映画×ロケンロー備忘録




映画とロックを愛するフリーライターの雑記帖。映画におけるロックの使われ方についての雑感を徒然と書いております

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2006-12-06 大人の事情

gakus2006-12-06

 ピクシーズ/THE PIXIESのドキュメンタリー映画が公開される! そんなニュースだけでワクワクしたものの、いざその『ピクシーズ/ラウド・クァイエット・ラウド』(2月公開)を見てみたらエキサイトした、というよりは、しみじみしてしまった。

 2004年の再結成ツアーの模様をリハーサルから追いかけた内容。解散から10年以上を経て、その伝説性が肥大していった時期の絶好の再結成で、このツアーは各地で熱狂的に迎えられ、ロンドンのブリクストン・アカデミーではもっとも早くチケットが売り切れた同会場のコンサートとして表彰されたりしている。

 元々ピクシーズはリーダーのブラック・フランシスと、ベースのキム・ディールの折り合いが悪くなって解散に至ったという経緯がある。現役時のピクシーズは結局来日しなかったので目の当たりにしたことがないが、その後フランシスがフランク・ブラックとして、キムがザ・ブリーダーズを率いて来日した際にいずれも見て解散した理由がわかった気がした。ピクシーズのころは陰気な女だなあぐらいにしか思ってなかったキムが、ブリーダーズではバンドを牽引する存在として実に生き生きしていたから。陰気な女どころか豪気ねえちゃんという感じで、印象がガラッと変わった。ピクシーズではやりたいことをやりきれなかったのだろう。

 そんなふうだから、この映画ではいったいこの二人がオフステージでどんな顔をするのだろう…という点に興味があった。これが、けっこうフツーに話しているんだけど、どこか遠慮がちというか、たがいにテリトリーを冒さないよう気を遣っているんだろうな…という雰囲気がある。他のふたりのメンバーに関しても同様で、ギターのジョーイ・サンチャゴもドラムのデビッド・ラヴァリングも積極的に意見をしたりしない。会話が途切れて沈黙がその場を支配することもザラ。このツアーにはキムの妹でブリーターズのケリー・ディールも同行しているが、彼女は姉にこう語る。“こんなに話さない人たちは初めて。みんな絶望的にコミュニケーション下手ね”

 ケリーが同行しているのには理由がある。キムが薬物・アルコール中毒の治療を終えたばかりで精神的に不安定だったから。当然、映画に出てくるのはブリーターズのころの“豪気なねえちゃん”ではない。キムは他のメンバーが乗っているツアーバスとは別のRVに乗り、妹と旅を続ける。ちなみに楽屋にはキムの要望で、アルコールはいっさい置かれていない。

 他のメンバーにしても事情はさまざま。ジョーイはドキュメンタリー映画のサントラ作りを友人に頼まれ、ツアー先のホテルでもラップトップに向かって仕事をし、ネットのカメラで妻子と話しているときには家庭人の顔を覗かせる。フランシスはフランク・ブラックのニュー・アルバムをリリースするレーベルを探しているがままならない。もっとも問題があるのはデビッド。マジシャン、金属探知官の仕事をしていた彼は経済的に困窮していた矢先の再結成ツアーで、それはある意味ラッキーだったが、ツアーが始まるとガンに冒されている父の病状が悪化・急逝したことで元気をなくし、酒や薬物に頼るようになってプレイにも影響が出てくる。そんなデビッドが言う。“キムに遠慮して楽屋では飲んでいない"

 この映画を見てわかったのは、ピクシーズの再結成が、そんな“遠慮”の上に成り立っていたこと。フランシスは新曲をレコーディングしたいようだが、他のメンバーが意欲を見せないのは象徴的だ。ただ、遠慮とはいえ決して否定的な意味で言っているのではない。ひとたびステージに立てば彼らはオーディエンスを熱狂させ、喜ばせる。“私たちを見たいファンがいる限りステージを続けるべきでしょう"とキムは語る。

 ケリーが開演を待つファンにビデオカメラを回しながらインタビューするシーンがあるが、“ピクシーズはなぜ再結成したと思う?"という問いに“金のため”と答えるファンが何人かいる。ごもっとも。でも、そんなファンでさえピクシーズを求めている。そしてピクシーズの面々にも、それぞれの事情がある。

 うまく説明できないこの“事情”にリアリティを感じたのは、やっぱ歳のせいか?若い観客は、この映画をどう観るのだろう?

 ジャケは1989年リリース、PIXIES「HERE COMES YOUR MAN」のシングル。そういえばライブ・シーンについて全然ふれなかったけれど、最初から最後まで聴けるナンバーはこの映画にはなく断片が挿入されるだけなので、音楽を求めて観るファンには少々ガッカリかもしれない。(とはいえ、ロカビリーっぽいアレンジの「NIMROD'S SON」や「BONE MACHINE」は、さすがにゾクゾクする)このタイトル曲も、リハのシーンでイントロが終わった瞬間にフランシスがマイクスタンドを倒し、笑いの中で曲が中断される。あと、「WAVE OF MULTINATION」はアルバム・バージョンというより、このシングルに収録されたスローなバージョンに近いプレイでした。

ピクシーズ/ラウド・クァイエット・ラウド [DVD]

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taco.taco. 2006/12/07 10:11 結局新曲を作るのは断念したってニュースで読んだよ。過去の曲ばかりでもそれを望むニーズがあれば堂々と続ければいい。自分達の曲なんだから、それで金稼ぐのは全然悪いことじゃない。そしてメンバーの仲がギクシャクしてこそあの音が出せるような気もしませんか?

gakusgakus 2006/12/07 21:47 正直、現在進行のバンドでないことに寂しさを覚えるものの、これはこれで仕方がないか…という気がします。あの音の緊張感は、対人関係の緊張を反映したものと言われると確かにそんな気がしてくるので結果オーライかな。でもスミスが同じことをやったら許しません(笑)。