『気候と人間の歴史・入門』

気候と人間の歴史・入門 【中世から現代まで】

気候と人間の歴史・入門 【中世から現代まで】

専門家からは批判があろうが、著者はアナール派というよりも、ブローデル派とでもいうべき歴史学者だ。気候がどのように歴史に影響を与えたかというアプローチであり、それはフェーブルとは異質で、まさにブローデル的である。

ともあれ、本書は「11世紀以降」の「ヨーロッパ史」に気候が与えた影響、または気候変動が作りだしたヨーロッパ人の活動史についての入門書だ。けっして「地球規模」での「有史以来」の気候変動によって引き起こされた歴史ではない。

以前に紹介した『ノアの洪水』は、紀元前5600年ころに黒海に地中海の海水が流れこんだという仮説だ。その結果、インド・ヨーロッパ人の拡散が起こったというのだ。黒海に海水が流れ込むためには、黒海の水面が地中海のそれよりも低かったためで、その原因はヤンガードリアス期などの急激な気候変動にあったとする。この仮説はアメリカ人の地質学者によってたてられたものだ。

いっぽう、フランス人の歴史学者によって書かれた本書は、どちらかといえばローカルな気候変動とその影響である。太陽黒点の変動であるマウンダー極小期などの説明はあるものの、どちらかといえばワイン用ブドウの収穫など、いわば「気候陰謀説」のようなアプローチではなく、ゆったりとしたリズムで読み込むことができる本だ。

CO2で地球が温暖化するかとどうかについては政治的な駆け引きもあり、いっさい口をはさむつもりはない。バカバカしい限りであるといっておこう。この数十年でメタンを含む人工のガスが大量に作り出せれたのは事実であり、その結果、いつの日か温暖化か寒冷化のどちらかに地球の気候を変動させるであろう。どんなに懐疑派ががんばっても、過去に気候変動は大噴火などでも引き起こされたという事実だけは隠すことができないからだ。

問題は気候が変動したあとに人類にどのような影響があるかだ。温暖化を語る人々も、ほとんどのは温暖化後または寒冷化後の穀物生産などの食料についての考察だけだ。しかし、じっさいには温暖化中または寒冷化中に大規模な移動や戦争などが起こるであろう。アフリカの現状をみても、飢餓による死亡者よりも、場所とりによる紛争死亡者のほうが多くなる可能性がある。歴史を学ぶ必要がある理由である。

長期的にみると、日本が穀物輸出国と穀物輸入国のどちらと親密であるべきかは明らかであろう。普天間で食料を依存している国に不義理をし、大デレゲーションを引き連れて食料ライバル国に行くのは、長期的には何のメリットもないだろう。

それにしても、無制限の国債発行ともとれる総理発言については呆れはててモノも言えない。さすがに国債消化の懸念もでてこようし、長期金利があがる可能性がある。結果は円高+株安+デフレの継続であろう。もちろん自分も含めてなのだが、もしかすると日本はヤバイ選択をしてしまったのかもしれない。