ガ島通信

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週刊ダイヤモンドの特集「新聞没落」を読んだ

週刊ダイヤモンド(9月22日号)の特集「新聞没落」を読みました。
ビジネス誌ということもあり、様々なデータを使い(独自のネット調査も実施している)ビジネスモデルの変化や問題点の分析が行われており、新聞業界の「構造不況」の実態が分かりやすく紹介されています。
記事では、全国紙と地方紙、広告(営業)、販売からネット戦略、記者の独自プロファイリング、アメリカの現状まで幅広く取り上げられ、新聞業界だけでなく、メディア業界に関心がある人は必読と言えるでしょう。

記事中には「経営環境が悪化しているのに、新聞社の経営者たちは、いまだに遠くの足音と思っている」という「新聞社-破綻したビジネスモデル」の著者で元毎日新聞常務の河内孝氏のコメントが紹介されていますが、新聞社の最大の問題がこの危機感のなさにあります。
危機感を持った一部の会社や経営者は、ネット事業に力を入れ始めていますが、うまくいってない。記事は朝日のアスパラクラブ、読売のヨリモといった会員制サイトの効果に疑問を投げかけ「読者との距離を埋めるために始めたはずが、いかに読者との距離が離れていたのか身に染みているかもしれない」と辛らつに分析しています。朝日、日経、読売がANYというネットプロジェクトを展開するとのニュースも紹介されていますが、紙とウェブは同じコンテンツを扱っていますがメディアとして異なる特徴を持っています。ネット世界を肌で知るだけでなく、技術への理解も必要ですが、コンテンツの出し手としてプライドがあるだけに新聞社が学ぶのは難しいかも知れません。

このようにビジネス誌に「没落」や「崩壊」といったタイトルの特集が組まれるというのは、なんとなく金融自由化前の銀行・生保業界と重なる気がします。当時は「まさか銀行がつぶれるわけがない」(もしくは、またすぐに景気が回復すると思った人もいた)と多くの人が思ったわけですが、その後、吸収合併、外資の資本が入ったり、国有化されたり…中には倒産してしまう金融機関が出たことはご存知の通りです。規制と政治との密接な関係に守られ、「最後の護送船団」とも言われる日本のメディア産業も、世界と繋がっているインターネットの影響からは逃れようがありません。

河内氏は「新聞社」の中で、山本七平「日本はなぜ敗れるのか-敗因21カ条」を引用して『真の危機と言うものはいくら叫んでも人の耳に入らない。誰かが具体的な脱出路を示し、過半数は脱出できないというと次の瞬間いっせいに殺到する』と書いています。窮地に陥りそこが唯一の脱出路と思い込んだら自滅してしまう。会社によって置かれている状況や問題も違うわけですから、横並びで他社と同じようなことをしても自滅するだけです。危機感を持ち、ユーザーの声を聞きながら自分の頭で考え、改革を実行できるところが生き残ることが出来るのでしょう。

ダイヤモンド「新聞没落」で気になったキーワードや内容

  • 外資の試算では、朝日の株価は1兆、毎日は3千億円
  • 地方紙を待ち受ける前途多難。新たなビジネスモデルを確立する必要があることはどの経営者も承知しているはずだが、資本力も弱いだけに先行きに不透明感
  • 「読売新聞販売店には増紙という言葉はあっても減紙という言葉はない」
  • 朝日、日経、読売のANY構想は三社のトップ会談で浮上。ただ、ネット事業では大手紙と言えどもしょせん素人集団。早くも疑問の声。地方紙ポータルも業界では「使い勝手が悪い」
  • 記者プロファイリング、リーマン経済部(企業との太いパイプが出世にも有利)、ゲイシャ政治部(忠誠するセンセイが出世すれば会社での発言力もアップ)、ダチョウ社会部(論理的思考よりも熱いハートが優先。記者のなかでも煙たがられる。口グセは「ケシカラン!」)
  • 「身近な人が辞めてふとわれに返る瞬間が一番怖い」社会部
  • 出世はパワーゲーム。もともと人事取材や権力闘争の取材がメシより好きな人種、本人が渦中に入れば… その姿は紙面で厳しく批判する「ダメ経営」そのもの
  • 手に負えないのは記者上がりの社長が経営を知っているとは限らないこと
  • アメリカでは、業績悪化にあえぐ新聞社はM&Aの格好のターゲット
  • コロンビア大学ビジネススクール、エリ・ノーム教授「ニュースメディアは巨大なメディアインテグレーターと専門メディアに分かれていく。メディア統合の担い手は既存の新聞社とは限らないが、再編を牽引できる規模を持つ企業はメディア業界でも限られている。中規模の日刊紙の多くは、日曜紙や週刊誌に鞍替えするか廃業するかの決断を迫られていくことになるだろう」
  • from editors 普段は取材する側の大手新聞社が取材対象になった場合広報対応はどうでしょう。某最大手新聞社は経営者への夜討取材に対して猛抗議をしてきました。自社の記者は夜討取材をしていないのでしょうか。

これらダイヤモンドの記事に関心をもたれた方は、インターネットによるメディアの変化や問題、ビジネスモデルやジャーナリズムについての連続討論をまとめた「メディア・イノベーションの衝撃―爆発するパーソナル・コンテンツと溶解する新聞型ビジネス」もよろしければご覧ください。

メディア・イノベーションの衝撃―爆発するパーソナル・コンテンツと溶解する新聞型ビジネス

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