なくしたもの、見つけたもの ー最終回ー


自宅近くの道を歩いていたら、ふと目の前にかわいらしい落とし物発見。
こういうのを見つけるたびに、ついつい立ち止まり、写真を撮ってしまう…そんなことからも、そろそろ離れなくてはなりません。
昨日、映画『Lost & Found』は公開最終日を迎えました。
本当にたくさんのみなさまに足を運んでいただいて、映画終了の際に聞こえてきた拍手に、舞台袖で待機していた関係者一同が感動したことは言うまでもありません。

Lost & Found
落とし物あずかり所のこの英語表記を見たときに、物語は動き始めました。
なくして、見つける。
思えば、人生ってその連続かもしれません。
私は今まで何をなくして、何を見つけてきたんだろう。
今回の公開をきっかけに、再び自分に返って考えてみました。
なくしてしまったものに強烈な喪失感を伴うときもあれば、なくしたと意識せずになくしてしまっている場合もあります。
追い求めて努力してやっと見つけたものもあれば、もう手にしているはずなのに、見つけたという感覚を持つことができないときもあります。


「なくしたものがここみたいに棚に並んでいて、取りにくることができればいいんですが……」
主人公に言ってもらった台詞ですが、人生の中の落とし物は、なかなかそうもいきません。
けれども、何となくやり過ごしてしまうより、自分の<Lost & Found>を見つめ直すことで、前に進めることもあるのかもしれない。
ふとそんなことを思ったりもしました。
私の個人的な実感はさておき、映画を通して、もし自分の<Lost & Found>にまで、意識が向かった方がいらっしゃったら、こんなにうれしいことはありません。


最後に。
今回の公開に関しては、たくさんの方のご尽力がありました。
宣伝・配給のブラウニーさん、本当に心から映画に寄り添って、公開準備から公開中までを奔走していただきました。
素敵なウェブサイトとチラシをデザインしてくださったHogaHlicさん、インディペンデント映画を上映するという英断に出てくださった劇場、シネマート六本木さん。
それから、今回の強力なパートナーである『ロックアウト』の高橋監督。主演の園部さん。同じ仲間として『Lost & Found』も大事にしてくださいました。
そして、何よりも、劇場にわざわざ足を運んでくださった観客のみなさま。関係者一同、本当に大きな力をもらいました。
この場を借りて、厚くお礼申し上げます。
ありがとうございました。


さて、『Lost & Found』公開に合わせて始めた、この期間限定ブログ。
今回をもって終了とさせていただきます。
毎回、好き勝手に書かせていただきましたが、読んでくださった方には心からの感謝を……。
新しい作品も、ただ今準備中です。
監督・脚本・撮影は、『Lost & Found』スタッフと同じメンバーになります。
この先、順調に作品が完成するのかはまだまだわかりませんが、今回いただいた力を糧に、またみなさんにお会いできる日を楽しみにしています。


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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆シネマート六本木にて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:高橋康進)との日替上映になります。

詳しくは下記サイトへ

http://www.gr-movie.jp

フラワー長井線との出会い


出会いは、時によっては、人生をも左右する大きなものになりうる可能性がありますが……。
この映画にとって、山形県を走るフラワー長井線との出会いも、なくてはならないものでした。
新幹線の停車駅、赤湯(あかゆ)駅〜終点、荒砥(あらと)駅までをつなぐ、1時間に1本しかないような田舎のローカル線。
この路線の駅の佇まいや風景が、映画の情緒を引き出すことに、一役も二役も買ってくれたことは、言うまでもありません。


