ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

メディアやジャーナリズムを考える「場」づくりに取り組んだ2010年

2010年も振り返ってみれば盛りだくさんでしたが、大きな出来事としては、学習院大学法学部政治学科で「メディアリテラシー」の講義を受け持つことになったこと。東京大学のi.schoolでイノベーション・ワークショップ「新聞の未来をつくる」に取り組んだこと。昨年から大学生向けのジャーナリスト育成プログラムとして始まった「スイッチオンプロジェクト」を社会人に拡大し、3つのイベントを実施できたことです。いずれも変化するメディアやジャーナリズムを考える「場」でした。
北海道大学のCoSTEPでサイエンスライティングを担当したのが大学で教えるきっかけでした。学習院では通期で講義を持ち、先輩の先生に相談しながらシラバスを作成したり、ツイッターで呼びかけてゲストに来て頂いて、大喜利的な講義をしたり、学生の皆さんに感心を持ってもらいながら、メディアを使うおもしろさ、怖さを考えてもらうように工夫をしました。
初めての取り組みで慣れないところもありましたが、最初はおとなしかった学生も授業中やフィードバックシートで意見を出してくれるようになりました。講義の模様は「media literacy」カテゴリーから見ることが出来ます。
来年は、学習院に加えて早稲田大学ジャーナリズムスクールで講義を持つ予定です。インターネットやソーシャルメディアを取材に生かす、これまでにない講義になるように考えています。

i.schoolのワークショップでは

新聞を辞めてからも個人的に相談したり、講演で話したり、なるべくお世話になった皆さん、業界に貢献したいと思ってやってきましたが、生活者から見る新聞を出発点とし、読み手にとっての新聞の意味、価値をエスノグラフィックに探り出します。新聞をめぐるさまざまな生活者の現実を知り、一見共通点のない彼ら彼女らの背後を貫く視点を導くことで、これまでとひと味違った新聞の未来像を見出すことを目指します。

を考えました。参加している学生や社会人のモチベーションが高く、ワークショップの運営や課題についても学ぶことが多くありました。ただ、いくらユーザー視点でと何度も言っても、「新聞」という固定観念は非常に強く、「当たり前」を疑う難しさを改めて知りました。
ワークショップは、朝日新聞社ジャーナリスト学校が発行している「Journalism(ジャーナリズム)」2010年10月号に『ビジネス教育の手法から見えた新たなジャーナリスト教育の方向』としてまとめました。i.schoolの説明、プログラムの内容、取材との共通項、新聞社・新聞業界とイノベーションの関係、ジャーナリスト教育への展開の可能性などです。プログラムを進める中で印象的だった「インタビューにおける「事実」と「解釈」を分ける難しさ」についても触れています。ワークショップの模様は「ischool」カテゴリーから見ることが出来ます。
最も力を入れているスイッチオンPJ。年明けの浜松ワークショップ、ゴールデンウィークの社会人向けのジャーナリストキャンプ、大学生と大学院生対象の夏合宿、エデュケーションフォーラムと、どれも初めての試みをやりました。昨年のプログラムについて、日本マス・コミュニケーション学会の2010年度春季研究発表会で「インターネット時代のジャーナリスト教育の課題と可能性」というタイトルで発表もしました。
ジャーナリストキャンプは、あまり宣伝しなかったのですが、北海道から沖縄まで全国から、新聞記者、フリーランス、PRパーソン、研究者ら42人の参加があり、深夜まで伝えること、書くこと、にどう取り組むか議論が続きました。特別ゲストの聖路加国際病院乳腺外科医長の山内英子先生と株式会社ドワンゴ川上量生会長のトークセッションも刺激的でした。全国から問題意識を持った人が集まったこと、北海道でCoSTEPのOGが報告会を開いてくれたこと、も心強いことでした。
スイッチオンPJには色々な意見を頂いています。期待や応援、時には厳しい声も。イベントを続け、業界に名前が知られ始めると(まだまだ知名度が低いですが)新たなチャレンジが難しくなるのはどのような組織や団体も同じでしょうが、一生懸命やること、自分に挑戦すること、など大事にしていることを大切に、切磋琢磨できる「場」づくりを進めていきます。
スイッチオンはたくさんの人に支えて頂いているのですが、何より学生運営委員の活動に多くを負っています。苦しい状況を乗り越えてくれた3人が無事に活動を卒業しました。途中で運営から離れてしまった学生も、最近ではツイッターで意見をくれたり、イベントに協力してくれたり、協力してくれています。繋がりを大事にして、活動を伸ばしていきたいと思います。2011年のキックオフは1月15日の土曜日午後6時からの予定です。

WOMJ(WOMマーケティング協議会)では3月にガイドラインを発表。広告代理店、PR会社などで社内のガイドラインの見直しが進んだり、事業者ではユーザーとの規約が変更となったり、じわりと浸透しています。

仕事のことはこのブログではあまり書くことがありませんが、チームにも恵まれ、gooラボを盛り上げるためにすべての研究所を回ったり、新たなサービス創造するコンサルティング事業を立ち上げたり、充実した1年でした。まだまだ足りないところはありますが、好奇心旺盛な研究者と話すのは、何より刺激になりました。年明けからはgooラボで新しいサービスが出る予定です、リリースされたらこのブログでも紹介します。
放送メディア研究〈7〉特集 都市、地域、メディアの関係性を再考する
仕事が忙しく、大学の講義も始まったことからアウトプットが少なめでした。日経新聞電子版スタートにともない、2006年から90回続いたIT-PLUSの連載「ガ島流ネット社会学」が終了となり、新たに「ソーシャルメディアの歩き方」がスタートしました。「Journalism(ジャーナリズム)」のメディアリポートに加え、毎日新聞で「メディア時評」も担当しました。また、「NHK放送文化研究所、放送メディア研究に「インターネット時代における地域メディア-新たな情報交差点としてのミドルメディアの可能性とメディア連携-」を寄稿しました。
新聞社を退職してからも、お世話になった業界に貢献したいと、個人的に相談を受けたり、講演で話したり、してきました。日経新聞のイベント「ネット時代のメディアとジャーナリズム」で話しただけでなく、通信社や地方紙、メディア関連の労組でも話をする機会を頂きました。
独立系ジャーナリストがジャーナリスト志望の若い人を増やそうと取り組んでいる「ジャーナリズムフェスタ」に参加した際には、駆け出し時代に一緒に警察を取材した全国紙の記者が会場に足を運んでくれ「昔から話していることが変わらないですね」と言ってくれました。昔と変わらず、ジャーナリズムや産業の構造問題について議論し、問い続けてきた姿勢を評価してくれたことは、とてもうれしいことでした。変化の中で苦しみながら、新しいことに取り組もうと努力している人も多いと思います。講演やワークショップなどは、出来る限り協力しますのでお声かけください。

ここに書いたのはごく一部です。いろいろな活動が出来たのは、多くの皆さんの協力、アドバイスがあってこそです。本当にありがとうございました。2011年は、イベントで終わらせることなく学会発表や論文など、成果が見えるようにアウトプットすることを心がけます。また、メディアやジャーナリズムの現場により近いところで活動できるように、積極的に動くつもりです。来年も何とぞよろしくお願いいたします。
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