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旧ブログ:異色な物語その他の物語

2013-11-03

『皆勤の徒』 酉島伝法


 話題の新人による同じ設定を背景にした遠未来SF連作短篇集。表題作は第二回創元SF短編賞受賞。ちなみに作者はデザイナーイラストレーターで本文中の挿画も本人。
 無理矢理一言で言えば、黒丸訳(ま、他は無いんですが)ニューロマンサー誤変換を連想させる独特な言語感覚で奇怪なイマジネーション喚起するといった作品。主人公らしき生命体は一見人間のようでもあるが、読む進むと体も認識も大きく異なり、虫やら内臓やら気色の悪いイメージがテンコ盛りで登場する(そういうのが苦手な方は無理かも)。また漢字を中心としていることもあり(またイラストでも)、社・鳥居といった日本的な要素が取り入れられているのも特徴か。とくにかく強烈なインパクトの作品で、正直設定については(丁寧な解説を読んですら)おぼろげにしかつかめなかったが面白かった。
「皆勤の徒」 なんか仕事がツラい感じの主人公。デカい社長コワい。
「洞(うつお)の街」 分類学部で学ぶ学生が主人公。といってもみんな超不気味なんですが(笑) 片仮名がとりわけ少なく、日本的な要素が特に目立つかな。
「泥海の浮き城」 のっけから城同士の結婚ですからね。異世界ファンタジー的に読むことも出来るのかな?イマジネーションという意味ではこれが一番かな。その分かなり手強い。
「百々似隊商」 4作の中ではSF的な部分と異世界ファンタジー的な部分が比較的分かりやすく書かれており(解説の通り)一番親しみやすい(はずの)作品。まあでも相当歯応えありますよ(笑)。

 言葉遊びの部分はユーモアがたぶんに含まれていて、変な小説が好き(でグロテスクがOK)な人は自分のようになんとなくの理解でも十分楽しめると思います。いやこれまたユニークな人が出てきたな。

 
 
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2013-09-04

『ヨハネスブルグの天使たち』 宮内悠介




 空から少女ロボットが降る近未来。閉塞状況の続く世界各地で人々は。

 デビュー時からSFジャンルを越えて幅広い支持をあっという間に勝ちえた、注目の若手作家の2冊目の単独著書でこれまた直木賞候補で話題となった連作短篇集。優れた資質を感じさせる作品。
ヨハネスブルグの天使たち」 人種対立の絶えない南アフリカの話。アフリカーナーという白人種たちの選択がなかなかアイロニカル。
「ロワーサイドの幽霊たち」 911テロを背景に、なんとあのオールディスの問題作「リトル・ボーイ再び」の発想を持ち込んだ作品。ちょっとビックリする内容だが、時制の入れ替えなど高度な技巧を有する作家だとよく分かる。
「ジャララバードの兵士たち」 内戦のアフガニスタンに持ち込まれた兵器の謎。これもひねりの効いたアイディア。
「ハドラマウトの道化たち」 「ジャララバードの兵士たち」と登場人物の重なる。舞台はイエメンで、これまた内戦状況でのミッションの話。
「北東京の子供たち」 現代日本のかかえる様々な問題がさらに進行した状況の中のティーンエイジャーが描かれている。団地という場の特性が上手く活かされている。

 伊藤計劃とバラードが引き合いに出されている帯はどうにもいただけないが(題材など関連は無いとも言えないが、どちらにも似ていないし若い著者が気の毒)、文章は密度が高くミステリ的な技巧にも優れ、沢山の情報に基づいた現代社会の諸問題をヴィヴィッドに切り取る手腕も見事。こうした様々な地域を違和感なく現代的な視点で描くというのはこれまでの日本SFには無かったもので、21世紀に至り随分進歩したのだなあと感じられた。しかしこちらの頭が硬いせいか、全体にシリアスな内容と少女ロボットが落ちてくるアイディアを結びつける必然性が最後まで納得できなかった。自分の中では、アニメ的な風景しか浮かばない少女ロボットたちと世界各地の取り合わせは、ミスマッチによるマジックは生まれずミスマッチのままになってしまっている。

2013-08-06

『第九の日』 瀬名英明




 ケンイチくんというロボットを主人公にしたシリーズ。中心となる『デカルトの密室』がまだ未読なので多少作者の問題意識を把握し切れていない気もするが、連作短篇集なのでとっつき易いSFミステリ集。どれも先行作品のあるパスティーシュもの。
「メンツェルのチェスプレイヤー」 ポオの作品などが元。「ロボットに殺人が可能か」というテーマとチェスの勝負が鮮やかに融合。
「モノー博士の島」 もちろんウェルズが元。身体障害者のオリンピック出場という話はオスカー・ピストリウスを予見したかのようだ。
「第九の日」 クイーンやC・S・ルイスが元。タイトル作で最も長く、科学と宗教を対立軸に人間とは何かというテーマに加え、(前の2作にも見られるが)フィクションにおける記述の問題も追及されている傑作。(『第八の日』の内容があまり思い出せない・・・)
「決闘」 チェーホフが元。同時多発テロのイメージがコアにあるが、国際緊張の高まる作品背景は現在こそ重く感じられる。

