真昼に見る夢 このページをアンテナに追加

自作小説

2017-02-23

[小説]ハルビン・カフェ 03:51

本の感想なんて四年ぶりくらいのことなので、どうにもこうにも。

あまりに寝付けないので書く。

ネタバレにはあまり配慮しない。


本書は枠物語の体裁をとっており、冒頭の時点では正体の知れぬ作者が、実際にあった出来事だが、教訓は持たず、entertainmentであるとする、いささか挑戦的な言辞をもって語り始める。

ハルビン・カフェと題されており、著者も象徴的な場所として語るが、それほど作品中での存在感は大きくない。

重要なのは、それがある架空の都市、海市だ。福井にある、中韓露のマフィアが鎬を削る、危険な街とされている。

架空の歴史が採用されているため、日本は現実よりも平和ではなく、緊張状態が色濃く、なにより警官の命が軽い。

それゆえに、発生したのがPという警察内のテロ組織だ。マフィアとの抗争で、無意味に命を散らす下級警官たちが結束し、地下組織となり、マフィア官僚に制裁を加える。

20年近くにもわたる、このPのテロ活動とそれに翻弄された人々の最後の騒乱が、本書の中心となる。


全体の約四分の一強を占める第一部では、その最後の騒乱が始まるまでを準備する。

海市で、ストリートチルドレンから娼婦にされ、自分を救った男に再開するために、数年ぶりに都市に舞い戻った青年女性。

かつてPに脅迫を受けながらも、その一斉逮捕の功績を残した、女性キャリア。

Pの重要人物であり、逮捕勾留された父を継ぎ、テロリストとなった女性。

そして、かつての部下が殺されたことで、海市へと舞い戻ることになった警官の男。


叙述は迂遠で、それぞれの人物ごとの章では、行動の意味が明確に示されることはない。

質問されたことに答えてはいても、その回答が真実であるとも限らない。

かつての海市でなにが起きたのか、少しずつ語られる断片を組み合わせていかなければならない。

それは、Pという正体のつかめぬ組織と相似している。

実態をつかませず、実態をより巨大に見せるように、迂遠に迂遠に語られるのだ。


対して、中盤以降から結末までを占める第二部は、その秘密をはぎ取っていく過程だ。

それぞれの視点で、過去の事件も含めた海市の問題が洗い出され、追求されていく。

その結果、あぶり出されるのは、すべての風景に少しずつ映り込む一人の男だ。

この物語は、その男のつくる英雄神話を解体する様を見せることで、逆説的に神話を語り直すことが主眼にある。

人々は男の前で意のままに動き、男にとって都合のいい形に全体を動かし続ける。

第二部までは三人の女たちが、いかにして海市と対決する物語なのか、と想定して読んでいたが、実際にはそうではなかった。

三人の女たちは自らの意志がありながらも、男を助け、時系列は違うものの全員が男に抱かれている。

これをマッチョイズムの発露と捉えるべきなのか、アナーキズムを抱えた、力強いアンチヒーローという意図なのかどうか。

そうであってほしくないとは思うが、よくわからなかった。


真実が暴かれていった結果、男を追求していき、最後まで食らいつくのは警官の男だ。

彼らは相似の存在であり、その肉迫は『ヒート』の対決が想起される。

追い詰められた男は逃亡し、その戦いは遠く異国で決着をみたことが、最後に示唆される。

解体された神話は再び神話のように、ある種の荒唐無稽さとともに決着をみる。


語り手はすべてを語り終えたあと、自分なりの決着を目指す。

彼がなぜその決着を目指すようになったのか、本書を描くことを思い立ったのかは明確に描かれることはない。

この理由が感想を書くうちに見えないかと期待して書き始めたが、いまも見えていない。

神話に決着をつけるためなのだろうか。幻想を終わらせるためだったのだろうか。

なんとなくそういった類いのことのように思っている。

2015-11-24

ポストモダンミステリ50 海外サイト引用 21:51

http://www.postmodernmystery.com/reading_list.html

(2012/05にあげたリストをアップデート)

上記URLのリスト。大半に邦訳があったので、そちらをメモとして残しておく。未訳のものはそのままで。

  • ピーター・アクロイド『魔の聖堂』(Hawksmoor)(新潮社

結構昔に既訳あり。

18世紀と20世紀に起こった2つの連続殺人事件をとおして,不確実性と現実の多義性を語るポストモダンなアンチ・ミステリー;1986年度ガーディアン賞,ホィットブレッド賞受賞.

となぜかeプログレッシブ英中和辞典に書いてある。*1

  • ダグラス・アダムズ『Dirk Gently's Holistic Detective Agency

未訳。ダグラス・アダムズだし、いつか訳される気もする。

未訳。クローネンバーグによる映画化の予定があったらしい。ウォマックが近未来描写の類似を指摘されているようで、内容が気になる。

オースターから二作。正確には四作か。〈ニューヨーク三部作〉は日本ではなぜか三作別々の出版社から出ていた。参考に書いておくと一作目『ガラスの街』(新潮社)、『シティ・オブ・グラス』(角川書店)、二作目『幽霊たち』(新潮社)、三作目『鍵のかかった部屋』(白水社)です。

