電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

続・ダメ人間日記

毎日、何やら偉そうに読んだ本や観た映画や世間に起きる事件の感想とかばかり書いているが、形而下的にはどういう生活かというと、先月、春も近いというのに半ひきこもりライフを過ごしている云々…と書いてから、丸一ヶ月が経つが、何だかもはや時間が止まったように同じ状態が続いている。
一時20度前後まで上がった気温は再び一桁台まで落ちてるし、今年は花粉はあまり飛んでないという(昨年の冷夏のためスギの発育が悪いからだ)、ああいいや、このまま雨や曇りの薄暗い日が続いて、暖かくならなきゃいいのに、そしたら昼過ぎまで寝てばっかいるのも正当化できるような気がするからな……。
――いや、少しは外に出て人と会って仕事の話をしたり、働いてもいるのだが(平日は仕事しても一日4時間程度だ)、そう劇的に情況が前進しているわけではない、親元におらず一人暮らししているという以外、映画『ラッパー慕情』のダメ三兄弟と多分あまり変わらない筈である。

たまには恥ずかしい話もしなければ

昨年の年頭に親父の三回忌で九州に行って以来、母と喋ったのはいつだったか覚えてない。が、前々から気になってた話題が二つあったので、遂に母に電話を掛けてみた。
私「で、――子(わたしの妹。大学四年生)の就職、どげんなったね?」
母「それがね、もう50社も受けてダメやったとよ、もう、不景気やのに、有名な会社ばっか受けるけんね、よくわかっとらんのやけど。でから、こないだまで中国に旅行に行っとったとけど、帰ってきたら、一件採用の連絡のあってね。ちょうど、一人女子社員が辞めるけん、その欠員で取ってもらったわ」
私「ああよかったね。で、何の会社?」
母「不動産の会社よ。社員は50人くらいてゆうけど、事業所は5人くらいてゆうてる、女の先輩が一人だけおって、経理やら教えてもらうごとなってるて」
私「ああ、はじめはそげなんでも、だんだんステップアップしてけば、経験になるやろ――で、もう一つ、前から、言っとこうて思うてたことがあるっちゃけど」
母「なんね?」
私「ここ2、3年『おれおれ詐欺』とか、『架空請求』ってなんか凄く話題になってるらしいやん。あんね、まあ、生活困ってるのは事実やけど、わたしは『貯金は無いが借金も無い』ってお父さんの方針通り、ローンとか消費者金融とか、あと、有料のえっちなダイヤルQ2とか、そげなんとは手を出してないから、そんだけ言っとこうと思うて……」
母「ああそう、わかったわ――そういや中津のおばちゃんが入院してからね――」(以下略)
――こう書くと一見、わたしは実家にいる妹や母のことを心配しているかのように思われるかも知れないが、こんなことを話すのは、まったくもって自分のためである。
実際、遠からず母に借金を申し出ねばならなくなる可能性はある、が、もしいまだ妹の就職が決まってなかったらそれどころではない。また、本物のわたしが借金を頼む前に、偽者のわたしがわたしの名前で母から金をふんだくっていたらシャレにならないからである。

蚊帳の外から偉そうに思うこと

それにしても、実家に電話して地元の親類縁故者の近況雰囲気を聞くと、わたしの半引きこもりライフとは別の意味で、ますます時間が止まってる感を強くする。
血縁とはいえ個人のプライバシーが関わるから詳しくは書かないが、親類の間じゃお荷物となってる某が、相変わらず甥の某にたかっているとか、京都の叔父ははるばる遠くから心配してるのに、地元に住んでるお前は何だと言われたとか(京都の叔父は、もはや九州の実家から遠く離れた土地に自分の生活基盤を持ってて、当事者意識が無いからこそ、たまに優しい顔もできる立場なのであって、お荷物が身近にいては、やってられないだろう)、たかられてる某の奥さんは、実は、亭主が責められないよう、渋々こっそりたかってる某に小使いを渡してるとか……そんな話が尽きない。ほとんど、中上の小説に出てくる元パンパンの「モン」の周囲の人間関係とかとあまり変わらん気がする。
オイ、コレ本当に21世紀の話か? 電話を終えたあと、うんざりしながら、汚れた布団に潜ってイヤホンをはめて、深夜アニメの『攻殻機動隊SAC』を観て現実逃避しようとした。
――いや、田舎の世間というのは、こういうのの方が自然状態なのだ。半径10メートルしか世間が無いし、瑣末な親類の儀礼を欠かすとすぐ人でなし扱いにされる――というか、偉そうにこんなことを書いているわたしも、実家に居たら一族郎党のお荷物だったろう。
「俺も『大地から切り離された民』だな」なんて言ってみても、うっかりそれを自覚してしまっている身には、ちっとも詩的でも格好よくもないのである。