僭越(SEN-ETSU)1 〜 2012年の映画

お金も仕事もロクにないのに、足しげく映画館に通った今年でありました。


僭越ながら今年観た新作映画に順位をつけるとこんな感じ。



1.KOTOKO
2.キツツキと雨
3.ドラゴン・タトゥーの女
4.おおかみこどもの雨と雪
5.哀しき獣
6.桐島、部活やめるってよ
7.苦役列車
8.007:スカイフォール
9.アルゴ
10.フタバから遠く離れて
11.サニー 永遠の仲間たち
12.アベンジャーズ
13.その夜の侍
14.わが母の記
15.アウトレイジ ビヨンド
16.戦火の馬
17.悪の教典
18.ルビー・スパークス
19.CUT
20.黄金を抱いて翔べ
21.Pina/ピナ・バウシュ 踊りつづけるいのち
22.ダークナイト ライジン
23.かぞくのくに
24.人生はビギナーズ
25.J・エドガー
26.ギリギリの女たち
27.ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜
28.ミッドナイト・イン・パリ
29.愛と誠
30.ドライヴ
31.ザ・レイド
32.人生の特等席
33.ヒミズ
34.夢売るふたり
35.永遠の僕たち
36.踊る大捜査線THE FINAL新たなる希望
37.希望の国
38.北のカナリアたち


以下、各作品のこと


KOTOKO(塚本晋也
神経に針を突き刺すかのような瞬間の連打で約100分が過ぎた。血ミドロで、むき出しの、見てはならないもの。詰まる所、それが映画館で一番観たいもの。異常な女の肖像が普遍的な母と子の絆に昇華されていく物語の運びに失禁! 世界中の若者監督を寄せ付けないガンギマリにカッコいい編集術に戦慄! そして何より、Coccoという説明不可能な天才シンガーを完璧にレペゼンし尽くしている創意と愛情に即死完了!!!!



キツツキと雨沖田修一
私たちはくよくよしてばかりいる日本人だ。そして、映画が好きだ。これだけを端緒に、しかしはっきりとした太い線で物語が躍動していき、やがてすべてが、「お天道様」に回帰していく。キツツキや天気の視点から見れば、必死で切実な日常は可笑しみの詰まった点に過ぎない。手に職系ガンコ親父の役所広司からメンタル絶不調の映画青年・小栗旬、クソ生意気な高良健吾から端役に至るまでこの映画に現れる全員の人生が愛おしい。ライツ!カメラ!アクション!



ドラゴン・タトゥーの女デヴィッド・フィンチャー
タイトルにある狂人の出現に、登場人物が、そして観客が強張り、やがて登場したその異物にいつの間にか恋をして、恋をしたら物語が終わっていった……! 「相棒モノ」としての小気味よいグル―ヴ感。そして大量殺人の犯人捜しという大命題の先に用意された、人間・リスベットの悲哀と正邪の反転に、フィンチャ―さん、マジあざーす!と土下座しながら崇めたくなりました。ルーニー・マーラのリスベットは、ヒース・レジャーのジョーカーに匹敵する。



おおかみこどもの雨と雪細田守
公開一週間ですでに世評は固まっていたのですが、それでも疑いながら慣れないアニメ映画を観て、イタく感動。エラく納得。あまりにも荒唐無稽で、だけど観客の胸に据えられるリアリティ。それを支える配慮と謙虚。異生物との共生という家族奇譚が、三者三様、散り散りの未来をチョイスしながら幕を閉じるのが、もはや新しい古典! 31歳無職とて「おみやげみっつ、タコみっつ」と元気に唱えとけば無問題(モウマンタイ)。



哀しき獣(ナ・ホンジン)
『チェイサー』の監督&主演二人が新しい映画を作ったと聞いて「また追いかけっこ見れっかなぁ」なんて思っていたら、おい…おいっ……おいィィィ〜〜〜!!! 演出、演技、撮影、編集、あらゆるセクション、兎にも角にも「体力」で出来たこの映画。『マリオカート』すら凌駕するカーチェイスシーンでは劇場に若干の笑い声がこぼれる始末。歯を食いしばりながら叫び声をあげてスクリーンを揺らすような韓国ノワールの真骨頂!