実は言うと、『Lost & Found』脚本の第一稿では、舞台は東京でした。
都内の駅での朝夕のラッシュ、溢れかえる人混み、喧噪、殺伐とした空気、そんな中にある<落とし物あずかり所>がひとつのオアシスのような存在になっているイメージで書き進めていきました。
ところが、いざ、東京近郊の鉄道会社数社に、ロケ協力を求めると、あるときは、あっさり、あるときは、迷惑そうな顔で、スパンスパンと断られていきました。
駅が舞台という設定に決めたときに、ロケ地を探すのに一苦労しそうだと、そういう覚悟はできていたつもりですが、このまま、どこも協力してくれなかったらどうしよう…と、不安はつのります。
と、朗報が舞い込んできました。
ラインプロデューサーの方が、協力してくれる鉄道会社を見つけてきてくれたのです。
その名も、フラワー長井線
……フラワー???
一瞬、ひるみました。(山形鉄道の方、ゴメンナサイ!)
場所は、東北、山形県
とっても田舎で、とっても雪深いローカル線。
脚本の中に書いた駅のイメージがガラガラと崩れ落ちていきました。


けれども、それなら!
早速、シナリオハンティングに、そのフラワー長井線を見に行きました。
予想以上に、寒く静かな光景がそこにはありました。
殺伐とした雰囲気? そんなの微塵もありません。
当初のイメージであるオアシスのような存在の<落とし物あずかり所>は、こんなに周囲が穏やかな環境である以上、無理な話です。
そこで、この路線が丸ごと、東京からやって来たひとが自然と流れ着くような、時の止まったような不思議な空間に見せ、その中心に位置するのが<落とし物あずかり所>であることにすれば……
そんな新たなイメージが湧いてきました。


フラワー長井線を運営する山形鉄道の方とも、たくさんお話をしました。
これがまた!本当にびっくりするほどよい方ばかりなんです。
しかも、このフラワー長井線、年々利用者が減ってきて、経営の危機にも陥っているという…。
そして、映画に協力することが、少しでもいい効果を生むのではないかという鉄道会社側の淡い期待も勝手に感じて(あくまでも、勝手にです)、徹底的にフラワー長井線を出すことに決めました。
だから、映画の中でのセリフやアナウンスには、全て実在の駅名を採用しています。
そんなことをしても、小さな小さな映画なので、フラワー長井線に貢献できるとは思っていませんが、この素敵な路線の雰囲気が少しでも映画を通して伝わるといいな、そう願っています。


この映画、オール山形ロケ、なんてたまに謳われていますが、本来なら、「オールフラワー長井線ロケ」とも言えるくらい、お世話になりました。
<落とし物あずかり所>のセットも、フラワー長井線の「羽前成田駅」を間借りして作っています。
いろんなところで書いていただいたレビューにも、物語を彩る情景に触れているものがたくさんあります。
その情景とは、フラワー長井線との出会いで生まれたものでした。
そして、言うまでもなく物語も。
この土地の柔らかな光や澄んだ空気、のんびりと温かい人々から、たくさんのインスピレーションを受けて、形となったのでした。


☆☆☆

3週間の予定で公開が始まった<世界が愛した才能>シリーズも、いよいよ楽日を迎えます。
明日(3/18)は、『ロックアウト』最終日。
そして、明後日(3/19)は、『Lost & Found』最終日です。
劇場でお会いできるのを楽しみにしております。


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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆シネマート六本木にて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:高橋康進)との日替上映になります。

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フランス語の辞書

ここで、ひとつの懺悔を。
大学生の頃の話です。
ある日、私は、大学構内で、フランス語の辞書をなくしてしまいました。
すぐに、学生課の落とし物あずかり所へ問い合わせに行きました。
「フランス語の辞書を…」と言うと、係のひとは、すぐに「これかな?」と私の辞書を差し出してくれました。
見つかってよかった!と思ったのは、私が勉強熱心だったからではありません。
その辞書、とても高かったのです。
簡単にサインをし、私は辞書を手に落とし物あずかり所を後にしました。


それから数ヶ月後、フランス語のテスト中に、変なことに気がつきました。
そのテストでは辞書の持ち込みが自由で、問題を解きながら、辞書をパラパラめくっていたんです。
すると、単語にアンダーラインがひいてあるのを見つけました。
……あれ?
こんなライン引いたっけ?と思いつつも、そこはテスト中、とりあえず先を急げと、辞書をめくります。
すると、また、アンダーライン。
……ん?
慌てて、辞書全体をバラバラとめくってみると、そこには至るところにアンダーラインが。
その瞬間、気がつきました。
この辞書、私のじゃない……。
フランス語が大キライで、普段全く勉強していなかった私。
辞書だって、本当に久しぶりに開いたのです。
もちろん、アンダーラインを引いて、単語を覚えようとしたことなんかありません。


