スイス旅行記 (4/5)

Chaumont

 起き出すと、どんよりした天候。朝食後、雲行きを見守っていたら、少しずつ空が明るくなってきました。まず、最初に、バスターミナル前のUBS銀行へ行って預金をおろします。スペインの銀行(BBVA)のキャッシュカードを使いましたが、難なく引き出すことができました。SF50 = EUR35.2。単純計算だと SF1=EUR0.70 なのですが、1回あたりの手数料が3ユーロで済んでいます。同額を換金したとすると、空港で現金から両替したときよりもレートが有利だ。安全かつ便利な国際キャッシュカードの普及は、恩恵が大きいです。
 午前のお出かけ先は、ショーモン山(Chaumont)。自動販売機は紙幣がつかえなかったのでバスの案内所に行き、バスとケーブルカーがセットになった往復切符を買う。別々に買うより、ちょっとお得でした。頻繁に出ている7番線のバスに乗り、駅の裏を通って東方向へ。15分ほどで、ラ=クードル(la Coudre)に到着。バス停の目の前にケーブルカー(Funiculaire)の駅があって、すぐにそれと分かります。およそ1時間に1本の運行で、私は10時30分の便に乗車。中学生と思しき団体と乗り合わせたため、車内は満員。運転手さんが改札を兼ねているようで、到着時に駅は無人でした。
 発車すると、フニは森の中を切り開いてつくった線路を進んでいきます。中間地点で、ケーブルの反対側につながれた車両とすれ違います。閑散期だったためか、真っ赤に塗られた車両には乗務員がおらず、客も乗せていませんでした。
 山頂駅に降り立つと、すぐ横に鉄塔が建っています。さっそくコイン式の門をくぐり、展望台の上を目指しました。そこは、まさに絶景。眼前にはヌーシャテル湖(Lac Neuchatel)が広がっています。南の方角を眺めることになるわけですが、雲の間から流れ出した陽光が水面に跳ねてキラキラと輝くのです。また、正面の地平線近くにはムルテン湖(Lac de Murten)が、左手にはビエンヌ湖(Lac de Bienne)を見ることもできました。
 風景を比べるなら、レマン湖よりはるかに素晴らしい。大地の広がりを感じさせてくれます。なんでも、スイス領にある湖としては、ヌーシャテル湖が最も大きいのだとか。レマン湖には、フランスとの国境線が通っていますから。
 ぼーっと眺めているうちに40分が過ぎました。少し冷えてきたので、山頂駅付近を歩いてみます。といっても、建物は数件しかありません。なぜか、こんなところに郵便局がありましたが……。ホテル(Hotel Chaumont ef golf)もあり、先ほど乗り合わせた児童の声が聞こえてきます。4つ星ホテルでお泊まりとは、なんて贅沢な奴らだ(←ひがみ)。ケーブルカーの運行時刻表を見ると始発が7時10分で、観光用にしてはやけに早いなと不思議に思っていたのですが、宿泊客の足も兼ねているのでしょう。
 12時10分の便で下山。1本やり過ごしているので、来たときと同じ青+緑色の車両です。最前列に席をとりましたが、車両の屋根が透明になっているため、これまた美しい光景を見ることができます。

