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2014-02-04

[][][]know/野崎まど/ハヤカワ文庫 03:39 know/野崎まど/ハヤカワ文庫を含むブックマーク

目次
I . birth
II . child
III . adult
IV . aged
V. death
epilogue


★★★★☆
『興味のある人になら勧められるレベルの本』

 メディアワークス文庫で2009年にデビューした野崎まど氏が、ハヤカワ文庫で出した第一作。それも内容はMWで書いていた現代ファンタジーとは一風変わっているような、いないような。

 本作は舞台を「超情報化社会」とした、近未来SFです。
 生活上のあらゆるものが情報となって、ネットワーク上に流れている。そしてほとんどの人間が、「電子葉」という超小型の電子端末を脳に埋め込んでいる。そんな2081年の日本。
 人々が超高性能のスマートフォンを脳に埋め込み、しかも生活上のすべての情報がその端末から接続できるネットワーク上に存在する、そんな社会といえばわかりやすいでしょうか。

 主人公はそんな超情報化社会で、異例の若さで出世を遂げた情報庁のエージェント。
 プログラマーとしての素養もある彼は、情報社会を支える重要なソースコードの中にある時小さな違和感を覚えたのでした。それを追ううちに主人公がたどり着いたのは、この社会を支える大きな陰謀と、その更に裏にある更に大きな計画。
 前半で広げに広げた緻密な世界観を、急展開の中でぐるりぐるりと絡め取って一点に収束させる怒涛の展開はさすがです。これはまさに「SFのセカイ系」。
 「攻殻機動隊」とも「マトリックス」とも似つかない近未来SFの土壌に、野崎まど氏お得意のどんでん返しをふんだんに盛り込んだ作品と言えましょう。

 近未来の超情報社会を扱ったSFは多いですが、この作品で私が面白いと思ったのは以下の点
 ・情報社会と平行する形で階級社会が成立している
 この世界では、「全ての情報がネットワー上にある」代わりに、それをすべての人が扱えるわけではありません。自分より上のクラスに対しては相手の情報にアクセスすることも自分の情報を隠すことも出来ず、自分より下のクラスに対しては自分の情報を隠すことも相手の情報にアクセスすることもできる。多くの人は平民だが、高額納税者や官僚はそれより高クラス、犯罪者や生活保護を受けるものは低クラスに位置づけられる。
 ・「電子葉」の作用は脳と神経にしか及ばない
 一部シーンを除いて、非現実的な武器やアクションが飛び交う、ということがメインにならない。つまり、「情報と情報処理」のみを現実離れさせて、他には突拍子もない舞台装置をほとんど持ち出さないということで……これ、SFとしては結構ハードル高いことです。そしてそれだけに「情報と情報処理が持つ可能性」という主題は非常にシャープに描かれます。
 ・別の仮想世界が存在するのではない
 これは従来のSFではあまり一般的でなかった設定かと思います。攻殻機動隊、マトリックス、そしてソードアート・オンラインなども、言ってみれば「ヴァーチャル・リアリティ(=VR)」を持っています。これに対し本作の設定では、現実世界の方に非現実の「メッセンジャー」や「検索エンジン」を持ち込める。これらの描写は近年の「オーギュメンテッド・リアリティ(=AR)」の急発達と関係が深いでしょう。
 ・逆説的に情報化社会と対照的な世界に着目している
 これはあまり書くとネタバレになるのではっきりは書きませんが。情報化社会のマスターとも言うべき存在が、情報化社会から取り残された「非科学的な世界」に非常に重点を置いていることが印象的でした。また、「最も高度なコミュニケーションは対面の会話」という、原点回帰ともいうべき発想を持ちだしていることも特筆すべき点でしょう。
 いくつか箇条書きにして挙げましたが、まとめて言えばこの世界観は「高度情報化だけを推進した世界ではどんな技術が主流になるか」という着眼点で組まれているのだと思います。

 また、野崎まど氏の他の作品と敢えて比較を試みます。
 「優秀な割に怠惰でけだるげな、それでいて洒脱でアウトローな面もある主人公」というキャラクターは彼の作品には新しいように思います。ちょっとだけ海外小説っぽいかも、と思いながら読んでいました。途中で中学生の女の子が出てきたり急展開に入ったりしたところで、「あぁ、野崎まど小説だ」と思いましたが……(良くも悪くも)
 今までは現代を舞台にした小説を書いていた氏ですが、本書は世界観からまるっきり新しく構築しているようなSFで、この点でも「この人はこんなこともできるのか!」と圧倒されました。今までの作品では「キャラクターや出来事」の単位でどんでん返しをするのが氏の定番でしたが、この作品では「世界観」の単位でどんでん返しをしていると言ってもいいでしょう。


 情報技術、脳科学、社会問題、宗教、これらが絶妙な化学反応を見せる作品です。


























 ここから下は本筋に踏み込んだネタバレ感想です。
 既読の方のみ、どうぞ。















know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)



















 シナリオ的には納得の行く内容で、世界観とキャラクターを最後には一つに調和させる素晴らしい内容だったと感じます。SFだけに前半では舞台を説明する要素が多くなるわけですが、その中に散らされる微妙な違和感を後で上手く利用するのも筆者の十八番ですね。
 今思えば、主人公が「クラス5の権力を振りかざしたいけ好かない奴」なのも、クラス0の哀れな少女も、全てを見透かしたような道終先生も、電子葉移植の年齢による格差も、変わる世界への願望を読者自身の中に湧き立たせるための種だったのではないかとすら思えます。

 が、雰囲気に関して言えば、最初の海外小説のような硬派な空気をもう少し維持して欲しかったなという感じが。あの変態のレベル*があまりにキャラとして安っぽく、「あぁ、悪い方のラノベ臭だ……」と一人でテンションだだ下がりでした。大体、あそこまでの人格破綻者に特権階級が与えられているというのがあまりに突拍子もなさすぎます。

 そして私が仰け反ったのはまさにラストシーン。
 普通1から10まで語りたいストーリーだったら、1,2,3,……9,10と行って、エピローグに11か20あたりを持ってくるわけじゃないですか。
 それがですよ。1,2,3……7,8,9と来たと思ったら、10が無い。そしてエピローグでいきなり100まで飛んでいるという。何を言ってるかわからないと思うけど本書を読んだ方ならきっと分かってくれると思います。この物足りない感じ。
 「この余韻が絶妙!」という読者も……いなくはないのかなぁ……とにかく私は「ちょっと投げっぱなしがすぎるんじゃないの……」という不完全燃焼の空虚感が残ってしまいました。
 でも野崎まど氏がこれの関連作品を書いたらきっと買うだろうなぁ。むしろ出してほしいとすら思ってしまう私がいます。

know

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