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富士山、ヴォルケイノ?

2017-06-16

僕ラブ16戦利品感想

キミの目の前には雨空が広がっていて キミの歩んだ道は青空となる/koiwaslie/逢崎らいさん

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個性豊かなAqoursメンバーの中でもひときわアクが強く、いつも何となく狂言回し的な立ち位置に当て嵌められることの多い、津島善子。堕天使ヨハネを自称する彼女の抱えた断絶と孤独、見ている世界の景色とその価値観を、丁寧でかつ、情感たっぷりに写し取った青春小説です。いやはや、何たる迫力。文庫本サイズで100頁に満たない手頃な量感ながら、読了後には持った手にずっしりとした重みを覚える秀作でした。

普通/特別、青空/雨空、内/外、明/暗、主体/客体、善子/ヨハネ、歩く道/歩いた道……無数の二項対立を盛り込んだ物語は、ですがその実、多くの事柄について書いている訳では決してありません。むしろ全篇を通じて、とあるひとつの感覚について繰り返し語り続けていると表現してみても過言ではないでしょう。幾重にもアングルやフォーカスを変えて語り直されていく言葉の連なりは、さながら次第に増幅され、より遠くにまで届いていくさざ波のよう。一部、脱字や独特の文章表現が円滑な読書体験を阻害してしまっている箇所はありつつも、大胆な改行を駆使した紙面に踊る文章は、決めどころでしっかりと決まる、シャープさとリリカルさとを兼ね備えたものばかり。些か俗っぽい表現をお許し頂くならまさにエモい、心の奥の柔らかな領域に、結末へ至るまで一文毎じわじわと突き刺さってくるような道行きでした。本当にワンシーンたりとも必要でない場面がない構成美には、思わずうっとり。

ともすると表層的な人物造形という観点では、原作での描かれ方とは若干の乖離があるように感じられるかも知れないですが。いや。道化を演じる彼女の奥底に、当然根差していてしかるべき薄暗さを掬い上げ、丹念に再構成と洗練を試みたこの筆致は二次創作としてあまりに真摯。作中で取り扱う人間関係をほぼ花丸のみに絞った作劇も英断で、難しいこと抜きに、一介のよしまる小説としての百合的な味わいにも非常に濃密なものがありました。はあ……尊い……。自覚と、対話と、少しの前進。青春劇に僕が求めるもの、すべてを原作の文脈上で描き切ってくれた力作でした。堪能しました。

2017-06-09

僕ラブ16戦利品感想

音ノ木坂学院の死/綾部小説館/綾部卓悦さん

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「ラブライブ!×本格推理小説」を謳った、実に野心的な長篇小説。クローズド・サークル、死体消失、テン・リトル・インディアンズ、読者への挑戦状……と。二次創作ながら、うるさ型のミステリマニアでも感嘆すること請け合いの、「本格的な」本格ミステリとして仕上げられた逸品です。

物語は原作の本篇終了から七年後。久々の再会への期待と一抹の気掛かりを胸に、絢瀬絵里が母校、音ノ木坂学院での同窓会に合流する場面から始まります。白状すると僕はこういった「〇年後」といったifストーリーがあまり得意ではないのですが、各メンバーとも、しっかりとした分析に基づき、原作の描写やキャラ付けの延長線上に違和感のない形で「未来の姿」を構築されている点に、まずびっくり。変わったように見えて変わらない部分、変わらないように見えて変わった部分。丁寧でかつ配慮の行き届いた交流シーンに気付けばすっかり引き込まれ、事件発生前のこの時点で、既に傑作たり得る兆しをひしひしと感じていました。……が、まさかこれが核心だったとは

ネタバレになるのでもちろん多くを語る訳にはいかないのですが、個人的に本作最大の離れ業は「原作の物語との時間的な隔たり」を導入することで、本格ミステリとしても、ラブライブ!二次創作小説としても、作品自体に奥行きと意外性、更には強烈な批評性までを持たせてしまったことだと考えます。あえて大袈裟な言葉を使うなら「μ'sの物語を無根拠に永遠のものと捉えて、アニメの時間の中だけで生きようとする読者」は、この作品で扱われる「最奥の真実」には決して辿り着けない構造となっているのです。作者の綾部さんがどこまで自覚的にこの構造を作り上げられたのかはわかりませんが、少なくとも同じくミステリ二次創作を試みている人間としては、強く突き刺さってくるような衝撃を感じました。ある見方をするのであれば、この到達点は僕が九作の短篇連作で行き着いたものとは、ほとんど正反対とも取れる結論でもあったからです。

