大学院はてな :: 整理解雇

 研究会にて、ジ・アソシエーテッド・プレス事件東京地裁判決 平成16年4月21日 労働判例880号139頁)の検討。
 世界最大の報道機関であるAP通信(のNY本社)が、東京支局の写真部門を縮小しバンコクへ移転させることを計画した。これを食い止めるため、支局が人員の削減を試みたが、裁判所は認めなかったという事件。
 結論としては妥当。利益が出ているし、役職者の給与を引き上げているし、定年を迎えた者の再雇用をしていたりもしているので、そもそも整理解雇の必要性に疑いがあるのは当然であろう。
 問題は、東京地裁の判決文。昭和40年代の後半、オイルショック&ドルショックの時期に、裁判所は「整理解雇の4要件」と呼ばれる判例法理をうちたてた。すなわち、整理解雇が有効と認められるためには(1)人員整理の必要性があること、(2)解雇回避努力義務を尽くしていること、(3)被解雇者の選定に合理性があること、(4)手続が妥当であること――を必要とするというものである。
 このルールは、六法をくまなく探しても、どこにも載っていない。労働法の難しさは、国会が定めた法律(=実定法)よりも、裁判所が実状に合わせて判断を積み重ねることにより打ち立てられたルール(=判例法理)に重きが置かれていることにある。端的に言って、わかりにくい。これは、労働者団体と使用者団体の利害が一致しないので、実際に運用されているルールを法律の文言に吸収しにくいという政治的な理由が背景にある。
 それはさておき。「整理解雇の4要件」は、色々な批判を浴びながらも30年以上に渡って使われ、認知されてきたルールである。それが本件では準用されていない。これまでにも、裁判所が独自の見解を打ち出すことはあった。しかし本件のように、整理解雇は妥当性を欠くという結論にありながら、4要件を使っていないというのは珍しい。
 裁判所は、次のように判示した。

人員削減の必要性があったか、人員削減の手段として指名解雇を選択する必要性があったか(解雇回避努力義務の履践)、被解雇者選定が妥当であったかという観点から総合的に検討するのが相当である。

 つまり3要件になっていて、手続要件が意図的に排除されている。その意図を測りかねる、というような議論を交わしてきた。