琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

2009年度「ひとり本屋大賞」発表

本屋大賞(公式サイト)

 「本屋大賞」のノミネート作を僕が独断と偏見でランク付けするというこの企画。今年もなんとか間に合いました。
 というわけで、とりいそぎ、id:fujiponによる「2009年度ひとり本屋大賞」の発表です。こいつセンスないなあ、と苦笑されるなり、実際の結果とのギャップを比較するなりしてお楽しみいただければ幸いです。


第10位 ジョーカー・ゲーム(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20081214#p1

ジョーカー・ゲーム

ジョーカー・ゲーム

この作品、「斬新」ではないのかもしれませんが、「スパイ小説」としてすごく魅力的ではあります。

ただ、僕としては、「このボリュームで1500円+税はちょっと高いかな、というのと、結城中佐はさておき、そのほかの「D機関」のメンバーに個性が感じられないのはちょっと寂しい(中佐に言わせれば、スパイが「個性」を求めるのがナンセンス」なのかもしれませんが)。それぞれの話での主人公の個性がないことが、この短編集を「みんな同じような読後感が残る話」にしているような気もします。

けっして悪い小説ではないのですが、ミステリ枠なら『カラスの親指』とか『完全恋愛』を入れたほうがよかったような……


第9位 モダンタイムス(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20090405#p1

モダンタイムス (Morning NOVELS)

モダンタイムス (Morning NOVELS)

この小説を読みながら、僕がずっと考えていたことは、「伊坂さんはいつから村上春樹になっちゃったんだ?」ということでした。いや、デビュー当初から「村上春樹の影響」が語られてきた作家ではあるのですが、この作品のテーマって、まさに「壁と卵」、「暴走するシステムに潰される個人」ですよね。そしてそれが「暗喩」ではなく、まっすぐに、真剣に語られています。ラストなんか、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』みたいだし。

今年はさすがにもう「卒業」でもいいんじゃないですかね、伊坂さんも。


第8位 悼む人 (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20090123#p1

悼む人

悼む人

なんというか、ものすごく居心地の悪い小説だったなあ、というのが僕の読み終えての印象でした。

周囲の死に傷つき、強迫観念に駆られるように「悼み」の旅を続ける青年と、癌におかされながら、青年が戻ってくるのを待つ母親と別れた恋人の子を身ごもってしまった青年の妹、「悼む人」から目を離すことができなくなってしまった夫殺しの女……

この「舞台設定」の完成度の高さには、正直辟易してしまいました。

もう、「癌で人が死んでいく小説」には、食傷気味ではありますし。

そもそも、この「悼む人」こと坂築静人が、僕には理解できません。

個人的には、第140回直木賞を同時受賞した『利休にたずねよ』のほうが、ずっと素晴らしい作品だと思います。



第7位 流星の絆 (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20090319#p1

流星の絆

流星の絆

展開には意外性がありますし、読後感は爽やか(なだけでもないのですが)。
テレビドラマのキャスティングを思い浮かべながら読むと(僕はドラマは全然視ていなかったけど)、すごくイメージしやすい。
でもまあ、「うまくまとまりすぎている」ような気もするんですよね、これ。

東野さんならこのくらい書けるよね、と思われてしまうのはちょっとかわいそうではありますが。


第6位 テンペスト (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20090310#p1

テンペスト  上 若夏の巻

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 下 花風の巻

テンペスト 下 花風の巻

いや、なんというか、「せっかくこの長いのを最後まで読んだのだから、それなりに良い作品だったということにしたい」という、ロシア文学を読んだあとのような気持ちになる小説ではありますが、「歴史小説が好き」で、「歴史小説に嘘が書いてあってもいちいち気にしない」人であれば(狭いストライクゾーンだな……でもこの本15万部売れてるらしい……)、「読んでみてもいい」かもしれません。
でも、購入する前に、上巻の真ん中くらいを何ページかパラパラめくってみたほうがいいですよ。

