Hatena::ブログ(Diary)

博物士

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Thursday, 2004/09/30

JAL412 機内食

[] 酔いどれ天使  酔いどれ天使を含むブックマーク

 昨日から引き続き機内です。食事が出たあと、軽く2時間ほど眠って目が覚める――という、いつものパターン。

 各座席にパーソナルテレビが付き、番組を選べるようになったのは有り難い。黒澤明酔いどれ天使」を観る。1948年の制作で、戦争直後の街角がかえって新鮮。タイトルの「酔いどれ天使」とは、アルコールに依存する医者(志村喬)のことなのだけれど、並んでいると結核にかかったヤクザ(三船敏郎)の方に視線が向かってしまう。眼光の鋭さのせいで。病院の前にあるドブもまた1人の重要な役を演じているのだけれども、白黒映画ならではの陰影の深さが良かった。

 映画を見終わったら、ふたたび機内食の時間。朝食はハム入りオムレツでしたが、微妙な味付け……。

[] JL1033  JL1033を含むブックマーク

 成田国際空港(NRT)着は14時過ぎ。リムジンバスで羽田空港(HND)へ。毎度のことですが、この移動が面倒。この時、私は(1)30kgのスーツケース、(2)機内持ち込み用カート、(3)ショルダーバッグに入れたパソコン、(4)飲み物を入れたリュックを持っていました。これだけの大荷物を持っていると、意識が薄れてくるのですよ。お手洗いから出てきたとき、ふと数えたら荷物が足りないことに気づいて、慌てて取りに戻るという微笑ましいことがありました(笑)

 そんなわけで、2005年2月のセントレア(中部国際空港)開港には、地方都市在住者として期待しておりました。東京にしろ大阪にしろ、国内線と国際線とが別の空港になってしまったことが利便性を損なっている原因ですので。しかし、欧州線の予告時刻表をみると、往路の出発が早すぎて(午前10時)乗れそうになり。やっぱり、この次もKIX経由になりそう。

 札幌に到着したのは20時を少しばかり過ぎた頃。スペイン語の恩師、山下好孝助教授(と愉快な仲間たち)の出迎えを受けました。

 都合、スペインとの間を3往復した結果、54,216マイル貯まりました。無料特典3回分あるので、どこかへ旅行に行こうっと。

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Wednesday, 2004/09/29

JAL412便 機内食

[] BCN/AMS/NRT  BCN/AMS/NRTを含むブックマーク

Barcelona

 出発までの時間を利用して、バルセロナ市内散策。

 たまたまパラレル駅にいたので、ケーブルカーでモンジュイックの丘へ。南側には行ったことなかったので、どんなところなのか確かめに行ったのですが…… ハイキングにはいいところでしたよ(笑)

 それからピカソ美術館へ。ピカソが括弧付きの「ピカソ」になるのはパリに行った後のことなので、バルセロナのそれは「ピカソになる前のピカソ」のもの。以前にも一度行ったことがあるのですが記憶に残っていなかったので再訪問してみたのですが…… やっぱり、私、20世紀以降の芸術とはご縁がないみたい。

JL5234 BCN/AMS

 ホテルに戻って荷物を回収し、サンツ駅までタクシーで移動して、空港行きバスに乗車。バルセロナ空港で、いつものようにチェックインしようとしたら「あちらの専用カウンターに行ってください」とのこと。見てみると、ぽつんと離れて“JAL”の表示がある。日本航空はスペインに直接乗り入れておらず、イベリア航空とのコードシェア便なのです。

 一般的には、日本人職員がいるなら言葉が通じるので安心、ということになるのですが―― 今回は、ちょっと問題が。

 「お客様、お荷物が20kgを超えておりますけれども……」

ほら、やっぱり言われた(^^;) スペイン人なら大目に見てもらえるだろうという前提で詰め込んでいたんですよ〜 少しばかり小言をいただきましたけれど、無料で預かってくれたので感謝。

Amsterdam

 今回の経由地はアムステルダム(スキポール空港)。以前、KLMが札幌線を運航していたため、良く乗り降りしていました。同時多発テロのせいで運休しちゃったんですけれどね。

 真っ先に向かったのは、オランダ国立美術館(RIJKS Museum)の出張所。なんと、空港内に所蔵絵画を展示しているというのです。地図を頼りにかけつけると、カジノの隣(サクララウンジの真下)にありました。決して広くはありませんけれど、オランダ絵画が10枚ほど展示されていて、はにゃ〜ん☆ 特集されていたのはヤン・ステーン(Jan Steen, 1626-76)。当時の庶民の生活ぶりを写し取るという作風で、いかにもオランダ絵画らしい筆致の作風でした。

http://www.schiphol.nl/

http://rijksmuseum.nl/

JL 0412 AMS/NRT

 今度は正真正銘の日本航空便に乗り換え、東京へ。平日なのに団体旅行客で満席…… でも、お手洗いに近い通路席にシートリクエストを入れてあったので、そんなに苦痛じゃない。