あのとき、落とし物あずかり所に届いていたのは、私の辞書ではなかったのでした。
けれども、全く同じ辞書を、偶然にも同じ時期に同じ構内でなくしてしまい、それは間違った持ち主に返ってしまった。
この出来事を、『Lost & Found』の脚本を書くときに、突然思い出しました。
落とし物あずかり所って、すごく危うい場所なのかもしれない。
そこに、悪意が入り込めば、そのシステムは間違いを起こす可能性がある。
それは、つまり、誰かのものを、簡単に持ち去ることができるということ。
善意で成り立っているがゆえの危うさです。


その辞書が私のものではないとわかったら、次にすること。
それは、落とし物あずかり所に、その辞書を返しに行くことでしょう。
けれども、私はそれをしなかった。
言い訳をしようとすれば、できるかもしれません。
まず、あまりにも時間が経ってしまっていたということ。
受け取った瞬間に気がつけば、「あっ、これ私のじゃありません」と言えたかもしれない。
でも、今さら届けたところで、この辞書が本当の持ち主に届く可能性は低いんじゃないか……。
落とし物あずかり所で眠り続け、やがて保管期限が切れて処分されてしまうより、私がこのまま使った方が……、とは随分都合のいい話ですが、そんな言い訳もできそうです。
それから、すごく正直なところ、また新しい辞書を買うのがもったいない、面倒くさい……そういう気持ちがあったことも認めなくてはなりません。
でも、私が届けなかった理由は、そんな具体的なことよりも、自分を弁護するわけではありませんが、ただ何となく届けなかった…というのが一番ふさわしいような気がします。


すごく変な話ですが、誰かのひいたアンダーラインを見た瞬間に、今まで開きもしなかったその辞書に愛着のようなものを感じてしまったのです。
それまで全くフランス語を勉強しなかった私は、単位を落とし、再履修クラスに入れられました。
そこで、初めて、その辞書を使って真剣に勉強をし始めました。
調べた単語にアンダーラインが引いてあると、ああ、この人も調べたんだ…と思いました。
そして、私は、このアンダーラインを見る度に、誰かの辞書をそのまま自分のものとして使っている…という事実を何度となく思い出すのです。


×××映画公開も後半に入ってきているので、以下、少しだけ映画の内容に触れます。これから観る予定で何も知りたくない方は、お気をつけください…×××


映画の中で、目の覚めた富樫がなぜ、持ち去った時計を落とし物あずかり所に返さないのか、それは不自然ではないか…という声を、制作段階で何度か耳にしました。
でも私は、これに関しては、はっきりと言うことができます。
人間の行動って、そんなに単純じゃないはず。
自分の過ちに気がついた富樫であっても、その時計は、持っていたいと感じたんじゃないかと思ったのです。
落とし物あずかり所から盗んだ時計を持ち続けるのは、過ちを認め落とし物あずかり所へ返して終わりにするより、ずっと大変なことです。
その時計を見る度に、嫌な過去を思い出すわけですから。
けれども、あえて、自分に対して罪を背負わせようと、過去を忘れてはならないと、富樫は時計を携帯し続けます。
そういう気持ちで、書きました。


幸い、映画を観た観客の方からの「どうして時計を返さないの?」という疑問は、今のところ耳に入ってきておりません。
完成した映画に、その疑問の余地がないのだとしたら、それは、脚本の曖昧さを埋めてくれた、監督・キャストの力だと思います。


そして私は、必要でなくなったフランス語の辞書を今でも持っていて、それが自分のものではなかったことを、時どき思い出すのです。


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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆シネマート六本木にて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:高橋康進)との日替上映になります。

