ブログトップ 記事一覧 ログイン 無料ブログ開設

成毛眞ブログ RSSフィード

2009-01-31

『ハチはなぜ大量死したのか』

| 00:20

ハチはなぜ大量死したのか

ハチはなぜ大量死したのか

ブログ更新が遅れたのは、この本に手間取っていたからだ。読みにくかったわけではない。唖然とするほど内容が膨大で、理解しながら読むためには時間がかかったのだ。アメリカで蜂が大量に失踪していることを知ったのは一昨年の2月のことだった。テクノバーンの記事で読んだのだ。本書はその蜂の大量失踪の謎を追った本である。

2007年春までに北半球から1/4の蜂が消えた。アメリカでは240万コロニーのうち80万コロニーが壊滅した。300億匹の蜂が死んだのだ。ヨーロッパでも南米でも蜂は壊滅した。ここでいう蜂とは養蜂家が飼っている蜜蜂のことだ。蜜蜂の数が減ると、養蜂家が破産し、蜂蜜の価格が上がるという程度の被害ではすまない。蜂が受粉することで実をつける作物が壊滅することになる。ほとんど全ての果樹類やキュウリなどのウリ類、コーヒーカカオも昆虫受粉が必要だ。オリーブブドウ以外の果実が口に入らなくなるかもしれないのだ。

著者は蜂を壊滅させた犯人探しをするのだが、結論をいうと人間が作り出した複合的な環境変化だということになる。驚くのはその複合的な環境変化のほとんど全てを本書は丁寧に説明していることなのだ。農薬についての章では、農薬と蜂の関係だけでなく、農薬グループごとの作用メカニズムの説明までしてくれるので、それだけで1冊分の本に匹敵する。もちろん、他の要素としては寄生虫ウイルス、蜂の労働環境におけるストレス強化などはじめて聞く話が満載だ。

本書は犯人探しの前に、蜂という生物はどういうものなのかを説明する。いくつかエピソードを紹介しよう。アフリカの蜂蜜ハンターは「ミツオシエ」という鳥を利用して蜂の巣を探すらしい。この「ミツオシエ」は蜂の巣が大好きだが、攻撃する武器を持たない。そこで蜂の巣を見つけると人間の前に現れて騒ぎ立てて蜂の巣まで案内するのだという。

働き蜂は数ヶ月の命しかないが、幼虫である5.5日間に体重は1300倍になる。蜂に爆薬の匂いがするところに砂糖水があることを覚えこませるのに2日間しかかからない。その蜂を利用して地雷探査をさせると97%の精度で地雷発見することができる。もう「ガッテン」スイッチ押しまくりだ。

カリフォルニアのアーモンド農場で大量に蜂を使っていることは知っていた。そのアーモンド農場が蜂にストレスを与えていることも知っていた。しかし、その規模とメカニズムは全く想像すらできないものだった。アーモンドの花の受粉可能性が最大になるのは開花日であり3日後には受粉可能性はゼロになる。アーモンドは同じ木に咲いている花同士では受粉できないので、2種の品種を植えてある。そのため蜂は3日間に大量の木を行き来して、全ての花を受粉させる必要があるため、巣箱はいわば過飽和の状態で大量の置かれることになる。

問題はその規模なのだ。信じられないことにアーモンド農場の広さは2800平方キロだ。カリフォルニアの中央部に最大幅500キロのベルトが作られた。そこには短期間に150万箱の蜜蜂の巣箱が設置されることになる。2007年には蜂が大量死したので、養蜂家はアーモンド農場に巣箱一個を200ドルで貸し出している。つまり、アーモンド農場は受粉料だけで300億円ほどの費用を支払うことになるのだ。この蜂箱のレンタル料はアーモンド生産コストの20%になるのだという。

それでは世界で最も危険な農薬を無制限に使っている中国のアーモンド農場はどうなっているかというと。虫は当然死滅しているので、人間が木によじ登って受粉をする「人間蜂」を利用している。ともあれ、少なくとも本書の読者は中国産蜂蜜はもう絶対に食べなくなる別の事実も紹介される。

本書は単なる犯人探しサイエンス本ではない。テーマは蜂の大量死なのだが、福岡教授のいう生態系の動的平衡に目を向けさせることこそが目的だと思われる。素晴らしい出来の本だ。

ところで、最後のほうで紹介されるイチジクのお話などもあまりに濃すぎて、もう止めてと言いたくなるほどだ。しかも、筆者は本文だけで書ききれない情報を取材していたためか、付録を4本追加している。その1本だけでも1冊の価値があると思うほどだ。

founderfounder 2009/02/01 00:37 一昨日、本書に手間どるのことがわかったため、とりあえず何か書こうかと思い、自分としては星一つの本の書評を書き始めたのだがやはりダメでした。面白くない本の紹介なんて書く気がおきません。というわけで、星をつけるのはやめておきます。

kouchan0813kouchan0813 2009/02/01 01:07 「e-hon」の方、成毛さんが仰るとおり、その日その日に発売される本が紹介されていてとても参考になります。これからは成毛さんが紹介される本ばかりではなく、自力で"良書"と巡りあえるように心掛けたいです。
 それにしても、書評のときの文章量が凄いです。折り目を付けた頁を辿りながら書評を書いていらっしゃるとは思うのですが、書き上げるのにはどのくらい時間が掛かるのでしょうか? 私の場合だと、半日は潰れそうです。

founderfounder 2009/02/01 01:41 kouchan0813さん、この書評の場合はほぼ10時半から書き始めて12時アップで1時間半です。いつもより時間は掛かりました。じつは、このブログを書き始めたときに比べると書く時間は半分になったかもしれません。月に何本かの商業的な書評をお引き受けしているのですが、それぞれ時間がかかってました。訓練というか、継続はすごいと思います。生産性が倍になっちゃいました。ちゃんとした読者がいる状態で「書く」というのはスゴイことです。

future_bookfuture_book 2009/02/01 02:52 成毛さんのその考え方でいくと、大多数の人間が何をするかを考えることになるわけですから、常識を疑うというかそんなところにつながるのではないかと考えました。まあ考えすぎかもわかりませんが。。

なかのひと