 機内食の時間。年輩の人達がこぞって和食を指定したらしく、残っていたのは洋食のみ。でも私は、欧州発の路線では洋食の方が美味しいと思うので問題なし――というか、のびきった蕎麦が出てくる和食は敬遠したい。洋食の主菜は、若鶏のソテー香草バター風味でした。

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Tuesday, 2004/09/28

パタータ・ブラーバ

[] VLC/BCN  VLC/BCNを含むブックマーク

 海外在住日記(最終回)。

 起き出して最初に始めたのは、大量のゴミ出し。そして、口座のある銀行(BBVA)に行って解約手続。残高が少ないと、口座維持手数料を取られて目減り行ってしまうのです。アパ−トの精算が終わってみたら大して残らなかったので、それなら関係を解消しちゃえっ!と。

 戻ってきて荷物をまとめ、大家さんに鍵を返し、タクシーをつかまえてバスターミナルへ。12時00分バレンシア発の便で、バルセロナへ。

 近いうちに戻ってくるという意識が強かったせいか、感傷といったものはありませんでした。

 およそ4時間でバルセロナ(サンツ駅)着。タクシーでホテルへ向かう。今夜の宿は、パラレルにあるホテル・アウト・オガール(Hotel Auto Hogar)。なかなか良いところでした。

http://www.RatesToGo.com/

 日没まで少しばかり時間があったので、カタルーニャ国立美術館へ。中世のキリスト教美術を集めたところ。現在の視線で見ると「下手」なんですけれど、信仰の形って何だろうって考えさせてくれます。ただ、ゴシックよりも古いロマネスクのものになると崩壊が激しすぎていて、さっぱり原型がわからないものも多い。

http://www.mnac.es/

 夕食は、ホテルの隣のバルで、ビールとパタータ・ブラーバを。あげたジャガイモに、アリオリ・ソースという、たっぷりニンニクを利かせたマヨネーズをかけた料理。これを食べた後に人前には出られないという代物なのですが、おいしいん。

tanizakuratanizakura 2004/09/29 08:40 おかえりなさいませ。お疲れ様でした。

hissahissa 2004/09/29 09:17 あら、本当に帰国なのですね。道中お気をつけて。

genesisgenesis 2004/09/30 23:18 札幌に到着しました。でも、帰ってきたというより、「もうひとつの家に来た」という気分。

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Monday, 2004/09/27

[] 殉死  殉死を含むブックマーク

 司馬遼太郎殉死」(1967年、ISBN:4167105373)読了。

 日露戦争では旅順要塞攻略軍を率い、明治天皇が崩御した際に自決した人物、乃木希典について綴った文章。冒頭、筆者は本作を小説としてではなく、小説になる以前の思考材料である、と断りをいれている。事実、かき集めた情報を、事件の当事者からやや離れた視線で捉えている。

 本書は二部構成をとっている。前半の「要塞」は、『坂の上の雲』のプロット版ないし簡略版といった趣である。自ずから後半の「腹を切ること」が主題と密接に関わる。

 司馬は、乃木を《陽明学》という視座から捉えようとする。曰く、「おのれが是と感じ真実と信じたことこそ絶対真理であり、それをそのようにおのれが知った以上……行動をおこさねばならず、行動をおこすことによって思想は完結するのである」と説く。故に、この思想の系譜に属するものは、劇的に生涯を終える例が多い。

 江戸中期、山鹿素行(やまがそこう)は幕府にその思想を嫌われ播州に流されたが、藩主・浅野内匠頭長直が厚く遇した。赤穂藩に陽明思想があったことが、大石内蔵助ら赤穂浪士の討ち入りを生んだという。

 江戸時代、武士階級が起こしたクーデターの希有な例として、大塩平八郎の乱がある。彼は陽明学派の重鎮であった。

 ペリー来航時に出た吉田松陰もまた同じであり、乃木は松陰と近しい間柄であった。西南戦争にあって武装蜂起を起こした西郷隆盛にしても、陽明学の人である。

 陽明学に内在する、思考の純粋性を何よりも尊ぶ思考が乃木の行動を規律していた、というのが司馬の示すテーゼ。あまりに儚い。

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Sunday, 2004/09/26

ガラフ酒蔵

Garraf  Garrafを含むブックマーク

 海外在住日記

 ウェブサイト『バルセロナ・エッセンシャルズ』*1 を運営しているシトラスさんがスペインに来ているというので、出かけてきました。帰国直前なので、日帰りで。

 ところが、この日は運勢が悪かった。前日に急行列車の切符を買いにいったら、すべて売れ切れ。仕方ないので早起きし、始発の長距離バスに乗ろうとしたら、これまら空席なし。そんなわけで、09時にバレンシアを出る便に乗り、13時15分に到着。

 途中、電話で相談し、ガウディの建築があるというガラフで落ち合うことにしたのです。サンツ駅から近郊線の2番に乗ると…… あれ? ガラフ駅を通過しちゃったのですけれど……

