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不識庵の面影

2017-02-22

『京都の古社寺 色彩巡礼』


京都、実に魅惑的な古都であり、学生の頃から幾度となく訪れていますが、常に新たな発見や驚きがあります。

JR東海の「そうだ 京都、行こう」というCMもロングラン企画となっていますが、その映像美には毎年惚れ惚れとさせられます。





今年も1月にも京都に訪れましたが、春には奈良、秋には京都再訪を考えています。

さて、今宵ご紹介したい一冊は『京都の古社寺 色彩巡礼』吉岡幸雄著(淡交社)。


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   『京都の古社寺 色彩巡礼』


著者は染師・染織史家にして「染司よしおか」五代目当主。

『日本の色辞典』『源氏物語の色辞典』など、既に多くの著書が上梓されていますが、日本の色彩研究における第一人者として高い見識としなやかな文章力には定評のある方です。

本書の冒頭に添えられた文書で、京都のご出身である吉岡氏が「美しきもの」に覚醒された背景が記されています。


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   本書カバーの前袖


私も京都奈良という古都、神社仏閣に深い関心を持っていることから吉岡氏の著書を好んで拝読するのですが、観光で訪れる私は所詮部外者であり、生活の場として古都に暮らす方が羨ましいかぎりです。

殊に季節の「うつろひ」が、同じ空間を四季折々の表情で染め上げるさまは、たまらぬもの。

そこに悠久の歴史を刻んで佇む社寺や仏像、その社寺と深い関わりのある祭り・・・本書では、その色彩について著者の「美意識」を通して判り易く解説されています。


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   本書の帯裏


赤、紫、青、緑、黄、茶、黒、白、金、繧繝、極彩色という構成で章立てされています。

日本の色は歴史的に俯瞰すれば国際性を持っていること。

室町以降、日本文化は「わびさび」が強調されるが鮮やかな色彩の系譜が脈々と続いていること。

自然素材より汲みあげられた色調の美しさや奥深さ。

吉岡氏の冴えわたる「眼」が、伝統の色彩美を丹念に解析されています。

吉岡氏は家業を継承されるまで、出版の編集や広告のディレクターをされていたこともあり、秀逸な解説もさることながら、書籍としても美麗で眺めるだけでも心を潤す魅力に満ち溢れています。


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   本書カバー後袖の著者紹介


また、もう一人の著者ともいえる写真家の中田昭氏も京都のご出身。

赤の御祭文(下鴨神社 葵祭)、藍の衣(天龍寺 夜座)、黄紙の経典(宝蔵院)など、色彩の美とともに、歴史の重みが伝わってくる瞬間を見事に表現されています。


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   赤の御祭文(下鴨神社 葵祭)


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   藍の衣(天龍寺 夜座)


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   黄紙の経典(宝蔵院)


なお、巻末には中田氏の「光の記憶」と題した文章が添えられていますが、印象的なくだりを引用しておきます。

「『京都の古社寺 色彩巡礼』の写真を担当するにあたり、こだわったひとつに、自然光のうつろいの中で見せる『色』の表情を写真に留めることであった。現代のような電気的な明かりがなかった時代に造られた古社寺には、光を取り込むさまざまな仕掛けが凝らされている。それは工夫を超えて、信仰的な思いを伝えるための装置といってよい」

中田氏の「眼」によって「私たちが忘れている視点」が、本書では実に見事に捉えられています。

日本人が日本人であるために、先人たちが文化として継承してきた「美意識」を学ぶための良書です。

(平成28年10月12日読了)




不識庵

2017-02-21

『運がよくなる仏教の教え』

学生の頃から日課のように「般若心経」を読誦するようになって幾星霜を経て今日に至っております。

昨年は「般若心経」など、仏教関連書を随分と再読しましたが、僧侶でもない私は「得心」することもなく、煩悩の大海を平泳ぎしています。

とはいえ「あるがままなり」

生かされていることに感謝する日々です。

最近はキッサコの「般若心経」がお気に入り。



結構、いい感じです。

周知のとおり、喫茶去とは禅語。

さて、今宵ご紹介したい一冊は『運がよくなる仏教の教え』萩本 欽一・千葉 公慈共著(集英社)。


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   『運がよくなる仏教の教え』


これは予想した以上に読み応えのある対談本でした。

2015年に73歳にして駒澤大学仏教学部に入学された欽ちゃん

謙虚にして驕らない素直なこころで「仏教」を学ぶ姿勢に頭が下がります。

また課外授業を担当されている千葉公慈さんも素晴らしいご僧侶!

