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成毛眞ブログ RSSフィード

2008-12-06

 『チェンジング・ブルー』

| 19:12

チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る

チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る

このブログにおけるサイエンスノンフィクション部門で本年ナンバーワンの本である。しかも著者は日本人なのだ。日本人がこのような本格的なサイエンス本を書けるとは思ってもいなかった。英訳されれば外国でも間違いなく売れる本だ。スムーズな章立て、快適なスピード感、語り口のうまさ、膨大で正確な知識、非センセーショナリズム、過不足のない図版、丁寧な注釈と索引、どれをとっても素晴らしいのひと言だ。

巻末の人名索引で紹介されている科学者は65名。注だけで37ページ、図版出典一覧は別立てで6ページもある。ちなみに本文は344ページである。価格は2800円。これは本当にお買い得だ。興奮しすぎて、何の本なのかを紹介するのを忘れていた。本書は長期的な気候変動のメカニズムとそれを解明した科学者たちの物語である。

第1章で海底堆積物の意味について説明がある。映画「グラン・ブルー」を引き合いに出し、ビジュアルで一気に読者を引き込んでゆく。第2章ではその海底堆積物から得られる情報の一つに太古の海水温があると明かされる。実際には酸素同位体を使って測定するのだが、その発見の過程や理論も丹念だ。しかも、同位体を計測する質量分析器の構造から、同位体比とその表記方法まで取り扱う丁寧さだ。科学入門書を読みなれた読者であれば、この2章まででブルーバックス1冊分の分量があるいうことに気づくだろう。

第3章では巨大氷床の形成とアイソスタシー、氷床の融解と海面上昇。第4章では地球の公転軌道と離心率・歳差や自転軸の首振り運動がこれまた丁寧に説明されたうえで、ミランコビッチ仮説まで一気に持っていく。このようにかいつまんで紹介すると大変難しい本のように思えるが、じつは説明の手つきがしっかりしているので高校生であれば充分に理解できるであろう。

本書は13章立てであるから、読者はさらに9章の物語を楽しめることになる。中盤は気候における深層水循環と循環停止のメカニズム、後半は気候変動における変化率の話が中心となる。最終章で著者は気候変動はヒステリシスで説明することができるため、問題を放置することは劇的に短期間で気候変動をもたらす可能性があると警告する。

本書ではもちろん取り上げていないが、人類史的にも太古から現代まで気候変動は、ヤンガードリアスと人類の農耕開始の因果関係黒海汽水湖化とノアの洪水伝説の関係など、興味深い仮説が出されている分野だ。それらの本をより楽しんで読むためにも本書は必携だ。

高校生や大学生も読むべき本だ。本書は単に気候の科学を紹介した本ではない。科学者たちのさまざまな逸話を紹介しながら、科学における知識の積み重ねという美学を教えてくれる。この本に触発された若い読者の中から何人もの大科学者が生まれるに違いない。

残念なのは噴火の影響についてはあまりページが割かれていないことだ。1815年のタンボラ火山について数ページ触れているのみだ。7−7.5万年のトバ火山のような「破局噴火」の影響についての解説が欲しかった。扱いが小さいのは、長期の気候変動を考える上では噴火はトリガーにしかならないのだからかもしれない。

ともあれ、トバ火山については、このときの劇的な気候変動で人類の総数は壊滅的に減少し、子孫を残こせたのが1000−1万カップルになり、それが我々のDNAに多様性の欠如として刻み込まれているという仮説がある。このときに人類に寄生していたシラミやヘリコバクターピロリ菌のDNAにもその痕跡が認められるという。ちなみにこのトバ火山はTNT換算で1テラトンの規模だった。広島原爆にして7億発弱が爆発した規模なのだ。

yusuke0307yusuke0307 2008/12/07 04:31 こんにちは、また書かせていただきます。
最近僕は、文学の王道にでも軽く手を出してみようという気持ちで、シェイクスピアをちょびちょび読んでいます。
シェイクスピアは有名すぎて敬遠してたのですが、読んでみると、面白くてやはりこれだけ有名ならば、これだけ人をひきつけるのか!と感動しましたね。
でも、こういうせりふの本を読むと、普通の本を読むときに慣れるまで時間がかかって苦労しました。
最近は、歴史文学にしか手をだしていなかったので、今回の成毛さんの書評のような、科学系の本を読みたかったのでありがたいです。
今度読んでみます。
今回はこれくらいにしておきます。ではまた。