 時刻表を読み間違えて、快速列車に乗ってしまったのです。シッチェス駅で降り、50分ほどボーッっとして、逆方向の電車に乗り換え。

 15時を過ぎたところで、ようやく集合場所に到着。携帯電話宛てに届いたメッセージでは「レストランに居る」ということだったのだけれど、何せ相手の顔も本名も知らないので(笑)うろうろしていたら、捕獲されました。

 うわっ、女の子が4人もいるですよ! 聞けば、同じようにたまたま集まった人達だとか。エビさんを食べて、ワインを飲んで、イカ墨のパエージャを食べて、珈琲を飲んで――していたら、あっという間に17時。時間はないけれど、ガラフ酒造の建物を見て回りました。海が青くて、のんびりしたところ。ここで結婚式を挙げた日本人がいたというウェイターの話を聞いて、夢見がちな瞳になる女性陣。

 バルセロナ市内に戻ってからは、ちょこっとばかり市内散策をして、20時の便で帰ってきました。ちなみに帰宅したのは夜中の1時。

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Saturday, 2004/09/25

ガーフィールド

[] Garfield  Garfieldを含むブックマーク

 海外在住日記

 知人のところへ帰国の挨拶に出かけようとしたものの、ちょっとばかり早かったので、時間調整のために映画館へ。お気楽なものがいいだろうということで「ガーフィールド」を観てきました。

 つまんなかった。

 デブなネコが主人公。飼い主が、獣医さんの歓心をかおうとしてイヌを連れてきたのだけれど……という筋立て。

 実写にネコを特殊合成している技術は、すごいのでしょう。でも、それだけ。ストーリーに大問題があって、オーディー(イヌ)がさらわれてしまうあたりは不可解。

 動物を主人公にしたものは、人間にはない仕草の愛らしさが魅力。ところが本作は《合成》であることがわかるので、ガーフィールドの動作を動物のそれとして捉えることはできない。「トムとジェリー」のように、人間にはできないドタバタ喜劇を演じてくれるわけでもない。その弱点をガーフィールドの《しゃべり》で補おうとしているのはわかるのだけれど、楽しくないんですよね。後ろの席に女の子が8人ほど座っていたのだけれど、笑い声がしたのは1度きり(それも、換気ダクトに衝突するお約束の場面で)。

 スペインでは、人気がないと即座に打ち切りになるのですが、すでに上映本数が間引かれていました。近く日本でも公開されるとのことですが……

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Friday, 2004/09/24

[] 最後の将軍  最後の将軍を含むブックマーク

 司馬遼太郎「最後の将軍?」(1967年、ISBN:4167105659)読了。

 司馬は《あとがき》で、こう語る。政治家を小説の主人公にして成功した例は、わずかの例しかない、と。そして、徳川慶喜という人は政治家であるが、すでに歴史の時代に移ったことに勇気づけられて小説にしたのだ、とも。

 しかし、この《迷い》が本書の中にたゆたっているように思えてならない。どこが、というのを上手く示せないのだけれど、叙事的であって叙述的ではない。おそらく彼にしてみれば、大政奉還というものは過ぎ去った過去ではなかったのだろう。明治維新とは、文明の外縁部(薩摩・長州)から発生したクーデターである――と私が言うぶんには影響力が無いから気楽だけれど。それで死んだ人が二世代前くらいの近親者だったりすると、過去のことだと冷静に話したり聞いたりしてはいられないでしょうね。

 さて、本書で司馬が描く「徳川慶喜」は、歴史主義者である。即ち、後世の歴史に汚点が残ることを避けることが、行動原理となっている。聡明であり過ぎるが故に、どのような評価を将来において受けるかを見通せてしまうのだ。彼にしてみれば、大政奉還とは「政権という荷物を御所の塀のうちに投げ込んで関東へ帰ってしまう」(226頁)妙案として写った。過去にこだわらず、現在において周囲の支持を得られるかすら気にしない人物であったなればこそ、であろう。

 大久保利通や西郷隆盛の要求に対し、ただひたすらに恭順であり続ける。それにより、人々に「判官びいき」されて記憶されることを慶喜は願ったのだという。このテーゼは、江戸幕府の十五代目将軍という肩書きから想像されるものと、あまりに遠い。光の側にいた坂本龍馬を描く作品『竜馬がゆく』の執筆直後に本作が書かれたことが興味深い。

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Wednesday, 2004/09/22

ゾウの時間 ネズミの時間

[] ゾウの時間 ネズミの時間  ゾウの時間 ネズミの時間を含むブックマーク

 本川達雄「ゾウの時間 ネズミの時間――サイズの生物学」(1992年、ISBN:4121010876)読了。

 動物の大きさは大小あれど、一生の間に心臓が鼓動する回数は同じである。ならば、サイズによって時間も価値観も相対化できるのではないか。

 本書は、この《仮説》をとことんまで突き詰め、理屈の通るようにしたものである。ともすればトンデモ本の仲間入りをしかねないところなのだが、そこは科学者。危ういところは著者本人が開き直って「ここは少し変なのです」と警告してくれる。

