育児について思うこと

先日菅原裕子"子どもの心のコーチング―一人で考え、一人でできる子の育て方"(PHP文庫,2007)を読了した。最近書店に行くと平積みになっておりだいぶ話題になっているようだけど、購入したのはずいぶん以前のこと。最近はいわゆる育児本は読まなくなったのだけど、数週間前に自宅安静になった後、自分の体調が悪くて余裕がないためか、ポコンたんへの小言が増えたのを自覚したのをなんとかしたいと思って、未読本の山から発掘してきたのだった。ちなみに自宅安静1週間を過ぎた頃から体調はだいぶ安定してきたので、直近はおそらく5年間で初めてではないかと思われるくらいの余裕をもってポコンたん対応を実現できている。

ポコンたんとのかかわりのなかで気付いたことだけど、育児というのは新生児期はもちろん2歳くらいまでは親や周囲のオトナが"保護"することが中心で、3歳を過ぎた頃からは徐々に後方支援にまわり、子どもの判断や選択を"支援"したり、可能な範囲で子どもの夢を実現する環境づくりなどをすることではないだろうかと思っている。なので、本書の内容には基本的には賛同できることが多かった。

共感できた内容のひとつは、親が叱るときは叱っているのではなくて、自分の思うように子どもが行動しないことについて怒っていることがほとんどであるということ。確かにイライラをぶつけてしまう、という怒り方は、身に覚えがたくさんある。そういう怒り方をしてしまうと、自分もマイナスな精神状態になってしまう。我が家では家族が一緒に過ごす時間は平日はほんの数時間しかないので、できるだけ笑って家族全員が心地よく過ごしたいと思うので、本書に書かれているとおり瞬間的に湧いてくる怒りのスイッチを切り替えるように心がけたい。というよりも、そういう風にイライラをぶつけてしまう状態というのは、今回のように体調が悪かったり、よほど疲れていたり、仕事で何かあったりというような子ども以外の要因があって親の側も余力がない証拠なのだから、そちらの根本的な理由を抱え込まずに済むような過ごし方をしたいものだ。

本書のポイントのひとつに"○○してはダメ"ではなくて、できたときに"○○すると、嬉しいわ"とか"助かるわ"などと伝えることが重要ということがある。いわゆる誉める育て方でもなくて"私はどう思う/感じるか"という"アイ(I)メッセージ"で伝える、ということである。本書では、誉めることも誉められる行為に誘導するからダメ、否定語や禁止語は使わないように、と書かれているけれど、正直現実の育児の場面で誉めることや、禁止語と否定語を一切使わないことなど実現可能なのか大いに疑問だ。

否定語や禁止語を使わない方がよい理由というのは、オトナが先回りして指示してしまうと子どもの自主性が育成されないという、まさしく2010年6月23日のエントリ"ポコンたんと朝の出来事"に書いたような、子ども自身に体験させることや自分で気付かせることの大切さにある。それ自体は同意できるし、否定語や禁止語ばかりを連発して育てられた子どもはきっと委縮してしまうだろうなということも想像できる。本書に書かれいてるコミュニケーションというのは、要は子どもをひとりの自立した人格として接しなさいということだと理解できる。ただ、どんなによいコミュニケーション方法であってもそのかかわり方一辺倒になると、必ず弊害があるのではないだろうか。現実社会は多様な場面で構成されるので、幼いころから様々な場面、様々なコミュニケーションに出会った方が乗り越える力や"一人で考え、一人でできる子"として育つのではないだろうか。実際の育児の場面では、誉めることや、否定語や禁止語を一切排除することなど不可能なので、杞憂かもしれないけど。あと、小さいころから不条理な扱いも受ける機会を"時には"もつことも、意外に大切なのかもしれないとも思う。

私自身は、小さいころから両親から一個の人格としての扱いを受けてきて、何かについて否定されるときも比較的論理的な理由をきちんと説明されてきた。そうやって自分の考えや主張を尊重して育ててもらったことには、大いに感謝している。ただその反面で、特にある時期まで、自分自身の主張や考えを頭ごなしに否定されたり、不条理な扱いを受けることには、非常に弱かった。一方でポコンたんを見ていると、時には相方氏から不条理な厳しい扱いを受けたり(ある意味では相方氏の方がポコンたんを対等に扱っているともいえる?)、生後3か月半から保育園に通い社会生活を営んでおり、親や祖父母のみならず保育園の先生方やシッターさん、ファミリサポートさんなどの大勢のオトナに加えて、数か月差〜数年差の異年齢の大勢のお友だちと関わりながら育っているので、私などには及びもつかないタフさを身につけているなぁとつくづく感心してしまうことがある。

育児にこれが正解ということはなくて、何でもアリなのだろう。ポコンたんがまだゼロ歳だった頃、ハハオヤになったばかりの私に実家の母が言ってくれたことは、"ポコンたんと一緒にいるときに地震が起こったら、護ろうとするでしょ?その気持ちがあればいいのよ"ということだった。

子どもは実に色々なことを吸収して、たくましく育っていくものだと思う。その力を信じてあげることが、もしかしたら一番大切なのかもしれない。つくづく思うのは、子どもの成長過程ほど面白いものはなくて、ポコンたんとの関わりの中で自分自身が組み換わっていくことも実感しているので、"親になる"という貴重な体験をできていることに心から感謝している。

子どもの心のコーチング―一人で考え、一人でできる子の育て方 (PHP文庫)

子どもの心のコーチング―一人で考え、一人でできる子の育て方 (PHP文庫)