●しまなみ海道をゆく #1-a 〜尾道から向島まで


朝、7:50起床。
いつものように子どもたちを保育園に送る。
家に戻り、支度を急ぐ。
それでも出発できたのは11時すぎだった。


20分で新大阪着。

1階の、団体さんが集合したりする広場の柱の横でMTBをバラす。
テント、マットを積んだリアキャリアを外すだけでも思わぬ時間を食う。


次は自転車そのものの解体。

  • 前後のブレーキを外す。
  • ステムを緩めてハンドルを90度動かす。
  • 車体をひっくりかえして前後輪を外す。
  • エンド金具をつけて車体を縦に起こす。
  • 底の部分が見えるようにした袋の上に、そのまま置く。
  • フレームをホイールで挟んで固定。
  • 持ち運び用のベルトをフレームのボトムブランケットのあたり(ペダルクランクのついてるところ)に付ける。
  • ずりずりと袋を引き上げてくると、穴が空いているのでベルトを通す。
  • もう片方の端をステムのところにつけて、車体全体を輪行袋で包む(巨大な巾着袋のイメージ)。
  • 肩に回して持ち上げたとき、床から少し浮くくらいになるように、ベルトの長さを調整する。


この方のサイトの説明が分かりやすい。
私の輪行袋も同じオストリッチの軽量タイプL-100。


バッグに収納し終えるまでに、結局、20分少々。
輪行」という道行き自体は心浮き立つものだし、このバラし&組み立て作業もコツをつかめば愉しくやれると思う。
ただ、重い自転車を肩から下げて、荷物を持ち、ふらふらとホームまで歩くのが、唯一ネガティブな時間。
混んでるときなど大いに他人様の迷惑になるし、まあ収納の仕方がまずいのだろうけれど、数歩あるくたびに自転車があばれて足に当たり、床に当たり階段に当たり、カチャカチャと気になる音を立てたりするのは実につらい。


後輪はつけたままで、転がして移動するタイプだと楽なのだろうか。
しかしそれだと列車に積み込んだとき、馬鹿にならないほど広いスペースが要るのではなかろうか。
あまりに場所ふさぎなのも神経を使うので困る。
しかし輪行袋なんて何回も買い直すわけでもないし、基本的に薄くて軽いもので大丈夫だと思う。
参考までに、現行品の一覧


ともあれ、ようやくその場を離れられたのが12:05。
新幹線の下りのホームを発車したのが12:22。
13:30、福山にて下車。
13:40、在来線に乗り換えて3駅。
13:55、東尾道で降りた。


尾道のひとつ手前の小さな駅で、ここのほうが人が少なくて駅前で自転車を組み立てるのも邪魔にならないかと思ったのだ。
ふたたび20分少々かかって組み立てる。


このとき、誤って引っかけてしまい、前輪についている速度計のパーツのタイラップが取れてしまった。
走行距離とスピードが分からなくなるが、まあ仕方ない。
ついつい距離や速さを気にしてしまうよりいいかもしれない。


とはいえ、この空である。青空である。快晴である。
うららかである。あたたかである。最高。
日頃の行いが良くなくても、お天道様が大目に見てくれることもあるんだなあ。


14:30、東尾道出発。
国道に出て、西に向かって走り出す。


同じように東尾道輪行袋を抱えて降りた青年がいたのだが、その彼が追いついて来た。20代後半くらいだろうか。
車道と歩道に併走して少し喋る。
「さっき、同じ電車でしたね」
ええ、そうですね。
「もう、旅は長いんですか?」
いや、全然。今日出てきて、明日か明後日には帰ります。
と答えながら、懐かしいやりとりだなと思い出した。
15年前、南アジアをほっつき歩いてた頃は、日本人に会うたびにこんな会話交わしていたっけ。
そのときは「ああ、もう半年」などというと驚かれてちょっといい気になったり、あるいは「ああそう、オレは日本出てからなら10年経つ」なんていう猛者に会ってこっちが驚いたりしてた。


見ると彼は、ロードバイクの後ろに小ぶりのリュックを結わえつけただけである。
ふっと思い立って走ってきただけみたいな軽快な姿だ。
それに引き替え私は、テントは積んでるわ、大きなデイパックを背負ってるわ、なにかと大袈裟な成りをしている。
本格的な長期のツーリングに出てきた風に見えなくもないのだろう。


あの、しまなみへ?
この辺をスポーツサイクルで走ってる人間は恐らくほぼ全員がそうだと思ったが、一応訊いてみた。
「そうなんです。けど、なんにも調べたりしてなくて。地図でみたらあの駅のほうが近いのかなと思って降りてみたんですけど、駅の人には、なんか渡船に乗れって言われて。渡船てどこだ? って言ったら尾道の駅のとこだって」
ああ、尾道大橋自転車道はなくて、歩道も狭いから自転車は渡れないって聞きました。


一応取材なので、そこそこ調べてきている俺。
出たとこ勝負で走り出している彼のほうが、よほど豪胆で格好いい。


「テントですか。いいですね」
そこらで泊まったりしながらになると思うんで。そちらこそ軽装でいいじゃないですか。
「ええ、自分、宇和島に友達がいるんで、そこまで行こうと思って」
宇和島? 愛媛の、松山のずっと先の?
「はい、だからまっすぐ今治まで走って、そっからまた電車に乗ります。たぶん着くのは夜遅くでしょうね」
尾道-今治間は、寄り道せずに走って80キロ弱と聞いている。
ノンストップでも4時間はかかるのではないか。
いま、もう午後の3時前である。それで宇和島まで行くのだ、と。
彼のほうが、よほどロングライドの旅人ではないか。
「じゃ、自分、行きます。また、渡船とか橋とかで会えるかも、ですね」
また、どこかで会えたら。
すれ違う旅行者たちとの別れ際のセリフは昔も今もあまり変わらない。


手を挙げると彼のロードバイクはするすると速力を上げ、次の信号で私が引っかかっているあいだに、もう見えなくなった。


しばらくすると、まだ尾道の市街に入る前に、大きな橋が見えてきた。

手前、東側にあるのが尾道大橋。向こうが自動車専用道の新尾道大橋
歩道を押して歩けば、この橋からしまなみ海道をスタートさせる手もあるらしいが、一般的なのは渡船で向島に渡るコースである。


尾道の街は、海沿いにもかかわらずほんとうにすぐそこまで山が迫っていて、劇的。


大林作品で観たとおりの光景に感銘。


わりとしっかりくたっと鄙びた感じの商店街も、また良し。


尾道に着いたときは、15時をまわっていた。
駅前で尾道ラーメンを食べる。
あまりやる気のなさそうなラーメン屋だった。


しまなみ海道の全部の橋の分の通行券が綴りになったものを買う。
駅前の国道をさらにちょっとだけ西に行ったところにある「港湾駐車場」の受付で。
ほんとに普通の駐車場なので少々注意が必要。
サイクリングマップもここでもらえる。


尾道駅のすぐ前はもう海。ボードウォークが整備されていて洒落ている。


駅の真ん前の渡船は閉鎖されているので、今度は少しだけ東へ行き、福本渡船の乗り場へ。


向島へ渡る。自転車込みの乗船料は70円。

通勤・通学に使われている生活の足である。



5分で、すぐ前に見えていた向島へ到着。



やけに幅広い運河のような川に沿って向島の奥に入っていく。
16:05。
まだ、ようやくしまなみ海道の端緒についたばかりというのに、すでに夕刻である。
今治まで、あと78キロ(たぶん)。