電氣アジール日録

2017-06-15 イッツ オール ライト

『世界の右翼』表紙

本邦初の怪企画『セカウヨ

というわけで、当方の企画立案で年頭から進めていた、グループSKIT編著『世界右翼』(isbn:4800271878)が刊行。内容は以下のような感じ。

○序章 世界右翼とは何か

右翼歴史 フランス革命から現代まで

ファシズムとは右翼なのか?

出会い系まで活用? ネットメディア右派関係

などなど…

○第1章 アメリカ右翼

トランプ大統領の過激な発言はすべて「ジャイアン理論」だ!

・じつは共和党っぽくない トランプが主流派に嫌われる理由

日本右派に人気の「テキサス親父」もアメリカではただの一般人

白人至上主義団体「KKK」の首領称号は「皇帝魔術師

アメリカでも不良の暴走族右翼ファッションが大好き?

などなど…

○第2章 ヨーロッパ右翼

ヨーロッパ右派ロシアが親密なのは「敵の敵は味方」だから

イスラム教徒だけではない 東欧白人差別する右派

・「国境地雷でうめつくせ!」 ギリシャ右派の過激な主張

フランス人黒歴史 ナチスに協力したファシストたち

などなど…

○第3章 アジア右翼

中国反日になったのは最近の話? 愛国教育右傾化した漢民族

中国人を敵視するモンゴル極右ダヤル・モンゴル運動」って何?

インドヒンドゥー教右派イスラム排斥を唱えるトランプの大ファン

などなど…

○第4章 日本右翼

改憲を猛プッシュの「神道政治連盟」は日本宗教右派

日本右翼在日韓国人がいるワケ 意外に多い「マイノリティ右派

ネット右翼は"Net right"? 日本右派海外でどう報道されている?

などなど…

ただし、今回は「世界の」と言いつつ、中南米アフリカ大陸などは触れていない。1990年代までなら、たとえばコロンビア内戦では極左ゲリラと敵対する右派民兵のAUCなどが有力だったが、そのへんも今では目立たなくなってしまった。アフリカでは多くの政党反政府民族主義系なので、右翼としてカウントしているときりがなくなる。イスラム過激派右翼と見なすかについても言及したが、本書では大きくは扱わなかった。

中二病結社から貴族まで……大人の怪獣図鑑

本書の執筆にあたって参考文献を探そうとしたら、アメリカ右派ヨーロッパ右派などに触れた書籍はいくつも存在するが、少なくとも2017年6月までの現在Amazonに「世界右翼」というタイトルの本は他にない。つまり本書は本邦初の「世界右翼」本であるすげえぞ、これは怪挙w

わず快挙ではなく怪挙と書いたが、実際に執筆しながら「これ、怪獣図鑑だよな」と思った側面も少なくない。アメリカ編で取り上げたKKKは、「見えざる南部帝国」を自称、幹部を「騎士」「大ドラゴン」などと呼ぶ……中二病センスかよ! ギリシャ右派政党黄金の夜明け」なんて実在の秘密結社みたいな党名だし、英国にはイギリスファシスト党を結成してヒトラー結婚式に招いたモズレー准男爵なんて怪紳士もいる。

真面目な話もすると、EU圏各国で右派が台頭するなか、スペインだけは新興の極右政党がないというのは興味深い。同国は1970年代までフランコ将軍ファシズム政権だったので、今さら極右政党が出てきても国民には「新味がない」のだ。逆に言えば、フランス国民戦線などは、実際に政権運営して失敗した経験がまだないから期待されているのである

わりと実証的な記事になった項目もある、一例を挙げれば「日本でも欧米のような移民排外主義の衝突は起きるか?」という問題

日本でも排外主義の団体は、「移民の増加で治安失業悪化する」と言う。ところが、現在日本ではブラック雇用外国人技能実習生カウントすれば移民労働者が100万人もいるのに、警視庁『警察白書』過去の版を見ていくと、日本人口10万人あたりの刑法犯数は、2001年には2149件、06年には1605件、11年には1176件、15年には865件と一貫して減少が続き、外国人の流入とともに犯罪が増えた兆候はまったくない。

失業率も、リーマンショック直後の2009年前後例外とすれば、21世紀に入って以降は低下を続けている。これで移民の害を訴えられても、ぴんと来ない人のほうが多いのは仕方ないのではないか。

反体制ほど勤皇」は日本の伝統

なお、本書では日本右派左派定義の軸を「戦後憲法を認めるか否か」に置いた、だから改憲政党である自民党右派としている。本来なら日本右派左派の軸は天皇制を認めるか否かだが、現状では今上天皇平和憲法遵守の姿勢からだ。無論「現状では」の話で、自民党改憲案が実現した場合、その後の時代には今の安倍政権が「中道」扱いになる。右派左派定義フランス革命以来、時代状況によって変化してきた。