カバー写真の破顔一笑がお人柄を如実に物語っていますが、欽ちゃんを相手に実に味わいのあるレクチャーを施されています。

しかも欽ちゃんの言葉に「仏心」を感得されて感銘を言葉にされるあたり、「これぞ、理想の僧侶」といった感があります。

教えて上げるという姿勢ではなく、ともに学ぶ姿勢に徳を感じさせます。


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   本書の帯裏


Q&Aから始まる対談なのですが、欽ちゃんの縛られない拘りのない発想も愉しい。

さらに千葉さんが欽ちゃんの理解、解釈に対して「そうです、そうです」と二度肯定をされる場面が随所にありますが、読み手である私も「ほっこり」とさせられます。

欽ちゃんは「仏教に関心はあるけれど自分には難しいのでは?」と二の足を踏んでしまう衆生の代表!

ちなみに、「はじめに」で欽ちゃんは、なぜ仏教学部を選択したのかについて、次のように記しています。

仏教学部を選んだのは、『いい言葉』をもっと知りたかったから。高校を卒業してすぐコメディアンの修業を始めた僕は、身体を使った笑いを追求しながら、いい言葉を探していました。
言葉って、とても大事なんです。僕は誰でも一生のうちに『いい運』と『悪い運』が半分ずつやってくると信じていますが、いい言葉を使えば『いい運』がさらによくなる。言葉の選び方、使い方で自分の行動も変わるし、人にも影響を与えてしまうので、いい言葉をたくさん知って、大事な場面で使えるようになりたい。仏教は素晴らしい言葉の宝庫だから、大学で学ぶとしたら仏教だ、そう思って選びました」

大成しても驕らずに謙虚な欽ちゃんの学ぶ姿勢に頭が下がるばかりです。

確かに「いい大人」が暴力的な言葉遣いで、人の「こころ」に疵を負わせるなど、もってのほか。


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   読み手の心を和ませる対談 


千葉さんは対話の冒頭からお釈迦さまは「なんで、そ〜なるの?」と悩み考えておられたのですよと一気に読み手の心を和ませつつ、平明に仏教のなりたち、名僧の逸話、日常の会話で登場する仏教用語など、軽妙な語り口で「へえ〜」と感心させられる説法で欽ちゃんの理解を促しておられます。

ちょっと対談の妙味を味わっていただきましょう。


萩原 仏教って聞くとまず「お寺」とか「お坊さん」を連想するから、死んだ人を供養する教えだと思いがちですけど、本当は生きている人に「もっといい人生を送ろうよ」と教えてくれるんですね。

千葉 はい。ブッダはお城のなかの華やかな暮らしより、一人で静かに学んだり考えることが好きな少年で、城の外で人々を観察しては考えこんでいました。人間は誰もが病気になったり、やがて死んでいくのに、人々はそのことで悩んだりしている。自分にも老いや病気や死が待ち受けているのに、老いた他人、病んだ他人、死んだ他人を見ては、自分もああなるのかと悩み、ああなりたくないと苦しんでいる。それは何故なんだろう、「なんでそ〜なるの?」と考え続けていたわけです。

萩原 あれっ、いきなりどこかで聞いたことがある台詞がでてきた(笑)。ブッダも「なんでそ〜なるの?」を追求した人だったんだ。

千葉 そう、それがブッダの基本姿勢です。


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   人生に定年はありません


どうでしょう。

欽ちゃんを相手に見事な「対機説法」で対談を進行されています。

千葉さんは、「空を旅する雲のように―あとがきにかえて」で、欽ちゃんを次のように評しておられます。

「対談のなかで、欽ちゃんの人生哲学をうかがい知るほど、なんと仏教的であるのかと驚きました。幸運に巡り合っても決して浮かれず、また悲しみに遭遇してもその出会った本当の意味を見つけようとする。禍福はあざなえる縄の如しと言いますが、欽ちゃんは目の前の人生の出来事をすべて我がこととして『なんでそ〜なるの!?』という時間軸で受け止めているのです。ある意味で縁起という生き方につながっていると実感するのですが、私は現代人にもっとも欠如した考え方が、実はこの時間軸の意識だと思っていたのです」