 たとえば《島の規則》。島に隔離されると、ゾウは小型化し、ネズミは大型化する。これは、島には捕食者(外敵)が少ないため、身を守るために大型化していたゾウは大きいままで居続ける理由がなくなり、逃げ回りやすいように小さくなっていたネズミは小さいままでいなくても良くなる。これを人間に当てはめると、大陸では常識はずれの傑出した偉人が生まれるが、島国ではずば抜けた人物は登場しなくなる。その代わり、庶民のレヴェルは底上げされるのではないか、と説く。

 まだある。動物には、体の大きさに相応しい行動圏というものがある。まず自然界を観察して生息密度を割り出し、そこで得られた数値を人類に当てはめてみる。すると、日本の人口密度(1平方kmあたりの個体数320)に相当するのはネズミであって、日本の家を《ウサギ小屋》と呼ぶのは褒めすぎではないか、という。

 これを「そんなバカな!」と笑い飛ばしつつ、着眼点の鋭さを楽しみたい一冊。

遺伝子と神について そんなバカな! (文春文庫)

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Monday, 2004/09/20

[] まちがえたっていいじゃないか  まちがえたっていいじゃないかを含むブックマーク

 森毅「まちがえたっていいじゃないか」(1981年、ISBN:4480022074)読了。

 この本が念頭に置いている「読者」は中学生。自分というものを意識しはじめた人達に向け、世の中を傍観する天才である森教授が、のらりくらりと生きていく術を伝授する。

 掃除をさぼったっていいじゃないか。先生を軽蔑したっていいじゃないか。なんでも話しましょう、なんて変じゃないか。やる気を出さなくてもいいじゃないか。悪いことのやり方を少しずつ覚えようじゃないか――

 出版されてから間もなく四半世紀になろうとしているけれど、内容はまったく古びていない。むしろ、自我の目覚めが遅くなってきている今日、大学生どころか、就職したものの世間に打ちのめされてしまった社会人が読んで開眼する啓蒙書かもしれない。なんて大げさなことを言っても、「ちょっとキミ、君」と手招きされそうな愛嬌がたっぷり詰まっている。

 この本の難点は、赤木かん子氏による解説。かなり小馬鹿にした口調で読むに耐えないのだけれど、これも森先生に言わせれば「そんなのだっていいじゃないか」とかわされてしまいそうだ。

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Friday, 2004/09/17

エコロジー的思考のすすめ

[] エコロジー的思考のすすめ  エコロジー的思考のすすめを含むブックマーク

 立花隆エコロジー的思考のすすめ――思考の技術」(1971-90年、ISBN:4122017645)読了。

 中公文庫収録作であるが、もともとは日本経済新聞社から上梓された単行本「思考の技術――エコロジー的発想のすすめ」。題の正副が入れ替わっているのは、1971年の時点では「エコロジー」という用語が通用しなかったためだという。

 エコロジー(生態学)の語源はギリシア語の oikos(家、経済)+logos(論理) であることから、筆者は「生物界という自然の経済学である」と把握する(29頁)。つまり本書は、自然の中にある関係をみることで、人間社会を考察しようとするものである。最後の結論は、もっと自然を畏怖せよということになるのだが(214頁)、考察の射程がとてつもなく遠大である。

 これが「石油を燃やすと地球の温暖化が進みます」といった狭い視点で書かれていたのであれば、データが変わると書物としての価値はなくなる。ところが立花氏は、ベクトルのはじまりを自然界の生態に求め、そこから現代社会に向けて線を引き、そのうえで「その先」に何が生じるのかを考察していく。エコロジーを説いているのではなく、生態学の発想を用いた《思考》の産物なのだ。それ故に、本書は30年以上を経た今日でも価値を失っていない。むしろ数々の《予言》が、ことごとく的中していることに驚かされる。これが立花氏が31歳の時に書かれた実質的デビュー作だということにも驚嘆する。

 本書が書かれた1971年といえばオイルショックが起こる直前であり、高度経済成長を謳歌していた頃。そうした世相の直中にあって、数十年後を見通す洞察力は、神懸かり的であろう。その立花隆が引いたベクトルの先は「人類は破局を迎え、昆虫類が地球の優占種になる」というもの。その理由付けが面白い。荒れ地に芽生えた地衣類は、繁茂することで土壌を自らに不利なものに作り替える。植物が交代していくことで数百年後には森林となるが、密になりすぎた木々は衰えてしまう。こうした植物遷移を例に取り、増えすぎたヒトという種は、地球を自らにとって暮らしにくい環境に変化させているのだという。

 人類の降板は不可避だとしながらも、その時を先延ばしするための方策も示されている。ご一読あれ。

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Wednesday, 2004/09/15

[] 愛の四季  愛の四季を含むブックマーク

 瀬戸内寂聴「愛の四季」(1988-94年、ISBN:4041265088)読了。

 読んでいて、どうも違和感がある。尼僧の書いたものという感じがしない。神様や仏様の影が薄すぎる。それどころか、樋口一葉の「たけくらべ」の解釈を論じた『美登利の初店説への疑問』などは、あまりにも攻撃的だ。

