「外務省ホームページの正しい利用法」 月刊「フォーサイト」 2002年5月号 「遊んで暮らそう」 


http://www.fsight.jp/
外務省の海外安全情報ホームページがリニューアルされる。国別に「危険情報なし」から「退避勧告」までの6段階で危険度をあらわしているこのページによると、例えばイギリスは危険情報なし、アフガニスタン退避勧告である。この段階方式をやめるというのだ。もっぱら皮肉な方法でこの情報を利用してきた僕にとっては不便になる。

この3月、2週間をかけてモロッコ王国を家族で旅行してきた。この国の危険度はレベル一の「注意喚起」。同ホームページには「モロッコでは強盗、殺人等の凶悪犯罪の発生は比較的少なく、治安状況は概して良いとされていました。しかし最近では、置き引き、スリなどの犯罪が増加しつつあり(中略)なお、ラマダン期間中、特に日没直前は、帰宅を急ぐ乗用車が交通法規を無視することが多く、交通事故に十分気を付ける必要があります」と説明がある。

この発表のあった昨年9月以降、モロッコへの日本からの観光客は激減した。もちろんテロ事件の後遺症もあるのだろうが、危険情報が出ると旅行会社がツアーを計画しにくくなるのだ。しかし、ある程度旅慣れた人には好都合。異国情緒を楽しむにはあまり同国人旅行者がいないほうがよいし、ホテルなども安い。ただし交通事故には注意しよう。お財布は胸のポケットにいれて、と。

98年の8月にはバリ島に旅行した。5月のインドネシア首都暴動のすぐ後で外務省の危険度は高かったが、ドルベースで収入のあるリゾート地バリ島は安全であると判断した。為替は半年前の5分の1、地元レストランの朝食代は30円だった。つまり、外務省の危険度1は格安にして優雅な旅行のガイドラインなのだ。

一方、件(くだん)のホームページによるとアメリカは「危険情報なし」。ただし、「2000年のロサンゼルスの犯罪発生状況は、7年振りに悪化し、殺人545件(前年比二27.6%増)、婦女暴行1410件(同11.5%増)、強盗15442件(同8.8%増)の凶悪犯罪が発生しています」とある。アメリカにおける殺人、強盗などの凶悪犯罪は1年に140
万件、日本の約100倍なのだ。あな恐ろしや。

閑話休題。モロッコにはいつもどおりカメラを持っていった。望遠ズームと広角ズームの一眼レフ2台とスライド用のフィルムを30本。合計1000回のシャッターを切ったことになる。家族が写った記念撮影的なカットは10数枚だけ。残りは雑多なものを撮るのだが、いくつか押さえているテーマもある。イスラム圏では民家のドア。幾何学模様しか許されていないため、デザインが微妙に異なり美しい。市場では果物屋や香辛料屋などの品揃えを真正面からとる。土地柄色見本である。

ロッコ人は写真を撮られるのが嫌いと聞いていたので、人物写真はほとんど望遠を使った。大道芸人などはチップを要求するが、遠くから望遠で撮るとわからない。あまりにみみっちいかしら。

帰国後、スライドは全てマウントしてもらい、その中から50枚だけよいものを抜きだして映写用のホルダーに入れておく。そして、不幸な友人が来たら家族全員で説明をしながら映写することになる。真っ暗な部屋で大きく壁に映し出された極彩色の異国風景。スライドを送るたびに聞こえる機械音が期待をふくらます。

中東問題を原因にして起こるテロや、中央アジアの一部の国を除くと、イスラム圏は凶悪犯罪が少ない。詐欺にしても日本の悪徳商法などから比べれば子供だましだ。現在レベル一の危険度と指定されている国でお勧めはエジプト。ルクソールでの観光客テロ事件は5年前の97年、それ以来観光客を巻き込む事件は発生していない。ロサンゼルスなんかより、はるかに安全だと僕は思う。出掛ける時は、スライドフィルムを忘れずに。

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この文章を書いてから8年もたった。外務省の渡航情報は大雑把だった国別ではなく、国ごとの地域別に分かれている。たとえばイランも「退避勧告」の地域もあれば、「十分注意」のテヘランまで4地域に分けて記述されている。

カメラはすべてデジタル化した。デジタル化してから旅行したイタリアでは3000枚も撮影している。いま旅行したい場所はピンポイントでリオのカーニバルだ。

ちなみに最新の外務省によるアメリカに関する安全対策基礎データの犯罪発生傾向をコピペしておこう。

アメリカにおける2009年の主要犯罪(殺人、強姦、強盗、傷害、住居侵入、侵入盗及び非侵入盗。以下同じ。)の認知総件数は、FBI(米連邦捜査局)の統計によると約1,064万件(放火を除く)であり、そのうち殺人、強姦、強盗、暴行及び傷害の凶悪・暴力犯罪は、前年より5.3%減少しましたが、約132万件に達しています。これに対して、2009年の日本の刑法犯認知総件数は、警察庁警察白書によれば約170万件であり、そのうち凶悪・暴力犯罪は約6.35万件となっています。アメリカの総人口が約3億700万人であるのに対し、日本の総人口は約1億2,751万人と半分以下であることを考慮しても、アメリカにおける犯罪は日本と比べ格段に多いことがわかります。
アメリカでは自分の身は自分で守るというのが常識であることを認識し、常に十分な注意を怠らないことが肝要です。」