昨今、リベラル派が護憲主義者天皇を錦の御旗にするのはおかしいと怒る人は少なくない。でもさ、「左翼なら反天皇じゃなきゃいけない」なんて決まりはあんの? あったとしても拘束力はあるのかw 以前にやった『「右翼」と「左翼」の謎がよくわかる本』(isbn:4569819370)でも言及したが、大日本愛国党山口二矢暗殺された日本社会党浅沼稲次郎委員長は、じつは熱烈な天皇崇拝者だった。

日本では「反体制ほど勤皇」という事例はよくある話だ。古くは、後醍醐天皇を奉じて鎌倉幕府の打倒をはかった楠木正成幕末期の長州藩などの尊皇攘夷志士も当時の反体制ではないか! 515事件、226事件を起こした青年将校らも同様だ。戦前にもリベラル派が「護憲運動」というものを起こしたが、これは「明治天皇が定めた憲法」を藩閥や軍の独裁を批判する論拠にしたものだった。

反体制人間ほど、地位向上や自分正当性を訴えるため強い権威に結びつこうとする例は少なくない。今回の『世界右翼』の日本編では、既存右翼団体在日がいる理由、すなわち「街宣右翼在日自作自演説」の底の浅さについても言及している。アメリカでは、ユダヤ系黒人白人のなかではマイノリティアイリッシュ系などの右派も、ゲイ右派ごろごろいる。

愛国者からブサヨと呼ばれ、リベラルからウヨと呼ばれるのを希望する

以前も述べたが、右翼意志的な属性ではなく、先天的属性に話を持ってゆきたがる。右派とは自分が持って生まれた陣営を肯定する、自分が属する国家民族人種などこそすぐれているという言説は人に優越感を与える、そこに右派の「魅力」がある。優越感はお金がかからない。

わたしはたまに現在自民党支持者やネトウヨをバカにしたようなことを書くが、すると「在日発見!」とお約束のチョン呼ばわり受ける場合があり、けっこう不快だ。こう言うと、逆に反差別左翼からあなた在日呼ばわりされて怒るのは、あなたにも差別意識があるからだ」などとドヤ顔されるのだが、この手の意見不快だ。

要するに、わたしは主張の中身で評価して欲しい(悪い評価でも良い)のに、それをすっ飛ばし民族国籍という生まれの問題すり替えられるからネトウヨの言う「在日認定」は不快なのだ

おそらく、彼らが自分たち敵対的意見の持ち主をみな在日とか帰化人と見なすのは、「同じ日本人に敵はいない」と思いたがっているからであろう。しかし、わたしはむしろ自分が「日本人成人男性」だからこそネトウヨが嫌いだ。

わたしはあえて自分の属する陣営"にも"批判的な目を向けられるのが「頭が良い」ことだと思ってる。だからどこでも「自分陣営バンザイ一辺倒」は見ていて恥ずかしい、日本国内蔓延する「日本スゴイネタは、狭か九州ん中だけで博多ん者が王様気取りしよるごつ恥ずかしかばい(逆に、東京人が外から九州をバカにするなら断固反論するけどな)。

ただし、自分の属する陣営の批判"しか"しないのはまた別の意味病気。要は現状の問題点に対するバランス感覚なのだ。だから、いつか世界各国で左派政党が優勢になったなら、今度は節操なくこれをネタにする『世界左翼』という本の企画をやりますよw

2017-05-22 一番美しくなく

忘れられた小さな英雄

NHKドラマの『ひよっこ』を見ていたら、前々から漠然とした疑念が頭をよぎって仕方なくなってきた。

以前も述べたが、わたし現在少子化の原因が、「悪い左翼フェミニズム女性社会進出を唱えたり、日本国憲法家族の絆より個人主義を広めたせいだ」というのは大ウソだと考えている。

2016-04-04 少子化の真の原因と解決

http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20160404

さて、『ひよっこ』の劇中、主人公のみね子らの年端もいか乙女たちは、地方から東京工場集団就職してきた。当時、東京のみならず日本各地でああい女子工員が集められていたはずだ。

わたしが7歳まで住んでいた長野県諏訪では、時計カメラやらの精密機械工場で働く女性たちがいた。戦前大正時代にまで遡ると、製糸工場女子工員たちになる。わたし中高生時代に住んでいた福岡の粕屋から内陸の筑豊でも、おばちゃんの炭鉱労働者が大量に石炭運びの仕事をしていた。

