ダンスマン

ここ数年、E・C・ベントリー『トレント最後の事件』について喋る機会があって、そのたびにどうも話が合わねえなと思っていたが、先日書棚の奥から引っぱりだして理由がわかった。読んでなかった。
予備知識は沢山あった。恋愛と推理の有機的結合だとか、ミステリー『黄金時代』の先駆とか、ウォール街の大立者が死ぬとか、色々。いつのまにか読書経験にすりかわってたのね。気をつけなくっちゃ。
記憶の『トレント』だと、まず主人公のトレントは警部。最後の事件だからもう定年直前。「恋愛と推理の有機的結合」なので老いらくの恋。相手は被害者の未亡人、喪服の似合う儚いタイプ。 全部違うじゃん。トレント画家だし。若いし。未亡人は儚くない。どうしてこんな間違いに至ったかというと、クロフツが怪しい。『フレンチ警部最大の事件』やら『山師タラント』やらそれっぽい字面のがいっぱいあるから。たぶん犯人はその辺り。いや俺なんだけど。
で、傑作。さすがに名作の誉れ高いだけあって、まったく現役で通じる。件の「恋愛と推理の有機的結合の先駆」というのは今現在ではまあどうってことも。しかしプロットの切れ味はもちろんのこと、人物・会話共練りこんであって、手ごたえを感じる。おなかにたまる小説です。
さておき、被害者の名はマンダスンというのだが、途中脳内でダンスマンと綴り変わってしまって補正が大変だった。ウォール街に君臨する金融界の王者。アフロ。
トレント最後の事件 (創元推理文庫)トレント最後の事件 乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10(5) (乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10) (集英社文庫)