えに、同じ人が並ぶのが世間で言うところの「結婚」の条件なんだろう。だけど、ばらばらであっても、人と深くつながることはできるし、孤独に陥るとは限らない。友人であったり、所属するグループ*1であったり、自分が一人でこもれる空間・時間であったり、そういうものが満たしてくれることはたくさんあるように思う。
そういうふうに言うと、年上の人たちから「あなたは若いからそう思うのよ」といわれることがある。そうかもしれないし、違うかもしれない。でもどっちでもいいのである。事実、私はその人より若く、こう感じていて、それを変更するつもりもない。私はその人たちが生きてきた、今よりずっと厳しい家族規範の社会がよかったとは思わないし、これからもそうなればいいとは思わない。年下の人が、私と同じように感じたほうがいいと思わない。
ただ、マンガなので、ファンタジーとして楽しむぶんには良いのではないだろうか。というわけで、フケ専枯れ専の人よりも、小津の映画好きの人にオススメです。
同じくフケ専少女マンガはこちら。
- 作者: ヤマシタトモコ
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2009/09/08
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- 作者: 谷川史子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/10/19
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三本とも、男性は大学教授。浮世離れして、ちょっと生活に余裕があって、インテリで、暇そうなイメージなんですね。でも、学内政治とか、学閥とか、ぎらぎらした部分を見ると、ちょっと違うなあと。会議と雑務におわれ、飲み会で憂さ晴らすのがリアル大学教授の日常ではないかと思います。まあ、これもファンタジーということで。
*1:社会運動のグループ含む
2010-04-29
■[漫画]中村珍「羣青(Gunjo)」(上)
- 作者: 中村珍
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/02/25
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*ネタバレありです。(読むつもりがある人は、先に漫画からどうぞ)
一部では、ずいぶんと話題になっている漫画である。主な登場人物は、2人の女性。1人は、貧困家庭で暴力を振るわれて成長し、その後、結婚した夫からも暴力を振るわれていた(通称「メガネさん」)。もう1人は、お金持ちの家に育ったレズビアンで、メガネさんにずっと片思いをしてきた(通称「レズさん」)。メガネさんは「暴力をふるう夫を殺してほしい」とレズさんに頼む。そして、レズさんは実際に夫を殺す。レズさんが、公衆電話から、メガネさんにその報告をしている場面から、この物語は始まる。2人の逃避行を描いた漫画である。
ミヤマアキラが、2人の関係性に焦点をあてた、すぐれた評を書いている。
ミヤマアキラ「ヘテ女(じょ)とレズのあいだには、深くて暗い溝がある」
ミヤマさんの評でも触れられているように、作品のなかでのレズビアンの表象の仕方をめぐって、議論も起きている。
私がこの作品で異様だと思うのは、「選択した殺人」という罪を描こうとすることである。メガネさんも、レズさんも、社会的に不利な立場に置かれてきたことが、繰り返し強調される。同じ設定で、「レズさんが、追い詰められたメガネさんを救おうとして、夫を殺す」という描き方もできたはずだ。実際に、漫画で描かれるような状況ならば、メガネさんが夫を殺そうとすることには、同情の余地もあろう。また、レズさんの殺人も、メガネさんを<愛するがゆえに>ということで、共感が呼べるかもしれない。読者は「彼女たちが、殺人を犯したのは仕方がなかったのだ」と感想を持つようなストーリーである。
だが、中村さんは、こうした読者の解釈を拒むかのような描写を繰り返す。圧巻なのは、第五話である。メガネさんは、レズさんの彼女と話している。レズさんと彼女は、ささやかで幸せな生活を二人で送っていた。だが、メガネさんが、レズさんに殺人を依頼したため、その生活は壊されてしまった。レズさんの彼女は、メガネさんの首を締めながら「…アンタ…自分が悪いのに、詫びの言葉が言えんのか…?」と聞く。漫画では、メガネさんのモノローグで「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」と語られている。だが、吹き出しの中の、メガネさんが実際に話しているセリフは「謝りません…どうせ彼女を…返せません……」となっている。そのあと、彼女は、レズさんに「…なあ、…アンタの好きな子…、罪悪感ではち切れそうよ。わかってて犯ったん…?あの子が”殺させた人”になっちゃったんは、アンタがホントに殺したからよ…。」と言う。
さらに六話では、メガネさんは、自殺未遂をしたレズさんにこう聞く。「…ねぇ、どうして本当に…殺したの。『どこかに逃げて一緒に暮らそう』みたいな手案は、殺人よりも難儀だった?」レズさんはこう答える。「あーたが『助けて』じゃなくて、『愛してるわ だから殺して』を選んだから、…それってあーしのせい?真に受けたあーしのせーなの?」その後、レズさんは慟哭して「知りあわなきゃ、絶対幸せだったのに〜…」「旦那じゃなくてお前が死ねよ!!!」と叫ぶ。
さまざまな社会的要因の中で、2人はある男性の殺人に至った。だが、そうした事情はすべて捨象され、2人にとっては、自分たちの選択こそが問題になる。メガネさんは、自分がレズさんに依頼したという選択を悔い、罪悪感に押しつぶされている。レズさんは、メガネさんに「お前のせいだ」叫びながら、第八話では「自首するよ」と一人で罪を被る申し出をしている。メガネさんに、許し続け罪を被り続けるつもりだったが、許せない、だがそばにいたい、と告白する。その後、この逃避行をやめ、「償えば、元に戻る」として、自首するというのだ。だが、道に出て職務質問を受けそうになったとき、レズさんはとっさに逃げ出してしまい、メガネさんと警官に背を向け駆け出す。メガネさんが「どうして?」と問うと、レズさんは、捕まる前に「あーたの手紙を読み返したくて」と答えるのである。こうして、レズさんは、また殺人者であり続けることを自分で選んでしまう。
2人の逃避行は、何の先も見えないものである。「殺人」という一線を越えてしまったがために、<法外>へと投げ出されてしまう。もし、<法内>の枠組みに戻れば、逮捕される。虐待家庭を生き延びたこと、DV被害者であること、セクシュアルマイノリティであることの困難には、(決して十分でなくても)支援があり、他者とのつながりがある。救いがあり、未来がある。だが、それはあくまでも<法内>にいる限りの話だ。<法外>で2人は、次々と他者とのつながりを切り、暗闇へ向かって走って行くしかない。そして、それは2人にとっては、あくまでも、自らの選択の結果なのだ。
では、2人にこうした行動をとらせる作者の中村さんが、露悪主義であり、法外者の美学を描いているのだろうか。一方で、上巻最後に収録されている第十話では、レズさんの彼女と、その母親のエピソードが描かれる。レズさんがいなくなった部屋に訪れた母親は、父親とともに彼女がレズビアンであることを受け容れていることを告げる。<法外>にあるレズさんやメガネさんとは対照的に、彼女は<法内>の世界で、家族とのつながりを持ち生活し続けるであろうことが、「幸せ」と見えるように描かれている。中村さんは、<法外>の世界を魅惑的に描くことはない。ただ、そこが深い闇であると描きながらも、それでも2人を追い込んでいくのだ。
この物語は、いったい後半でどう展開して行くのだろうか。前半でここまで緊迫感を持ち、盛り上がった以上、生半可な終幕では読者は納得しないだろう。安易な悲劇も、救いも、うそ寒いなものになってしまうだろう。中村さんは、どうやって、最後まで描き切るのか。私は、この上巻だけでも、傑作だと思うが、後半が楽しみでもあり、不安でもある。
