"The Dark Knight"「ダークナイト」 ― ジョーカーのカッコ良さ
2008年公開のバットマンシリーズ「ダークナイト」 に出てくる悪役のジョーカー。
彼のどこに惹かれるのかを考えていました。
町山さんの解説 によるとバットマンとジョーカーの関係は、西洋の人にとっては常識(というか教養として知っている)の「神と悪魔」の対立を表しているようです。
日本ではそういった概念になじみがない人が多いために、「ダークナイト」は日本でこけてしまったのではないか、ということでした。
(町山智浩のアメリカ特電 第72回 2009/01/22 up『ダークナイト』はなぜ素晴らしいか ジョーカーとミルトンの『失楽園』)
神と悪魔は正反対なようで表裏一体。神がいるから悪魔がいる。
光が当たれば影ができるのと同じ、それらは分けることができない。
映画の中でジョーカーは「純粋な悪」として描かれています。
ジョーカーは金のために殺人や悪事をはたらくわけではありません。
彼の生い立ちもはっきりとは語られません。
理解できる理由もなく人を殺していきます。
それらがもし理解できたとしたら、ジョーカーは「ただの人」になってしまいます。
しかし、ジョーカーがはっきりと自分の存在について語っている場面があります。
それはジョーカーが捕まって取調室でバットマンから尋問を受けるシーンです。
このシーンではジョーカーの存在だけでなく、ジョーカーの魅力がわかりやすく表されていました。
(下の動画の2:12から1分間ほど)
以下、セリフは 台本 より引用。「」内は僕の勝手な訳です。
Batman:
Then why do you want to kill me?
バッ:
「なぜ俺を殺そうとする?」
Joker:
Kill you? I don't want to kill you.
What would I do without you?
Go back to ripping off Mob dealers?
No you... You. Complete. Me.
ジョ:
「ンハハハ、アンタを殺すって?」
「殺したくなんかないって」
「アンタがいなくなっちまったらオイラはどうすればいい?」
「ギャングの売人から盗みをはたらく生活に戻れっていうのか?」
「違うよ、違う違う違う……」
「アンタが。オイラを。満たしてくれる」
Batman:
You're gabage who kills for money.
バッ:
「お前は金のために人殺しをするクズだ」
Joker:
Don't talk like one of them- you're not, even if you'd like to be.
To them you're a freak like me... they just need you right now.
But as soon as they don't, they'll cast you out like leper.
ジョ:
「あっち側にいるつもりで物を言うなよ!アンタは違うだろ!たとえそうありたいと思っていたとしてもだ」
「やつらから見ればアンタもオイラと同じ異常者だぜ……今は必要とされてるけど」
「でもすぐそうじゃなくなるよ。そうしたらアンタは嫌われ者だ」
Joker:
Their morals, their code... it's a bad joke.
Dropped at the first sign of trouble.
They're only as good as the world allows them to be.
You'll see- I'll show you...
when the chips are down, these civilized people... they'll eat each other.
See, I'm not a monster... I'm just ahead of the curve.
ジョ:
「やつらが言うモラルだとか規律だとか…… そんなもん悪い冗談だ」
「困ったことが起こりそうになったら」
「状況によってはやつらはモラルなんて捨てちまうぜ」
「オイラが見せてあげるよ」
「いざとなったらその市民の方々とやらは、やつらはお互い殺り合うぜ」
「なぁ、オイラは怪物じゃない…… ただ先が読めるだけなんだよ」
悪魔はなぜ存在するのか? ― それは神がいるから。
悪はなぜ存在するのか? ― それは正義があるから。
ジョーカーはなぜ存在するのか? ― それはバットマンがいるから。
"Don't talk like one of them- you're not, even if you'd like to be. To them you're a freak like me..."
ジョーカーはバットマンも自分と同じような存在であると指摘し、さらにバットマンが自分を満たしてくれると言っています。
正義のバットマンがいるからこそ、悪のジョーカーが生まれたのだと。
黄門様が行くところで揉め事が起こるように、金田一少年がいるところで殺人事件が起きるように。(…それは違いますかね。いやでも結局、どんどん事件を解決していく金田一少年に挑戦する「悪」役がでてきてしまいました)
そしてもう一つ、「人間を理解している」ところにジョーカーの魅力があります。
"See, I'm not a monster... I'm just ahead of the curve."
上のシーンでジョーカーは「おれは先が読めるだけだ」と言っているように、ジョーカーは人間の負の面を理解していて次の行動をどんとん先読みしていきます。
人間の正義を試しながら遊んでる。
そして、その予測がはずれても別に悔しがらない。
「今回はそうだったけど、次はわからないよね。人間なんて」
笑いながらそう呟いて去ってゆく姿が目に浮かびます。ジョーカーかっこいい……
ジョーカーのカッコ良さは桂正和先生の『ZETMAN』に出てくる灰谷という敵のカッコ良さにも似ています。
彼も愛嬌のある悪役で、人間を観察しながら人間を理解し人間の行動を先読みして人間の正義を試して遊んでいるようなところがあります。
人間を見透かしたような純粋な悪。でも愛嬌がある。
それがジョーカーの魅力の一つだと思います。
- 作者: 桂正和
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【追記】ジョーカーについて書いたもの
・2012-04-27 "The Dark Knight"「ダークナイト」 ― 主役はバットマン……?
・2012-12-14 これからの「アイアンマン」の話をしよう 〔前編〕