デイヴィッド・ピース東大で行った授業の参考図書にも挙げられている。*2

めでたく翻訳された。

未訳。サイバーパンクも遠くなりにけり。

サブタイトルにポストモダンミステリとあり、まさにの一品。

六興出版部版がすごい値段なことで有名。ちょっと前に創元から出て読みやすくなった。が、いまアマゾンでは在庫切れになってる。

以前リストを作成した際から、現在までにノーベル賞を受賞。

文庫化した。

  • ジョイス・キャロル・オーツ『Mysteries of Winterthurn

未訳。以前より翻訳が増えたが、この書籍はまだ。

めでたく白水uブックス入り。

未訳。例外的に邦題がついているのは、藤原書店が出版予定を立てていたから。三年半したが予定は予定のまま。ついに発売した

見直したら、前回リスト作成時にもう翻訳出てた。

映画は無事公開されました。

古典新訳文庫版が出版された。

  • アラン・ロブ=グリエ『覗くひと』(Le Voyeur)(講談社
  • レオナルド・シャーシャ『真昼のふくろう』(Il giorno della civetta)(朝日新聞社
  • レオナルド・シャーシャ『権力の朝』(Il contesto)(新潮社
  • ギルバート・ソレンティーノ『Mulligan Stew』

未訳。既訳作品もない様子。ポストモダンの代表的な作家のひとりで、この作品はフラン・オブライエンジョイスへのオマージュ/引用/剽窃によってできているとか。

2013-03-16

[]人類は衰退しました20:54

読んでいてどんどん公務員力のあがっていくわたしちゃんに、ふたばの超ハイスペック説明を思い出さずにはいられない。

7巻で持ち直したかと思ったが、8巻はちょっと低調。しかし拡張現実といい、町おこしといい、ブラック労働といい、時事ネタ、風刺ネタが初期に比べ多くなったなあ感ある。拡張現実の使い方、処理の仕方が鮮やか。次がその次あたりで終わるか。

[]龍ヶ嬢七々々の埋蔵金20:54

読み終わったあとにやっぱり好きなキャラは天災ちゃんより管理人さんですよ、と言っていたら後輩に属性だけでキャラをみるのをやめろと怒られた。その通りだと思う。飲んだくれやる気ない適齢期管理人さんとしては、ひだまり荘の管理人さんに雰囲気が近い。考えてみても過去から管理人さんキャラ好きなのでもう仕方がないと思う(ex. ラブひなちょびっツ)。あと管理人さんと聞いても、もう射精管理しか思い浮かばない。

[]ハリウッド・ノクターン 20:54

ちゃんとエルロイを通読するのは初。もっと薄暗く、救いのない話ばかりかと思っていたが、この短編集収録の話は基本的に浪花節というかそういう哀愁ある話が基本だった。警官コンビの関係が楽しい「アクスミンスター 6-400」、悪人同士の信頼感が沁みる「おまえを失ってから」、犬への意外と強い愛情の「甘い汁」あたりがよかった。しかし、七本中(一本はエッセイみたいなものなので実質六本)、三本でロシアンルーレットがでてきたのは驚いた。エルロイの好みなのか。時間がなく、急いで尋問しないといけない場面で出てくるのは確かに急ぎでなら便利だと思った。悠長に拷問している時間がないときにはロシアンルーレットこれに決まり。

2013-02-18

[小説]センチメンタルな殺し屋 22:47

ルイス・セプルベダの中編集。表題の「センチメンタルな殺し屋」は、タイトルから想像されるような語り手である殺し屋のセンチメンタルな最後の事件を描く一作。軽妙洒脱といっていいが、それ以上でもない感じ。オチは早いうちに割れるので雰囲気を楽しむ作品。もう一編「ヤカレー」は、資本主義先住民たちの生活の相克。中心となる皮革会社の社長が言い訳ではあるが、資本主義側からの出資がなければどうにもならない現実もある部分を語っているところがよい。話自体は表題作同様小粋にこぎみよく締まる。それだけに物足りなさも残る。セプルベダの『ラブストーリーを読む老人』は傑作だったが、そちらはタフな老人が語り手だった。本書収録の二編もセンチメンタルな部分はあるが、古いハードボイルド風なタフな人物が主役となっている。そこに老人としての積み重ね、相克があった分、『ラブストーリーを読む老人』のほうが面白みがあったのだろう。また、どちらも資本主義社会とそれに蹂躙され、消えていく先住民族の文化が語られている。南米作家のわりに筆致がくどくないのも特徴かもしれない。

2013-02-15

[小説]モデラート・カンタービレ 02:33

思い出したときに更新するよ! 今まで以上にとりとめなく、ネタバレは気にしない姿勢でいきたい。

デュラス三冊目。何冊読んでもこの作家はわからない。

何が起こっていて、何をテーマにしているかは解説に詳しい。

近隣で起こった痴情のもつれによる殺人の原因を、人妻がバーで出会った若い男と推測していきながら、二人の関係は暗に隠微なものになっていき、その殺人の結果のように二人は徐々にあるべき社会から逸脱しはじめる(精神的なものだが)。

が、しかしそれはいいとして、タイトルのモデラート・カンタービレが語られるのは、人妻の息子がピアノ教師に教えられる場面である(これは全八章の一章と五章にあたる)。この話の中心は人妻にあるが、バイプレーヤーでありタイトルにもなる息子とピアノ教師の置き場がわからない。人妻がやや浮き世離れした人間であることを説明する装置としてと、此岸につなぎ止めるよすがとしての息子、というだけではピアノ教師が余る。わからない。

また、デュラスの描写は説明的ではなく、舞台劇のセットのような最低限その場に必要なものだけを語る控えめな叙述になっている。これは他の作品でもそうで、彼女の作品のわからなさを助長している。

さっぱりわからなかったが、解説で触れられている他のデュラス作品でホテルの外の森で叫ぶ女が出てくることをしれたのはよかった。デュラスに似た筆致を感じる鹿島田真希の『黄金の猿』ではそのようなイメージが引用されているからだ。