クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁(2010)/★★★

せっかくのアイデアが台無し。オラがリメイクするゾ!。
映画 クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁 [DVD]
なぜか息子の琴線に触れるものがあったのか、2年前の「金矛の勇者」以来劇場に足を運びました。
結論から言うと「せっかくの金の鉱脈を目の前にしながら台無し」でした。惜しさを通り越して怒りを感じます。


今回は腹が立ったのでネタバレ&妄想全開で行きます。長文なのでご注意を。


”未来の婚約者が突然現れ、自分を助けに行く”。このプロットを思いついた時点で金の鉱脈を掘り当てたようなもの。成功は約束されていたでしょう。
バック・トゥ・ザ・フューチャー2」のパクリのような話とは言え、いくらでも膨らましようがある設定の上に、"未来の花嫁"まで付いてきたら、どう作っても勝ちでしょう。
未来のしんちゃんはどんな姿なのか、何をしているのか、野原一家はどうなったのか?カスカベ防衛隊は?花嫁さんってどんな人。どうやって知り合ったの?などなど。興味津々じゃないですか。
今回禁じ手ともいえる技を繰り出したのに、この大雑把さが許せません。

■(最初に)よかったところ

最初にいいところを言うと、敵も味方も花嫁姿なので、純粋に見ていて楽しいです。特にタミコ(民子ってセンスがもうあれなんですが)がとにかく可愛い!。綺麗に描けている上に適度な露出もあって久々”二次コン魂”に火がつきました。
敵役の花嫁(希望)軍団も楽しくて、やはりウエディングドレス姿というのは、見ていて華があります。
もう1つよかったのは、年を取った野原夫婦のキャラ。
いかにもそれらしいキャラクタで、なんか懐かしいなぁと。年を取ったら本当にこうなるんだろうなぁと思わせるものがありました。
それぞれ大人になったカスカベ防衛隊の面々もらしさがあってよかったです。
その意味ではキャラクタデザインが秀逸で、すごく楽しかった。それは言えると思います。

■なにがダメなのか?

では、何がダメだったのか。
ずばり脚本の練りこみ不足でしょう。
横手美智子という女性脚本家がクレジットされていて、キャリアを見るとTVアニメで多くの脚本を手がけています。(「スーパー戦隊シリーズ」の脚本も多く書いてますね)
ただし、「しんちゃん」のようなギャクアニメは初めてなのと、劇場用作品のキャリアが少ないのが気になります。

不満な点を1つづつ上げていきます。

■(不満その1)日本に隕石が落ちて東京は水没し、カスカベがネオトキオになっている。

いきなりそれですか。ディストピア物にしたいのはわかりますが、あまりにも荒唐無稽だしこのSF的設定が作品のトーンにあってません。(タイムトラベルと隕石落下では意味が違います)
悪徳商人が繁栄する未来都市と廃墟と化した街が物語の舞台となるのはいいとして、フツーにだめになった日本じゃいけないんでしょうか?まだ宇宙人に占領されたほうがマシです。
この設定の無理さがラストの安易な救済方法と現代に戻ってからの”その未来が訪れなかった理由”に結びついて、作品を貶めています。
そもそも、大人のオラが5才児のオラを必要する理由(無理にしんちゃんを未来に連れて来る理由)があまりにもご都合主義なので、一気に評価が下がりました。
メガネ掛けて5歳児と「お馬鹿パワー!」て叫ぶと雲が晴れましたとさでは、呆れて物も言えません。
いや、奇想天外なのはいいんです。別に。
お馬鹿パワーだったら別に5歳の時でなくてもいいじゃんと思ってしまう。5歳の時の自分が必要な「なにか」の理由付けが欲しかった。