曹洞宗のご僧侶はインテリゲンチャでスノッブな方が多いので、個人的には辟易させられることが多いのですが、千葉さんには微塵も「えへん」が感じられず、是非、既刊のご著書も拝読させていただきたいなあと感じた次第。

お二人のお人柄が実に爽やかで「学び」の大切さを再認識させられる上質な仏教入門でありました。

(平成28年8月26日読了)




不識庵

2017-02-20

『お坊さんが明かす あなたの町からお寺が消える理由』

忙中閑あり。

今宵は寓居のリビングにおいて立礼で自服を愉しみ、閑寂とした時間を過ごしました。

犬山桃太郎神社社前で求めた異形の一碗、京都菓子司・亀屋清永の銘菓「蓮月せんべい」で至福の一服・・・


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   異形の一碗 銘:鬼が島


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   亀屋清永の銘菓「蓮月せんべい」   


さて、今宵ご紹介したい一冊は『お坊さんが明かす あなたの町からお寺が消える理由』橋本英樹著(洋泉社)。


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   『お坊さんが明かす あなたの町からお寺が消える理由』


埼玉県熊谷市にある曹洞宗見性院の御住職の著書です。

著者には『お寺の収支報告書』という既刊があり、「檀家制度の廃止」に踏み切った寺院の御住職だけに、寺院と僧侶が抱える諸問題を糺し、健全な意味での危機意識が横溢した一冊。

既に鵜飼秀徳氏の『寺院消滅』が刊行されており、一見便乗した書籍のようですが然にあらず。

僧侶や寺院の在り様を「歴史的」に俯瞰した上で、現在の姿が「当たり前」ではないことを一般人にも理解しやすく実に明快に説いた上で、自らの寺院改革の現状と将来展望を記されています。

「いつの時代も、既得権益に甘んじて宗教者としての努力を怠る者は、手痛いしっぺ返しを受けるものです」

これは寺院のみではなく、遍く「世の理」だといえるでしょう。


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   本書の帯裏


すでに廃寺となっている寺院は過疎地など檀家が少ないケースが大半でしたが、少子高齢化、非婚化という社会構造の変化は「過去の財産(寺檀精度による人質ならぬ墓質)」に安穏としていた大規模寺院や中堅寺院の経営基盤を確実に揺るがしていくことが縷々解説されています。
(ちなみに「経営」「利益」という言葉は本来は仏教語)

大乗仏教とはいえ、江戸期に堕落しきった僧侶、寺院は明治維新後も惰弱な選択により宗派を問わず、その大半が「住職は世襲、お寺は家業」という「お釈迦様」「宗祖」もびっくりする変容(劣化)を来している・・・「寺院」「檀家」も「当たり前」として思考停止してしまっている現状へ「おおきな一石」を投じています。

意外なことに今のところ、見性院の「檀家制度の廃止」について曹洞宗の大本山(永平寺総持寺)宗務庁からの通達はないと記されています。


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   お寺は誰のものなのか・・・


もっとも1万5000カ寺を擁し「本末寺制度」という江戸時代の封建的な制度を頑なに継承している曹洞宗は、上納金さえ入れば「それでいいのだ」ということなのでしょうか。

本山以下「不許葷酒入山門」とご丁寧に建碑していること自体「本末転倒」しています。

個人的には「寺院の特権を活かした葬儀社化」している見性院の現況について手放しに賛同し兼ねますが、「檀家制度」から脱却して「寺院存立」の目的意義を明確にしていこうとする試みは賞賛に値すると考えます。

ちなみに、橋本英樹氏が提唱されている「僧侶の心得十カ条」は以下のとおりです。

一、質素倹約を旨とし、清貧な暮らしをすること
二、禁酒・禁煙をできるかぎり心がけること。とくにマナーを身につけること
三、勤勉家あること
四、品行方正であること
五、ゴルフ・釣りはしないこと
六、ギャンブルはしないこと
七、高級車にのらないこと
八、幸福な家庭をつくり、夫婦円満であること
九、人を差別せず、よりよい人間関係をつくること
十、忘己利他の精神で、広く社会に貢献し、奉仕すること


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   僧侶には使命感こそ必要!