この手の女子労働者というのは、『ひよっこ』の劇中でも描写されているが、単純に家が貧しく金が必要なので地元を離れて働いてる。「悪い左翼フェミニズム」とか「戦後個人主義」とか1ミリも関係ない。

ひよっこ』の劇中では、1960年代当時、みね子らのような女子工員たちが作っていたトランジスタラジオ日本重要な輸出商品である描写されている。いわば彼女らもまた、高度経済成長期を支えた偉大な小さな英雄だ。いやそれを言えば、戦前日本輸出産業といえば生糸絹製品で、これも先に触れた長野県をはじめ各地の女子工員に支えられていた。

果たして彼女らは「悪い左翼フェミニズム洗脳されたけしからん人たち」なのか? こうした女性社会進出は、むしろ国家要請だったのではないか

勤労動員女子工員たちは愛国者非国民

みね子たちの寮で舎監を務める愛子さんは、戦時中から工場に勤務していたという。彼女若いころの姿を見たければ、黒澤明『一番美しく』が参考になるかも知れない。

戦時中につくられたこの映画では、女子工員たちが「お国のために!」と一致団結して、男性労働者に劣らぬ働きぶりを示す姿が感動的に描かれる。

しかしだ、戦前標準的庶民の娘といえば17、8歳ぐらいで結婚するか、あるいは父母の側にいて家の手伝いをする(当時のほとんどの世帯農家個人商店などの「家業である)のが普通だったのではないか

少し前に『AERA2017年5月1-8日合併号が「右傾化する女たち」という特集記事をやっていた。この記事などによると、女性だけど右派の方々というのは、「女性社会進出けしからん専業主婦こそ女のあるべき姿」というお立場らしい。使用者がどの程度いるか不明だが、最近は「フェミウヨ」という語句があるようだ。

専業主婦礼讃の右派フェミニスト立場からすると、映画一番美しく』の劇中の女子工員のように、「お国のために」結婚せず工場一生懸命働く女性たちは、けしからん人々なのか? それとも立派な愛国者なのか? どっちなのだ??? わたしはそれが気になって気になった仕方ない。

昨今では、片山さつき稲田朋美櫻井よし子、長谷川三千子杉田水脈はすみとしこ等々、女性右派論客は数多い。恐らく、右派フェミニストの中でも意見は分かれるのだろう……ただまあ、こうした女性右派論客自身の多くは専業主婦になる気はなく、既婚であっても子供はいなかったりするのであるけれど。

戦争というワクワクの時間」の終わりの後

一番美しく』の劇中、「私たちのような無力な小娘だってお国の役に立てるんだ!」と頑張って輝いていた娘たちは、その後どうなったのだろう? 意地悪な中年初老オヤヂのわたしはイヤな想像をしてしまう。

恐らく彼女らは「戦争という非日常」による高揚の日々が終わるや、実家に帰って父母に怒鳴られながら農家やら商家の家の仕事をするだけという狭い世界に戻されるか、17、8歳そこいらでさっさと嫁に行かされるか、どちらかだろう。

無論、それに順応してゆく娘も多いだろうし、むしろそっちの方が多数派だったはずだ。しかし、なかに戦時中の高揚感が忘れられず、「ああ、なんで戦争が終わっちゃったの? ずっと戦争が続けば良かったのに」と考える女子がいたとしてもおかしくない――左翼の平和主義者は真っ赤になって怒りそうだけど、そういう乙女もきっといたと思う。

さらに、戦時中勤労動員の一致団結の高揚感が忘れられなかった女子供なかには、日本共産党に入党して組合運動の闘士になった人間もいたのではないか? さしずめ、冷戦体制崩壊後に旧東ドイツ出身からネオナチが次々生まれたのの逆パターンだ。

実際、『はだしのゲン』に出てくる町内会長のおじさんのように、昨日まで「鬼畜米英撃ちてし止まん」と言っていた大人たちが一転して占領軍尻尾を振るようになった状況下、赤旗を振ってる連中から労働者祖国ソ連では男女平等だとか吹き込まれれば(代わりに男女平等に重労働シベリア送りになるが、その詳細は知らされてない)、人間心理として、そっちに流れるのもまあ無理なかったんじゃないかなあ、という気がする。

小津安二郎という偽善者

ここで少々いきなり話が飛躍するが、これも前々から強く気にかかっていたことなのでついでに述べると、わたし小津安二郎の『東京物語』という映画がどうにも嫌いだ。なんでこんな作品が美しい日本人の姿なんて言われるのか、まったく理解できない。