■(不満その2)未来の描写が陳腐

未来の世界はアクション仮面があちこちにあって、ホログラフィーのようなものまである。
未来というのはウソで、しんちゃんの夢かと思いました。
女の人は伸縮自在のボンチョみたいなのを着ていて、その下はビキニになっています。(これも夢と思わせる)
(タミコはこれで空も飛べます)
きらびやかな未来都市、動く歩道。いかにも未来ですよー的なアイコンに満ちています。
TVシリーズだったら許せるのものの、劇場でこれを見せられても全然面白くないです。
「ウォーリー」の未来も似たような表現ですが、現代に対する皮肉にもなっているのに対して、こちらは安易だしチープ過ぎます。
私だったらもっと多人種になった日本にしますね。日本人に見えるけど話すと日本人じゃないことが判るとか。(今でもそうですしね)
あるいは年寄りばっかりにするとか、高度に進化したケータイを持ってるとか。みんなメイド服着てるとか。
ちょっとした描写があるとグッとしまると思うのですが、この辺りがTV向けの脚本ばかり書いて来た人なのかなとも思います。

■(不満その3)オトナのカスカベ防衛隊が負け犬になっている。

序盤にそれぞれ自分の夢を語ります。それが未来にどうなっているかが描かれますが、全然愛がないです。
特にマサオくんとネネちゃんは救いがない。なんとなく人生に失敗しましたでは納得しないでしょう。
例の隕石落下が原因なのかも知れませんが、きちんと理由を描いて欲しかった。
私だったらこの2人がくっついていることにしますね。
ネネちゃんはソコソコ売れたけれど、今は落ちぶれてマサオ君だけが支えている。そして小さな劇場を借りて細々とやっている。
マサオくんは得意の腕を生かして看板を書いているけど、ネネちゃんが「あんたの絵が下手だからお客さんが来ないのよ!」みたいに責められる。(カスカベボーイズにもそんな場面がありました)
この程度の負けっぷりだったら、まだ夢があっていいんじゃないですか。

■(不満その4)プレタイトルがない

しんちゃん映画の売りとしてプレタイトルの面白さがあります。
「未来帝国」では万博、「カスカベボース」ではリアルおままごと、「金矛の勇者」では朝のミサエなどが印象に残っています。
ところがないんです、この映画。いきなりタイトルのクレイアニメで始まります。
上で「愛がない」と書きましたが、こんなところにも愛のなさを感じます。
007でプレタイトルがなかったらシリーズとして認めないぐらいの重要な要素ですよね。
この人(脚本家)はクレしん映画見たことないんじゃないかと疑いますよね。
出来が悪くたっていいんです。なにか付けて欲しかった。
しかも、その後にそれぞれ将来の夢を語る場面があるんだから、そのままタイトル前に持ってくればいいじゃないですか。
未来の公園も出てくるし、故障で水が出ないとかバンバン伏線張って。
もったいないですよ。

■(不満その5)横の関係がない。その原因は・・・

結局タミコはしんちゃんと別れさせられて、風間君と結婚しようとするんですよね。
これって、ずごい三角関係じゃないですか。韓流真っ青のメロドラマ設定。
なのに全然盛り上がらないのは、大人のしんちゃんが最後まで銅像になっているからです。
カスカベ防衛隊の中心である”しんのすけ”が活躍しないと、求心力が働かないため、オトナの防衛隊が機能しないんです。
私としてはオトナ防衛隊の活躍が見たかった。さらにオトナ・コドモ防衛隊の共同戦線が見たかった。
オトナ防衛隊がスタジアムに助けに来るのですが、バラバラに出てるので登場場面しか盛り上がりません。
さらに言うと、カスカベ防衛隊は大人になったらバラバラですか。連絡も取らないんですか。
後半が盛り上がりに欠けるのは、ただの出オチに終始しているからで、横のつながりがないからです。


