Hatena::ブログ(Diary)

gaoyangの日記

2011-08-02

中国ASEAN外相会議における基本合意をめぐって

11:26

 難航も予想された中国ASEAN外相会議において、南シナ海問題解決に向けたガイドライン合意が成立した。結論から言えば、中国国内においていまだ「韜光養晦(能力を誇示せずに謙虚な外交を展開するという、小平がかつて示した方針)」派が優勢を占め、力の外交を主張する「現実主義者」や解放軍内部の強硬派をある程度抑え込んでいると見ることができる。

 中国外交政策は、第一世代において「反帝国主義」を旗印とした「合従」策であり(ただし、途中で連携の相手がソ連を中心とした「東」陣営からアジアアフリカ諸国に変わっているが)、第二世代において「反覇権主義」を旗印とした「合従」策であった。しかし、第三世代への過渡期において、対ソ融和が促進され、「反覇権主義」の旗印が退場する。このタイミングで、第二次天安門事件(1989年)が勃発、大幅な外交政策の調整をせまられた。西側諸国からの非難、制裁にさらされた中国は、アジアに目を向けることになる。(背景には、中国孤立を望まない日本が、三塚外相を中心としてASEANに対中融和呼びかけたこともあったが。)アジア諸国の共産主義勢力との関係を清算し、既存の国際秩序を尊重する方針が採られる。この「韜光養晦」は、結果としてインドネシアシンガポールブルネイ、ヴェトナム、韓国といったアジア諸国との関係正常化をもたらし、アジア版「連衡」策とも言うべき様相を呈した。第二次天安門事件以降、西側諸国は毎春ジュネーブで行われる国連人権委員会大会議において、対中非難決議案を提出するようになった。しかし中国がこれに対して不採択動議を発動、東南アジア諸国や韓国が賛成票ないし棄権票を繰り返し投じ、結局西側の提案が会議を通過することはなかった。また、1993年ウィーン人権会議に向けたアジア諸国による準備会1993年春、バンコクにて開催)では、中国の主張する「生存権」「発展権」を多くのアジア諸国が支持した。結局これらの主張は、そのままウィーン人権宣言においても採択されることになる。「連衡」によるアジア諸国の西側からの引きはがしは、ある程度成功したと言えよう。なお、その後の中国は、「戦略的パートナーシップ関係」による大国への「連衡」を展開、貿易による経済的インセンティヴも利用しつつ、西側を分断することにも一定の成功をおさめている。

この「連衡」が最も成功していない相手国が、日本であると言えるかもしれない。日本は一貫して米国を中心とした「国際社会」との「合従」に傾き、ここ数年は「自由と繁栄の弧」やオーストラリアとの安全保障協力まで打ち出している。パートナーシップ関係も「互恵」という表現にまでは踏み込んだものの、戦略性をにおわせる表現は拒否したままである。第二世代において香港マカオ問題解決にめどをつけた中国は、第三世代において台湾への関与を強めた。しかし、台湾への関与強化は、結果として尖閣諸島問題を再燃させ、日本における中国脅威論を勢いづかせてしまった。中国が日本の保守勢力にとって絶好のヒールとなり、「新しい歴史教科書」、靖国参拝が一部世論の喝采を受ける土壌ができる。それに中国世論が反発するという悪循環の中、日中関係は制御不能な状態へと陥っていった。外交面では日米同盟が再強化され、「周辺事態」の定義が見直されるとともに、沖縄の戦略的重要性が上昇した。1995年頃から2005年頃にかけての対日関係は、中国にとって大きな教訓となっているはずである。

「韜光養晦」は、既存の国際秩序を尊重する方針であった。社会主義が事実上の退潮期に入って久しい中国では、「愛国主義」だけが事実上唯一の求心力となりつつある。「愛国主義」は孫文の言った「中華の振興」に集約され、祖国統一の堅持と経済的繁栄がその主な内容となる。そして前者が台湾への関与を求め、後者が「韜光養晦」という妥協に行きついた。祖国統一の希求は台湾の他、尖閣スプラトリー諸島で摩擦を生んでいる。対ASEAN関係で祖国統一が強く全面に出れば、対日関係での失敗が繰り返されかねない。事実フィリピン、ヴェトナム国内における対中世論は、最近にないほど悪化している。そしてこのタイミングで、米国が問題への関与姿勢を鮮明に打ち出した。中国の危機感は、かつてなく強かったであろう。

ASEANはこの20年間おおむね中国と良好な関係を築いてきたが、決して中国脅威論と無縁ではない。早くも90年前半には、ARFを舞台にマルチラテラルという「合従」策を模索するASEANと、バイラテラルという「連衡」策を進めんとする中国との間で摩擦が起き、結局中国が譲歩したという過去がある。ASEANは今後も、対中関係において「連衡」を受け入れず、あくまでもASEAN「合従」を貫くであろう。これを祖国統一の障害として、中国が強硬に「連衡」を主張すれば、日米同盟強化と同じことが、ASEAN米国の間で進みかねない。中国としては、「韜光養晦」継続の必要性を再認識したはずである。今回の合意も、そのあらわれであろう。一方ASEANは、中国の「連衡」を封じる上で「米国カード」が有効であることを、今回の中国の妥協によって理解したはずである。今後中国は国内世論をもにらみつつ、スプラトリー諸島問題で難しい判断を迫られることになろう。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/gaoyang/20110802/1312251969