 経歴を調べて、ようやく納得できた。21歳の時、小説を志して夫と子を捨て、リベラルな女性を描き続けてきたのだという。50歳を過ぎたところで仏門に帰依し、本書の執筆時で出家から11年。ちらちらと見えていたのは、仏の教えを説く者ではなく、文筆家としての顔だったのか。

 その混交が筆者の魅力なのだろう。

taideomouhibitaideomouhibi 2004/09/15 21:02 瀬戸内さんはわが故郷の天皇、でございます。取材でインタビューさせていただいたこともございます。ほんとに超人的なお元気さで。これからも県のスポークスマンとしての活躍を期待しております(マジです

genesisgenesis 2004/09/15 22:37 天皇――っていうのがなんとも(^^;) いちど会ってみたくなるような方です。しかし! 写真をみると、周囲を取り巻くザーマスおばさまの群れが!! ちょっと怖かったです。

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Monday, 2004/09/13

ターミナル

[] The Terminal  The Terminalを含むブックマーク

 海外在住日記

 昨晩、映画を観てきました。スティーブン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演の「ターミナル」。日本では新春公開だそうです。

 あらすじ―― 舞台はジョン・F・ケネディ空港(ニューヨーク)、主人公は東欧の国から来た男。機中にあった間に戦争が勃発し、祖国は消滅していた。パスポートも入国ビザも効力を失って合衆国へ入国できず、さりとて戻る国もない。入国管理官からはぞんざいな扱いを受ける。トランジット・エリアという、合衆国という国土の上にありながら合衆国ではない場所で、男はひたすら待ち続ける生活をはじめた。

 ありえない話です。法律家の目でみると、たとえ政権が打倒されても、新たな国家が成立したことを周囲が承認していなければ、以前の政権との間で交わされた国家間の約束事は効力を保ち続けるのですから。

 どうも変なので情報を探ってみたところ、ある実在の人物(アルフレッド・マーハン氏)をモデルにしているらしい。現実の舞台は、シャルル・ド・ゴール空港(パリ)。イラクを国外追放になり、英国からは難民としての受け入れを拒否された人物が、空港に住み着いて16年になるのだとか。見かねたフランス政府が入国許可を発したのだけれど、その書類に記されていた名前が捨てた名前であったため、当人が署名を拒んだというのが経緯。いかにも、包容力のあるフランスならではの話だなぁ。

 すでに「パリ空港の人々」という映画が作られているので、アレンジを加える必要があったのでしょう。場所をフランスからアメリカに移し、どこにも行けない理由を戦争のせいにし、そこにコメディと恋愛の要素を加えて。

 ぉぃぉぃ、ちょっと待て。現実の方が遙かに切実で、興味深いではないですか。映画が負けてどうする。パリの男は、自己の尊厳を守るためにサインさえすれば得られる「自由」を放棄していたりと、いろいろ考えさせてくれます。本作で組み込まれたキャビン・アテンダントとの恋に至っては、男女関係を挟むしかドラマを盛り上げる術を知らないのかと手腕を疑ってしまう。

 比べてみると、スピルバーグが娯楽に仕立てるべく加工した部分は軽薄で、ともすれば浅はかに感じられてしまいます。余談を交えずに単体で映画を評価すると、決して悪くはありません。「でも」という言葉が続いてしまう作品でした。あとね、これ、母国を離れている時に観るべきではありません〜(^^;) 私が誰であるかを証明するものが何もない、という事態は、絵空事ではないので。

taideomouhibitaideomouhibi 2004/09/15 20:59 タイでも絶賛上映中です。スーパーサイズミー観たら行ってみようかと

genesisgenesis 2004/09/18 00:48 いや、海外在住者が観るのは……

Friday, 2004/09/10

ルリーリョ『無原罪のお宿り』

Madrid  Madridを含むブックマーク

 海外在住日記

 マドリッドに久しぶりに出てきたので美術館めぐりを。

 まず装飾美術館(Museo de Artes Decorativas)。貴族の邸宅を改造し、家具や食器を陳列しているところ。

 王立サン・フェルナンド美術アカデミー(Real Academia de Bellas Artes de San Fernando)。初めて訪問したのですが、たいして知名度も高くないところなのに収蔵品が良くて驚きました。