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ピエロ落札


映画の冒頭、最初に登場する誰かの落とし物は、ピエロのキーホルダーだった。
しかし、撮影用小道具として探そうとすると、これがなかなか見つからない。
小道具に対して、きちんとしたスタッフがいればよかったのだが、低予算映画なので、制作の方が小道具も担当していた。
そして、ピエロがどうしても見つからないので、クマなどの代替のキーホルダーをいろいろと用意してもらって、どれがいいかと見せてもらった。
ただでさえ、過酷なスケジュールで動いているので、見つからないのは仕方のないこと。
ピエロひとつに時間を割くわけにいかないのだった。
でも、私はどうしてもピエロにこだわりたかった。
『Lost & Found』では、登場人物のひとりである盲目の女性の周辺に、ファンタジーの要素が入り込んでいる。
その象徴として、最初にピエロから始めたかった。
しかしそれを言い出し困らせるのは、わがままであるような気もした。


だから、脚本を書き終わって時間に余裕があった私が、もう一度探すことにした。
ピエロのキーホルダーなんて、すぐ見つかりそうなものだが、実際に探すと本当になかった。
今から誰かに作ってもらう時間もなかった。
そして、監督・スタッフはロケ地の山形へと旅立った。
東京に残っていた私は、ピエロが必要なシーンの撮影日とにらめっこしながら、まだ諦めずにいた。
そして、ついに見つけたのである。
まさに、イメージどおり!というピエロのキーホルダーが、インターネットオークションに出ていたのだ。
そして、まだ誰も入札していない。
でも……
出品終了までの時間は、まだ随分とあった。
それを待っていたら、撮影に間に合わない。
私はとりあえず入札し、出品者にどうしてもこのピエロが必要なことを伝え、出品を今すぐ終了してほしいとお願いした。
出品者から返事はすぐに返ってきて、すでにピエロを落札扱いにし、送付準備に入ったという。
……このすばやい対応に本当に助けられた。
山形では、着々と撮影が進んでいる。
届いたピエロをすぐさま、山形へと転送した。
そして、無事にピエロは映画に出演できたのである。


このピエロがイメージどおりだと強く思ったのが、手にアコーディオンを持っていることだった。
そのあとに出てくる、ファンタジーのような幻想シーンでアコーディオン奏者が大事な役割をしているので、その布石のような存在に…というのは、制作者側の勝手な思いであって、実際にそれを意識して観てもらうのは難しいと承知しておりますが……


心残りがひとつ。
私は、オークションというものを利用したのが、そのときが初めてで、勝手がよくわからず、最低価格で入札してしまったのです。
その価格、確か、100円以下でした。
最低価格で入札しておいて、出品をもうやめろなんて、よくもそんなぶしつけなことが言えたもんだ…と、今でも恥ずかしくなります。
その時は、とにかく切羽詰まっていて、気がまわらなかったんですよね…、と言い訳にもなりませんが。
それなのに、出品者の方は、そのことには一切触れずに、すぐにピエロを送ってくださいました。
見知らぬ方のご親切に、本当に心から感謝しています。


念のための補足です(笑)
写真のピエロは、撮影用に“汚し”を施していて、届いたピエロは新品のきれいなものでした!



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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

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日々、Lost & Found ・その2

「日々、Lost & Found」というタイトルで、カメラをなくしてしまった話を書いたことがありましたが…
今日は、自分のことではありません。
(私も、そんなにしょっちゅうlostしているわけではありませんので…笑)

昨日、新宿で長い下りエスカレーターに乗ったときのこと。
ふとその先、ちょうどエスカレーターを降りる場所あたりに、ひとりの外国人男性の方がいらっしゃった。
スキンヘッドで、サングラスを頭のてっぺんにのせている。
そんな彼を、エスカレーターの上から見下ろす格好になった私。
想像の中で、サングラスが目となり、ピカピカの頭の上にマジックでもうひとつの顔を描いた様子が思わず浮かんでしまって、顔がにやけてしまったのだが、よく見ると、彼の表情はとんでもなく強張っていた。
顔面蒼白、という表現が大げさでない表情だった。
例えば、彼の様子を脚本で表現するとこんな感じ。


