電氣アジール日録

2012-10-28 えー、毎度ばかばかしいお話をひとつ

与太話(オタ話)

八つぁん「よお、最近中二病でも恋がしたい!』ってぇアニメやってるよなあ」

熊さん「おうよ」

八「少し前の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』といい、『僕は友達が少ない』といい、"ヒロインオタクとか中二病"ってのは、いったい何なんだい?」

熊「おいおい、オタ向けの漫画アニメじゃ、ヒロイン宇宙人とか女神様とか吸血鬼とかロボットに乗って戦う少女兵士とか、そういう"非日常的なキャラ"なのはめずらしくねえ。オタク中二病もそういう属性ひとつになった、って話じゃねえのか」

ご隠居「それだが、2010年に浅羽通明が個人誌『流行神』に書いてた所によるとだな、要約すっと、アニメとかに出てくる、いわゆる"戦闘美少女"って類型、つまり、なぜか10代の女の子ロボットに乗ったり魔法超能力を使って戦ったり、サイボーグアンドロイドみたいな人外の者でなんか暗ぁーい宿命を背負ってたり、銃や戦車戦闘機やらに詳しかったり、ってぇのは、詰まるところ『自分の趣味が通じる女の子』を求める願望の反映じゃないかと。これ、真理じゃねえか? と思ったけど、意外に知られとらんな」

熊「へえ」

ご隠居「だから逆に"戦闘美少女"類型でも体育会系のタイプや、お料理やお裁縫が得意な健康的なヒロインオタクにはウケない。『涼宮ハルヒの憂鬱』で言うと、普通に女の子らしい趣味健康的な朝比奈みくるより、読書好きで暗ぁーい宿命を背負った人工生命体みたいな影のある長門有希の方が人気なのは、そーいうことじゃねえのか、と……」

八「そういや、ある意味、近年の『俺妹』『はがない』『電波女と青春男』『中二病でも恋がしたい!』のパターン、変な趣味の女子に振り回される男子高校生、って図式の先駆といえそうなのが『涼宮ハルヒの憂鬱』のハルヒキョンあたりか」

ご隠居「すでに指摘があるだろうが、作者の世代性もあるだろうけど、ハルヒはむしろ1980年代の『ムー』の投稿欄を騒がせた"前世の仲間探しをする少女"のイメージかね」

熊「で、ヒロイン像が"宇宙人超能力者が身近にいないかと夢想する奴 → アニメゲームエロ含む)好きのオタク中二病"と来たから、こうなったら次はもう"ヒロインネトウヨ少女"かねえ……」

八「それはさすがにねえだろ!」

熊「でも、たとえば『トータル・イクリプス』なんて、まず架空の"日本帝国"が舞台ヒロイン像はお国のため働くのを当然という教育受けて育ってきた凛々しい武家の女子、ってな、すごく"愛国的なオタク"には受けそうな設定だぜ。……直接に民族的な排外主義を唱えるヒロインでなくても、まずはヒロインが軍事オタとか神道日本神話)オタで、たまーに国を憂うようなことを言うとか、そのあたりから攻めてけば違和感ねえかなあ」

八「ははあ、そんで、表面上は視点人物となる没個性的一般人の男主人公が、はじめはそーいう愛国的なヒロインを奇異の目で見ながら、しだいに感化されて自分も愛国的な思想の持ち主になってく話……こいつぁ絶対売れるな! うひゃあ禁断の最後の金鉱だ!!」

ご隠居「それなんてマンガ嫌韓厨の新シリーズ?」

"ヒロインオタク"は現代の『饅頭こわい』か

八「いや、話の駆動させ方として、男の子が、自分の知らない外の世界・非日常の象徴としての女子キャラに惹かれ、それまで自分が属してた狭い世間から一歩踏み出してく、ってな図式自体はいいんだよ。ただ、その非日常性の付け方がね、あまりにベタにオタ男の趣味と同じジャンルそのまますぎると、ただの都合いい自分の趣味の擁護みたいで萎える」

熊「そういや最近は『ガールズ&パンツァー』てぇアニメもやってるな。なぜか"部活"で戦車に乗る少女の話」

八「もうね、戦車少女銃器少女戦闘機少女ロボット少女株式投機少女とか……いい加減、男の趣味少女をくっつけるのも飽和状態かと。今や『ふつうJ-POPスイーツジャニーズ系イケメンタレントドラマの話に詳しい女子』が出てくるアニメこそ、真に斬新で画期的じゃねえの?

