2008-06-19 murmur 06-19
■04 訛の強いフロント、おしゃべりな店員、マリファナ・パレード

05/03/sat. 4:00pm〜7:00pm
午後4時ごろ、ホテルへと到着。ローマではメディテラネオという四つ星のホテルに泊まることにした。贅沢だとは思いつつ安くはない指定代金を払ってホテル指定をした。なんとなく自分たちの選んだホテルに泊まりたい、というのがあった。もし旅行会社指定のホテルに泊まって「気にいらない」とか「水が出ない(いまそんなのないか」とか「虫が出た(ネットでそういう苦情があった)」とかがあったらやだな、というのがあったので。自分で選んだホテルならそれもまあしょうがない、と納得できるだろう、といういかにも僕らしい発想で、一日ひとり3,000円〜6,000円の指定代金をわざわざ払った。それもローマだけではなく、フィレンツェ、ヴェネチアのぶんもである。あわせると二人でたぶん7,8万近い余剰経費になっていると思う。こういうのってたぶん本当はバカバカしいんだろうと思うのだけれど、しょうがない。僕という人間は、どうしたってそういう人間なのだから。
ホテル・メディテラネオは、テルミニ駅のすぐ近くでショッピングにも観光地へのアクセスにも便利な場所であった。部屋も清潔で品がよく、とくに朝食が美味しかった。フロントの愛想が悪かったことをのぞけば文句の付けようがなかった。彼は僕よりも英語が下手で、ほとんどイタリア語にしか聞こえなかったがそれはよく聞くとたしかに英語だった。大声でほとんど怒ってるような口調で話す。イタリア人はたいてい声が大きく、通じている通じていないをあまり気にせず一方的に話すため、日本人の僕からすると怒っているように見えただけで、おそらく彼には悪気がなかったのだろうと今は思う。だから愛想が悪かった、というほどでもなかったのかもしれない。だが、おそらく彼はあまり英語が得意ではないことを引け目に感じているのか、あまり誠実にコミュニケーションをしようとしないように僕には感じられた。ま、でも、それも気のせいかもしれない。
部屋に荷物を置くとすぐに通りへ出て散歩へ。右も左もわからないし、言葉も通じないわけだが、どういうわけか不安はまったくなく、はじめてのローマということで長旅の疲れも忘れてけっこう歩いた。通りに止めてある車や石畳の街並み、大きな宮殿に通りのカフェ、行き交う人々の声、青い空。遠い異国にいるというよりも、壁に掛けられた絵の中に吸い込まれて、絵の世界の内側へ来てしまったような、ぼんやりとした虚脱感がある。まだうまくこの世界にからだがなじめていないような感覚だ。
途中でスポーツショップに入り、ラツィオのユニフォームを買った。その店は夫婦でやっているらしく、僕らが店に入っても無視してふたりでおしゃべり続けていた。僕がお目当てのラツィオのユニフォームを見つけ「これを買いたいんだ」と言うと、途端に態度が変わり、店の中からあれやこれやと出してくる。「私はユニフォームがほしいんであってTシャツやなんかはいらない」と言っても、英語が通じないのか、全部買わそうという押し売りなのか、単に人がいいのか、とにかく大声で話しながらいろんな商品をすすめ続けた。ようやく彼らを説得してユニフォームを買った。結局「ユニフォームを買いたい」と言ってから20分くらいかかった。イタリア人というのはほんとうに話が好きなくせに人の話を聞くのが嫌いな人種だとつくづく思った。明日の夕方、スタジオ・オリンピコでラツィオ対パレルモの試合を見る。チケットは日本で取った。チケットはホテルのフロントに預ける形になっていて、チェックインのとき、さっきの無愛想なフロントに、投げつけるように渡された。でも別に彼にだって(フライトアテンダント同様)悪意があるわけではないのだ。ただ日本と少しだけマナーとサービスの概念が違うだけなんだ。
レプブリカ広場では、おそらくマリファナ合法化を叫ぶ若者たちのデモ行進(といっても日本の労働団体がよくやるようなシュプレヒコールなどはなく、大音量でラップ・ヒップホップを流す大型トラックの荷台に乗り込んだ者たちとそのあとを歩く者たちが、体を揺らしビールを飲みながら歩いていた)に出会った。彼らはその後、街を練り歩いてなにか(おそらくマリファナ合法化)をアピールしていた。
サマータイムの加減で日が長い。歩き疲れて通りのカフェでビールを頼みテラスで飲んでいるとき、すでに7時を過ぎていたが、太陽はまだ高く、空はただただ青く輝いていた。僕はぬるいビールをちびちび飲みながら、石畳の町並みや、隣のテーブルのおそらくドイツ人観光客であろう家族や、上空を舞うヘリコプターなんかを見るとなく見つめては、自分がいま、日本から5000kmはなれた場所にいること、地球を半周していまイタリアにいることを、想った。しかしそれがいったいどういうことなのか、まだ自分自身の身体的実感を伴ったものとしては感じられなかった。夢を見ているのとも違う。それは長年空想して来た場所に実際に放り込まれたような感覚。虚像なのか実像なのかが、その輪郭がつかめない感じだった。やたらと街の色が濃かった。
ぼんやりとしたからだのダルさと時差ぼけとぬるいビールの酔いのなかで、くっきりとしたローマの街の色に自分がなじめていないんだな、と感じた。日がすこし翳り、建物の陰に隠れると、途端にすこし肌寒く感じた。ローマの夕暮れが石畳に落とす陰影は、やはり濃かった。