桐島、部活やめるってよ(吉田大八)
この映画を見た者同士で会話をすると、すべからく全員が高校時代の罪過やその記憶を語り出すんだから怖い。俺たち、ゾンビみたいだってよ。観客への当事者意識の叩きつけ方が半端なく、ほとんど暴力。当然自分も前田君のハートブレークシーンでガツンと痛めつけられてしまい、以降ぜえぜえ息切れしながら鑑賞。ゾンビ映画のセリフ「俺たちはこの世界で生きてかなければならないのだから」が脳裡でゆらゆらと光り輝きつづける。



苦役列車山下敦弘
人のセックスをヒガむ奴を笑うなっ!! 運命を悔やみ、世間を呪い、恋はしぼんで、だけどそんな恥ずかしい青春にも創作の神様は降りてくる(つーか、落ちてくる)。ローパスの効いた声で非・モテキの只中にいる日雇い卑屈野郎を演じた森山未來さんは僕と1.5文字違いのスーパースターです。いけすかない奴とチャンネル競争になったらリモコンを折っちまえ! 敦っちゃん、マブ過ぎ! 脇役陣もみんな好き!



007:スカイフォールサム・メンデス
007を語る資格はミジンも無いですが、上海、マカオイスタンブール……と目にこびり付く格好良すぎシーンのルツボに脳がはしゃぎまくりスティ! 映画の主人公のカッコ良さに没入できちゃうなんて何以来でしょうか。鑑賞以降、入眠の際に思い浮かべるのはケダル過ぎるアデルの歌声(タイトルムービー、最高!)。ドラゴンタトウーも五輪もボンドも、思えば今年はクレイグの年。



アルゴ(ベン・アフレック
観ている間心拍数はあがりつづけた。スリリングで痛快。史実モノでありながら、映画からは「ヤング」な匂いがぷんぷん香る。シンプルな演出もいちいち功奏。レッドツェペリンとタバコにまみれていた時代のアメリカが眩しい。「どうしてこんなに面白い映画が撮れるのかわからない」というのは誰ぞやの『グラントリノ』への賛辞。“後継者”の渾身作にもその言がとてもよく似合うんじゃん。



フタバから遠く離れて(船橋淳)
原発は無くしたほうがいいと情緒がほとばしる間際に、それを阻害する様々な理屈が立ち並ぶ。それでもやはり感情の部分を優先して駆動させるべきだと、この映画は静かに促し、補助輪と化す。フタバから遠く離れて生きている(いく)のは誰なのか。特異な事態や存在を披歴するのではなく、事実を承認することを要請する、聡明で温かく批評的な素晴らしいドキュメンタリー映画をご馳走様でした。



サニー 永遠の仲間たち(カン・ヒョンチョル)
俳優のイキの良さと吹っ切れた可愛さが神がかりレベル。予定調和、かつスクリューボールに物語は突き進んでいくのだが、それがどうした! 観ていて笑みが絶えず、涙腺がどんどん緩み、「お願いだからこの映画よ、終わらないでくれ」と心の底から祈った。映画は観て幸せになるもの。そして心が弾むもの。そんな単純なことを思い出させてくれたサニー、サランヘヨ! 夢見る頃を過ぎても、エビバディ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン!!



アベンジャーズジョス・ウェドン
関連作品五本鑑賞というジス・イズ・付け焼き刃な事前予習が完了した頃にゃ、すでに3D公開が打ち切られていたという受難はさておき。総天然英雄色の早送り映像を2時間半見続けたような脳内バキバキ感。メリケンヒーロー達のヒッパレー! ヒッパレー! この2s観たい! あの3sも観たい! あいつのナイーブなとこや、あいつのイケすかないとこ観たい! そんな無限の欲求に対する完璧な応答! アベンジャーズよ、てめえらがアメリカだ!



その夜の侍(赤堀雅秋
職業の描かれ方が記号的過ぎるし、どうやら肝心な郊外・県道といった土地が映されないのに苛立ちもする。に・し・て・も〜、ここまで役作りにマゾヒスティックな俊英たちをよくぞ結集! 現在の日本で遣る瀬ない物語が作られている/それを見ているということにひしひしと昂奮しました。次回作が観たくてたまりません赤堀監督。ここまでやっても当たり前と思われる(=可哀想)堺雅人さんの演技もド級



わが母の記原田眞人
樹木希林がボケればボケるほど映画がどんどん面白くなっていくという魔法。一見安全な映画をスリリングかつコミカルに変える演技の鬼迫。タイトな編集もよかったし、姉妹がみんなかわいいし、役所広司宮粼あおいユリイカ!)をたっぷり観れたし、なんつってもキムラ緑子南果歩の叔母さん2トップ、最高! 純然たる大衆向け感動作が、そこからはみ出すことだって大いにある。いい涙が千代千代ぎれた。



アウトレイジ ビヨンド北野武
人物の眼光やシワに宿る陰影もまるで鉄や鉛のようで、溢るる漢気シズルに何度唾を飲んだろうか。ヤクザ映画の型に対する敬意と「裏切り」。そして、キャスティングや一連のプロモーションのすべてが客への巧妙な「罠」だった。超繊細な脚本にシビれまくり、いつの間にやら体がケイレンし、首をカクカクさせながら「野球しようか」と言いたくて言いたくて仕方がなくなっていたのです。こんなの「3」が見たいに決まってんだろバカヤロー!