でなけりゃいっそ、昭和30年代の筑豊舞台に中卒で炭坑で働く少女主人公にして『たんこう!』とか、少女暴走族をくっつけて『ちんそう♪』とか、腐女子主人公で『がち☆ほも』とか、やってみやがれい!」

熊「そんなのやってオタク男子相手の商売で人気出るの?」

八「…………さあ」

ご隠居「ほっほっほっ、それで人気作品にさせてみせたら、本当に天才的なクリエイターじゃろうな」

熊「だからよ、話を戻すと、つまり『俺妹』『はがない』とかってぇのは、結局"俺も自分と同じオタク女友達が欲しい"てぇ願望なんだろ」

八「そこでわからんのがさ、『俺妹』『はがない』も男主人公オタクではない一般人、『中二病でも恋がしたい!』じゃ、男主人公中二病卒業した奴って設定で、それがオタク中二病ヒロインに振り回される、って図式。読者・視聴者自身こそがオタク男子のはずなのに、逆カマトトというか、しらじらしい。こいつは何かい、落語の『まんじゅうこわい』かい? 口では『饅頭こわいよ〜』とか言いながら、本当はたくさん饅頭が飛んできて喜んでる、っていう。もう正直に『俺の妹が俺と同じオタクで仲良くしてくれたらいいな』ってタイトルにしろよ!!

熊「いやいや、主人公オタク男でヒロインオタク女で仲良く幸せになりました、じゃ男女の間に"落差"がないから、劇的なドラマが作れないんだろw それか、あえてヒロインの方に自己像を投影するメタ的な自虐芸とかナントカってやつだ」

八「にしても、ヒロインの方を"世間的には恥ずかしいみっともない立場"にしてるのが、ズルいというか欺瞞的な気がする。そんなに男主人公の方が立場が上にしたいのか」

ご隠居「意地の悪い見方をすると、こいつぁ精神科のお医者さんプレイかね。ほれ、メンヘラ患者が、(仕事だから)悩みを聞いてくれる先生依存して恋愛感情を抱いてしまうって図式、オタクとかの痛いヒロイン真人間主人公がなだめて善導する構図」

八「ああ『電波女と青春男』なんてまさにその図式! 『ハルヒ』もそれに近いか。でも、これは男主人公自身が、電波ヒロインに引きずられる形で、あえてバカなことを一生懸命やって自己の殻を破るみたいな、青春物の王道っていえば王道ともいえるか」

ただの男主人公には興味ありません

熊「それ言ったら『俺妹』も『はがない』も、べつに、一般人の男主人公アニメゲームエロ含む)の好きなヒロイン上から目線で見下すって話じゃなくて、男主人公の方が、そういう変なヒロインのために身を張ったり、ヒロインとの関係を通して"少々世間的には異端だろうがいいじゃないか"って前向きな価値観を身につけるというか、日陰者らしく萎縮してる世のオタク男子を励ます意図じゃないのかい」

八「だったら、最初から主人公男もリアルオタク中二病でいいじゃねえか。主人公マッドサイエンティスト気取りの中二病の『シュタインズ・ゲート』とか、男主人公百合オタの『百合男子』なら、ちっとも嫌な感じがねえんだよ。まさに中二病オタクの男主人公が、世間から見ればバカなことを一生懸命にやる青春物、これなら欺瞞は感じねえんだ」

熊「とはいえ、あんまり男主人公キャラの濃いオタクじゃ客もついて行きにくいだろ」

八「つまり"男主人公非オタ一般人ポジションだけどヒロインがオタや中二病"てえのは、今の薄く広く普遍化したぬるオタ客向けってことかい」

ご隠居「あるいは、オタク男は対世間的に、つい『オレって恥ずかしい』ってな自意識が働きがちだから、自己像そのまますぎる男キャラはかえって受け入れにくいのかのう」

熊「それに、ラブコメとかギャルゲーとかの主人公ってのは、いろんな読者や視聴者が自己投影するため、あえて強烈な個性のない平凡なキャラなのが基本じゃねえか」

八「その結果、どこが良いのかわからん個性的な男キャラの周囲に特殊なヒロインが集まる、ってな100年一日のパターンになるから、違和感が拭えないんだよ」

熊「ならいっそ、そういう読者視聴者が自己投影するための凡庸な男主人公なんか出てこない話ならいいのか。つまり『けいおん!』とか『ゆるゆり』みたい女の子だけの話。実際『らき☆すた』なんか、ほとんど女の子同士でゲームアニメの話してるだけじゃん」

八「それなんだが、"ほぼ女の子キャラばかりの話"ってのは、芳文社の『まんがタイムきらら』の連載作品とか、大抵マンガ原作で、凡庸な奴でも視点人物ポジションの男主人公が出てくる作品は、ラノベアドベンチャーゲームパターンじゃねえのか」

熊「つまり、マンガなら絵ヅラ女の子だけが並んでれば間が持つが、あえて文字でお話を読む奴には、視点人物ポジションの男主人公が必要なのかい……まあ当然、女子が主人公(視点人物)のラノベゲームもあるけどな」

八「それを言やあ、当世のゲームラノベでも、ラブコメ的作品じゃなくて、シリアスアクション物とかなら、たとえば『fate』『fate/ZERO』みたいに、男主人公に動機や志向性のハッキリある奴が出てくる作品だってたくさんある」

熊「『化物語』あたりは、シリアス伝奇物と定番ラブコメ図式の中間か。幽霊やら猫憑きのヒロインに囲まれてる男主人公自身が、後天的に半分人外の者になってるからな」

ラブコメ1980年代からの古典芸能

ご隠居「年寄りの昔話をするとじゃな、1960〜70年代漫画アニメ主人公は、そもそも普通人間ではない、凄いハングリー努力家(『あしたのジョー』『カムイ伝』等)や、人間と非人間の中間の異形の者(『仮面ライダー』『デビルマン』等)が多かった。