2013-05-14

『Gene Mapper -full build-』 藤井太洋




 拡張現実と遺伝子工学の技術が進歩した近未来。遺伝子デザイナーである主人公は、自ら設計した稲がトラブルを起こした可能性があるとの報告を受け、謎の解明のためホーチミンにむかうことなる。    

 電子書籍の個人出版からベストセラーとなり紙媒体で出版されることになったといういかにも現代的な本。プログラマーというキャリアを生かし、手が届きそうな技術をちりばめた未来のビジョンは魅力がある。ただメインのところで、もう少しアイディアの飛躍というか全世界を巻き込むようなスケール感が欲しかった気もする。謎解きのミステリとしての側面もあるが登場人物の一部は存在感が弱かったり、犯人側の動機もやや平凡だったりする面もある。しかし、実質一作目でこれは期待させる。次回はハイテクスリラーということだが、資質として的確な選択と思った。

2013-01-04

『拡張幻想』 2011年版年刊日本SF傑作選 大森望・日下三蔵編




2011年版の年刊SF傑作選。以下印象に残ったもの。

「宇宙で一番丈夫な糸 ―The Ladies who have amazing skills at 2030.」小川一水 著者らしいポジティヴさがよく出ている軌道エレベータもの。現代の暗い世相の中そういった持ち味がこれまで以上に貴重なものに感じられる。

「巨星」堀晃
「新生」瀬名秀明 同時収録のと共に小松左京追悼もの。「巨星」が小松作品のモチーフを(基本的に)ストレートに踏襲し小松作品に寄り添うように成り立っているのに対し、「新生」は近年の瀬名作品に見られる官能的かつエモーショナルな文体で著者の個性が強く打ち出されあたかも対峙しようとしているようで、2作品の好対照なあり方が印象深い。

「Mighty TOPIO」とり・みき 原発事故をモチーフにするのは多くの作家が試みているものの複雑かつ重大過ぎる問題であり中途半端なものになりがちだが、さすがというか漫画の特性を過不足なく生かしたこの作品には人類の脱力するような情けなさ愚かさがものの見事に表現されていて泣ける。

「美亜羽へ贈る真珠」伴名練  <永遠の愛>を実現することが出来るナノマシンによるインプラント手術が開発されて世界は変貌する。伊藤計劃「ハーモニー」へのトリビュート作品。いいアイディアで結婚式など視覚的に鮮烈な場面も巧いが、もう少し短くてシンプルな方が衝撃力があったのでは。

「フランケン・ふらんーOCTOPUSー」木々津克久 人造人間らしい天才外科医が活躍するコミックの一作品らしいがクトゥルー物でもあり楽しい。

「ふるさとは時遠く」大西科学 標高により時間のすすみ方に差がある世界。設定が面白いなあ。時間物らしい切ない話への落とし込みもはまっている。

「良い夜を持っている」円城塔 完璧な記憶力を持った父。その不思議な内面の世界を息子が辿っていく話。例によってどうにも理解が追いつかない部分がそこかしこにあるのだが、周囲の世界との折り合いをつけるために繰り広げられる思考は可笑しくも奇妙でもありながら、我々の写し絵でもある。特に幻影のようにしか感じられない妻とのエピソードには落涙。
いつものようによく分からないがいつものように傑作(泣笑)。

第3回創元SF短編賞受賞作〈すべての夢|果てる地で〉理山貞二 タイトルから想像したのは内省的な話だったが全然違っていて、超ハードなSFアイディアに基づいた量子コンピュータをめぐるエスピオナージュに先行SF作品へのオマージュを織り込みながらイーガンっぽく壮大なスケールに広がっていくというとてもデビュー作とは思えない強烈な異彩をはなつ作品。これまた難しかったが面白かった。

解説にもあるように2011年は震災・原発、はやぶさ、小松左京の死などSF方面でもいろいろ影響の大きい出来事が多かった。
作品でもそうしたものが少なからず取り上げられ(また伊藤計劃オマージュも計2篇)ヴィヴィッドであるが、一方でテーマのかぶる作品が多かったり百花繚乱的というか散漫なところもあり、文庫本なのに雑誌やムックっぽいという元々の傾向がより以上に強まった気がする(傑作ではあったが、コンテスト受賞作の掲載もその印象を強めている)。そこをどう思うかによって評価が変わるだろうが、個人的にはオーソドックスに傑作選らしくもう少しコンパクトにした方が好み。