 ティッセン・ボルネミッサ美術館?(Museo de Thyssen Bornemisza)。先頃、増築工事が行われたという話は聞いていたのですが…… もともと大きな美術館だったのに、2倍近くに広がっていました(^^;) しかも、増設部分に置かれたものがこれまた一級品。これが個人の収蔵品だというのだから恐れ入ります。

http://www.museothyssen.org/

 近くのレストランで昼食をとって、プラド美術館(Museo del Prado)へ。いつも観光客でごった返しているのですが、待ち時間なしで入場できました。通算5度目の訪問ですが、落ち着いた環境で鑑賞できると格別。

http://museoprado.mcu.es/

 自分でも、西洋絵画を見る目がついてきたと感じられました。今年に入ってから、ロンドン、イタリア、オランダ、ベルギーと立て続けに美術館を巡って歩いてきました。その成果か、再びプラドに来てみると、以前はただただ圧倒されるばかりだったのに、今なら絵を楽しめる余裕が出てきた。何事も、数をこなしたという経験でわかってくるものなんだなぁ。好みを聞かれたら「中世の祭壇画、ヴェネツィア派、フランドル絵画」だと言えるようになったのが嬉しい。

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Thursday, 2004/09/09

Madrid  Madridを含むブックマーク

 海外在住日記

 長崎大学の助教授であり、スペイン語の勉強仲間であったNさんが来西されたので、マドリッドまでお出かけ。長距離バスで、片道19.8ユーロ。所要4時間なので、11時30分にバレンシアを出発して16時着。予約しておいたオスタルに行ったら、オーバーブッキングで、見知らぬフランス人と同室でした(汗)

 19時に待ち合わせ。同じくかつての勉強仲間で、先日晴れてスペインの医師資格をとったMさんにも声をかけての会合です。ビールを飲んで、それからワインを飲んで……

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Wednesday, 2004/09/08

もてない男

[] 小谷野敦もてない男 小谷野敦 『もてない男』を含むブックマーク

 小谷野敦(こやのあつし)「もてない男――恋愛論を超えて」(1999年、ISBN:4480057862)読了。

 なんとも評価し難い本だなぁ……。筆者は1962年生まれで、東京大学の英文科卒。女性によるジェンダー論に対抗する《男性学》の立場から書かれている。

 ――のだが、論旨が荒っぽい。筆者の個人的見解の結論が、十分な論証もなくポンポンと書き立てられている。批評するならその点を追求するところなのだが、あとがきで筆者自らが、これは研究でも評論でもなくエッセイだと、逃げの手を打たれている。上野千鶴子を、言動ではなく行動をとらえて批判するのは如何なものかと追求しようとしても、私怨で書いているのですと予め宣言されているので、それもできない。

 かなり戦略的にテーマと文体と攻撃対象を選んでいるので、まずは筆者の立ち位置を認容できるかどうかが評価を左右するように思う。これから本書を読もうと考えの向きには、先にあとがきを読んでおいた方がいいだろう。

 7つのテーマから構成されているのだが、出来不出来(?)の差が大きい。

 第4回『てめえらばっかりいい思いしやがって!――嫉妬・孤独論』は、小題からしてヤケクソである。筆者の、自分はもてないというルサンチマン(法界悋気:ほうかいりんき、怨恨)が露わになっているところであり、いたずらに客観性を装うのをやめていることがはっきり伝わる箇所。第1回『童貞であることの不安』も方向性は似ているのだが、こちらは文学作品に登場する童貞喪失の場面を並べていく。筆者が専攻する比較文学の手法を援用しているので、本書のなかではもっとも客観的だが、それでも田山花袋よろしく赤裸々に一人称が登場する。

 啓蒙的に読もうとするなら、第7回『恋愛なんかやめておけ?――反恋愛論』。2つの著作、政治学者の神島二郎による「日本人の結婚観」、小児科医である松田道雄の「恋愛なんかやめておけ」をもとに、現代の一般社会に浸透している《恋愛賛美》に対して疑問を提起する。その前振りにあたるのが、第5回『妾の存在意義――愛人論』。夏目漱石「それから」において、主人公が妻を持たずに妾を置こうかと考えあぐねている箇所を手がかりに、結婚には恋愛が伴うという考えは20世紀に入ってからの迷妄だとしている。さらに補強として、長谷川三千子「からごころ」、森田正馬「恋愛の心理」、映画「おいしい結婚」を挙げる。

 自称もてない男が書く本書の辿り着いた先は、恋愛不要論。しかし、それを敗者の戯言などと言うのは、ちょっと早い。

「人生には恋愛のほかにもっとおもしろいことがたくさんある。年のわかい人に恋愛至上主義が多いのは、まだ人生のほかのおもしろいことを知らないからだ。おとなになって恋愛至上主義ってのは、人生にやりがいのある仕事をみつけられないでいる、気の毒な人だ。」

前掲・松田道雄

この問いかけへの返答に窮するところで、本書は終わっているのである。そこで人生の面白いことを見つけられないなら、《恋のスキルアップ》に励むしかないという。本書を読んで同類相哀れむことはあっても、慰めてもらえるわけではないので、ご注意を!

