『江戸・東京 下町の歳時記』

江戸・東京 下町の歳時記 (集英社新書)

江戸・東京 下町の歳時記 (集英社新書)

ちょいとこの書評を書くのが遅くなっちゃったんで、正月も残りわずかになっちまった。正月最後の日ってのは1月20日の「二十日正月」ですな。7日「七草」、11日の「鏡開き」、15日は「小正月」で16日は「藪入り」です。

ところで、江戸っ子の大晦日は寝ちゃいけない。初日の出がぱーっと上がると、迎春ならぬ「御慶」ということになるんだそうで、ここで初めて絹物に着替えるんだそうです。「お蚕ぞっき」といって、ふんどしからなにから全部絹物にするんだそうです。

江戸で雑煮ってのは、ハゼ雑煮。干したハゼでダシをとって、餅と小松菜と「なると」と鶏、それに柚子をちょいと入れるもんだそうですよ。

子供たちは「家族合わせ」などという札遊びや、羽子板をして遊ぶ。羽子板の羽根には「無患子」(むくろじ)の実が使われて「子供が患わない」という縁起物。

ところで初夢は「一富士、二鷹、三茄子」につづけて「四扇、五煙草、六座頭」とあるらしい。それから「姫始め」ってのはエッチなもんじゃなくて、1月2日にはじめて柔らかいお米を食べることをいったんだそうです。


本書の第1章を少しだけ紹介してみた。薀蓄を知るというよりも、江戸風情を楽しむための本としておすすめしたいので、あえて江戸弁らしき文で紹介してみたのだ。ともかく本書の文はホンモノの江戸弁だから、読んでいてもどこかおめでたい感じがして、まさにお正月にうってつけの本である。

もちろん歳時記だから12か月揃っていて、読んでいてまことに飽きないのである。すでにこの本を読まずして、落語や江戸歌舞伎の世話事を楽しむなかれという風格がある。この分野で定番の本になるであろう。それもそのはず、著者は浅草の「荒井文扇堂」の4代目のご主人だ。イラストも写真も本文デザインも素晴らしい。今年2冊目のおすすめ本だ。


ところで、毎年「文扇堂」で名入りの扇子を作っている。いま一番気に入っているのは「狸寝入り」の扇子だ。