○新宿・とあるエスカレーター前
エスカレーターを降りた外国人男性(ジョエル)の足がふと止まる。
慌てて今乗ってきた下りエスカレーターを振り返るジョエル。
滞りなく動いているエスカレーター。ひとりの女性(←私)が乗って降りてくるのが見える。
ジョエルはまず、ポケットにゆっくりと手を当て確認し、そこが空っぽなのがわかると、全身のポケットを隈無くバンバンと叩き始める。表情は、みるみるうちに青ざめていく。
首を無意味に左右に振り、身動きとれないような様子を見せるジョエル。やがて手を目の前に広げ、その手のひらを呆然と眺める。
エスカレーターから降りてきた女性が、自分を凝視しているのに気がつき、我に返ったようにその場を立ち去る。


・・・何をなくしてしまったのだろう。
彼と強く目が合ってしまった私は、すごく気になった。
こんなふうに、誰かの何かをなくしてしまったことに気がつく瞬間に遭遇し、その表情を不躾にも凝視してしまい、その手から知らぬ間に滑り落ちたかのように、手のひらを見つめる彼を見て、ひとって本当にこんなリアクションをするんだ…と改めて思った。
「手を目の前に広げ、その手のひらを呆然と眺める」なんて、そんな典型的なアクションを実際の脚本で書くのは、けっこう勇気がいるが、彼のその様子は、まるでひとつの芝居を見ているようだった。動揺がじかに伝わってきた。


前日の『Lost & Found』の上映後に、監督に声をかけてくれた観客の方がいた。
「今日は、Lost & Foundみたいな日だったんです。だから、観るべくして観た映画だと思いました」
この話を監督から聞き、とても素敵な感想だなと思った。
その方に何があったのかはわからないが、自分の持っている経験に映画が触れて、少し立ち止まるというか、ふと考えるきっかけになれるのは、この上なくうれしい。


遭遇した外国人の方に、思わず『Lost & Found』のチラシを渡しそうに……は、さすがになりませんでしたが、『Lost & Found』の中の日記をなくした外国人に、その姿を重ねてしまったことは、言うまでもありません。
ちなみに、役名は、「ジョエル」と言います。映画の中でその名が出てくることはありませんが…。


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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆シネマート六本木にて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:高橋康進)との日替上映になります。

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「失う」と「無くす」

映画『Lost & Found』のチラシにあるコピーは、
「失くしたもの、そして見つけたもの」
となっている。
でも、本来の日本語としての正解は、
「無くしたもの、そして見つけたもの」
である。
「失」と「無」。

「無くす」という字を見たとき、ものすごい違和感を覚えた。
「無」には、どうしても、「存在しない」という意味が強くまとわりつくからだ。
そして、映画の中で描いていることとは大きく食い違っていた。
映画ではそれぞれの登場人物が何かをなくすが、そのなくした物は、持ち主の手を離れてしまっただけで、必ずどこかにあるのだ。
消えて存在しなくなったわけではない。
だから、「無」という字は避けるべきだと思った。

逆に「失う」という言葉は、とてもしっくりきた。
「見失う」と表現することができるように、今まで見えていたものが、ふいに見えなくなるような、どこかにあるはずなのに、自分の手をいつのまにか離れてしまったような感じも、言葉のイメージとして持っていると思った。
しかし、「失ったもの、そして見つけたもの」とすると、これまたトーンがぐっと下がるような気がする。
「失う」という言葉は、目にするコピーとしては重すぎる。
どうしても「なくす」というサウンドはほしい。でも、「失う」のニュアンスもほしい。
その結果、「失くしたもの、そして見つけたもの」とし、「失」に「な」のルビを打つことにしたのである。


『Lost & Found』の初日がとうとう明けました。
「無くした」ではなく「失くした」にこだわったそのわけを、観てくださった方にもどうかどうか伝わりますように……。