ひよっこ』にも『一番美しく』にも、生きている、働いている、生身の女性が描かれる。だが、『東京物語』で原節子の演じるヒロインは、職業婦人という設定のはずなのに、ひたすら中高年男性の都合良い願望のお人形しか見えなくて気持ち悪い。

劇中で笠智衆が演じる老父の実の子らは東京に出てきた老父にろくに構おうとしない一方、親身になって相手をしてやる原節子がさも理想的な嫁みたいに描かれる。

しかし、実の子らは現代によくいる独身中年ではない、ちゃんと自分らの仕事家族子供)を持っている身だ、老父のことが嫌いなわけでもなく、単に仕事が忙しくて相手ができないように描かれている。現代基準なら充分にまともな大人ではないか

一方、原節子の演じる「死んだ息子の嫁」は、亭主も子供もいない身軽な立場ゆえ老いた義父の相手ができている。しか職場簡単休みが取れるらしい。そして、「死んだ亭主の父」に実の父以上の扱いではないかと思えるぐらい親身に接している。何だよそれ?

まりにも男にとって都合が良すぎる、無意識男尊女卑臭いがプンプンする。ロコツに女性に対して抑圧的な男を描くよりよほど気持ち悪い。

――などと前々から思っていたら、昨年、かなり腑に落ちる『東京物語』評を見た。

菅野完? @noiehoie

現に、小津の映画には「食事のシーン」があれほど大量に出てくるのに、「料理のシーン」はあまり出てこない。 例えば『東京物語』。笠智衆東山千栄子夫婦が宿無しになり、嫁である原節子の家に逗留するあのクダリ原節子は義父母を心から歓待し、酒食を提供するが、一切料理しない。

https://twitter.com/noiehoie/status/792517383554424837

菅野完? @noiehoie

あの時、原節子は、隣の部屋から酒とお猪口を借り、料理店屋物だ。

無論それは、「戦争未亡人であり職業婦人である原節子は、客をもてなす所帯道具がない生活をしている」ことや「戦争未亡人子供に恵まれなかった」ことなどを描写するための方法ではある。しかし、原節子、一切手を動かさないのだ

https://twitter.com/noiehoie/status/792517928356720643

菅野完? @noiehoie

まり、小津の描いた日常とは「誰一人料理しないのに、綺麗な器に乗った料理が出てくる」日常であり、こうの史代日常とは「灰神楽の舞う中火吹き竹で竃に息を吹きかけ汗拭き拭き作った銀シャリをがっつく」日常。この対極。

https://twitter.com/noiehoie/status/792523983782449152

まっ、小津が生きていた当時は逆に、そういう「生活感のなさ」が斬新で清潔だったのかも知れないけどね……。わたし個人は、ばりばりと汗水流して働いてうまそうにカレーを食べる『ひよっこ』劇中の乙女らの方が好きです。

2017-04-30 周回遅れの記

イヤなミリオタ

随分と昔のことであるが、イヤなミリオタミリタリオタク)がいた。

学校で同じクラスの面々は、最新のファッションだのJ-POPだの、昨日のTVドラマだの野球中継試合結果だの、あるいは隣のクラスの誰それが可愛いとか、そんな話ばかりしている。

平和ボケどもめ、お前らみんな、もし核ミサイルが飛んでくれば一発で終わりなんだよ、そんなふうに思っていた。

通学風景にあるのは田んぼ道路と、ここ20年で建てられた安物住宅ばかり。家に帰れば、母は亭主のふがいなさを嘆き、まだ幼児の妹は鼻水を垂らして相手をしてくれとせがむ。

彼の日常の周囲を形成するものは、冴えない地方都市風景と、垢抜けない地元方言と、下品な態度しか取らない田舎ヤンキーばかりだった。

違う、違う、違う。

平和ボケどもめ。

世界」は、「現実」はそんなもんじゃない。

こいつらはみんな全然、「世界」を、「現実」をわかってない。

こいつらは、日本の近隣の仮想敵国が何発の核弾頭を持っているか知っているのか? 日本に何人の工作員が潜入してるかわかってるのか?