なかなかストイックで高邁な心得ですが、これは裏返せば堕落した坊主が如何に多いかの証左でもありましょう。

さらに「見性院内三原則」なるものも制定しておられます。

一、「さん」づけ
二、敬語
三、低姿勢

橋本氏は「僧侶であることを特権であるかのように勘違いしている方もいらっしゃいます。ですが、一般の人々よりも修行に時間をかけることを許された、一介の修行者にすぎません」と断言しておられます。

「お坊さん便」以前に、都市部においては葬儀社と僧侶の業務提携は既に日常茶飯のことであり、葬儀社が僧侶を紹介し御布施から上前をはねている「事実」を全日本仏教会は白日に晒すべきではないでしょうか。

いずれにしても、見性院のように「僧侶の心得十カ条」「院内三原則」を掲げる寺院が増えることを切に願います。



不識庵

2017-02-19

『男の粋な生き方』

今宵は寓居の書斎で、お気に入りのローストカフェのハウスブレンドをSHALA(沙羅)のカップで味わいながら、宮崎陽江のDVDを愉しみました。


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   瑣事を愉しむ・・・こころの贅沢   


ローストカフェは、友人が経営している新潟にある自家焙煎の珈琲ショップで、通販で10年以上注文していますが、昨年末久しぶりにお店で直接購入しました。

実に美味い珈琲です、ホント。

SHALAは東京自由が丘にあったオリエンタル雑貨店でしたが、残念ながら閉店して随分経ちます。

宮崎陽江は知る人は知る名ヴァイオリニストで、このDVDはベートーヴェンのパトロンとして有名なロブコビッツ伯爵の城、ジュネーヴの由緒あるヴィクトリア・ホールで収録されたもの。





ベートーヴェン弦楽四重奏曲第1番ヘ長調作品18−1の第1楽章、ヴァイオリンソナタ第5番ヘ長調作品24「春」、ヴァイオリン管弦楽のためのロマンス第2番ヘ長調作品50が愉しめます。

彼女のCDは市販されていますが、複数制作されているDVDは全て非売品!

入手が極めて困難であり、セコハン市場にも殆ど出品されません。

ちなみに、このDVDはヤフオクで落札したもの。


ささやかな書庫の本棚も満杯となり、書斎も倉庫状態になっています。

そろそろ既読の書籍は、ブログに備忘録として掲載して適宜実家へ送っていますが、実家の書棚も・・・やはり空間美は必要です。


さて、今宵ご紹介したい一冊は『男の粋な生き方』石原慎太郎著(幻冬舎)。


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   『男の粋な生き方』


主義主張を超えて「人となり」が魅惑的な人物は存在します。

石原慎太郎氏という人物についての個人的な好悪はともかく、一読に値する「人生論」として愉しく拝読しました。

何をもって「粋」に感じるかですが「人生意気に感ず、功名誰か論ぜん」という言葉が心の琴線に触れる人にとって、本書は実に示唆に富むエピソードが目白押しですから、男として大筋共感できる「いきざま」ではないでしょうか。

本書は『GOETHE』の連載に加筆・修正を施された文章とありますが、一読すれば判りますが口語調で、石原氏が当意即妙語りライターが編集したものでしょう。

ご本人が読み手のために語りかけてくる臨場感が上手く再現された文章です。

(ご本人が書き下ろされた原稿だとしたら御免くだされ)


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   本書の帯裏


第1章から27章と最終章という構成ですが、各章が直接的に関連し合っている訳ではなく、コラムが28本まとめられた内容ですから、興味を惹くタイトルから読み進めました。

