映画×ロケンロー備忘録




映画とロックを愛するフリーライターの雑記帖。映画におけるロックの使われ方についての雑感を徒然と書いております

*過去に取り上げた作品についてはページ左下の一覧表を参照

メールは

こちら

はてなアンテナに追加→

2011-10-11 あなた、勝者ですよ

gakus2011-10-11

メジャーリーグの球団経営に革命をもたらしたオークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンの栄光を実話に基づいて描いた『マネーボール』(11月公開)。主演にブラッド・ピット、監督に『カポーティ』のベネット・ミラー、脚本に『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキンを迎えた本作は、その顔ぶれにふさわしく、ガッツリと見ごたえのあるドラマでした。

 2002年、経営難のアスレチックスは主力選手を金満球団に引き抜かれ、瀕死の状態にあった。そこでビーン(ブラピ)がとった戦法は、出塁率をはじめとする堅実な数字を残した目立たない選手を安価で補強するというもの。経済学の秀才ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル、好演!)をアドバイザーとして迎え、綿密な計算に基づいて選手を集める彼のやり方は、のちに”マネーボール理論”として広く知れ渡ることになる。ビーンの方針によって息を吹き返したアスレチックスは、やがて前人未到の大記録を打ち立てるが、それはビリーにとっての“勝利”ではなかった…。

 本作が人間ドラマとして優れている点は、単なる成功物語ではなく、光の裏側の影も描いていること。はたから見れば、ビーンの成し遂げたことはまぎれなく“勝利”だが、本人はさらにその先を見据えていたので、それを“勝利”として受け止めることができなかった。そこに人間の貪欲さや物悲しさを感じさせる。ホームランを打ったことに気付かず、全力疾走してしまう劇中の選手は、まさにその象徴。『ソーシャル・ネットワーク』のラストから悲哀を感じ取れた方ならば、そこから似たような感触を得ることができるはず。

 この映画の音楽については特に語りたいことはないけれど、一点、気になったことを記しておく。ビーンのオフィスで彼とブランドがミーティングを行なうシーン、ブランドの背後にはモヒカン姿の、クラッシュ時代のジョー・ストラマーの写真が飾られており、一方のビーンの背後にはクラッシュのライブ告知ポスターが貼られている。ストラマーがモヒカンにしたのはアルバム『コンバット・ロック』リリース時の1982年で、このころクラッシュは同作のヒットを受け、ザ・フーの前座として全米でスタジアム・ツアーを行なっていた。アスレチックスの本拠地オークランド=アラメダ・カウンティ・コロシアムでも当時、彼らの公演が行われていた。

 ビーンがクラッシュのファンだったのかどうは知らないが、個人的には彼とジョー・ストラマーが重なって見えてしまう。クラッシュはこの後、メンバーチェンジによってガタガタとなって解散し、ジョーが掲げたパンクロックによる革命を果たせずに終わる。後年、ジョーはそれを後悔し続けたが、現在クラッシュの音楽は多くの若い世代に影響をあたえ続けているのは周知のとおり。リスナーひとり、ひとりの人生に大きな影響をあたえたという“勝利”に、ジョーは気付いていたのだろうか? 彼が世を去った今となっては知る由もない。

 ジャケは1982年のスタジアム・ツアーからのライブ・アルバム、THE CLASH『LIVE AT SHEA STADIUM』、2008年リリース。

D