戦火の馬(スティーブン・スピルバーグ
オッチャンに馬さえ貸してくれれば豪華キャストも3Dもいらねえから魂(だましい)、炸裂!! エクストリームな状況(戦争)にいる純真な存在(馬)、市井の人生に起こる想像を超えた奇蹟、そして、ゼッテーに戦争が大っ嫌いだぜ宣言! スピルバーグが、あまりにもスピルバーグ過ぎてヤバス! 『SUPER8』すら、馬のためのリハだった説、有力! 嗚呼、頬を染めるオレンジの夕焼け・イン・マイ・ヘッド!!



悪の教典三池崇史
ただの皆殺し映画であって、ただの皆殺し映画にあらず。原作のせいなのかはわかりませんが、クラス全員を殺す方法がほぼ猟銃(みたいなの)のみって! なのに全然飽きねえ! マバタキしない伊藤英明はそれだけで怖い! そして何より『愛と誠』同様、林田裕至さん&佐久嶋依里さんによる美術の仕事が素晴らしすぎた。あとはハスミンがEXILEさえ射殺してくれれば完璧だったのにいー。



ルビー・スパークスジョナサン・デイトンヴァレリー・ファリス
藤子F不二雄が『異色短編集』と称されるシリーズや『ドラえもん』でも再三描いた「人間が、人間以上の力を手に入れちゃったらそれはそれでタイヘンだよ〜!」というモチーフが、結構突きつめられたところまで物語にされていて、それを軽やかに表現していく俳優さんたちが超チャーミングでいい! いか様にも解釈が膨らむエンディングの自由度は観る側に創作を促している感。結局正解はわからないのだけれど、何せ恋愛が命題の映画なのだから仕方ない。



CUT(アミール・ナデリ)
劇場へ行ったらロビーでナデリ監督が鳩サブレを食いながらサイン会をやっていて、「可愛いオッチャンだなあ…」と思っていたら、トンデモナカッタYO!! 現在日本俳優界の至宝・西島秀俊フルボッコ。ヤクザ事務所の女バーテン・常盤貴子が注ぐ酒は何故かひたすら『一刻者』。挙句、でんでんと笹野高史を同じ画面内に並べる(!)という日本人監督なら絶対避けるようなアシッドな演出の数々! こびりつき度、ナンバー1!



黄金を抱いて翔べ井筒和幸
いま振り返っても、いい表情、いいシーンがものすごく詰まっていた映画だったなー。妻夫木聡浅野忠信の全仕事を俯瞰して、「あいつらの俳優としての資質はそんなんちゃうよ」と、苛立ちながら今作で憂さを晴らした監督の顔が思い浮かぶ。特に浅野忠信という、既に見慣れてしまった俳優に、2012年あらためて慄いた! ヤンキー社会の見せ方も、随一。男たちの馬鹿げたロマンが、リアリティをもって描き尽くされた怪作!



Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち(ヴィム・ヴェンダース
眠眠打破』二本をもれなく必要とする映画監督―――僕にとってヴィム・ヴェンダースとはまさにそんな監督だったが、今回はまるで眠くならねえ!! 通説、打ー!破ー! 目からウロコがボタボタ落ちまくり、とにかく視覚が狂喜しつづけた。完璧なフレーミングとロケーション、そこに磨き抜かれた身体があれば万事オッケー(ローラ)! ああぁぁぁ、カンパニーの人たちが列をなして歩きつづける、あの輪の中に入りてえ〜!!