それぞれに味わいのある「男の履歴書」でしたが、私は「人生の賭け」「古い教養」「君の哲学は」「人生の言葉との出会い」「リーダーの条件」が殊の外、痛快でした。

真の教養人とは、志のある使命感を持った人物であることをいみじくも物語るコラムです。

少しく、コラムの名文を備忘録風に抜き書きしておきましょう。

「結婚というのはまさに人生における重要な決断で、これが男女双方の納得合意に拠らなければ人生そのものが狂ってきかねまい。これはある意味で丁か半かの選択、というよりそれを通り越した大きな賭けでこれが外れればとんだ悲劇さえ招きかねないのである。
僕は誰かの結婚式に招かれてお祝いのスピーチをさせらりたりする時いつも引用するんだが、哲学者のベルグリンのエッセイに結婚について記したものがある。曰くに『結婚は信仰に似て一種の賭けだ。神仏を信仰しても、神を目にしたりその声を実際に聞くことなどあり得ない。しかし多くの人間はその神を信じてすがろうとする。結婚も数十万数百万もいる女、男の中からたった一人を選び信じて行われる。そしてその後々結婚生活の中で、選んだ相手の思わぬ欠点や不足が見えてきても、信仰と同じように信じたものを疑わず迷わずに通すことで、信仰と同じように結婚も有形無形、賭けの配当を受けとることが出来る』とね」(「第十三章 人生の賭け」より)


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   赤線と「※」で理解は深まる


「男の魅力にもいろいろあるが、その男の人間としての幅を感じさせるのはやはり彼の教養の深さだろう。それも単なる博学ではなしに、思いがけぬことをよく知っている奴というのは、爐Δ燹△ぬしなかなか出来るなあ瓩箸いΔ海箸砲覆襦思いがけぬ時に思いがけなぬ知識を垣間見せられると、一目置かざるを得ない。それもこちらの教養と感性次第だがね」(「第十五章 古い教養」より)

「いくら寿命が延びてもたかだか百年、宇宙を洗って過ぎる時間の流れの総体に比べれば瞬間にも等しい人間個々の存在の時間の意味合いは、存在の無限、時間の無限を認知できる人間だからこそ、それを超える、絶対にかけがえのないものとして自覚できるんだよ」(「第十八章 君の哲学は」より)


小説家、政治家、父親、夫・・・どの役割の石原氏であっても、それぞれの関係者たちは「爽快な生き方」に惚れて、憧れて、尊敬されていることでしょう。

主義主張を超えて「人となり」が魅惑的な人物は存在します。


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   人生を振り見えてくる景色・・・  


「リーダーに優れた感性がなければ他人の優れた才能、それを支えている感性の識別は出来はしない」

本書「第二十七章 リーダーの条件」の一節ですが蓋し名言であります。

しかし、いま石原氏は豊洲市場の住民訴訟問題で渦中の人物となっています。

これからも、石原氏が男として「粋な生き方」を踏み外すことがないことを願わずにはおれません。

昨年、石原氏の『天才』が話題となり、誤解されていた昭和の名宰相が再評価されています。

それにしても「蓋相事定」とはよくいったもの。

(平成28年6月2日読了)




不識庵

2017-02-18

映画「ザ・コンサルタント」

映画「ザ・コンサルタント」を鑑賞しました。


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   そうだ 劇場、行こう。


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   公開を心待ちにしていた作品





ベン・アフレック主演、2016年製作の米国アクション映画です。

監督は映画「ウォーリアー」や映画「ジェーン」などを手がけたギャビン・オコナー。

原題は「The Accountant」、直訳すれば会計士ですから、邦題の方がグッときますね。

「全米初登場NO.1超本格サスペンス・アクション!」

もう劇場で映画予告を観た瞬間から観ようと決めた作品です。

「Movie Walker」でストーリーが次のように紹介されています。


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   映画プログラム


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   映画プログラムより


「田舎町のしがない会計士クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)に舞い込んだ大企業からの財務調査依頼。
彼は重大な不正を見つけるが、なぜか依頼は一方的に打ち切られてしまう。
その日から、何者かに命を狙われるウルフ。実は彼は、世界中の危険人物の裏帳簿を仕切る裏社会の掃除屋でもあった。
年収1000万ドル、天才的頭脳を持ち、最強のファイターで命中率100%のスナイパー。
本籍・本名・私生活、そのすべてが謎に包まれた会計コンサルタントは、アメリカ政府やマフィア、一流企業に追われながら危険な仕事に身を投じていく・・・」