Warai_to_tomoniWarai_to_tomoni 2008/12/08 00:33 成毛様
いつもお世話になっております。
成毛様がそこまで押されるということは、この本は即買って、取り合えず積んどきます(笑
気候変動ということで最近の話題だと丸山茂徳さんがいますが、この本も実は買って私の机の横に積んでありますが、成毛様はこの方の主張はいかがでしょうか?
丸山氏については一年以上前の「選択」の1ページ目に記載されていたその地球温暖化に対する懐疑論に注目して以来、著作を出さないかとフォローしていたのですが、ご存知の通り今年5月に「『地球温暖化』論に騙されるな!」が上梓されて以来、何冊か立て続けに本を出されてプチ地球温暖化懐疑ブームみたいなものが起こっておりますが、成毛様はこの動きについて何か考えておられることはございますでしょうか?
実は私も地球温暖化懐疑論者で、最近も飲み屋でその話題で盛り上がっておりました。
もしよろしければコメントお願いいたします。

founderfounder 2008/12/08 09:08 山田さま、残念ながら丸山茂徳さんの本は読んでおりません。気候変動については、温暖化論者の本も懐疑論者の本も基礎的な理論が書かれているものがほとんどなく、理解できておりませんでした。本書ではじめて体系的にそれを理解することができました。理解できたことは、このままで本当にまずいということでしょうか。占い師的にいうと、あと100年かけて温暖化が進み、その後ヒステリシスを一気に駆け下りて30年あまりで氷河期に突入という感じかと思います。

個人的には温暖化問題よりも、石油そのものが気になります。石油をエネルギーとして燃やしてしまって良いのでしょうか。石油は化成品の原料でもあるわけで、将来枯渇したらどうなってしまうのでしょう。石炭で代替できるのでしょうか。

Warai_to_tomoniWarai_to_tomoni 2008/12/09 14:59 成毛様
ご返事有難うございました。
本書はそれほどまでの良書なのですね。これは買いということで早速探し始めましたが、中目黒の中規模程度の書店では置いてないようですね〜

石油の動き、私も気になります。ただ今後もCommodityとして基本的にMarketにその運命を委ねることは避けられないと考えています。
思いっきり概算すると、現在、確認可採埋蔵量は1.2兆バレルですが、これは1バレルの値段が1ドル動くごとに1.2兆ドルの富が動くことになります。1.2兆ドルといえば、ご存知の通り日本のGDPの約1/4であり、逆に1バレル4ドル動くと日本のGDPと等しい富が変動することになります。このように考えると、この膨大な潜在的な富を各国、各企業が黙殺するわけなく、今後も経済的、政治的イシューの一つであり続けると思います。
代替エネルギーが石油を駆逐するのか、、、その可能性について、ぶっ飛んだアイデアも含めて是非このBlogで考えていきたいと思いますので、ぜひ、関連書籍の書評をお願いします(笑 
私は丸山氏の書籍に目を通してみます。

Warai_to_tomoniWarai_to_tomoni 2009/01/12 14:02 成毛様
本書読了しました。
本当に素晴らしい本でした。よい本というのは読みながら著者が言いたいことが完全に頭の中に映像で流れてくるものだなぁと思いました。
久しぶりに最初の1ページから最後の1ページまで魅かれる本に出会えました。
そして残りの章が減るごとに本当に、もどかしい気分になりました。
これを読んだ中学、高校生が理系の扉を叩き大学者になるはず、という気持ちにも納得です。

年末年始に旅行先で読み始めたのですが、同行者を放っておいて一人ホテルのロビーのソファーで本書を読んでる時間が本当に至福でした。読書の楽しみもまた思い出せて頂きました。
今、私もこの本を周りの知人に勧めまくってます。
そして、勢い余って私は二週目の読書を開始しています。

本書をご紹介頂き、本当に有難うございました。
今後とも面白い本のご紹介お待ちしております。

なかのひと