最新のナイキシューズ? ジャニーズ系タレントが出てる人気のドラマ、バカじゃないか、子供っぽい。

俺はそんな物より「大人」の「現実」の世界を知ってる、日本国防予算在日米軍基地の兵力、イージス艦ミサイルの射程距離、一般の民間職員に偽装したCIAの諜報員はどこに勤務しているか自衛隊自動小銃中国軍銃器の性能の差……

世の中を動かしてるのは、ぜんぶ軍事経済なんだよ、わかってないガキどもめ。

つまらない学校内の不良同士の意地の張り合いも、家庭内のくだらない嫁と姑の争いも、惚れた腫れたとか男女がくっついたとか別れたとか、そんなのも全部、核ミサイルが飛んでくれば一気に消し飛ぶんだよ、平和ボケどもめ。

新聞テレビ報道? くだらねえな、国会議員大企業経営者も、アメリカ国防総省や、中国中央軍事委員会の掌の上で踊ってるだけじゃないか。

平和ボケどもめ、歴史を分かってないな、思想? 哲学? 法律? 文化? バカか、そんなもの何の役に立つんだよ。人類歴史戦争歴史じゃないか、軍事を分かってる人間こそが、すべてを把握している人間なんだよ。

だが、いつまで経っても、彼が心の底で期待していたように、核ミサイルは飛んでこなかった。

彼が「軍事」に対する興味と周囲に対する優越感を深める一方、彼が見下していた者たちは、そこそこの大学に入り、そこそこの企業就職し、恋愛し、人生経験を積んでいった。

彼は相変わらず、最新のファッションだのJ-POPだの、昨日のTVドラマだの野球中継試合結果などに興味を持とうともせず、代わりに、ミサイル小銃戦車戦闘機に詳しい自分こそ、「大人」の「現実」を知っている人間だと思い込み続けた。

10年が過ぎ、20年が過ぎた。

彼は30代になり、40代になった。相変わらず彼女もおらず、1人で汚い部屋に住み、「大人」の「現実」を知らない人間を罵り続けている。

平和ボケどもめ、お前らみんな、もし核ミサイルが飛んでくれば一発で終わりなんだよ……しかし、いつになったら核ミサイルが飛んできてくれるのか。

ああ、核ミサイルが飛んできてくれないかなあ、そうすれば俺が正しかったと証明されるのに。あ、でもやっぱり、ガルパン劇場版の続きが見られなくなるのは嫌かなあ。

「反対側にお花畑」の人々

軍事専門家のお言葉

https://twitter.com/toshio_tamogami/status/858304234210512896

田母神俊雄 認証済みアカウント @toshio_tamogami

北朝鮮ミサイルを今朝5時半ごろ発射したことで東京地下鉄など電車が一部止まったそうだ。騒ぎ過ぎである北朝鮮日本に向けて突然ミサイルを撃つことはないし、アメリカが北に対する先制攻撃をすることもない。3カ月もすれば私の言っていることが正しいことが証明される。

ドヤ顔で「4月中に米朝開戦」と語っていた方々や、「北朝鮮と開戦したらこれを大義名分に前から自分の嫌いだった奴を虐殺する」という本音を吐露した方々の姿が、かつて「1999年7月になれば世の中は全部チャラ」と、ノストラダムスの大予言に熱中した中二病と同じように感じられるのは俺だけだろうか。

そりゃまあ、楽観論に立つよりは悪いことを予想しておいた方が、実際に悪い事態が起きたとき精神的ショックは少なくて済む。うん、確かに明日いきなり戦争になるかもね、でもそれは今に始まった話ではない。

冷戦時代、サヨクは「このままでは軍国主義復活だ」「戦前に逆戻りだ」と言い続けて数十年、結局その日は来なかった。愛国者の皆様も「ソ連アカが攻めてくる攻めてくる」と言い続けて数十年、結局その日は来なかった。どっちも「狼が来た」少年かよ。

世界平和がお花畑の妄想と言うなら、退屈な現実リセットしてくれる"戦争という非日常"にワクワク期待するのもまた、お花畑の妄想とは言えまいか。

以前も述べたが、かつて90年代当時は、「やっぱ左翼平和主義リベラル派は夢想家、保守の方が現実主義だな」と思っていた。が、昨今は保守を標榜する陣営に「逆方向にお花畑」の人が増えすぎて萎えている。「中韓以外の世界の国は全部親日」とか(たまたま「敵対する隣国」が日本ではないだけである)、「戦前日本貧困犯罪もいっさいないユートピアだった」みたいな言説とか。

もし「戦前教育勅語があったからみんな道徳的だった」という説が本当なら、逆に教育勅語が発布された明治23年より前の日本は、古代からずっと道徳的頽廃した無法の時代だったのか? はたまた、戦前津山三十人殺しやら阿部定事件やら死なう団事件やら226事件やらも、教育勅語があったから起きた事件なんですか?