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   映画プログラムより


結論からいえば、私と人生の重要関係人共に「理屈抜き」で愉しめた作品でした。

2時間少々の作品ですが、もう中弛みせず鑑賞出来ましたね。

フィクションであるがゆえにストーリーも「えー、そりゃ凄いわ」と展開するごとに愉しめました。

リアルな銃撃戦や格闘など、アクション・シーンもよかったですが、冒頭から仕込まれている「謎解き」のヒントが数々ありますが、「いい意味」で読み切れない「ヒント」もありました。

ストーリーが展開していくごとに「点」が「線」になり、そして「面」になる、そんな緊迫した映画でしたね。


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   映画プログラムより


試写会参加者の中で「日頃ストレスがたまっている会計士の方々に!(笑)」というコメントがありましたが、やはり「会計士」とはストレスがたまる職業なのでしょうか・・・

「士業」といえども「お客様」あっての商売でしょうから・・・

「会計士」といえば、宮村久治という方剛毅な方を思い出します。

私が敬愛する経営者・稲盛和夫翁(以下、稲翁と表記させていただきます)が京セラ上場に際し、取引のある銀行からの紹介された公認会計士が宮村久治氏。

初対面の稲翁に対して「あなたはどういう姿勢で経営していますか」とストレートな剛球!

さらに「私は公正な基準に従って何が正しいかで監査しますが、それでよろしいか」とも・・・

稲翁は「望むところ。私も人間として何が正しいかを判断基準にして経営しています」と応酬。

宮村氏は「経営者を見て監査を引き受けるかどうか決める」という一風変わった会計士でした。

業績が順調なときは「きれいごと」を言っていても、業績不振になると態度を変える経営者が少なくないというのです。

「決算は解釈次第」という側面があり、自社にとって都合のよい解釈を求められても「是は是、非は非」という宮村氏の監査方針に稲翁が異を唱えることはありませんでした。

心を高めることが経営を伸ばす要諦であると語られる稲翁の人間性を端的に示すエピソードです。



閑話休題



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   映画プログラムより


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   映画プログラムより


映画を観て少々、感じたことを記しておきます。

クリスチャン・ウルフが、企業の不正経理を15年分の書類を一夜で読み込み、赤と黒のマーカーで数字をガラス張りの部屋全体(ガラス窓にまで!)一気に書き連ね、炙り出していくシーンなど、映像的な美的センスにも感嘆させられました。

美的センスといえば、ベン・アフレック演じる主人公のクリスチャン・ウルフが武器庫として使用しているトレーラーには、ふたつの絵画が飾られていました。

壁に飾られたピエール=オーギュスト・ルノワールの「日傘をさした女性と子ども」。

ボストン美術館が所蔵しているルノワールの初期作品で、私の記憶が正しければ2010年に森アーツセンターギャラリーで開催された「ボストン美術館展」でも展示されていた作品。

また、ベッドルームの天井には、抽象表現主義ニューヨーク派)の代表的な画家であるジャクソン・ポロックの「フリーフォーム」。

この作品はニューヨーク近代美術館が所蔵しています。

ともにオークションにかけられたならば凄い値がつくであろう絵画です。

映画の中では特段、これらの絵画ついて説明はないものの、「なぜ、この2点なのか」は主人公の境遇との関連性は美術ファンならば合点がいくところ。


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   映画プログラムより


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   映画プログラムより


なお、この映画の中心となるリヴィング・ロボティクス社が行っていた不正会計が露見していく端緒は同社経理部門の女性職員であるデイナ・カミングスの「気づき」。

真面目に仕事をしていたがゆえに企業の不正に気づき、結果的に命を狙われるとは・・・ホント、たまったもんじゃありません。

演じているのはアナ・ケンドリック

この映画でも実にいい演技をしていますが、彼女の母親は「会計士」だとか・・・

彼女は、2009年に公開されたジョージ・クルーニー主演の映画「マイレージ、マイライフ」に出演し、ナショナル・ボード・オブ・レビュー助演女優賞を受賞しています。





ちなみに、ナショナル・ボード・オブ・レビュー(NBR)は米国の非営利団体で、映画の普及促進に関する活動を行っていますが、ウィキペディアを見ると「へえ〜」という歴史をもっています。


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   アナ・ケンドリック(映画プログラムより)


映画のラストシーンからは“This story is to be continued.”もありか、という感じでした。

米国での興収成績はまずまずだったようですから、「ザ・コンサルタント2」が実現して欲しいところです。




不識庵