ダークナイト ライジング(クリストファー・ノーラン
核/原爆ナメんな論はさておいて、それでもどっぷり楽しめたぞ、『ライジング』! なんか追いこまれ方が、『ダイハード』っぽいっつーか、若造刑事の向こう見ずな突っ走り方も『踊る』っぽいっつーか、三作目ならではの急ピッチなてんこ盛り感はあったが、最後、墓場での後見人勢ぞろいショットでノックアウト! んでもって、なんつったってハサウェイ! ハサウェイに泥棒に来てもらえるよう頑張ろうと思った。 

 


かぞくのくに(ヤン・ヨンヒ
『GO』『パッチギ』が圧倒的な双璧としてあるのなら、だからこそ在日映画の空洞も大きい。共生など叶わず、ただただ断絶が横たわるのだということを抽出した監督の絶望と熱量。そんな煩悶の人生を血と骨にまで落としこんだ俳優陣。普遍的でないからこそ表現されるべき家族像があり、届けられるべき歌がある。安藤サクラ出演作品にハズレなし。「でもやるんだよ!」スピリットに満ちたラストショットが好きだ!



人生はビギナーズマイク・ミルズ
し、しかし……何故に、原題‘Beginners’に「人生は」を足しちまったのか……。まあそれはそれとして。語り白が少ない小品かも知れないけど、今後の人生でたまに思い出すんだろうなぁ、この映画を。寂しさが持続するラブストーリーってのは好きですよ。あとなんつっても犬! 今年の最優秀動物俳優賞は『戦火の馬』の馬と『人生はビギナーズ』の犬で間違いなく決まり!

 


J・エドガー(クリント・イーストウッド
アメリカを裏から牛耳ったド変態野郎の非・英雄奇譚! 特殊メイクの限界なんてイーストウッドに関係ねえ! リンドバーグさんの事件にあたふたしまくった後、あまりに不意にカマされる男同士のキスブチューシーンのBGMは「♪いますぐーキスミー(wow wow)」がマッチ! マザコンでゲイで妬み深いサイコ野郎。だが、そんな彼を決してゲスな愚者とは見なさない。深過ぎる愛で以って、20世紀米史についての寓意的更新が試されている。



ギリギリの女たち(小林政広
狂った長女・壊れかけの次女・憤怒の三女。慎みなく全員が言いたいことを言いたいだけぶっ放す。しかも被災地で。それだけで見てて面白い。姉妹を執拗に見つめ続けるカメラの変態っぷり。しかし、切ったり・貼ったりしない撮り方こそが小林監督ならではの礼節の感。鑑賞というより体験でした。渡辺真紀子の野蛮な顔力にすさまじい生の肯定性!



ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜(テイト・テイラー
最終復讐兵器・ウンコパイ! そんなシャレにもならないユーモアと、黒人蔑視が当たり前に浸透していたアメリカ南部のシリアスな現実が地続きに描かれるが、まるで破たんしないんだからスゴい。史実の中にあったはずの個々人の息遣いにすっかりトリコになりました。外の国・別の時代・小さな社会のお話なのだけれど、こうした歴史の上に現在があるのだということをつくづく感じさせるラストショットの長い道が粋。



ミッドナイト・イン・パリウディ・アレン
前情報で「ウディ・アレンのタイムスリップ物」と聞いて「???」だったが、夜中のパリで、「ヘイ!カモ〜ン!!」と誘われるがままに旧式プジョー車に相乗りしただけでバック・トュー・ザ・1920年代! あー、この肩透かしが喰らいたくてウディ・アレンの映画を観るんだったなあー。一方、透かしと裏腹に、先人達が芸術に賭した時代を讃え、愛を宣言するアツさも併せ持つ。シャイで粋なアレンさん。そら、モテるわ。



愛と誠(三池崇史
どんな俳優陣が選抜されるのか、ザックジャパンよりも日本映画最狂チーム=三池ジャパンに関心が向く。三池監督の作品群を貫くのは、「全員映画」とも呼ぶべきメンタリティー、それはつまり映画への「愛」と「誠」に違いなく。僕が学生時代に書いたレポートを読んでくださった余貴美子さん(自慢)はじめ、いい大人たちの悪ふざけ・オン・ザ・ランfeat歌謡曲! 2012年、浴びれるこんなけったいな映画に劇場で会えるだなんてさあ〜!



ドライヴ(ニコラス・ウィンディング・レフン
15年ぐらい前ならガンガンポスターが刷られ、Tシャツやバッヂが原宿やヴィレバンで売られまくっていたかも知れない。「ミニシアター系」という括りがほぼ消滅してしまったいま、こんな90年代終わりの匂いが充満する映画に会えただけでも嬉しい! 惜しむべくはスタントマンのシーン&犯罪者を護送するシーンが、あと一つずつでも多かったら良かったんじゃないですかね。ゴズリング兄貴、今後スカジャンを着る度、思い出すことは必至。