たとえば、
コドモ"ネネちゃん"が「それでも未来のワタシ?!」とウサギのぬいぐるみを振り回すと、「ウサギは古いのよ!」ミンクのコートを振り回すオトナ"ネネちゃん"。
全然活躍しない2人に「しっかりしなさいよ!」と2人の"ネネちゃん"に突っ込まれるのマサオ君達。
ひまわりとネネちゃんの会話なんて、この設定じゃないと聞けないですよね。
「あら、まだアイドルやってたんですか?」「うるさい!」なんて会話が聞きたかった。
そして、風間くんとしんちゃんですよ。「ボクのフィアンセ取ろうとしたくせに」「うるさい!エリートは手段を選ばないんだ」とか、すぐに他の女の人に目移りするしんちゃんにタミコが「あんた結婚する気あるの!」「やっぱりボクと結婚しない?」とちょっかい出す風間君。
どこまでも自由なしんちゃんと好対照な風間君。間に挟まれたタミコ。
あるいは、ミサエとタミコの会話も聞きたかった。敵の多さに音を上げるタミコに「野原家の嫁はこれぐらいで音を上げない!」なんて怒られたり、「お義母さん、いいダイエットスーツ差し上げましょうか?」「余計なお世話よ!」なんて突っ込まれたり、「金有電機の娘とはしんのすけもやるなぁ」とヒロシに感心されたりなどなど。

面白くなる要素満載ですよね。


そう考えると、終盤はオトナしんちゃんを動かすと一気に展開が開ける事が判ります。そして、一番の問題は

”大人のしんちゃんの顔を出さない”というルールを設定したのが一番の問題

であることがわかります。
どうしても、出したくなければマスクが取れない設定にしてもいいし、別に顔出ししても問題はないと思いますが。
このこだわりが人物の動きを止め、ドラマを停滞させる最大の敗因だと思います。

■私が見たかった話とは・・・

地球温暖化によって、完全に水没してしまった東京に変わってネオトキオとして繁栄するカスカベ。
しかし、温暖化を解消する装置を発明しながら隠そうとする金有産業に潜入しようとする、オトナしんちゃん。
装置を起動しようとして、起動キーがないことに気がつく。はっとするオトナしんちゃん。「この形は!」
警備員に見つかって銅像にされる間際に「5歳のオラが必要だ!」

未来にしんちゃんを連れて行くタミコ。未来は気象異常で常に雲が垂れ込めている。
光輝くネオトキオ。しかしそこに住むのは老人ばかり。店員やら清掃員は若い人か日本人以外の人たち。
廃れたのは下町や住宅街。住んでいるのは貧乏な老人か若いフリーターばかり。
未来の自分達を探すマサオくん。ふと見るとコドモの頃に書いたネネちゃんの自画像そっくりの看板。
行ってみると看板を書いているオトナのマサオくん。奥から出てきたオトナのネネちゃん。
そんな姿をみてがっかりするコドモのマサオくんとネネちゃん。

花嫁軍団に追いかけれられて合流するコドモ防衛隊。しかしタミコは捕らえられてしまう。

自分の実家を訪ねるしんちゃん。
シロそっくりの犬を見つけるが、シロはしんちゃんが判らない。実はシロは亡くなっており、子供のジロになっている。
一目でしんちゃんと気づく両親。暖かいもてなし。
2人とも年を取ってよぼよぼになっている。
「あいつはどこに行ったのかなぁ」
「あんたが、結婚に反対なんてしなければよかったのよ」
「だって金有電機の娘だぜ。うまくいきっこないよ」「おかげで、ひまわりもウチに寄り付かないじゃない」
両親はこの結婚に反対だったのだ。
「これぐらいのしんのすけがよかったなぁ」
「自由に育てすぎたのよねぇ」

翌朝TVで風間君の結婚を知る一同。望んだはずなのになぜか寂しそうなヒロシ。
「オラ、結婚式に行く」「わかった。こうなったらしんのすけの気持ちをもう一度確かめたい」とヒロシ。

結婚式場に殴りこむ一同。ハゲとデブのギャクで花嫁軍団と戦う。
ピンチの時現れるオトナのマサオくんとネネちゃん。ロボに乗ってきたのはオトナのボーちゃん。
「ボーくん遅いぞ!」「ロボ やっとできた」オトナになっても友情は続いていたのだ。
「風間君、タミコさんはしんちゃんのお嫁さんだぞ!」責めるオトナのマサオくんとネネちゃん。
「うるさい。ボクは社長になるんだ!」聞かない風間君。

