岳物語

 椎名誠岳物語」(1985年、ISBN:4087725243)読了。シーナ氏の嫡男、岳少年にまつわる私小説である。つい先日、野田知佑氏の著作「のんびり行こうぜ」を読んだのだが、同じエピソードが出てくる。同一の場面を、少しずつ視点をずらしながら著していくのは昨今のアドベンチャー・ゲームではお馴染みなので、それとて違和感はない。
 かつて、「ワンパクでもいい。たくましく育って欲しい」という加工食品のCMがあった。しかし21世紀になった今日、腕白少年というのは絶滅に瀕した種族としてレッドデータブックに掲載してもいいのではなかろうか。親が苦労しなければ《ワンパク》にはならないよなぁ。

 椎名誠「菜の花物語」(1987年、ISBN:4087726215)。同じような私小説だが、こちらは仕事を通して関わった人達を中心に据えている。もっともシーナ氏の周囲にいる人であるから、相手は編集者であり、探検家であり、妻であり。
 私見であるが、本書をシーナ文学の代表作に推しておきたい。これが『あやしい探検隊』シリーズになると、これはこれで楽しいのであるけれど、酒と海と仲間と冒険という非日常性に目を奪われてしまう。身辺に起こった何気ない出来事を、スルドく観察して小説に仕立て上げたというところは「菜の花物語」の方が上を行く。