あとがきでは「二次創作としての出来は下の下」「この話ならラブライブでやる必要はなかったのでは?」と謙遜を仰られていますが、そんなまさか、とんでもない。古き良き「本格」のコードを忠実になぞった展開は楽しくて仕方ない一方、読み手によっては食傷めいた感覚を呼び起こすかも知れませんし、個々のトリックや動機だけを切り出してくると、いずれも古今東西のミステリで一度ならず見覚えのある手筋ではあるのですが。それでもなお本作が優れた娯楽性とメッセージ性、新奇性を獲得し得た背景では、間違いなく原作に語られた要素を換骨奪胎する、二次創作的な想像力が大きな役割を果たしていると言えるでしょう。

そしてまた、一々の推理を支える細やかなロジックの気持ち良さと、ある事象をロジックとして自然に機能させる根回し・土台作りの周到さと来たら。この部分にももちろん原作のキャラクター性などが存分に活かされており、不自然さを感じる描写も、そのほぼすべてが後にしっかりと回収される誠実な作りに脱帽。流麗で、誤字や誤用もほとんどない文章の建て付けまで含め、アマチュアの作品とは思えない完成度となっています。

さて、ここまではひたすら讃辞を綴ってきましたが。プロのミステリ作家を目指されているというお言葉に感銘と敬意を表し、あえて気になった部分についても少しだけ。

前段まで二次創作的な意義についてはむしろそれを是とする旨を書いてきたものの、とは言え、一部には多少の違和感を覚えるような箇所もありました。具体的に一例を挙げるなら第四章の最後、急転直下を迎えて以降、一同が深刻な疑心暗鬼と対立に陥る展開など。「極限状態」「七年後」というエクスキューズ、そして作品全体を貫く主題によってある程度まで整合性と必然性を担保されてはありつつも、やっぱり些か性急に過ぎる印象も。これはほとんどミステリが抱える宿痾みたいなものなんじゃないかとも思うんですが、プロットの都合が先行することで、人物の思考や行動が歪められてしまっているような危惧が若干ながらありました。この点は、本作でも数少ない「ラブライブ!二次創作」であることがややマイナスに作用している要素でないかなと。あとあとのことを思うとこの展開は不可欠ですし、これが仮にオリジナル作品であったなら何の引っかかりも感じなかった気がするんですが、前述の通り僕は本作の真価を「ラブライブ!二次創作」であることだと考えているので……うーん、悩ましい。

最後は殆ど言いがかりみたいな感じでしたけれど(本当にすみません……)、逆に言うと、こんな些事にさえ目が行くほど細かな鑑賞にも堪え得る傑作なんです。絶妙なバランス感覚の上に成立した、二次創作ミステリ界隈の新たなメルクマールを是非多くの方に知っていただきたいと心の底から思います。

すげえやべえぞ(語彙の消失)

2017-06-04

僕ラブ16戦利品感想

Wake up! Wake up! Wake up!・海に行くには早すぎる/東京クリームソーダガール/だびれおさん

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しんどい心をほんわりと解きほぐしてくれる、にこぱな同棲料理本。卒業後、ともに暮らし始めたにこちゃんと花陽ちゃんが互いを想い合いながら作ったお料理の写真・レシピを中心に、やわらかなショートストーリーまで添えてしまうという、あまりにも尊い発想に支えられた名品です。サークルチェックの段階で存在を知り、新刊・既刊併せて購入したのですが、これは「良くぞ見つけた!」と自分を褒めてやりたい気分。

あとがきでもご謙遜とともに触れられていますが、紹介されているお料理は至って素朴。いずれも一度は口にしたことのあるようなメニューで、調理工程にも特別複雑な箇所はないものの、いや、この「当たり前に普段食べている感じ」の食事風景が作品のコンセプトにまさしくドンピシャ。ふたりが送る実生活の一幕を、まるで実際に垣間見ているかのようなリアリティは、小説とも漫画とも異なる料理本という表現形式ならではでしょう。ショートストーリーの行間から自然に伝わってくるふたりの心理に、可愛らしく華やいだ、にこぱなという関係性の息吹を確かに感じました。

相手の食べるものを作り、相手の作ったものを食べる、「食事」という有りふれた営みの持つ本質的な意味と力を再発見できる傑作。とりあえず「だし巻き玉子のサンドイッチ」と「肉みそのおにぎり」は簡単そうですし自分でも作ってみようと思います。「手軽」と「手抜き」は隣接した言葉のようで全然別物なんですよね。なんてそんなことまで連想しつつ。ごちそうさまでした。