今回の「本屋大賞」のなかで最大の問題作(笑)。
でも、下から順番に挙げていくと、意外と真ん中くらいにくるんだよなあ。


第5位 出星前夜(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20090217#p1

出星前夜

出星前夜

とても興味深い作品ではあるのですが、僕がどうものめりこめなかったのは、この作品の主役のひとりである寿安の行動が「仲間を見捨てた」ようにしか感じられなかったことと、この長さのわりには、蜂起勢の人々、とくに原城に立てこもって以降の彼らの描き方がそっけなく感じられたことに起因しています。
いや、「あの時代の真実」なんて、今の時代では、誰にもわかりはしないのでしょうけど。

本当に「まじめな歴史小説」だと思います。リーダビリティにはちょっと欠けますが。


第4位 のぼうの城(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080913#p1

のぼうの城

のぼうの城

僕も300ページあまりのこの本を一気に読んでしまったので、たしかに「面白い話」ではあるのですが、正直、ちょっと物足りない感じもしたんですよね。
 僕はもともと「伝統的な歴史小説好き」なので、この作品で「時代考証」が意図的に無視されているところや(姫が人前で「接吻」しちゃうんですよ、それなないだろいくらなんでも…店)「のぼう様」の魅力がいまひとつ伝わってこないところは不満でした。この「のぼう様」は、確かに愛すべき人だとは思うけど、この人のために死のうというほどでは……肝心の「水攻めをされた城を救うための、のぼう様の作戦」もあまりに場当たり的というか、「そんなのうまくいくわけないだろ!」とツッコミたくなるものですしね。この城が落ちなかったのは、石田三成の「拙攻」が原因だとしか思えません。
 あと、僕は大谷吉継のファンなので、彼があまりに無能に描かれていて悲しかったです。

うーん、結局「読みやすい」というだけで、この順位になってしまうんだよなあ……
 

第3位 ボックス!(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20090209#p1

ボックス!

ボックス!

キャラクターには好みが分かれるかもしれませんが、「間違いなく楽しめる青春スポーツ小説」ではあります。

そして、これを読むと「ボクシング」というスポーツそのものへの見方も少し変わるはず。

これが3位というのが、今年の「本屋大賞」のレベルを象徴しているような……
物語のつくりが、ちょっと『一瞬の風になれ』に似すぎなんだよなあ。


第2位 告白(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20081215#p1

告白

告白

この作品、徹頭徹尾「不快」なのですが、僕はそこが逆にすごい、とも思うんですよ。

東野圭吾さんの『さまよう刃』を読みおえて感じた「そんなふうに『うまくオチをつける』のって、ちょっと卑怯じゃないか?」という「違和感」を、この作品はちゃんとラストで「解消」してくれます。

考えようによっては、こういう、「子どもを扱っているのに、ひたすら救いようのない話」が、こんなに評価され、売れているという事実そのものが、「現代的」なのではないかなあ。

第1位 新世界より(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20090120#p1

新世界より (上)

新世界より (上)

新世界より (下)

新世界より (下)

この本、ストーリーについて触れると面白くなくなってしまうと思われるので、あまり多くは語れないのですが、なんといっても、この「新世界」のシステムや生き物などのディテールの作りこみがスゴイのです。
内容そのものは、そんなに目新しいものではないと思うのだけれど、ここに描かれている圧倒的な「異世界」を体験することが、この小説を読む最大の楽しみなんですよね。
ですから、人によっては、全く「ノレない」小説である可能性も高いです。
SFやファンタジーは生理的に受け付けない、とか、「超能力」なんてあるわけないし、そんな嘘ばっかり書いてある作品を読んでいる暇はない、という人にはオススメできません。


【2009年度「ひとり本屋大賞」の総括】
とにかく候補作が軒並み長くて疲れた!そのひとことに尽きます。
せっかくだから、敬遠されがちな「超大作」を勧めたい、という気持ちもわからなくはないんだけど、こんな「重厚な」作品ばかりだとさすがに辛い。
今回は、内容もヘビーなものが多かったしねえ。

「書店員さんと読者にとって身近な賞」であることを目指していたはずの「本屋大賞」、今年は「作家の人気投票」的なイメージはやや薄れましたが、今年のような「長編至上主義」に普通の本好きがついていけるのかどうか?
来年は、「本屋大賞light」とかを作ったほうが良いかもしれません。

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