ぱすてるチャイム ~恋のスキルアップ~

 ちなみにこれは「ぱすてるチャイム 〜恋のスキルアップ〜」(アリスソフト、1998年)

Monday, 2004/09/06

[] 梟の城  梟の城を含むブックマーク

 司馬遼太郎梟の城」(ISBN:4101152012)読了。1960年の直木賞受賞作。

 梟(ふくろう)とは忍者を意味している。時は戦国、豊臣秀吉の治世。織田信長によって殲滅された伊賀の出身者が主人公。太閤を暗殺するという依頼を受け、怨念を晴らすべく暗躍するという筋書き。

 ところが、歴史小説の壁がある。史実を変更することはできない。よって「秀吉は忍者によって暗殺された」という結末は起こらない。どうするのかと思って読み進めていたのですが、最終章の『伏見城』では肩すかしをくらいました。

 後に司馬文学が見せる認識の鋭さは、未だ現れていないように思う。

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Saturday, 2004/09/04

[] 人びとのかたち  人びとのかたちを含むブックマーク

 後悔はしないことを心掛けているのだけれど、今度ばかりは悔しかった。その原因は塩野七生人びとのかたち」(1995-97年、ISBN:4101181101)。

 著者は、地中海史についての力作を次々に発表しておられる小説家。といっても、そのスケールの大きさに恐れを為してしまい、いつかは読もうと後回しにしていたので、私が女史の著作を手に取るのは初めて。

 集められているのは、雑誌『フォーサイト』に連載された映画エッセイ。登場する作品数、154本。もっとも、題名を挙げただけというのもあるから、主題として取り扱っているのは約50作。しかし、そのうち観たことがあったのは、5本。名画と呼ばれるものを観ていなかったという自覚はありましたが、これでは教養に欠けると言われても致し方ないレヴェルだなぁ。

 塩野氏は、歴史を通して人間の立ち居振る舞いを知り尽くし、数々の創作活動をこなしてきている。その作家が、配役の妙味、監督の狙い、セリフにこめられた感情を解説してくれる。作り手の視点からの指摘が面白い。

 ここに挙げられた名画を観てから、死を迎えたいもの。

人びとのかたち (新潮文庫)

Friday, 2004/09/03

[] クジラは昔 陸を歩いていた  クジラは昔 陸を歩いていたを含むブックマーク

 大隅清治「クジラは昔 陸を歩いていた」(1988-97年、ISBN:4569569986)読了。

 筆者は、鯨類研究所や水産庁を経て、国際捕鯨委員会の委員を務める人物。長い経験に裏打ちされた知識が豊富で、興味深い話を披露してくれる。

 クジラは哺乳類である。うん、それは知っている。

 クジラは水中で生活している。それも知っている。

 では、海中で暮らすホ乳類は、どうやって真水を手に入れているのでしょう? こんな質問が出てきて、やられた〜と思った。魚類のように血液の浸透圧を海水とそろえているわけではないから、何か策を講じないといけないのか*1。このように、サカナと同じように捉えてしまうと見落としがちな点を色々と指摘してくれる。

 クジラとイルカは、同じ仲間。大きなものを鯨と呼んでいるだけの違い。そんなわけで、イルカとのコミュニケーションの話が出てきます。岡野史佳瞳のなかの王国」の光景が思い浮かぶところ。ところが、ここでは厳しい指摘が。コミュニケーションをしたいなら、イルカに人間の言葉を教え込むのではなく、人間がイルカの会話を理解できるようになるべきでは、と。この科学者らしい歩み寄りの姿勢が素敵です。

 ところが、これが人間を相手にした政治となると、からっきしダメ。国際捕鯨委員会で捕鯨国が置かれている不遇を不正だと訴えているのですが、その話を聞くと、日本の国際力欠如を嘆かざるを得ません。曰く、商業捕鯨の禁止が議題にのぼったのは、1972年のストックホルム国連人間環境会議の場であり、提案したのはアメリカ合衆国。米国は、ベトナム戦争で生じた国際非難をかわすために提案をしたのだという。そして、国際捕鯨委員会に非捕鯨国(そもそもクジラを捕獲するつもりのない国)を多数加盟させ、反捕鯨国が常に3/4を占めるように工作したのだという。筆者はそれを非難しているのだけれど…… 政治的な駆け引きもできないようなら、国際社会で弱い立場に置かれるのは当然です。国際捕鯨委員会の加盟国は、39か国だという*2。なんだ、簡単じゃないか。世界には200近い国があるのだから、捕鯨国の意向を汲んでくれる国を味方につけて加盟させ、票数を増やせばいいでしょうに。そんな権謀術数ぐらいできないのかなぁ。世の中カネで、数の力が正義なのに。どーせ私は腹黒いマキャベリストですよーだ。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/whale/iwc.html

 もうひとつ、筆者は科学者でしかないなぁと思ったのは、「鯨を家畜にしよう」という案。つまり、クジラの養殖。筆者は「人間が管理しているもの=家畜」であると誤解しています。違うんです。キリスト教諸国では「神が人間のために造り給うた生き物=家畜」なのです。ですから、クジラを人間の食べ物として認めてもらうためには、(1)神様を説得してクジラを家畜に変更してもらうか、(2)人を説得して神様を取り替えてもらうかしなくてはいけません。捕鯨については留学に出てきてから何度か議論したのですが、どうやっても説得するのは無理です。相手にすべきは、科学ではなく宗教なのですから。