ザ・レイド(ギャレス・エバンス)
『強すぎ!殺りすぎ!敵、多すぎ!』というキャッチコピーが、もうそれで全てを言い尽しちゃっているぐらい、あらすじがない! 「そんなバカな!」の猛連打で、生まれて初めて見たインドネシア映画は幕を閉じた。ユンケルしこたまキメて敵のアジトに乗りこんできたSWAT陣に対し、オロナミンC一本で相手をおちょくるかのようなマッド・ドッグを演じたヤヤン・ルヒアンさん、今後どしどし日本のバラエティに進出してくれることを熱望します。

 


人生の特等席(ロバート・ロレンツ
同窓会に現れそうな外人女性ナンバー1・エイミーアダムスと、毒舌炸裂頑固ジジイ・CE巨匠に劇場で会えて嗚呼満足。大の苦手の野球だってこの人たちとなら見たい見たい。アメリカ的薄っぺらネスを一身に体現するジャスティン君もいい感じです。小品だけどもこういう苦もなく見れるアメリカ映画、小学校の時によく見たよな〜と思い出したり。小気味いいって大事だね。



ヒミズ園子温
ちゃんと映画化された『ヒミズ』が見たかった。あるいは、園子温完全オリジナルの被災地青春映画が見たかった。原作に忌避なく攻めに攻めまくった鋭意工夫・心意気にはコーフンしたものの、いろいろやりまくった結果、映画に「豪勢」な印象が備わってしまって、原作が本来持っていた「悲しさ」や「住田が絶対に届かない普通」がスポイルされてしまったのが残念。ラスト、住田と茶沢さんがザコ寝で超普通な未来を夢想するオニ名シーンも、二階堂さんのオッパイがあまりにも豪勢で、まるで悲しくないという皮肉。そんな中、渡辺哲演じる夜野正造が光り輝いていた!



夢売るふたり西川美和
「善と悪」や「虚と実」といった二分法に対する抗い。これこそ大好きな西川監督作品の醍醐味に思うのですが、今作にはそれが無く……。女性の気持ちを描くより、男の惨めったらしさとかを描いたほうがよっぽど才気を発揮できる女性監督ってのも希有かな。にしても、実景含め全カットが鮮烈でした。キャストもグンバツ。そういえば伊勢谷って、20世紀まではあんなヤカラでしたよね。そして何よりウェイトリフティングの彼女! 



永遠の僕たち(ガス・ヴァン・サント
今年はスタ丼みたいな映画ばかり観てきた気がするが、だからこそガス・ヴァン・サントのお吸い物のような薄味が映画体験として印象深い。死をモチーフにした物語で、加瀬亮扮する日本兵が登場するのはそりゃ強引な気もするけど、ファンタジーと現実の接点を視覚化する独特のセンスがサントおじさんの美味。英文学科かなんかに進学した世間知らずの箱入り娘(←苦手)が読みそうな米短編小説(←好き)の如き読後感。

 


踊る大捜査線THE FINAL 新たなる希望(本広克行
「ショカツ」対「本庁」という構図は、その後のTVや映画はおろか、現実社会にいたるまで日本人のリテラシーを刷新した部分すらあると思うんですが、当の『踊る』スタッフからショカツの意地が消え失せてしまい、だったらトコトンつまらなくしかないわなーと思ったのがMOVIE2を鑑賞した10年前。好事家からも「3は見るな」「3を見たら気が狂う」と戒厳令が敷かれ、まるで期待せずに観に行ったらけっこう‘食えた’んですけど……。いやいやバナナじゃなくって、FINALがよ。



希望の国園子温
震災・原発を扱うことで、結果、映画という表現手法の可能性を自ら窮屈にしちゃってる感。だったら報道やドキュメンタリーのほうが鑑賞者としての意識はよっぽど発露する。ただし中盤までは、まるで遥か過去のような震災直後の憂鬱な記憶が眼前に迫り来るようなスペクタルがあった。ストーリー上の夏八木勲の末路によってこの映画に‘ノレない’としたら、それはそれで園子温の術中なのでしょう。これからも憎まれっ子監督がガンガン世にはばかることを。



北のカナリアたち阪本順治
天下の大女優を使って、撮影監督の手腕・大見せつけ大会の巻。どうしても豪雪地帯じゃなきゃダメっすか?? 現在〜回想〜現在〜回想∞……の構成もクド過ぎるし、殺人だの、不貞だの、犬ぶん殴りだの、全員の罪がユル〜く許されちゃっていくため、礼文島が無法地帯に! でもね、見終えて損した感じは御座いません。見ごたえは十二分。出演者の気概は畏怖の域。特に小笠原弘晃君の天使の歌声ったら!



僭越でしたが。