コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

ゴッホの手紙、11


前回は、第474信のテオへの手紙なかで、ゴッホが金銭面での負担を弟にかけることに気をつかっている箇所に触れた。次の第475信では、テオへ絵具の注文をしている。弟に負担をかけたくない思いのわりには大量の注文で、それだけ制作意欲を抑えがたいということか。
第475信は次のように書き出されている。

「絵具の注文をするので君に手紙を書かなければならない。タッセとフォンテーヌ街のロートで注文してくれると僕のことを識っているから好都合だ。それですくなくとも輸送費に相当するぐらいな額の支払を延ばせるように交渉してくれたまえ。運賃はもちろん引き受ける。こちらで払うから先方は送料を持たなくていい、だから二割安くしてほしい。」

このあとで注文の絵具のリストが書かれていて、ずいぶんと大量なのだ。それで、さらにこうも書いてある。

「必要以上に君を困らせないためもっと規模の小さい注文を添えておく、前の分から抜いてくれたまえ、はじめの決定案の方は次に挙げるものが割引されない限り急ぐことはない。」

これらの絵具の支払いは、どうやらテオが直接負担する様子である。それまではゴッホ自身が支払っていた(テオの仕送りの中からだが)こともあったようで、次のように書かれているから。

「言うまでもないことだが、もし絵具を君が買ってくれるなら、ここの支出は半分以下で済む。今まで僕は絵具や画布その他に自分の身の廻り以上の支出をしている。」

これでは、「絵具買ってくれよー」とねだっているのも同然で、ちょっとテオに同情する。それで結果どうなったかというと、続く第476信の冒頭でゴッホはこう書いている。

「注文した絵具を全部送ってくれて君はすごく親切だ。受取ったばかりなのでまだ品物を調べている暇がない。僕はとても満足だ。それに今日はなんていい日なのだろう。」

うーん、ますますテオに同情する。ゴッホを兄にもつことは、普通の人には耐えられまい。
掲載したのは、1888年制作のゴッホのデッサン。