富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

八月二十四日(土)快晴。海にて服部幸雄『歌舞伎ことば帖』岩波新書読む。本丸物(ほんまるもの)名題(なだい)立役(たてやく)など意味するところは判ってはいても下手すると読み方が危なく(みようだい、たちやく)先日の橘屋の連獅子でも舞台にきちんと敷かれしを所作板と云ふ事など意外と知らぬことばかり。著者はかなり言葉に慎重ながら実悪(じつあく)を述べる下りにて立役に対して敵役が存在しその敵役も時代とともに「悪」の魅力(仁木弾正など)を生じさせ、そこから「実をやりこめる悪」や「実と見せて悪、悪と見せて実」なる悪の英雄(実悪)が生まれたと述べるのだが、悪から「この流れに棹さして」実悪が誕生したという表現は間違ってはいないか。悪が徹底した悪のままでなく実悪となってしまうことは芝居が成れていく過程の必然であり、けして「流れに棹さして」に非ず。突然ピアノの練習を始める。四半世紀ぶりではチェルニー40番で指動かず譜面を読めず。還暦までにショパン、を目指すか(笑)。Lansonのシャンペンとマンダリンオリエンタルの苺のケーキ(お勧め)にてZ嬢誕生日を祝ふ。台湾の歌手阿Jay周杰倫のCD聴く。「最後的戦役」なる曲あり映像かなり彼方此方にて宣伝に流れておりこのVCDがCDについているのだがタイにて(ロケは明らかにコッポラ『地獄の黙示録』の幼稚園版)ベトナム戦争よろしき戦場にてベトコンと思われる敵相手に戦い、つまりは米軍にて、その兵である阿Jayが同じ部隊の親友(ともに兵役につき苦労も重ね自らの命も助けてくれた兵隊)をこの戦争にて亡くし挫けたまま戦場を後にする、という余りに陳腐な物語にて、ベトナム戦争も30年も経てばベトナム戦争も知らずに生まれた若造にかういふ利用をされてしまふのかと思うと忸怩たるものあり。そもそも台湾の阿Jayがかうして歌手などしていられることじたい台湾がそしてアジアが平和であるからであり、かりに徴兵制のある台湾であるし兵役と友情を歌うにしても戦場をベトナム戦争にして自らが米軍に属し「北」相手に戦ふ設定は幼稚甚だし。またこの映像が若者に「恰好いい」と映ることがダサく且つ恐ろし。