それが、1980年代ラブコメブームあたりから、たいてい主人公等身大普通の奴になる。"普通の男主人公の周囲に非日常的ヒロインが集まるパターン"の元祖みたいな『うる星やつら』(連載開始自体は1970年代末)とかな。不良漫画においてさえ、1980年代最大のヒット作『BE-BOP-HIGHSCHOOL』は、もはやハングリーさはなく、ケンカバトルで全国制覇するわけでもない、たまにケンカもしながらダラダラ日常を送る"普通の不良"だった。

……これは1980年代に、第三次産業中心の一億中流、総サラリーマン化が進んで、中高生の実感としても、中卒の就職工業高校農業高校への進学は目立たない少数派になり、つまり世の中が中流に均一化していったことを反映しとる気がするのう。

逆に言うと"総中流同調圧力"のあった1980年代当時は、優等生や身分の高い金持ち主人公になれんかった。学園物じゃ生徒会長とかお金持ちお嬢様なんぞは、まあ大抵、主人公と敵対する役だな(『コータローまかりとおる!』『究極超人あ〜る』等)」

熊「そういや1980年代から、SFアニメ特撮ヒーロー主人公も、『新造人間キャシャーン』やら『人造人間キカイダー』みたいな非人間キャラはほとんど消えて、普通男の子ロボットに乗ったり、強化服を着ただけの宇宙刑事とかが主流になるな」

八「でも、1980年代当時から『北斗の拳』や『ドラゴンボール』みたいな、ぶっとんだ超人キャラ主人公の出てくる作品だって結構あるじゃねえか」

ご隠居「そいつはたいていの場合、最初から非現実的な超人キャラ主人公が成立できるような、未来とか宇宙とか異世界舞台の作品じゃないかの」

熊「で、21世紀の今じゃ、そんな異世界じゃなくて現実の延長上の世界観でも、主人公のタイプは平凡な中流中高生ばかりでなく、優等生の悪党(『DEATH NOTE』)、超人生徒会長(『めだかボックス』)、中二病発明マニア(『シュタインズ・ゲート』)、引きこもりゲームオタク(『BTOOOM!』『ソードアート・オンライン』)と、上から下まで多様になってる……これはこれでいいことじゃねえのか」

ご隠居「これは良くも悪くも、ふたたび格差拡大の世を反映しとるのかのう」

八「にも関わらず、ラブコメ分野じゃ1980年代から"没個性的で凡庸な男主人公と特殊なヒロイン"って図式が進歩ないのは、どういうわけだい」

ご隠居「先にお前さんが言った通り、ラブコメ図式じゃヒロインの方が男の子にとっての"刺激的な非日常の象徴"にされるからじゃろ」

熊「で、その"特殊なヒロイン"像が、宇宙人や女神様とかの高い存在から、オタク中二病のような、ある意味で見下せる存在にまで幅広く多様化したってことだろw」

八「逆に言えば、少女漫画でも"平凡な少女と格好いいワケありのイケメン"って図式で、男女の落差がドラマを生むってのが黄金の王道か」

熊「ま、結局、そもそも映画文学漫画ドラマアニメ全般、男の子向けでも女の子向けでも、読者視聴者の願望を描くものが求められてる、ってもんでさあ」

ご隠居「それを言っちゃあおしめえよ!」

・・・

お後がよろしくもくそもねえよ

gaikichigaikichi 2012/10/28 23:53 http://d.hatena.ne.jp/REV/20121028/p1
ご隠居「これって結局、人間は欲求目的のストレートな達成より過程のひねり方にこそフェチ性を見いだすっていう一種の本末転倒――岸田秀の"人間は本能の壊れた動物説"みたいな話かのう?」
八つぁん「そういや、幼児は何も障害物がなくて走りやすい野原より、わざわざ迷路のような棚のある狭い店内でぐるぐる走り回ることに楽しさを見いだして、買い物中のお母さんを途方にくれさせるな」
熊さん「腐女子がわざわざ、自分が当事者となり得ない男子ホモソーシャル特有のチームメイト、戦友、ライバル、主君と臣下などの関係にロマンを見いだすのにも通じる気が」
八「しかし、そういう欲望の迂回表現に"しらじらしさ"を感じてノれない俺みたいなのはどーすりゃいいんだい」
ご隠居「そりゃもう、人が楽しめてる物が楽しめない不幸な奴、ってことだな。諦めな」

gryphongryphon 2012/10/29 19:20 【はてブについて】
読者の方に。この興味深い記事には「10月28日記事」全体
http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20121028
にブクマをつけた人
http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/gaikichi/20121028
と、「与太話」の項目
http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20121028#p1
にブクマをつけた人がいます
http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/gaikichi/20121028%23p1
どちらかを見逃す可能性があるので気をつけてください。いまは上のほうが多くの感想が寄せられています
(できれば葦原さんも書くとき、このへんのスタイル統一をご検討ください)