le dejeuner

 中心街に戻ってくると12時30分。1度はスイスの温かい料理を食べておこうと、レストランに入りました。“COOP”の向かいにある“Le Jura Brasserie”というところ。見たところ地元客がたくさん入っていましたし、入口に“Menu de jour”(日替わり定食)が張り出してあったので。
 混んでいましたが、合い席をお願いして場所を確保。ランチメニューの内容はわからないけれど、食べられないものは出てこないだろうということで注文。ちなみに私が食べられないものは、3な(納豆、ナマコ、軟骨)です。これがスイスで供されたら、あまりの意外さに敬服して口にしますけれど(笑) 下の方に3種類の値段が書いてあったのだけれど、辞書を引いてみて概念がわからないのでどうしようもなく、「フルセット」を頼んでみる。
1. Salade de chou rouge
* 紫キャベツのサラダ ワインビネガーがけ
2. Lard fume et saucisson aux lentilles
* スモーク・ベーコンとサラミ レンズ豆添え
* 味も見た目も「豚の角煮」な料理が出てきて、びっくり
3. Dessert de jour
* 本日のデザート
* チョコレート・ムースでした
 せっかくのスイス料理ですから、たっぷり時間をかけて、ゆっくりいただきました。――というと聞こえはいいのですが、要はすっかり忘れさられまして。1皿目が出てきたのは20分後、2皿目に至っては30分後、デザートにまた20分(汗)。ヨーロッパのレストランは連れだって行くのが普通なので、1人旅だと混雑する時間を避ける工夫をしないと、このような目にあいます。いつもは先に入ってしまうか、空くまで待つかするのですが……。スイスは、日本と同じく12〜13時が多客期みたいです。
 スイス料理といえば「フォンデュ」なのですが、これまた1人だと頼めないんですよね。鍋料理だから。バレンシア名物のパエジャも、2人以上でないと×なのです。それに、フォンデュの材料は「チーズ+白ワイン+パン」でしょう? 一昨日から、その3品でず〜っと食いつないでいるし(笑) でも、向かいの席で食べていた人を、じっと眺めていたのでした。
 さて、食後の珈琲も済ませてお支払い。レシートには、ユーロ建てで「19.24ユーロ」と書き添えてありました。スペインとの比較で、物価は2.5倍です。

Lac Neuchatel

 ホテルの部屋で少しばかりくつろいだあと、湖のクルーズに出かけました。ヌーシャテルからは5系統が出ていまして、次のような路線があります。
1. 西岸の Yverdon-les-Bains 行き
2. 南岸の Estavayer-le-Lac 行き
3. 対岸の町まで周遊
4. ティエル運河(Zihl-Kanal)を抜け、北東にあるビエンヌ湖(Lac de Bienne)へ
5. ブロイ運河(Canal de la Broye)を抜け、南にあるムルテン湖(Lac de Murten)へ
 1〜3は、ヌーシャテル湖(Lac de Neuchatel)内の移動です。今回は隣の湖まで運河で行くという体験をしてみたい。4だと、ビール/ビエンヌ(Biel/Bienne)が訪問地。名前が2つあるのはフランス語圏とドイツ語圏の境目だからだそうで、某「プラスチックの不格好なつくりなのに限定品を繰り出すので人気を呼んでいる大手時計メーカー」の本拠地です。
 できるだけ人気(にんき/ひとけ)の少ない場所へ行ってみたい気分だったので、5を選ぶことにしました。船着き場で切符を購入したのですが、ここで一悶着。
 ヨーロッパ人と日本人は、計算の仕方が違うのをご存知でしょうか? 例えば17.6スイスフランの買い物に対してSF20の紙幣を出された場合、まず手のひらに20セントを2個置いて「18」と数えます。そして、そこにSF2硬貨を加えて「20」にし、客に差し出すのです。つまり、ヨーロッパでは引き算は足し算にして考えるのです。で、私は何をしたかというと、貯まってきたコインを減らそうとして「27.6」を出したのです。おじちゃんは、40セントを釣り銭として出してきました。
 あちゃ〜。おじちゃんは、見るからに海……ではなく「湖の男」。見た目で人を判断してはいけませんが、計算が不得意であるということは、現実として眼前に展開されています。いつもの買い物では、渡した金額を口頭で言うことにしているのですが、今回は言葉が通じないので省いてしまったのです。 SF10を失うのは痛いので何とかしようと試みたのですが、おじちゃんは計算途中にコインをレジの中に入れてしまっています。机の上にあるのは紙幣のみ。で、おじちゃんは英語の“One-Way”すらも知らない(この時は、通りがかった人が通訳してくれた)。私はというと、「10」に当たるドイツ語もフランス語もわからない。交渉は困難を極めそうです。
 『渡した紙幣は20なんだよ〜』というつもりで「ドゥ、ドゥ」と言ってみたら、『おぉ、わかったよムッシュ!』と2スイスフランを足してくれました。――損失が約20%減少したので、これでよしとしましょう(^^;
 教訓。言葉の通じない国におけるコインの整理は、引き算をしてくれるレジを置いている店でやること。 