生存報告最近仕事

あんまり長いことブログ放置していると「何やってたんだ?」と思われるので、とりあえず年末年始〜春先の仕事の一部を記しておきます。

『名作名言 一行で読む日本の名作小説』(isbn:4800268370

島崎藤村破戒』、太宰治人間失格』、小林多喜二蟹工船』、大岡昇平野火』などの解説を担当中島敦山月記』はまさに現代ラノベ作家志望やユーチューバー企業家の挫折した姿、石川啄木『一握の砂』の短歌ニートツイートみたいなものだと論じてます。

日本史100人履歴書』(isbn:480026605X

平安時代の章と近代の章を担当。平安編では、当人の努力ほぼゼロで成り上がった藤原道長女子校文芸部ボスのごとき紫式部、ほとんど計画性皆無で反乱を起こした平将門などに言及。近代編では、伊藤博文好色伝説渋沢栄一の唯一の失敗は後継者育成、東郷平八郎女子校視察の意外な顛末、東條英機私利私欲なきブラック企業経営者……といった話を書いてます。

日本史ミステリー 天皇家の謎100』(isbn:4800268850

神話時代から古代中世現代までの皇室の幅広いエピソードを網羅。当方は、紀元節起源天皇の輿を担う八瀬童子、園遊会参加者はどうやって決まるのか? 皇族の著作などの収入をめぐる裏話、「元号」の制定過程などについて言及。監修の山下晋司氏にはお手数をおかけしましたが、おかげで中身の濃い本になったと思います。

ウケる温故知新とウケない温故知新

――さて、仕事日本の歴史を調べていると、先に触れた「逆方向にお花畑」の人がいかに珍妙であるか痛感せざるを得ないことが多い。それも、まったく左翼的な視点ではなく、むしろ保守的歴史観の面から見てだ。

神武天皇は実在した」と主張する方は、『日本書紀』にしっかりはっきり拷問大好きの暴君と書かれた武烈天皇も実在したと認めるのか?

最近中国韓国儒教国家だからダメだとか、国語の漢文は廃止せよとかドヤ顔で語る人もいるが、明治期まで旧武士公家日本インテリ層はみんな、四書五経などの漢学が基礎教養だった。明治維新が起きたのは、水戸学などを通じて江戸時代儒教の忠君愛国思想が普及し、「皇室権力を奪っている幕府を正すべし」という意見が広まったからだ。「儒教漢文は悪だ」論者は、明治維新全否定なさるのか。

今日でこそ戦後憲法との比較権威的抑圧的に思われている大日本帝国憲法だが、制定時にこれを熱烈に批判したのは、リベラル派ではなくむしろ保守派だった。明治天皇家庭教師を務めた儒学者元田永孚などは「憲法? 内閣制度? 伊藤博文の奴は西洋かぶれだ、なぜ律令制の復活にしないのだ!」という見解だった。

昨今は立憲主義という概念自体が日本にそぐわないと主張する人もいるらしいが、だったら十七条憲法を制定した聖徳太子反日だったんですか。

2017-01-01 あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします。

2016-12-30 それでは皆様よいお年を

2016年最後の挨拶とか年間ベストとか

申し訳ありません、年末年始仕事が詰まってるんで今年のベストは簡単に済ませます。

というか、本年は無駄に忙しく仕事と関係ない読書とか映画観に行ったりとかの余裕がほとんどなかったので、実際に内容も薄いです。

1.映画シン・ゴジラ監督庵野秀明

2.映画ヘイトフルエイト監督クエンティン・タランティーノ

3.評論『シャルリとは誰か?』エマニュエル・トッド

4.映画この世界の片隅に監督片渕須直

5.ルポ『戦争中の暮しの記録 保存版』暮しの手帖編集部

6.評論『「反戦反原発リベラル」はなぜ敗北するのか』浅羽通明

7.ルポ『インド独立の志士「朝子」』笠井亮平

8.映画帰ってきたヒトラー監督:デヴィッド・ヴェンド

9.映画バットマンvsスーパーマン監督ザック・スナイダー

10.TVドラマ精霊の守り人脚本大森寿美男

列外.『東離劍遊紀』脚本虚淵玄

1.映画シン・ゴジラ

監督庵野秀明http://www.shin-godzilla.jp/

なんか、2年ほど前に書いたこの文章(http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20140611#p2)が、結果的に本作品の予告みたいになった気分。

とりあえず、仮面ライダーとかウルトラマンみたいな長期人気シリーズが、みんな過去作品のセルフパロディ的再生産になってる状況下、過去の東宝特撮映画全部リセットして「現実に初めて怪獣が出現したら」を正面から大真面目に描くというのは考えてもみなかった。これは発想の勝利。

2.『ヘイトフルエイト

監督クエンティン・タランティーノhttp://gaga.ne.jp/hateful8/top/

3時間近い上映時間がまったく退屈に思えなかった快作。ラストで主要登場人物は全員ろくでもない最期を遂げるというのに、一番激しく対立していた南部出身の白人と北軍の黒人兵が仲良く一致団結して事件の元凶を拷問、というオチがもたらすブラックユーモア的な達成感は、「謎の感動」としか言いようがない。

