ほとんど寝ずに本を二冊読み終えて、朝の8時半に移動開始。家族で兄の車に乗り込み、父を篠栗というところで下ろした後、三人で門司へ向かう。兄の車でドライブなんて空前絶後。車は、数年前までマツダのなんとかだったのが、今回は日産のX-Trailという車種に変わっている。「前の車かっこよかったのに」と文句を言うと「車高の低い車に乗るには、もう腰がしんどい」とのこと。そんなもんなんでしょうか。

どこかのサービス・エリアで休憩の際、「いきなり団子」発見!数日前に『逃亡くそたわけ』を読んでいて、この福岡弁ばりばり小説に登場する変なネーミングの団子を、食べてみたかったんだわー。熊本名産らしいんで思い出しもしなかったけれど、こんなところでお目にかかれるとは。予期せぬ出会いとはこのことね。サツマイモと餡子がまったりの、なんかふくふくと丸い体型を育てそうな、ひなびて甘い「団子」。ネーミングは謎。そもそもなぜ団子なのでしょう。

11:00には門司港着。空は晴れ渡り、風もさわやかな海辺の街に母と妹を下ろし、兄は車から降りもせずそのまま帰ってゆく。あたしたち、家族揃ってのんびり海外旅行なんて、きっと一生ないのね。

宿泊先の門司港ホテルに荷物を下ろした後、門司港レトロ散策に出発。そもそも今回の旅行は、結婚式云々もあるけれど、母が次の絵の個展を福岡でやりたいとのことで、その下見につきあうのが主な目的。父は割と自分のことしか考えられない人なので、まあ私が付き合うほうが無難でしょう。ということで第二候補地の門司港にやってきたのだった。

小学校時代を小倉で過ごして、めかり公園あたりに遊びに来ていたせいもあるのか、しみじみ心安らぐ海辺の風景。自然の海岸線は心ひかれたりそうでもなかったりするけれど「港」は好きだ。門司港ホテルができたおかげで、帰省先のない元小倉区民は落ち着き先を得ることができたのだった。

98年9月以来の再訪。多からず少なからずの観光客。街が、無理のない育ち方をしているようで嬉しい。新しくても古いものと調和する建築物、汚れたり傷がついたりしてもさまになるデザインもあるのだと、再訪して改めてわかる。ここの再開発は、2001年の「土木学会デザイン賞」最優秀賞を受賞しているんですね。工業化とバブルを経て街が魅力的なのは、歴史を手放さなかったからでしょう。

アートスペースを中心に、レトロ地区一巡り。出光美術館で「皇帝を魅了したうつわ―中国景徳鎮窯の名宝―」展。龍をたくさん見る。龍って、見てると踊りたくなるよね。清代以降、筆に精彩がなくなっていくのが見て取れる。

ホテルのテラスで結婚式をやっていたのでしばし見物。あまりの強風で、神父さんが聖書をテーブルに置いたそばから、風で吹き飛ばされていた。マイクが風の音を拾う。せっかく終わるまで風と直射日光に耐えたのに、チェックインした部屋の真下にテラスが見えた。お昼寝の後、下関側に落ちていく夕日と関門海峡をぼんやり眺める。母はスケッチ。幸せだなあ。

夕食は多少けちって、ホテル内ではなく、ホテルのプロデュースする「Aletta」という近くのビュッフェスタイル・レストランに食べに出かける。大いに飲んで食べて、夜景を楽しむ。現実的な問題として、お金をあまり落とさずにすみ、落とした金以上の満足がある、という意味で、良い観光地だと思う。

前夜全く寝ていないせいで、森博嗣を読み通そうと思いながらすぐに寝てしまう。98年にこのホテルに泊まった際、森先生にメールを出していて、その時の文面はこんな感じ。

アルド・ロッシの設計したホテルに泊まるのは二度目だったのですが、
このホテルが彼の遺作と聞いたせいか、
たくさん、亡霊(しかも美しい)を見てしまいました。

しかも書いている感想は『マクマホン・ファイル』についてのもの。全くねえ。

三度目も、森博嗣を何か抱えてくることにしよう(05/18)。