しんのすけ銅像を見つける一同。「あれを元に戻せ!」しかしスイッチにたどり着けない。
そこにひまわり登場。「ひまわり!」「ひま!」久々再会の野原一家。
スイッチにはあと一息。ずっと戦いを見ていた風間君。スイッチ向かって走り出す。
「けっきょく僕が社長になれないのは、お前らのせいだ!」
「風間、次期社長になりたくないのか!」「社長より地球だ!」意を決したようにスイッチを押す。
オトナしんちゃん復活!。
「あれ?みんなどうしたの?」あきれる一同。
「やっぱりカスカベ防衛隊は永遠だゾ!」

オトナしんちゃん「この気象異常を解消する秘密を発見したんだ! みんな力を貸してくれ!」

コドモ「カスカベ防衛隊 ファイアー」
オトナ「カスカベ防衛隊 ファイアー」
野原一家「野原一家 ファイアー」
「私たちもイイ男捕まえて幸せになるわよ!花嫁(希望)軍団 ファイアー」

再度、秘密の機械に向かって走り出す一同。
オトナとコドモ、お互いにツッコミを入れながら敵と戦う。

「この話でマンガ連載してやる!」足を止めて敵と戦うマサオ君ペア。
「これって全国放送なのよね。」立ち止まってTVカメラへアイドル顔を見せるネネちゃんペア
「ロボ は まかせろ」ボーちゃんペア
「野原一家の底力を見せてやる」野原一家。

まだ走っているのは、風間ペアとタミコ、しんちゃんペア。
未練たらたらの風間君、すぐに他の女の子に浮気するしんちゃん、殴るタミコ。
コドモ風間君が「ほら、大人になってもお前が邪魔するじゃないか!」「そんなこと言っちゃイヤーン」

やがて風間ペアも足止めされる
「一生しんのすけに付きまとわれるから、覚悟しておけよ」オトナの風間君。

装置の前に立つしんちゃんペアとタミコ。
「さあ、しんちゃんここへ」
なんと起動キーは5歳のしんちゃんのお尻の形にピッタリ。
「さあ、これで起動できるぞ。これが起動したらタイムマシンも破壊される。一気に飛ぶんだ!
いいかい、しんのすけくん。未来のキミに1つだけ伝えておきたいことがある。
オトナになっても、そのまま変わらないでくれ。自分の信じたことをやるんだ。
そうすれは、きっと友達も家族も助けてくれる。」
「わかったよ。オトナのしんちゃん。オラはオラのままでいいんだね」
「それじゃ、いくよ。土曜の午後の公園へ!」「土曜の午後の公園へ!」

土曜日の午後の公園。
再びお互いの将来について話をしている。
風間君「しんのすけ オトナになったら何になるんだ」
しんのすけ「ん。オラはオラになるんだ」
風間君「それじゃ 答えになってないだろ」
しんのすけ「じゃ、風間君のお嫁さん。それか風間君のお嫁さんのお婿さん」
風間君「ふざけんな。まじめに答えろ!」
駆け出す一同。 エンドクレジット。

■蛇足ながら

Yahoo!映画でメチャメチャ評価いいですね。投稿数もすごく多い。
「カスカベボーイズ以来の出来」というのが定説になってますね。
たしかにここ数作の中では突出しているのは認めます。ただし、このプロットでこの内容ではもったいないと思うんです。


さらに、見ていて泣けましたというのも多い。
「オラは死なない」と連呼するのを聞いて臼井先生を偲ぶというのも見かけます。
ただ、どうなんでしょう。ひたすら「オラは死なない」といい続ける姿をみて「なんで?」と思いましたけど。


横手美智子脚本でよかった。というのも目にしました。
女性らしく「結婚」という部分では、決して悪くないと思います。むしろしんちゃん映画に新鮮な風を入れた作品とも言えるでしょう。
ただし、今までクレしん映画をみてきたものとしては、ちょっと待ってよと言いたい。
もっともっと練られるじゃないのと言いたい。
いままで十数年続いてきたシリーズ(5歳児たちの活躍)を踏まえての未来であってほしいし、それがファンに対する誠意だと思うんです。
シリーズものなんだから、もう少し愛が欲しかったと思います。