3.『シャルリとは誰か?』

エマニュエル・トッド:著(isbn:4166610546

この人、いっけんリベラル派のようでドイツ人には口汚いところとか微妙に性格が悪いが、着眼点はあなどれない。

伝統的宗教カトリック)が排外主義の温床ではなく、むしろ「ヨーロッパ人でもアフリカ人でも同じカトリック信徒」という国際的普遍性があり、伝統的宗教が衰退すると民族主義がその代替物となって排外主義が広まる――という指摘は鋭い。

あと、各国の文化的価値観を家族制度(相続制度)の伝統から分析した部分も奥が深い。イギリスアメリカは兄弟間で相続が平等なので組織運営も平等主義的、ドイツ日本韓国は長子優遇の家父長主義だから平等主義が根づきにくいとの指摘。

(そう考えると、日本では地域によっては兄弟が上から順に親元を離れる末子相続もあったのを政策的に長子相続に一本化した明治期以降の伝統って、本当に不自然で作為的

ロシアは父の権威が強いが兄弟姉妹関係は平等(分割相続できる土地が広いからか?)という説明は、『カラマーゾフの兄弟』を念頭に置くとすごく納得できる。あと「強権の下での平等」ってソ連みたいな社会主義じゃん。

4.映画この世界の片隅に

監督片渕須直http://konosekai.jp/

あまちゃん』の頃から、能年玲奈(のん)は兵庫県出身と聞いて、いずれ関西弁キャラを演じて欲しいと思っていた。広島兵庫の2つ隣だが、劇中の広島弁の自然な上手さに舌を巻く。この人、日本全国どこの田舎娘を演じてもいけるんじゃないのか?

あと、本作を「戦争映画なのに反戦思想がないから素晴らしい」と持ちあげる人がいたようだが、根本から間違ってる。本作品は戦争映画ではない「戦時中が舞台のホームドラマ」だよ。普通にNHKの朝ドラマで通用するじゃねえか(もし山田風太郎の『戦中派不戦日記』を映像化しても、戦争映画ではなく「戦時中が舞台のホームドラマ」だろう)。

あと、画面がとにかく美しい。すずの描いた絵がそのまま風景になる場面とか、アニメでなければできん描写。原作のかなりの部分をカットしたのは尺の都合で仕方ないか。

5.ルポ『戦争中の暮しの記録 保存版』

暮しの手帖編集部isbn:4766001036

本物の戦争経験世代が次々と亡くなる中、大東亜戦争の大義だの大局視点の政治思想論ではなく、庶民の実感として戦争はどうだったという視点は急速に忘れられつつある。本書は、NHKの朝ドラマで注目が集まった花森安治仕事の一つだが、終戦から20数年の時期に集められた「普通の人の戦争体験」の集大成だ。

東京大空襲のあと家が焼け残った人が、「なまじ家があると肩身がせまい。早く焼けてくれりゃいい」と妙な罪悪感を覚えたという話(74p)、イモばかり食ってる疎開先で白米の弁当を持ってきた児童が「制裁」されたという話(132p)、戦局が激化した時期、戦地の兵士と苦労を分かち合うため児童にはだし登校が課された(179p)という話(当然ながら、内地の小学生がはだしで登校したって敵兵は一人も死なない)などは興味深い。

要するに、直接の戦災より「みんな苦労してるのに楽をしてはいけない」という同調圧力の空気が相当に重かったことがうかがえる(一方では、空襲で焼け出された一家に周囲の人間が食料や家財を分けてやったというような「いい話」もあるけれど)、この手の「ぜいたく狩り自粛要請空気圧力」みたいなものは、2011年東日本大震災後などをふり返ると、平成時代もあまり変わらん気がしてならない。

6.評論『「反戦反原発リベラル」はなぜ敗北するのか』

浅羽通明:著(isbn:448006883X

本書は左翼批判というより、動員が目的化した方法論の批判、「デモなどやらなくても政治が変われば結果良し」という話。その選択肢には、ロビー活動外国勢力を引っ張り出す、ストライキなどのほか、究極的には暴動やテロだってある。

「意見が違う人」ではなく「立場が違う人」(そもそも政治や思想に興味自体ない親兄弟や近所の人)への働きかけの放棄、同意見の人間の世間でツルむ居心地の良さへの耽溺などの問題は、今やむしろ左翼よりネトウヨにも当てはまると思ったのはわたしだけか?

