「配偶者控除・第3号被保険者控除の廃止」は、まるで悪代官だ!(森永卓郎)



 制度変更の問題点を、きちんと説明した動画。必聴。ひどい制度変更に憤りを感じる。
 以下、内容要約・採録である。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 3月19日、経済産業諮問会議と産業競争力会議の合同会議の場で、安倍総理大臣は「女性の就労拡大を抑制している現在の税・社会保障制度の見直しと、働き方に中立的な制度について検討をおこなってもらいたい」と関係閣僚に指示をした。


 安倍首相がめざしているのは、ふたつの制度の変更である。ひとつは配偶者控除の廃止」、もうひとつは「第3号被保険者控除の廃止」である。


 パートタイマーで働く人には「103万円の壁」というものがある。これは103万円までは税金がかからないが、103万円を超えて働くと、税はかかるうえ、夫の配偶者控除がなくなるというものである。この配偶者控除をなくしてしまえば、女性が103万円を意識せずに、のびのびと働くようになるだろうという考えが、安倍総理の発言の背景にあると言われている。


 「103万円の壁」と「130万円の壁」


 だが「103万円の壁」の廃止によって、働く女性が劇的に増加するわけではない。どうしてかというと、実は「103万円の壁」の他に「130万円の壁」というものがある。103万円を超えると所得税と住民税がかかるのだが、130万円を超えると、本人が、健康保険料と国民健康保険料を払わなければいけない。これがハンパなく高い。


 どれだけ高いかというと、健康保険料は、年間19万3000円。国民健康保健料は、市町村によって金額が大きく違うが、東京都の例でいうと、18万3000円。130万円ちょっと超えただけで。合わせて37万6000円も取られてしまう。そんな高額を払うのは、普通は嫌なので、仮に配偶者控除を廃止しても、パートタイマーの女性が130万円を超えて働くことはあまりない。


 正確な推計はないが、主婦パートと呼ばれる人が、全国で約1000万人近くいる。この人たちが、夫の配偶者控除がなくなって、もし130万近くまで、余分に働くようになったときに何が起こるかっていうのを、計算してみた。


 結局は増税


 103万円から130万円まで余分に働くと、収入は27万円増える。これに対し、本人にかかる税金が4万6000円、加えて、夫の配偶者控除を廃止に伴う増税がのしかかる。専業主婦を抱える夫の年収平均は高いから、これを仮に700万円とすると、夫の増税額は、所得税と住民税を合わせて10万9000円。妻と夫の合計で、15万5000円の増税である。つまり、27万円収入を増やしても、15万5000円は政府が取る。ということは、27万円余分に働いても、そのうち57%を政府がぼったくることになる。


 27万収入を増やすのは大変だ。時給800円とすると、年間338時間働く必要がある。1か月あたりだと約28時間。1日1時間か2時間余分に働いて、そこで増やした金の6割を政府が持っていく。これが女性の就業促進策なのか。


  こんな馬鹿げた話があるか?


 ではさらに「130万円の壁」もなくした場合を考えてみよう。第3号被保険者制度というのは、専業主婦は年金保険料を払わなくていい、という制度である。この制度を廃止して、専業主婦が国民健康保険を払うようになると、収入がなくても健康保険や介護保険や、高齢者医療の負担金も払わなければならなくなる。この合計が37万6000円である。


 つまり、どういうことかというと、配偶者控除も廃止したうえで、第3号被保険者控除も廃止されると、女性が1日1時間か2時間程度余分に働いて130万円稼ぐパートタイマーの世帯では、収入が27万円増えたとしても、政府に取られるお金は、合計53万1000円になる。こんなばかげた話があるか? 27万稼いで、政府に53万余分に払えって?


 これでは悪代官そのものだ。「増税するぞ増税するぞ生活苦しいだろう、だからもっと働け働け」いう案なのである。


 働きやすい職場を作ることが政府の仕事


 1986年に男女雇用機会均等法ができて、そのあと1997年まで11年かけて、女性の正社員数は、994万人から1172万人にまで増えた。だが、その1997年をピークにして、女性の正社員数は減少して、昨年は、何と男女雇用機会均等法ができた1986年と、ほぼ同じである。


 1997年と言えば、デフレになりリストラが進んで人出が足りなくなった年。労働環境が悪化して、多くの女性がついていけなくなって辞めた。鞭で働かせるのではなく、働きやすい職場を作るのが政府の仕事ではないのか。


 女性は働くべきだと個人的には思っているが、専業主婦を撲滅しようという、政府のライフスタイルへの介入というのが、とてもむかつく。専業主婦世帯をこんな形で袋叩きにするのは、ちょっとなあと思う。