2017-06-03

僕ラブ16戦利品感想

ジュラライブ!/恐竜まくのうち/奴の背中を狙う者さん

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何だこれは。

……と言うのが、初めて存在を知ったときの正直な感想。一億年前の世界を舞台に、μ’sと良く似た九頭の恐竜達が繰り広げる冒険を描いた漫画作品。Twitterでサンプルをお見掛けしたときからもう気になって気になって仕方なかったのですが、これは怖いもの見たさで手に取ったことを恥じてしまうほど、しっかりと全体が構成された良質なストーリー漫画でした。最後には思わず涙も。

何と言ってもやはり、前置きなし、説明なしでいきなり展開される「恐竜μ’s」の画面の力がまず物凄い。あとがきによると「穂乃果=ティラノサウルス」はまた別の方の発想であるとのことですが、いや、とは言えこの出オチと受け取られてもおかしくないネタで真面目に物語を成立させてしまう、この構成力は非凡のひとこと。原作から一番遠く距離を取ったところからお話を始めておきつつ、最終的には原作が持つもっとも根源的な空気感へと着地させる手腕はさながら熟達の奇術を目撃しているようですらありました。

優れて少年漫画的な紙面の作り方も読みやすさと迫力とを見事に両立させており、「ピィ!」としか喋れないニコちゃんという、あからさまにギャグめかした要素まで終盤のドラマに活用してくる抜け目のなさと来たら。もう!

「何でμ’sが恐竜に……?」「って言うか髪の毛が……?」「ええ……?」みたいな違和感はどんなに当たり前みたいな顔をして描かれたところで、最後まで払拭はできませんが() むしろこの違和感、ツッコミ不在のスリルがフックになっているからこそ、結末のアクロバットにこうも強く惹かれたのかも知れないな、なんて風にも思ったりして。だとすると、ある意味でこのレビューは興趣の一部を削ぐことになってしまっているかもわからずヒヤヒヤものなんですが。いや、イロモノはイロモノでもただのイロモノじゃないんだってば! と、どうしても声を大にして言いたかったんです! わー!

2017-06-02

僕ラブ16戦利品感想

幾百億秒の呼吸/Airport Nonet/kosakiskiさん

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恐らく本邦初のラブライブ!二次創作短歌集。取扱注意レベルのエモさのかたまり。作者さんのブログは以前から拝見しており、その細部まで考え抜かれ研ぎ澄まされた言葉の煌めきにいつも眩暈を起こしていたのですが、一冊の歌集として纏まると、これはちょっとモノが違いました。一冊読了するのに休憩を要すこと二回。それくらい強く、消耗するほどに心を揺さぶる歌集です。

門外漢が滅多なことを言うものじゃないとは思いつつ、やっぱり短歌って、五句三十一音という「縛り」の文学だと感じるんです。僕自身が試みているミステリという表現形式とも共通してくる話なんですが。おのずから「縛り」を設けた文学に挑む醍醐味とは、いかにして設定した「縛り」の範囲内に留まりながら「縛り」を超克した領域に手をかけられるか、ということではないでしょうか。この点についても『幾百億秒の呼吸』は物凄い。硬/軟、具象/抽象など様々な角度からアプローチが行われていく中で、僕が特に衝撃を受けたのが台詞形式で組み立てられた歌の存在でした。現代の短歌でこれがどこまで一般的な手法なのかは判じかねますが、僕の中に元々あった短歌へのイメージが一変するほど驚かされたのはひとまず事実で。更には台詞どころか会話形式になっているものまで! やばい! 無理! エモい!(語彙の消失)

また一冊を通読することにより、μ’sの辿ってきた物語をはじめから終わりまで改めて体験し直せる全体の構成も素晴らしい。終盤になってくると歌い上げられる心情が作中人物のものからコンテンツを楽しむファンのものへとシフトし始め、最終的には「彼女たち」と「僕たち」、どちらの立場に寄り添った歌なのかすら曖昧に溶け合っていく、このダイナミズムに涙しました。僕のオススメは一度順番通りに読んだあと、巻末から今度は逆順に読み直していくことです。味わい深さが更に増すこと請け合いですので、騙されたと思って是非お試しいただきたいところ。そしてこれは実際、イベント当日の打ち上げで少し試してみたのですが、何人かで鑑賞会をするのも本当に盛り上がります。作歌意図の解釈について意見交換するのはもちろん、黙読ではなく、音読することで受け取り方の変わる歌も数多く、また様々な発見が必ずあるはずです。

一冊目から長くなってしまいましたが、いや、本当に良い本でした(恍惚) 当日手に入れられなかった方も、作者さんのブログ( 「幾百億秒の呼吸」 http://svapna.hatenablog.com/ )で何首か読むことができますので是非そのエモさの片鱗に触れてみていただければと思います。

……ところで、この歌集を用いて百人一首みたいに歌がるたをやったら楽しいのではないか、という妄想が止まらないのですが。誰か!