神保町寄り道日記

昨日は鈴本へ行こうと前々から心に決めていて無事実現したところで、今日は神保町へ行こうと前々から心に決めていたのだった。というわけで、一日中神保町のことで頭がいっぱい、日没後、わーいわーいと神保町へ突進した。岩波ブックセンター書肆アクセス東京堂と、いつものコースをたどって、ホクホクとお気に入り喫茶店へ出かけて、買ったばかりの本をめくって、閉店時間まで長居。またもや大興奮の1冊があって目がランランとなってしまって、帰宅後もソワソワだった。

  • 雑誌「みすず」3月号

前回の読書アンケート特集と同様、潮田登久子さんの写真の表紙が美しい。部屋の本棚に前月号をたてかけて飾って悦に入っていたのだけれども、今月もまた同じように飾ってしまいそう。300円で安い道楽である。池内紀森まゆみさんの連載や、田中眞澄「ふるほん行脚」なんていう連載もあって、定期購読したい衝動にかられるけれども、こうして岩波ブックセンターで表紙を見てから買うのもオツだなあと思う。

さて、今回は山田稔さん目当てで購入。岩波ブックセンターの店頭でペラペラとめくって、山田稔さんの文章があって「おっ」となって、ちょっと立ち読みしただけでぐっときた。去年年末に買った、みすず書房大人の本棚》シリーズのフィリップの『小さな町で』を大事に大事に読んだばかりで、思っていた以上に余韻が大きくて、ぼーっとしていたばかり。「みすず」の山田稔さんの文章は、その『小さな町で』のあとがきにちょろっと登場する「シモーヌさん」に関するもので、寄り道した喫茶店でさっそくじっくりと読みふけって、静かにジーンとなった。

川上弘美の書評:http://book.asahi.com/review/index.php?info=d&no=5300

岩波ブックセンターでは岩波の PR 誌「図書」を持ち帰って、これもところどころで面白かった。こうして、毎月手に入れたり入れ損ねたりの偶然性にゆだねるようにして読むことになるのが、 PR 誌のおもしろさだとあらためて思った。

書肆アクセスでは念願のスムース文庫の新刊2冊。八木福次郎さんのインタヴュウさっそく読みふけってさっそく面白くて、去年やはり書肆アクセスで買ってとても面白かったのが、八木福次郎さんの『書国彷徨』(日本古書通信社、2003年)で、読んだきりになっているので、また折に触れめくらないとと思ったり、やはり去年書肆アクセスで気まぐれに買い始めて以来ハマってしまって軽く収集していた、日本古書通信社の「こつう豆本」、今まで買った豆本の整理をしないとと思ったり、さっそくいろいろと刺激的だった。それにしても八木福次郎さんのすばらしいこと、こういう人がいるというを知るだけでも嬉しくて、南陀楼綾繁さんらインタヴュアー陣も実に見事なのだった。林哲夫さん編の読書日記も、ペラペラと読んで、さっそく面白い。阪神大震災の廃棄のなかから偶然発掘されたという一読書人の日記、なにかとぐっとなるのだけれども、ペラペラと読んだだけで、ウェブでどなたかの読書日記を読んでいる感覚とよく似た面白さがある。この読書人は1914年の生まれで東京の大学を出て戦後は関西にいて、八木福次郎さんは1915年生まれで戸板康二と同い年、……などと、戸板さんの同世代の人たちだなあと、すぐに戸板康二の方へと頭が行ってしまうわたしだった。

sumus」のサイト:http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ohgai/5180/

唯一購読しているメルマガ、「書評のメルマガ」(http://www.aguni.com/hon/review/)、新しい号が届いたばかりなのだったが、一カ月ほど前の「書評のメルマガ」で南陀楼綾繁さんが紹介していた本で、とても面白いらしいのでぜひとも読まねば! と思いつつも、あちこちで落ち着かなくて、モタモタしているうちに一カ月が過ぎてしまった。しかし、この一カ月間、ますます『虚業成れり』が面白くなってくる事態にあちこちで遭遇していて、待っていてよかったのかもしれぬ。満を持してという感じで東京堂で購入。東京堂ではほかにも欲しい本が何冊もあったのだけれども、今日は『虚業成れり』1冊に集中することにした。

そして、寄り道した喫茶店で上記の書物をめくったあと、さてさて、と『虚業成れり』を読み始めた。題名通り、「呼び屋」の神彰(じん・あきら)の生涯なのだけれども、神彰が「呼び屋」を始めるきっかけが、昭和29年に荻窪のアパートで、長谷川四兄弟の三男、長谷川濬が口ずさんだロシア民謡であった……。と発端が長谷川濬のこの書物、これがもう、面白くて面白くて、目がランランだった。丹念に神彰を追っている著者の筆致の底になんともいえないエモーショナルなところがあって、神彰を追う面白さとともに、その筆致に酔うという面白さもある。有吉佐和子と結婚するところまで一気に読んだ。あんまり急ぎ過ぎないように気をつけつつ、この週末はこの本と過ごすことになりそう。この本には戸板康二もちょろっと登場している。この本に戸板康二が登場していることを実は事前に知っていたのだけれども、登場した瞬間、やっぱり大感激だった。いろいろな人物が交錯する群像劇的おもしろさも随一。とにもかくにも、この週末はこの本と過ごすことになりそう。

デラシネ通信:http://homepage2.nifty.com/deracine/