 本書は、クジラとイルカについての入門書として最適でしょう。国際政治の教材としても使えますし(笑)

クジラは昔 陸を歩いていた―史上最大の動物の神秘 (PHP文庫)

*1:解答:体内の脂肪を分解する時に発生させた水分を使って大量の尿を生成し、塩分をどんどん排出するのだそうです

*2:2003年2月時点では、49か国

tetsu23tetsu23 2004/09/06 17:05 「捕鯨国の意向を汲んでくれる国を味方につけて加盟させ、票数を増やせばいいでしょうに」は、先に反捕鯨国にやられてしまいました。海のないスイスや、捕鯨なんて関係ない小国モナコが反捕鯨国として参加。後に日本も対抗して、モンゴルとかを引き入れたけど、時既に遅し。会議は既に反捕鯨国のやりたい放題、というのが現状のようです。

genesisgenesis 2004/09/07 23:23 コメントありがとうございます。ご説明いただいた話は、本文からすかして見えたので、皮肉を言ってみた次第です(笑)

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Thursday, 2004/09/02

[] 岳物語  岳物語を含むブックマーク

 椎名誠岳物語」(1985年、ISBN:4087725243)読了。シーナ氏の嫡男、岳少年にまつわる私小説である。つい先日、野田知佑氏の著作「のんびり行こうぜ」を読んだのだが、同じエピソードが出てくる。同一の場面を、少しずつ視点をずらしながら著していくのは昨今のアドベンチャー・ゲームではお馴染みなので、それとて違和感はない。

 かつて、「ワンパクでもいい。たくましく育って欲しい」という加工食品のCMがあった。しかし21世紀になった今日、腕白少年というのは絶滅に瀕した種族としてレッドデータブックに掲載してもいいのではなかろうか。親が苦労しなければ《ワンパク》にはならないよなぁ。

[]  を含むブックマーク

 椎名誠「菜の花物語」(1987年、ISBN:4087726215)。同じような私小説だが、こちらは仕事を通して関わった人達を中心に据えている。もっともシーナ氏の周囲にいる人であるから、相手は編集者であり、探検家であり、妻であり。

 私見であるが、本書をシーナ文学の代表作に推しておきたい。これが『あやしい探検隊』シリーズになると、これはこれで楽しいのであるけれど、酒と海と仲間と冒険という非日常性に目を奪われてしまう。身辺に起こった何気ない出来事を、スルドく観察して小説に仕立て上げたというところは「菜の花物語」の方が上を行く。

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Wednesday, 2004/09/01

[] 地球派読本  地球派読本を含むブックマーク

 日本ペンクラブ編『地球派読本』(1990年、ISBN:4828831649)読了。

 21人の論客によるアンソロジー。1986年から1990年にかけて、各所で発表された文章を集めた短編集。開高健立松和平景山民夫井伏鱒二といった顔ぶれは、どことなく郷愁を感じさせる。

 この《アンソロジー》という類のものは、あまり印象がよろしくない。どうしても、作家によってバラツキが出てしまう。ゲーム系のそれでは幾度となく泣かされている。しかし本作は、ある一編を除いて質が揃っており、力作が多い。どうも読みにくいと思った高木仁三郎氏の文は、『岩波講座』が出典とする科学論文であった。これは、いただけない。

 もっとも印象に残るのは、巻頭に置かれた手塚治虫「科学の進歩は何のためか」。鉄腕アトムは「科学技術が、どんなに深い亀裂や歪みを社会にもたらし、差別を生み、人間や生命あるものを無残に傷つけていくかをも描いたつもり」だという。一冊だけ持っていたアトムの選集に、ヒトの男性がロボットの女性と恋をし、ロボットとも婚姻が出来る日をまちわびるという場面がありました。その解放論者は、ロボットの権利拡大をこころよく思わない守旧派によって爆殺されてしまうのです。“To Heart”にて高橋龍也マルチHMX-12)にこめた「ロボットに心は必要なのか?」「ヒトはロボットを愛せるのか?」というテーマを数十年も前に描いていたことには、その洞察力に敬服するばかりです。

 司馬遼太郎「樹木と人」は、日本の山林が如何に手入れされていたかを、歴史をひもときながら語る秀作。明治政府が東京に大学を開設しようとした時、石黒忠悳が上野の山をつぶす計画を立てた。だが、オランダ人医師A.F.ボードインに都市公園という思想を授けられ、本郷を代替地にしたのだという。

 杉浦孝明――って誰かと思ったら、映画評論家のあの人でした。「おすぎの原発映画案内」は、チェルノブイリ原発事故の影響から書かれたものだと思う。核爆弾や原子力発電を題材に採った映画を、軽妙な語り口で紹介している。ここに登場するものは、是非とも観てみたい。

 情報としては古いので役に立たないものも多いのですが、1980年代後半の世相を思い起こし、大して進歩していないことを認識することはできます。

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