☆☆☆
『Lost & Found』の初日舞台挨拶に、遅い時間にもかかわらず、たくさんの方に足を運んでいただいたこと、本当にうれしく思います。
ありがとうございました。
日替わり上映をしている『ロックアウト』も、とても素敵な作品です。
スリラーなのか、ヒューマンドラマなのか…。
ジャンル分けのできない深みを、ぜひ、その目で確かめてみてください。
今後も、トークショーや英語字幕上映日などありますので、どうぞよろしくお願い致します。


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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆シネマート六本木にて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:郄橋康進)との日替上映になります。

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観られなかった映画

大学の卒業論文で、イラン映画をテーマに選んだ。
ちょうどその頃、イラン映画は、マジッド・マジディ監督の「運動靴と赤い金魚」をはじめとした子供を主人公にした作品で、徐々にその存在感を増し、有名なキアロスタミ監督の次の世代の監督たちが次々に台頭してきた時期でもあった。


とはいえ、論文を書くには、日本でロードショーにかからない作品も何とか探し出して観なくてはならない。
資料としてどうしても観ておきたい作品リストの中に、サミラ・マフマルバフ監督の『りんご』という作品があった。
父親に監禁され生まれてから一度も外に出たことのない12歳の双子の少女が、初めて外の世界と触れる様子を描いている実話をもとにした映画だ。
その作品を上映する映画祭があるという情報をキャッチした。
……よかった!観られる。
喜んで出掛けた。
当日券が売りきれることを心配し、かなり余裕をもって現地に到着。
無事にチケットを入手した。
ここで、安心してしまったのがいけなかった。
上映時間までふらふらと歩き回っていた私は、チケットをなくしてしまったのである。
しかも、友人の分まで2枚とも。
いざ会場に入ろうとして、そのことに気がついた私。
上映時間が迫っていることもあり、諦めてもう一度お金を払ってチケットを買おうとすると、
「売り切れです」


本当にショックだった。
チケット売り場の人に食い下がった。
どうしても観たいから、何とかならないかとか、立ち見でも構わないから…とか、取り乱した私に、憐れんだ目を向けるだけの売り場のひと。
映画祭のひとにまで掛け合ってみたけれど、チケットなしの例外は認められないとのこと。
私たちの次の行動は、何とかなくしたチケットを見つけることだった。
どこかに落としてしまったチケットを見つけるべく、歩いた場所をもう一度辿ってみる。
上映は始まってしまった。
そして、チケットは見つからなかった。


「そんなに大事なら、何でなくしたりするんですかね」
『Lost & Found』で、若い駅員がつぶやくセリフ。
「何で、そんなに大事なものをなくすの?」
友人も、帰りの電車で落胆しきっていた私に、責めるのではなくただそう訊いた。
そんなこと、私だってわからない。
気がついたら、その手から消えていたんだから。


普通の映画を見過ごしたのとは事情がちがった。
日本での公開も、DVD化も、約束されていない小さな作品。
これを逃したら、もしかしたら、一生観ることのできない作品。


映画が好きで、その世界でアンテナを張っていると、そういう作品は本当にたくさんあることに気づく。
そういう作品とは、一期一会になるかもしれない作品ということ。
作品の質と露出度は比例しているわけではない。
全国ロードショーに当然のようにかかる作品の一方に、人に観てもらう機会に恵まれない映画がたくさんある。
『Lost & Found』もそんな作品のひとつに入るだろう。
だから今回の公開には、様々な方の尽力と特別な思いが込められている。


その後、観る機会を得られずに、結局卒論から外すことになった『りんご』という作品。
イラン映画から心を離してしまった今だが、その『りんご』がDVD化されていることを最近知り、嬉しく思った。
イラン映画に根強いファンがいる結果なのだろう。
さて、『Lost & Found』はどうなることか。
今回のロードショーが、一般の人々の目に触れる最後の機会になるかもしれない。
そんな危うさがあるけれど、作品の力を信じて。
『Lost & Found』の初日は、明後日2/28(日)。
舞台挨拶で監督とたくさんのキャストが登壇予定です。
ご来場、心よりお待ちしております。



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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆シネマート六本木にて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:郄橋康進)との日替上映になります。

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