世の中は「敵と味方/右翼左翼」の2種類でできてるんじゃない、じつは「無関係第三者」が99%なんだよ! それに訴えられるかこそが重要

あと、「空気読めなかった(近代的自我を持ってたともいう)」(177p)という一節は大笑いした。

7.ルポ『インド独立の志士「朝子」』

笠井亮平:著(isbn:4560084955

第二次世界大戦中、日本ドイツと連携していたチャンドラ・ボースインド国民軍義勇兵の顛末。インド国民軍の婦人部隊では17歳の女の子隊長で大尉とか、ガンダムか何かのアニメみたいな話だが、動乱期の革命軍ではこういうことが本当にある。

結局、志なかばで終戦直後に死去したボースは、枢軸国の協力者ということでインドでの評価も微妙だ。しかし、ガンジーからは「インド国民軍はヒンディーとムスリムの融和というすばらしい前例を作ってくれた」と評価されていた。独立後のインドはヒンディー教徒のインドムスリムパキスタンに分裂し、今も対立が続いていることを思うと、なかなかにせつない話である

8.映画帰ってきたヒトラー

監督:デヴィッド・ヴェンド(http://gaga.ne.jp/hitlerisback/

独裁者を生むのは民衆――というよくできたお話。ラストシーンでは現代ヨーロッパ排外デモ1930年代になぞらえられるが、ふり返ってみると、2010年代ではなく1960年代でも1990年代でも社会に不満を抱く層はいて、「新しいファシズムの予兆が」と言う人はいた。この映画トランプ大統領就任で一気に現実に追い抜かれた印象だけど、ちっとも新しくも古くもない。

9.映画バットマンvsスーパーマン

監督ザック・スナイダーhttp://wwws.warnerbros.co.jp/batmanvssuperman/

アメコミヒーローへの関心は低かったが、町山智浩による原作の紹介が興味深かったので観賞。当然「ただの人間のバットマンがどうスーパーマンと戦うんだよ?」と思っていたら、ベン・アフレック演じるブルース・ウェインあの手この手で小細工をくり返す。

異邦人の若造(スーパーマン)と、女(ワンダーウーマン)の台頭に手を焼くブルース・ウェインの姿に、「アメリカの白人中年男大変だな……」と思ったのは俺だけか?

10.TVドラマ精霊の守り人脚本大森寿美男

脚本:(http://www.nhk.or.jp/moribito/

とりあえず、やっと日本で「ファンタジー物=西洋風でないといけない」の呪縛を脱して、日本人役者が演じて違和感ない作品がメジャーな形で放送されたことに喝采。久々に松田悟志の派手なアクションが観られたのも嬉しい。

列外.『東離劍遊紀』

脚本虚淵玄http://www.thunderboltfantasy.com/

本年、純粋に娯楽作品として接した中ではもっとも熱中した番組かも知れない。仮面ライダーの次は台湾浄瑠璃みたいなもの(布袋劇という)に手を出すとか、虚淵の引き出しの広さは予想以上。登場人物がほぼワルしかいないのも武侠物らしい。

本年、書き落としたことなど

――こういう短文の走り書き、本来ならツイッター向けなんだろうけどな。

回顧と展望

本年、何やってたんだよ? と言われるかも知れないので、今年後半の仕事の一部を説明。

日本神様イラスト大図鑑』(isbn:4800263050)、スサノオノミコト建御名方神猿田彦熊野三神菅原道真蛭子神、などの項目を執筆。

『60分で名著快読 マキアヴェッリ君主論」』(isbn:4532197996)、マキアヴェッリが生きた15世紀イタリア情勢、ムッソリーニマキアヴェッリの関係、18世紀フリードリヒ大王によるマキアヴェッリ批判、などを解説。本書の仕事して改めて思ったが、ルネサンス時代はかなり「近代」で、君主と軍人ビジネスライクな契約関係。でも、まだ社会契約論がなかった、その辺で後世のフリードリヒ大王との温度差は面白い

『「平均的日本人」がわかる138』(isbn:4569766579)、例によって統計ネタ雑学。平均年収の真相、平均貯蓄の真実、夫婦の平均プレゼント回数などに言及。

元号でたどる日本史』(isbn:4569765815)、結果的に「平成の次」に注目が集まる時期に先んじた企画。当方は「大化」から平安時代までの各元号を担当。

天皇陛下83年のあゆみ』(isbn:4800262208)、以前に昭和天皇の本の仕事をしたときと同じく、今上天皇生物学研究や海外訪問の話について書いてます。

――当方はまだ諸々の業務が片付いてませんが、いつも書いてますように、まあ仕事のお声がかかる内が花。

それでは皆様、よいお年を