Navigation

 15時35分、フライブルク号が出港。いきなり見えてくるのは、数百本の鉄杭。資料を調べてみると、先頃 “EXPO'02” という催し物があったようです。写真から察するに、そのためのパピリオンや観覧車を湖上に作ったときの残骸らしい。撤去作業をしていましたが、美観を損ねるものでした。早く引っこ抜いておいて欲しかったなぁ。
 まず船は、湖に沿って北上。午前中に訪れたショーモン山の正面に来ると、森の切り欠け具合からケーブルカーの線路を容易に見つけることができ、よく目を凝らすと展望台も見えます。
 それから湖を横断。太陽が写り込み、湖全体がキラキラと光っています。船上から見とれていていたのですが、ここでようやく気が付きました。湖というと「透きとおった水色」なのだと当然のように思っていたのですが、この湖水はあたかも緑柱石を溶かし込んだかのようなエメラルド・グリーン。ヌーシャテル湖は、森の色をした湖だったのです。種を明かすと、水深がそれほど深くないために植物プランクトンが繁茂していたのです。そこに光線が差し込み、見事なグラデーションを構成していました。写真を撮ってみたけれど、あの美しさを切り取ることは出来ませんでした。
 やがて湖を渡り、船はブロイ運河へと航路を進めます。入口付近は干潟になっており、たくさんの野鳥と、それを観察するわずかな人がいます。2階席にいたのですが、旗を倒し橋の下をくぐる準備をしていました。2階席は汽笛が大音量で耳に入ってきますが、遠くまで見渡すことができます。で、見たいものがあると甲板の船首に移動し、それから船尾へと移って見納め。くるくる動き回る東洋人は、さぞ奇異に思われたことでしょう。護岸のために樹木が植えられており、とても爽やかな風景が楽しめます。
 運河を抜けてモラ湖(ムルテン湖)に入るとヴュイー地区の村に停泊。このあたりは山肌がブドウ畑になっており、湖岸にはワイン作りを営む農家が暮らしています。3つの湖に囲まれたところに位置するヴュイー山に登ると、ヌーシャテル湖やジュラ山脈のみならず、アルプスまでをも見渡せるのだそうです。機会があれば行ってみたいな。

Murten/Morat

 2時間の船旅を終え、17時25分ムルテン(モラ)に到着。ここからはドイツ語地域。首都ベルンまでは、ほんの少し足を伸ばせば行くこともできる位置です。が、わざわざ人の多いところへ向かう気が起こらなかったので、この小さな町(人口5,000人)の散策を楽しむことにしました。港の正面にある坂道を登っていくと、どっしりした構えのベルン門があります。どうやらここは、旧市街の周囲を城壁で取り囲む作りをした、典型的な城郭都市。城壁を見ると手すりがあったので、どこかから登れるのではないかと思い、入口を捜してみました。すると、教会の壁に “Escaliers” というフランス語表示を発見。スペイン語の「階段」は“Escalera”なので、きっとフランス語でも語頭は共通でしょう。「エスカフロ〓ネ」だったら、異世界に飛ばされそうでちょっと嫌ですが。
 はたして、隅っこに入口があり、中には古ぼけた階段がありました。表示がなければ、教会の勝手口のよう。中央に塔があって、見晴台の上からは、赤茶色の屋根の向こうにモラ湖を透けて見えます。なんかホッとする景色。こんなところにやってくるのは少ないようで、城壁の端まで行ってみたけれど誰もいない。独り占め〜。
 帰りは鉄道で。町はずれの駅で、切符を購入。時刻表を調べていなかったので心配していたのですが、フライブルクヌーシャテル行きと、ローザンヌ発ベルン行きの乗り換え駅なので、1時間毎に出ていました。それでも30分ほどあったので、もういちど市街に戻り、今度は城壁の外側を一周。10分程でまわれてしまう大きさです。博物館になっている16世紀の水車小屋を見て、駅に戻る。
 19時00分発。Ins経由だと、30分でヌーシャテルに着きます。船の4倍速ですか(^^; 産業革命期に、鉄道の果たした役割はさぞかし大きかったのだろうなぁ。
 駅の売店で、スイスの風景を刷り込んだカレンダーを買い求める。すでに、2004年版が出まわっています。異国のカレンダーは、わりと誰にでも喜んでもらえる実用的なお土産なのです。これが木彫りの人形とかだと、棄てるに棄てられないですから。ただし、当然のように祝日が違っているので要注意。